目の前に現れた真っ赤な扉。
既に異空間という異様な場所にいたエレンであったが、目の前の赤い扉からはまた違う空気を感じた。
「未だかつて誰もこの扉を開けていないって事ですよね? 何故開けないんですか?」
エレンが率直な疑問を問う。
アッシュも同じ事を言いたかったのか、エレン同様にローゼン総帥へと視線を移した。
「開けたくても開けられないのよ。誰1人としてね」
「え!? ローゼン総帥でも開けられないんですか?」
そう聞かれたローゼン総帥は一瞬顔を歪める。
「そうよ。悔しいけどね。妾も過去に1度試したことがあるけれど、開ける事が出来なかったわ」
リューティス王国一の魔導師でも開けられない扉。
最早次元が違い過ぎる話に、エレンはこの扉が何なのかさえ分からなくなりそうだった。
「でも、ローゼン総帥でも開けられない扉をどうやって……?」
「開けられる根拠があるからまた来たのでしょう。ねぇ、ローゼン」
「嫌味な言い方ね。もう昔とは違うわ。今度こそ開けてやるから見てなさい」
エドの挑発に乗ったローゼン総帥は前に出る。
そして赤い扉の前で手を合わせると、いつもの詠唱を始めた。
**
ローゼン総帥の詠唱が始まって既に1時間――。
彼女の額からは何度も汗が流れ、最初よりも呼吸が苦しそうだ。
なにより初めの大きな扉を開けた時と同様、やはりこの赤い扉はそれ以上に空けるのが困難なのか、詠唱をし続けているローゼン総帥のその姿は最初に見た30代よりも更に歳を重ねた姿になっていた。
「やっと同期に再会している気持ちである」
「……黙って頂戴……!」
エドなりの気遣いだろうか。
ローゼン総帥の強気な口調に、どこか安心した表情を浮かべたエド。
そして。
――ガチャン。
「「……!?」」
赤い扉から重厚な鍵の音が響き、キィィ……っと赤い扉が僅かに動きを見せた。
「開いた! 凄いッ! 開きましたよローゼン総帥!」
「流石だな」
「ハハハ。ご苦労様でした」
「……本気でそう思ってるのかしら?」
呼吸を荒くし、辛そうに立っているローゼン総帥であったが、彼女の表情はとても嬉しそうにも見えた。
「凄いですよローゼン総帥ッ! 人類で初めてこの扉を開いたってことですよね!?」
まるで自分の事のように興奮するエレン。
しかし、ローゼン総帥が嬉しそうな表情を浮かべたのも束の間。
彼女の顔は再び深刻そうな表情へと変わっていた。
「妾が“初めて”かは分からないわ……」
「え?」
急に意味深な事を言ったローゼン総帥。
「まさかラグナとかいう野郎も開けられるのか?」
アッシュの核心を突いた言葉。
その問いに対する数秒の無言が答にもなっていた。
「嘘ッ……! ラグナが先にこの扉を開けていたって事!?」
「まぁそれも含めて中を見れば、全てが分かるわよ」
そう言いながら、ローゼン総帥は前人未到の領域へと足を1歩踏み入れた――。
**
「わあ、何この部屋……」
赤い扉を開き、エレン達は中へと入った。
するとそこには1つ部屋のような空間が。
「こんな所に誰か住んでいたのか?」
「どうでしょうか。でも僅かに“生活感”が感じられますね」
部屋の広さは四方7、8m程だろうか。
全体的に質素な木の造りの部屋。中は水道と簡易的なベッドが1つだけ。後は小さな棚のような物に数冊の本が倒れていた。
「こんな所に一体誰が住んでいたんだろッ……って、わッ!」
エレンが突如大きな声を出す。
彼女の直ぐ横の壁には“血”のようなものがベッタリとこびり付いていた。
「これは血だな」
「もしかしてラグナの……?」
「それはないだろ。もう完全に乾いてるし、時間が経ってるのか赤黒く変色してる」
「そうね。間違いなくラグナの血ではないわ。恐らく666年前にここを使っていた誰かの血よ。
勿論その誰かは分からないけど、どうやらラグナは“ここに入った”みたいね――」
その言葉に、エレン達は一斉にローゼン総帥を見る。
「ラグナがここに……!? どうして分かるんですか」
「マナの“残り香”よ。この部屋から僅かにラグナのマナが感じられるわ」
冷静ながら、僅かに悔しさで眉を顰めたローゼン総帥。
「あの野郎にここを開ける力が?」
「そういう事になるわね。一足先にやられたわ。ここに来ればまだ明かされていない真実が分かると思っていたけれど、とんだ期待外れだったわね。この部屋は何も収穫がなさそうだわ」
イェルメスの最深部まで辿り着いた一行であったが、今回の任務ではこれと言った収穫は得られなかった。
分かった事と言えば、ラグナがかなりの実力であり、エレン達と同じようにエルフ族や過去の事を調べているという事。
そして証拠がある訳ではないが、ラグナの練成術はやはりエルフ族の魔法。一体ラグナがどうやってその術を見つけたのかは結局分からず終い。
これ以上は成す術がない一行は、不完全燃焼ながらも帰路に着く事にした。
また別の手掛かりを探そう。
全員がそう気持ちを切り替えた次の日。
ローゼン総帥の元へ緊急の指令が入った。
<緊急伝令! 敵国のユナダス王国が進撃を開始した模様! レイモンド国王の命令により、ローゼン総帥は直ちに王都へとご帰還ください!>
雲1つない快晴の昼間。
リューティス王国とユナダス王国にて、再び戦争の火蓋が切って落とされた――。
既に異空間という異様な場所にいたエレンであったが、目の前の赤い扉からはまた違う空気を感じた。
「未だかつて誰もこの扉を開けていないって事ですよね? 何故開けないんですか?」
エレンが率直な疑問を問う。
アッシュも同じ事を言いたかったのか、エレン同様にローゼン総帥へと視線を移した。
「開けたくても開けられないのよ。誰1人としてね」
「え!? ローゼン総帥でも開けられないんですか?」
そう聞かれたローゼン総帥は一瞬顔を歪める。
「そうよ。悔しいけどね。妾も過去に1度試したことがあるけれど、開ける事が出来なかったわ」
リューティス王国一の魔導師でも開けられない扉。
最早次元が違い過ぎる話に、エレンはこの扉が何なのかさえ分からなくなりそうだった。
「でも、ローゼン総帥でも開けられない扉をどうやって……?」
「開けられる根拠があるからまた来たのでしょう。ねぇ、ローゼン」
「嫌味な言い方ね。もう昔とは違うわ。今度こそ開けてやるから見てなさい」
エドの挑発に乗ったローゼン総帥は前に出る。
そして赤い扉の前で手を合わせると、いつもの詠唱を始めた。
**
ローゼン総帥の詠唱が始まって既に1時間――。
彼女の額からは何度も汗が流れ、最初よりも呼吸が苦しそうだ。
なにより初めの大きな扉を開けた時と同様、やはりこの赤い扉はそれ以上に空けるのが困難なのか、詠唱をし続けているローゼン総帥のその姿は最初に見た30代よりも更に歳を重ねた姿になっていた。
「やっと同期に再会している気持ちである」
「……黙って頂戴……!」
エドなりの気遣いだろうか。
ローゼン総帥の強気な口調に、どこか安心した表情を浮かべたエド。
そして。
――ガチャン。
「「……!?」」
赤い扉から重厚な鍵の音が響き、キィィ……っと赤い扉が僅かに動きを見せた。
「開いた! 凄いッ! 開きましたよローゼン総帥!」
「流石だな」
「ハハハ。ご苦労様でした」
「……本気でそう思ってるのかしら?」
呼吸を荒くし、辛そうに立っているローゼン総帥であったが、彼女の表情はとても嬉しそうにも見えた。
「凄いですよローゼン総帥ッ! 人類で初めてこの扉を開いたってことですよね!?」
まるで自分の事のように興奮するエレン。
しかし、ローゼン総帥が嬉しそうな表情を浮かべたのも束の間。
彼女の顔は再び深刻そうな表情へと変わっていた。
「妾が“初めて”かは分からないわ……」
「え?」
急に意味深な事を言ったローゼン総帥。
「まさかラグナとかいう野郎も開けられるのか?」
アッシュの核心を突いた言葉。
その問いに対する数秒の無言が答にもなっていた。
「嘘ッ……! ラグナが先にこの扉を開けていたって事!?」
「まぁそれも含めて中を見れば、全てが分かるわよ」
そう言いながら、ローゼン総帥は前人未到の領域へと足を1歩踏み入れた――。
**
「わあ、何この部屋……」
赤い扉を開き、エレン達は中へと入った。
するとそこには1つ部屋のような空間が。
「こんな所に誰か住んでいたのか?」
「どうでしょうか。でも僅かに“生活感”が感じられますね」
部屋の広さは四方7、8m程だろうか。
全体的に質素な木の造りの部屋。中は水道と簡易的なベッドが1つだけ。後は小さな棚のような物に数冊の本が倒れていた。
「こんな所に一体誰が住んでいたんだろッ……って、わッ!」
エレンが突如大きな声を出す。
彼女の直ぐ横の壁には“血”のようなものがベッタリとこびり付いていた。
「これは血だな」
「もしかしてラグナの……?」
「それはないだろ。もう完全に乾いてるし、時間が経ってるのか赤黒く変色してる」
「そうね。間違いなくラグナの血ではないわ。恐らく666年前にここを使っていた誰かの血よ。
勿論その誰かは分からないけど、どうやらラグナは“ここに入った”みたいね――」
その言葉に、エレン達は一斉にローゼン総帥を見る。
「ラグナがここに……!? どうして分かるんですか」
「マナの“残り香”よ。この部屋から僅かにラグナのマナが感じられるわ」
冷静ながら、僅かに悔しさで眉を顰めたローゼン総帥。
「あの野郎にここを開ける力が?」
「そういう事になるわね。一足先にやられたわ。ここに来ればまだ明かされていない真実が分かると思っていたけれど、とんだ期待外れだったわね。この部屋は何も収穫がなさそうだわ」
イェルメスの最深部まで辿り着いた一行であったが、今回の任務ではこれと言った収穫は得られなかった。
分かった事と言えば、ラグナがかなりの実力であり、エレン達と同じようにエルフ族や過去の事を調べているという事。
そして証拠がある訳ではないが、ラグナの練成術はやはりエルフ族の魔法。一体ラグナがどうやってその術を見つけたのかは結局分からず終い。
これ以上は成す術がない一行は、不完全燃焼ながらも帰路に着く事にした。
また別の手掛かりを探そう。
全員がそう気持ちを切り替えた次の日。
ローゼン総帥の元へ緊急の指令が入った。
<緊急伝令! 敵国のユナダス王国が進撃を開始した模様! レイモンド国王の命令により、ローゼン総帥は直ちに王都へとご帰還ください!>
雲1つない快晴の昼間。
リューティス王国とユナダス王国にて、再び戦争の火蓋が切って落とされた――。