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~古代都市イェルメス~
今から666年前に怒った『終焉の大火災』の震源地と言われる古代都市イェルメス。
雲を突き抜ける程、空高く聳える世界樹の麓。
広大な樹海の中心に存在するイェルメスは勿論の事ながら、この深い樹海にはリューティス王国とユナダス王国の明確な国境線は存在しない。
グレーゾーンというものである――。
その為ここイェルメスは世界の歴史上、主に過去の戦争においても度々重要な存在となっていた。
グレーゾーンであるこの樹海はリューティス王国にとってもユナダス王国にとっても突破口の起点となりやすく、誰もが最初に手を付けやすい場所であった為、過去には壮絶な戦場と化した事もあったそうだ。
だが、このイェルメスが戦場となる事に異議を唱える者達がいた。
それが考古学者、魔導師。
いわゆる“歴史”を重んじて調査や研究をする関係者達が口を揃えて長年抗議してきたのだ。
古代都市イェルメスは666年前より以前の事を知る事が出来る、世界で唯一の場所。それ程までに貴重で重要な場所が戦争なんかによって葬られたらお終いである。
だからこそ、ここイェルメスはリューティス王国やユナダス王国といった敵味方関係なく、多くの関係者達が互いに手を組み、暗黙の了解で長きに渡り守り続けてきた。
その結果666年経った現在でも、当時とほぼ変わらない状態のままイェルメスという都市が存在し、形を保っている――。
**
「ってローゼン総帥が言うから、普段は人が寄りつかない神聖な場所かなと思ってたけど……」
古代都市イェルメスに着いたエレン達。
馬車から降りたエレンはまじまじと辺りを見渡した。
辺りは人の気配が全くなく、手入れもされていない廃墟ばかり。
建物は無造作に伸びた草木に覆われて苔が生え、大火災によって辛うじて原形を留めた痕跡が僅かながらに残っている。
……と、そんな感じのイメージをしていたエレンであったが、彼女の視界に飛び込んできたのはそのイメージとはまるで逆。
目の前のイェルメスには普通に多くの人が存在している挙句、都市の入り口から飲食、宿、武器屋から土産屋までズラっと商店が建ち並んでいるではないか。
「なんだこれ……!」
王都やエレンの住んでいた東部の街と比べると、確かに質素ではある。
だがイェルメスの街並みは、エレンの想像の遥か上をいく賑わいをみせていた。
「何を驚いているのよ」
「いや、なんていうか……思っていた感じと全然違うなと思いまして」
「ああ。もっと暗くて殺風景な場所をイメージしてたのね。ここはまだイェルメスの入り口だから一般の人も多いけど、重要な中心部は規制が設けられているから、恐らく貴方のイメージに近い風景が待っているわよ」
ローゼン総帥はそう言うと、商店などに全く見向きもせずどんどんと奥へ歩いて行く。
「ここって国境線がないグレーゾーンだよね? って事はユナダスの人も紛れてるのかな?」
「いても可笑しくねぇな。イェルメスはどっちの領土でもないし、出入りの規制もない」
「だよね……。でもユナダスの人がいたりして争いにならないのかな?」
休戦中とは言え、両国は戦争中。
仮に今ここで自国と敵国の人間が混同していたとしても、この光景はとても争いをしている関係とは思えなかった。
「互いに暗黙の了解を弁えているのよ。無暗に互いの領土に近付かないようにね。それに、多くの人間は思っているわ。争いなどしても何も生まれないとね――」
「そうですよね……」
多くの者が平和を望んでいる。
皆が当たり前の事を思っているのに、一部の者達のせいで苦難を強いられてしまう。こんな生活は誰も望んでいないのだ。
「まぁそれでも、ここは互いの領土に属さないグレーゾーン。皆が皆平和的な考えでない事もまた事実ね。実際、イェルメスの中心部では魔導師によるいざこざが何度かあったみたいだから」
会話をしながら賑やかな通りを抜け、更に奥へと歩みを進めるエレン達。奥に進めば進む程、徐々に人の数が減っていく。
次第に辺りは静かになり、エレンが最初にイメージしていた古代都市イェルメスの雰囲気に近い光景がそこには広がっていた。
何百年前という歴史を感じさせながらも、どこか近未来な雰囲気も漂うイェルメス。
エレンはその不思議な街並みを見ながら、ふとある事を思い出した。
「大昔はここにエルフ族や竜族が存在していたんですよね……? 多種族が共存しながら平和に」
人間、エルフ族、竜族、そして動物から魔物まで。
一昔前はこの全ての種族が共存していたという。
現代のエレンからは想像も出来ない世界。
「ええ、そうよ。だから本当なら出来るの。今の私達にもね」
ローゼン総帥の言葉にハッとさせられるエレン。
リューティス王国やユナダス王国など関係ない。
敵だろうが味方だろうが皆同じ人間。それぞれの命があり、それぞれの人生を生きている。
家族と過ごし、友と笑い、大切な人と時を過ごす。
無益な争いなど必要ない。
ただ当たり前という平和に感謝しながら生きていきたいだけ。
(僕だけじゃない……。きっと多くの人が同じように思っているんだよね……)
~古代都市イェルメス~
今から666年前に怒った『終焉の大火災』の震源地と言われる古代都市イェルメス。
雲を突き抜ける程、空高く聳える世界樹の麓。
広大な樹海の中心に存在するイェルメスは勿論の事ながら、この深い樹海にはリューティス王国とユナダス王国の明確な国境線は存在しない。
グレーゾーンというものである――。
その為ここイェルメスは世界の歴史上、主に過去の戦争においても度々重要な存在となっていた。
グレーゾーンであるこの樹海はリューティス王国にとってもユナダス王国にとっても突破口の起点となりやすく、誰もが最初に手を付けやすい場所であった為、過去には壮絶な戦場と化した事もあったそうだ。
だが、このイェルメスが戦場となる事に異議を唱える者達がいた。
それが考古学者、魔導師。
いわゆる“歴史”を重んじて調査や研究をする関係者達が口を揃えて長年抗議してきたのだ。
古代都市イェルメスは666年前より以前の事を知る事が出来る、世界で唯一の場所。それ程までに貴重で重要な場所が戦争なんかによって葬られたらお終いである。
だからこそ、ここイェルメスはリューティス王国やユナダス王国といった敵味方関係なく、多くの関係者達が互いに手を組み、暗黙の了解で長きに渡り守り続けてきた。
その結果666年経った現在でも、当時とほぼ変わらない状態のままイェルメスという都市が存在し、形を保っている――。
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「ってローゼン総帥が言うから、普段は人が寄りつかない神聖な場所かなと思ってたけど……」
古代都市イェルメスに着いたエレン達。
馬車から降りたエレンはまじまじと辺りを見渡した。
辺りは人の気配が全くなく、手入れもされていない廃墟ばかり。
建物は無造作に伸びた草木に覆われて苔が生え、大火災によって辛うじて原形を留めた痕跡が僅かながらに残っている。
……と、そんな感じのイメージをしていたエレンであったが、彼女の視界に飛び込んできたのはそのイメージとはまるで逆。
目の前のイェルメスには普通に多くの人が存在している挙句、都市の入り口から飲食、宿、武器屋から土産屋までズラっと商店が建ち並んでいるではないか。
「なんだこれ……!」
王都やエレンの住んでいた東部の街と比べると、確かに質素ではある。
だがイェルメスの街並みは、エレンの想像の遥か上をいく賑わいをみせていた。
「何を驚いているのよ」
「いや、なんていうか……思っていた感じと全然違うなと思いまして」
「ああ。もっと暗くて殺風景な場所をイメージしてたのね。ここはまだイェルメスの入り口だから一般の人も多いけど、重要な中心部は規制が設けられているから、恐らく貴方のイメージに近い風景が待っているわよ」
ローゼン総帥はそう言うと、商店などに全く見向きもせずどんどんと奥へ歩いて行く。
「ここって国境線がないグレーゾーンだよね? って事はユナダスの人も紛れてるのかな?」
「いても可笑しくねぇな。イェルメスはどっちの領土でもないし、出入りの規制もない」
「だよね……。でもユナダスの人がいたりして争いにならないのかな?」
休戦中とは言え、両国は戦争中。
仮に今ここで自国と敵国の人間が混同していたとしても、この光景はとても争いをしている関係とは思えなかった。
「互いに暗黙の了解を弁えているのよ。無暗に互いの領土に近付かないようにね。それに、多くの人間は思っているわ。争いなどしても何も生まれないとね――」
「そうですよね……」
多くの者が平和を望んでいる。
皆が当たり前の事を思っているのに、一部の者達のせいで苦難を強いられてしまう。こんな生活は誰も望んでいないのだ。
「まぁそれでも、ここは互いの領土に属さないグレーゾーン。皆が皆平和的な考えでない事もまた事実ね。実際、イェルメスの中心部では魔導師によるいざこざが何度かあったみたいだから」
会話をしながら賑やかな通りを抜け、更に奥へと歩みを進めるエレン達。奥に進めば進む程、徐々に人の数が減っていく。
次第に辺りは静かになり、エレンが最初にイメージしていた古代都市イェルメスの雰囲気に近い光景がそこには広がっていた。
何百年前という歴史を感じさせながらも、どこか近未来な雰囲気も漂うイェルメス。
エレンはその不思議な街並みを見ながら、ふとある事を思い出した。
「大昔はここにエルフ族や竜族が存在していたんですよね……? 多種族が共存しながら平和に」
人間、エルフ族、竜族、そして動物から魔物まで。
一昔前はこの全ての種族が共存していたという。
現代のエレンからは想像も出来ない世界。
「ええ、そうよ。だから本当なら出来るの。今の私達にもね」
ローゼン総帥の言葉にハッとさせられるエレン。
リューティス王国やユナダス王国など関係ない。
敵だろうが味方だろうが皆同じ人間。それぞれの命があり、それぞれの人生を生きている。
家族と過ごし、友と笑い、大切な人と時を過ごす。
無益な争いなど必要ない。
ただ当たり前という平和に感謝しながら生きていきたいだけ。
(僕だけじゃない……。きっと多くの人が同じように思っているんだよね……)