アッシュは間髪入れずに再度攻撃態勢に入り、ラグナ目掛けて剣を横一閃に振り抜いた。
しかし、アッシュその攻撃を躱したラグナは手のひらサイズの火の玉を生み出す。そして火の玉をアッシュへと飛ばした。
「ちっ」
火の玉はそこまで威力がない。だが飛ばされた勢いと風圧が凄く、火の玉を剣でガードしたアッシュは瞬く間に後方へと吹き飛ばされてしまった。
「アッシュ!」
彼を心配したエレンの眉が顰める。
そしてそんなエレンの死角、ラグナの背後から今度はエドがラグナに斬りかかっていたのだった。
「はあ!」
剣を振り抜こうとするエド。
対するラグナは一切エドの方向を向かずに詠唱を唱えた。
すると地面から木の幹が出現し、まるで蛇のように蠢く木の幹がエドを襲った。
「くッ……!」
1本、2本、3本。
地面から連続で突き出す木の幹によって行く手を阻まれたエドは、その剣がラグナに届く事なく一旦距離を取った。
だがそんなエドの反対側ではもうアッシュがラグナに向かっている。
それに気付いたエドも態勢を立て直し、勢いよく地面を蹴って再び距離を詰める。
前方にアッシュ。後方にはエド。
同時に攻撃を仕掛けられたラグナは2人に挟まれた。
(……よし!)
その瞬間、アッシュとエドに意識を集中させたラグナの力が緩み、一瞬の隙を狙ったエレンが遂にラグナの腕から抜け出す事に成功した。
「行けぇぇッ!」
氷の地面に足を取られながらも、抜け出したエレンはすぐに振り返ってアッシュ達を見た。
既に全員が衝突寸前。
アッシュとエドの剣は完璧にラグナを捉えていた。
(決まった――!)
ボワッ。
エレンが勝利を確信した刹那、それは起こった。
「「ぐッ!?」」
突如ラグナの体が豪炎に包まれ、空高く舞い上がった火柱によってアッシュとエドの攻撃が遮られた。
しかも今の今まで目の前にいた筈のラグナの姿が忽然と消え去っている。
「え、アイツは……!?」
一瞬の出来事。
強烈な炎でラグナを見失ったエレン達が辺りを見渡すと、奴の声は空から降ってきた――。
「ヒャハハハ! 今のはちょっと危なかったぜ。ローゼン様以外にも厄介な奴らがいるな。優秀だぜ、リューティス王国」
ラグナの声に反応し、エレン達は一斉に空を見上げる。するとそこにはラグナの姿が。
「おい、そっちの青髪のお前。俺に恨みでもあんのか?」
思い当たる節などない。
そう言いたげな表情をしながら、ラグナは真っ直ぐアッシュを睨みつけた。
確かにアッシュから放たれる殺意はこの上なく禍々しい。
エレンもこんなアッシュを見た事がない。
場に流れた妙な間の後、アッシュはラグナのタトゥーを見ながら静かに口を開いた。
「“あの日”から、テメェの面だけは1日たりとも忘れた事がねぇ」
ラグナにはやはり思い当たらないのか、それでも黙ったままアッシュを見ている。
思い出せぬならと、アッシュは更に言葉を出す。
「テメェにとっては、何千っていう奪った命のたかが数人だもんな。そりゃ覚えてねぇだろう。だがな――」
「ッ!?」
アッシュは足元に転がっていた剣を素早く拾うと、素早いモーションからラグナ目掛けて剣を投擲した。
シュン。
だが投擲した剣はあっさりとラグナに躱されてしまう。
アッシュも今ので倒せるとは思っていなかった。ただ溢れ出す殺意がその行動に至ったのだ。
「冷静になりなさい、アッシュ」
我を忘れそうな程怒りを露にするアッシュをエドが止める。
「おいおい、だからなんだってんだよ。そんな一方通行に片思いされても困るッ……「“ブルーランド家”――」
静かに、だがなによりもどす黒い憎悪が混じった声で、アッシュは囁いた。
聞き覚えのある名にラグナの眉がピクリと動く。
それはエレンもまた然りであった。
そして。
「4年前……ユナダスが仕掛けた戦争のせいで俺の家族は死んだ。いや、テメェに殺された。俺はブルーランド家の唯一の生き残りだ!」
「「!?」」
ブルーランド家――それはリューティス王国に存在する貴族の中でも、王族の分家としての血筋を引く有名な名家。
大国とされるリューティス王国は、王都に城を構えるレイモンド国王をトップに、東西南北それぞれの領土に当主が存在する。
この当主は言わば広い王国の東部、西部、南部、北部を管理、指揮、統率する為の“第2の王”的な立ち位置として存在し、昔から民にも認知されている事である。
全部で4つの名家がこの当主の役割を担っており、ブルーランド家がまさにその1つであった。
「ヒャハハ、成程ね。それでお前は俺を恨んでるって訳か。納得。確かにリューティス王国の“東部”を攻撃したのは俺だ。お前の家族を殺したのもな。まさかあのブルーランド家に生き残りがいたとは」
全く悪びれないラグナにより苛立ちを増すアッシュ。
だが、そんな2人とは別の視点で驚いているエレンの姿がそこにはあった。
「アッシュがあのブルーランド家の人間……? 嘘でしょ……」
突然の告白に頭を悩ますエレン。
無理もないだろう。
エレンはアッシュの過去を今初めて知らされた。
この戦争に人一倍強い気持ちがあったのは知っていたが、まさか彼があのブルーランド家の出身であり、しかも家族を全員殺されていた事まではエレンも初めて知った。
それと同時に、目の前のラグナが自分の暮らしていた東部を攻撃したとも知ったエレンは複雑に絡み合う感情を上手く整理出来ない。
「ビビッてねぇで降りて来いよ。俺に斬られるのが怖いのか?」
「悪いが挑発には乗れねぇな。こっちも忙しいんで」
そう言ったラグナは詠唱を唱え始めた。
「待ちなさい!」
ラグナの詠唱をローゼン総帥が止める。
「貴方、やはり練成術を使っているようね」
「……だったら?」
「練成術はエルフの魔法。どこでそれを手に入れたのかしら」
「ヒャハハ。それを俺が素直に教える訳ねぇだろ、最強の魔導師さんよ」
ラグナは徐にエレンへと視線を移す。
「本当はお嬢ちゃんだけ連れてサッと帰る予定だったんだけどさ、お嬢ちゃんの熱狂的なファンが許さないみたい。だからまた今度にするよ。
また絶対に迎えに来る。だからその時は一緒に帰ろうな……“混血の女神様”――」
最後にそう言い残し、ラグナは星が煌めく夜空から霧のように姿を消し去った。
「移動魔法をあんなに簡単に使うなんて……」
エレン、アッシュ、エド、ローゼン総帥はそれぞれの思いを胸に、ラグナの消え去った場所を見つめていた。
「さて。兎も角優先するはグラニス街と人々の命。散らかった魔物を片付けて、避難した街の人達を呼び戻すわよ。騎士団の役目は王国と民の安全を守る事だからね」
ふわりと浮くローゼン総帥。彼女は簡単に町の被害を見渡すと、下にいるエレン達を見た。
「早くしなさい。肝心な話は全てが終わった後よ――」
しかし、アッシュその攻撃を躱したラグナは手のひらサイズの火の玉を生み出す。そして火の玉をアッシュへと飛ばした。
「ちっ」
火の玉はそこまで威力がない。だが飛ばされた勢いと風圧が凄く、火の玉を剣でガードしたアッシュは瞬く間に後方へと吹き飛ばされてしまった。
「アッシュ!」
彼を心配したエレンの眉が顰める。
そしてそんなエレンの死角、ラグナの背後から今度はエドがラグナに斬りかかっていたのだった。
「はあ!」
剣を振り抜こうとするエド。
対するラグナは一切エドの方向を向かずに詠唱を唱えた。
すると地面から木の幹が出現し、まるで蛇のように蠢く木の幹がエドを襲った。
「くッ……!」
1本、2本、3本。
地面から連続で突き出す木の幹によって行く手を阻まれたエドは、その剣がラグナに届く事なく一旦距離を取った。
だがそんなエドの反対側ではもうアッシュがラグナに向かっている。
それに気付いたエドも態勢を立て直し、勢いよく地面を蹴って再び距離を詰める。
前方にアッシュ。後方にはエド。
同時に攻撃を仕掛けられたラグナは2人に挟まれた。
(……よし!)
その瞬間、アッシュとエドに意識を集中させたラグナの力が緩み、一瞬の隙を狙ったエレンが遂にラグナの腕から抜け出す事に成功した。
「行けぇぇッ!」
氷の地面に足を取られながらも、抜け出したエレンはすぐに振り返ってアッシュ達を見た。
既に全員が衝突寸前。
アッシュとエドの剣は完璧にラグナを捉えていた。
(決まった――!)
ボワッ。
エレンが勝利を確信した刹那、それは起こった。
「「ぐッ!?」」
突如ラグナの体が豪炎に包まれ、空高く舞い上がった火柱によってアッシュとエドの攻撃が遮られた。
しかも今の今まで目の前にいた筈のラグナの姿が忽然と消え去っている。
「え、アイツは……!?」
一瞬の出来事。
強烈な炎でラグナを見失ったエレン達が辺りを見渡すと、奴の声は空から降ってきた――。
「ヒャハハハ! 今のはちょっと危なかったぜ。ローゼン様以外にも厄介な奴らがいるな。優秀だぜ、リューティス王国」
ラグナの声に反応し、エレン達は一斉に空を見上げる。するとそこにはラグナの姿が。
「おい、そっちの青髪のお前。俺に恨みでもあんのか?」
思い当たる節などない。
そう言いたげな表情をしながら、ラグナは真っ直ぐアッシュを睨みつけた。
確かにアッシュから放たれる殺意はこの上なく禍々しい。
エレンもこんなアッシュを見た事がない。
場に流れた妙な間の後、アッシュはラグナのタトゥーを見ながら静かに口を開いた。
「“あの日”から、テメェの面だけは1日たりとも忘れた事がねぇ」
ラグナにはやはり思い当たらないのか、それでも黙ったままアッシュを見ている。
思い出せぬならと、アッシュは更に言葉を出す。
「テメェにとっては、何千っていう奪った命のたかが数人だもんな。そりゃ覚えてねぇだろう。だがな――」
「ッ!?」
アッシュは足元に転がっていた剣を素早く拾うと、素早いモーションからラグナ目掛けて剣を投擲した。
シュン。
だが投擲した剣はあっさりとラグナに躱されてしまう。
アッシュも今ので倒せるとは思っていなかった。ただ溢れ出す殺意がその行動に至ったのだ。
「冷静になりなさい、アッシュ」
我を忘れそうな程怒りを露にするアッシュをエドが止める。
「おいおい、だからなんだってんだよ。そんな一方通行に片思いされても困るッ……「“ブルーランド家”――」
静かに、だがなによりもどす黒い憎悪が混じった声で、アッシュは囁いた。
聞き覚えのある名にラグナの眉がピクリと動く。
それはエレンもまた然りであった。
そして。
「4年前……ユナダスが仕掛けた戦争のせいで俺の家族は死んだ。いや、テメェに殺された。俺はブルーランド家の唯一の生き残りだ!」
「「!?」」
ブルーランド家――それはリューティス王国に存在する貴族の中でも、王族の分家としての血筋を引く有名な名家。
大国とされるリューティス王国は、王都に城を構えるレイモンド国王をトップに、東西南北それぞれの領土に当主が存在する。
この当主は言わば広い王国の東部、西部、南部、北部を管理、指揮、統率する為の“第2の王”的な立ち位置として存在し、昔から民にも認知されている事である。
全部で4つの名家がこの当主の役割を担っており、ブルーランド家がまさにその1つであった。
「ヒャハハ、成程ね。それでお前は俺を恨んでるって訳か。納得。確かにリューティス王国の“東部”を攻撃したのは俺だ。お前の家族を殺したのもな。まさかあのブルーランド家に生き残りがいたとは」
全く悪びれないラグナにより苛立ちを増すアッシュ。
だが、そんな2人とは別の視点で驚いているエレンの姿がそこにはあった。
「アッシュがあのブルーランド家の人間……? 嘘でしょ……」
突然の告白に頭を悩ますエレン。
無理もないだろう。
エレンはアッシュの過去を今初めて知らされた。
この戦争に人一倍強い気持ちがあったのは知っていたが、まさか彼があのブルーランド家の出身であり、しかも家族を全員殺されていた事まではエレンも初めて知った。
それと同時に、目の前のラグナが自分の暮らしていた東部を攻撃したとも知ったエレンは複雑に絡み合う感情を上手く整理出来ない。
「ビビッてねぇで降りて来いよ。俺に斬られるのが怖いのか?」
「悪いが挑発には乗れねぇな。こっちも忙しいんで」
そう言ったラグナは詠唱を唱え始めた。
「待ちなさい!」
ラグナの詠唱をローゼン総帥が止める。
「貴方、やはり練成術を使っているようね」
「……だったら?」
「練成術はエルフの魔法。どこでそれを手に入れたのかしら」
「ヒャハハ。それを俺が素直に教える訳ねぇだろ、最強の魔導師さんよ」
ラグナは徐にエレンへと視線を移す。
「本当はお嬢ちゃんだけ連れてサッと帰る予定だったんだけどさ、お嬢ちゃんの熱狂的なファンが許さないみたい。だからまた今度にするよ。
また絶対に迎えに来る。だからその時は一緒に帰ろうな……“混血の女神様”――」
最後にそう言い残し、ラグナは星が煌めく夜空から霧のように姿を消し去った。
「移動魔法をあんなに簡単に使うなんて……」
エレン、アッシュ、エド、ローゼン総帥はそれぞれの思いを胸に、ラグナの消え去った場所を見つめていた。
「さて。兎も角優先するはグラニス街と人々の命。散らかった魔物を片付けて、避難した街の人達を呼び戻すわよ。騎士団の役目は王国と民の安全を守る事だからね」
ふわりと浮くローゼン総帥。彼女は簡単に町の被害を見渡すと、下にいるエレン達を見た。
「早くしなさい。肝心な話は全てが終わった後よ――」