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~宿舎・1階~
「やっと帰ったぞ~!」
「街で買ってつまみを早く出せ!」
「もう1杯飲む前に俺はシャワーを浴びる」
ワイワイ。ガヤガヤ。
「なにこれ……うるさッ」
開口一番。エレンは静かにそう口にした。
1階の広い共有スペースで、なにやら凄い盛り上がりをみせている十数人の男達。彼らは皆飲み物や食べ物を手に持っており、共有スペースはアルコールの匂いが漂っている。
アッシュも珍しくエレンと同じ事を思っているのか、露骨に嫌そうな顔をしていた。
「悪いな。思っていた以上の仕上がりだ。ったく、この馬鹿共は……」
ダッジ団長がバツが悪そうにエレン達に謝ると、エレン達はその一言で察した。
“これが護衛隊の面子だ”と――。
「おいッ! お前らッ!」
(うわ、凄い声量)
愉快などんちゃん騒ぎを一刀両断するかのような凄まじいダッジ団長の声が響き、護衛隊と思われる男達は一斉にダッジ団長の方向へ振り向いた。
「あ、ダッジ団長お疲れ様です!」
「なんだ? 見かけない顔がそっちにいるな」
護衛隊の男達は酔っ払っている者が殆ど。既に床で寝てる者いる。
明らかに異様な光景ではあったが、護衛隊ではこれが普通なのだろうかダッジ団長がそのまま男達に話を続けるのだった。
「おーい、いいか! 1度しか言わねぇから全員聞けよ! 俺の隣にいるこの3人が新しく護衛隊に入った! 名前覚えるついでにお前達の自己紹介もしろ! ……って、おいミゲル。お前飲み過ぎだ。もう部屋言って寝ろ!」
慌ただしい中でダッジ団長がそう言うと、男達は更に盛り上がり(悪ノリ)を見せるのだった。
「おお! お前達が新しく配属された新人か! 宜しくな!」
「おいおい、酔っ払いが絡むんじゃねぇよ! 俺の名前はバードン! お前達は?」
もれなく全員酔ってるじゃん。と思わずツッコミを入れそうになったエレンだが、目の前のバードンと名乗った男に促された3人は自己紹介をした。
「えっと……僕はエレンです。エレン・エルフェイム」
「アッシュ」
「私はエドワード・グリンジと申します」
美女、青髪、老人。
出来上がった酔っ払いが食いつくには十分過ぎる要素だった。
「なんだなんだ、今回の新人は面白過ぎるだろ! なあ!」
「3人共そんなスリムで剣振れるのかよ!」
「っていうかそっちの金髪、めちゃくちゃ可愛い女じゃねぇか!」
「ガハハハ、何言ってんだ馬鹿野郎! 女が騎士団に入れる訳ッ……って本当だ! どうしてこんな所にお嬢ちゃんが紛れこんでるんだ!」
「僕は男だッ!」
相手が酔っ払いという事もあってか、エレンはいつも以上に強気に言い放つ事が出来た。
だが。
「“僕は男だッ!”……だってよ!」
「ハッハッハッ! ふて腐れた顔も可愛いぞ!」
図らずも火に油を注ぐ形となってしまったエレンは、酔っ払いの男達に更に爆笑を生ませてしまう。
「いい加減にしねぇか馬鹿共! いつまでも新人を困らせるんじゃねぇ」
「でもさ、ダッジ団長。この3人本当に使えるんですか? 女に青髪にご老人ですよ? そんなにリューティス王国は人手不足なんですか?」
「その心配はない。コイツらは伯爵の推薦状付きで実力テストを受けたからな。それに幾ら人手不足っつっても、弱かったらそもそもここにはいられないだろ」
「そりゃごもっともです! じゃあ新人も酒飲め酒ッ!」
最早収拾不可。
ダッジも半ば諦めたように溜息をつくと、「やる時はやる奴らなんだ」と余りに説得力のないフォローをエレン達にする。
そんなダッジ団長の様子を見たエレンは、団長という立場は大変そうだと思いながら苦笑いを返す事しか出来なかったのだった。
「とりあえず飲め飲め!」
護衛隊の1人がそう言いながらお酒の入ったジョッキをエレン達に無理矢理渡した。
「さて、ではいただこうかな」
渡されたお酒を躊躇いなく飲み始めたエド。
ジョッキのお酒を一気に飲み干すと、「ぷはー!」と満足そうな表情を浮かべた。
「おお! 爺さんいい飲みっぷりだな! まだまだあるからこっちに来て飲んでくれよ!」
「ハハハ。たまにはこういう時間も悪くない」
流石の対応と言うべきか。エドは早くも護衛隊の者達と打ち解けたようだ。
「さあ、お前達も景気よく飲め!」
男達に言われたエレンも、一先ず飲み慣れないお酒に口を付けた。
「うげッ、マズい!」
まともにお酒を飲んだ事がない上に、エレンはお酒に弱い体質のようだ。
「だははッ! まだお子ちゃまにはこの味が分からんか! ほら、青髪の兄ちゃんも飲んでみろ!」
どんちゃん騒ぎの熱気と、アルコール独特の匂い。
そして今飲んだお酒が早くも回ってきた様子のエレンは顔が赤く火照っていた。
(あれ……なんかフワフワしてきた。体も熱いし、ちょっと外に出よッ……!?)
エレンがこの場を離れようとした瞬間、彼女は護衛隊の1人に腕を掴まれバランスを崩す。踏ん張りが効かなかったエレンはそのまま床に尻餅をついてしまった。
ズドン。
「アハハハ! こんなので転ぶなんて本当に大丈夫かよ金髪女!」
「何回もしつこいなぁ。僕は男だって言ってるだろ! 護衛団は頭の弱い人しかいないみたいだね(あ、やば。頭がクラクラしてきた……)」
「なにぃ? 生意気だな、お前」
お酒のせいで自然と挑発的な態度になっていたエレン。
絡んできた男もヘラヘラした顔から一転して眉間に皺を寄せていた。
それでも、アルコールが回ってしまったエレンも更に言い返す。
「なんでだよ。そっちがいつまでも間違えてるから悪いんだろ」
「あ? おい、新人。どうやらお前は痛い目に遭わないと分からないタイプらしいな」
そう言った男はグッとエレンの胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。
「ふん。頭が弱いからってすぐに暴力に走る男なんてダサ過ぎ」
「テメェ……! くたばれこの野郎!」
ガシッ。
男がエレンに向かって拳を振りかざした刹那、突如その動きが止まった。
「おいおい、俺の配属された護衛隊はこんな軟弱野郎にしか喧嘩を売れない集団なのか?」
「離しやがれ! テメェも生意気な態度取るならぶっ飛ばすぞ!」
「やってみろクソ酔っ払い」
アッシュは鼻で笑いながら男を挑発した。
「お、どうした。喧嘩か? おーい、皆! 新人とエディが喧嘩するってよ!」
「なんだって! そりゃ面白そうだ」
「やったれ、青髪の兄ちゃん!」
悪ノリに悪ノリが重なり、どんちゃん騒ぎの場が更なるボルテージを上げた。
そして。
「何やってんだお前らッ! もういい加減にッ……『――ズガン!』
見兼ねたダッジ団長がこの場を収めようとした次の瞬間、エディと呼ばれた男とアッシュの喧嘩は一瞬で勝負が着いたのだった。
「がはッ……!?」
ぶん殴られたのだろうか、エディは悶絶の表情で腹を抱えると、そのまま床に倒れて気を失った。
「本当に……お前ら羽目を外し過ぎだ馬鹿共! この3人はジャック団長相手に圧倒した挙句、エレンに至ってはあのローゼン総帥と仕合をして認められた実力者だぞ。というよりもう仲間だ。いつまでも下らない事してんじゃねぇ」
ダッジ団長の一喝で騒がしかった場が静寂となった。
「さてと、それじゃあ年寄りはそろそろ部屋に戻るとしよう。アッシュとエレン君も一緒に行きましょうか」
「戻るぞ。お前も酔っ払ってんじゃねぇよ、ったく」
「僕は酔ってないぞ」
そう言うエレンは完全にダウン寸前であった。
「お……おいッ、お前……!」
アッシュに殴られた男が意識を取り戻した。
「そっちの金髪、お前噂によると“目が光る”らしいじゃねか……! まさかお前、魔物とか悪魔の類じゃねぇだろうな? 気持ち悪いんだよ!」
「――!?」
エディは咳込みながらエレンの事を揶揄し、一方のエレンもこの瞬間だけは一瞬酔いが醒めたように我に返らされた。
「エディ! テメェは当分酒禁止だ!」
ダッジ団長は遂に怒声を上げ、他の団員にエディを部屋に連れて行くよう命令する。
我に返ったエレンは気が付くと、支えてくれていたアッシュの腕を振り払って宿舎の外へと走り出して行ってしまったのだった――。
~宿舎・1階~
「やっと帰ったぞ~!」
「街で買ってつまみを早く出せ!」
「もう1杯飲む前に俺はシャワーを浴びる」
ワイワイ。ガヤガヤ。
「なにこれ……うるさッ」
開口一番。エレンは静かにそう口にした。
1階の広い共有スペースで、なにやら凄い盛り上がりをみせている十数人の男達。彼らは皆飲み物や食べ物を手に持っており、共有スペースはアルコールの匂いが漂っている。
アッシュも珍しくエレンと同じ事を思っているのか、露骨に嫌そうな顔をしていた。
「悪いな。思っていた以上の仕上がりだ。ったく、この馬鹿共は……」
ダッジ団長がバツが悪そうにエレン達に謝ると、エレン達はその一言で察した。
“これが護衛隊の面子だ”と――。
「おいッ! お前らッ!」
(うわ、凄い声量)
愉快などんちゃん騒ぎを一刀両断するかのような凄まじいダッジ団長の声が響き、護衛隊と思われる男達は一斉にダッジ団長の方向へ振り向いた。
「あ、ダッジ団長お疲れ様です!」
「なんだ? 見かけない顔がそっちにいるな」
護衛隊の男達は酔っ払っている者が殆ど。既に床で寝てる者いる。
明らかに異様な光景ではあったが、護衛隊ではこれが普通なのだろうかダッジ団長がそのまま男達に話を続けるのだった。
「おーい、いいか! 1度しか言わねぇから全員聞けよ! 俺の隣にいるこの3人が新しく護衛隊に入った! 名前覚えるついでにお前達の自己紹介もしろ! ……って、おいミゲル。お前飲み過ぎだ。もう部屋言って寝ろ!」
慌ただしい中でダッジ団長がそう言うと、男達は更に盛り上がり(悪ノリ)を見せるのだった。
「おお! お前達が新しく配属された新人か! 宜しくな!」
「おいおい、酔っ払いが絡むんじゃねぇよ! 俺の名前はバードン! お前達は?」
もれなく全員酔ってるじゃん。と思わずツッコミを入れそうになったエレンだが、目の前のバードンと名乗った男に促された3人は自己紹介をした。
「えっと……僕はエレンです。エレン・エルフェイム」
「アッシュ」
「私はエドワード・グリンジと申します」
美女、青髪、老人。
出来上がった酔っ払いが食いつくには十分過ぎる要素だった。
「なんだなんだ、今回の新人は面白過ぎるだろ! なあ!」
「3人共そんなスリムで剣振れるのかよ!」
「っていうかそっちの金髪、めちゃくちゃ可愛い女じゃねぇか!」
「ガハハハ、何言ってんだ馬鹿野郎! 女が騎士団に入れる訳ッ……って本当だ! どうしてこんな所にお嬢ちゃんが紛れこんでるんだ!」
「僕は男だッ!」
相手が酔っ払いという事もあってか、エレンはいつも以上に強気に言い放つ事が出来た。
だが。
「“僕は男だッ!”……だってよ!」
「ハッハッハッ! ふて腐れた顔も可愛いぞ!」
図らずも火に油を注ぐ形となってしまったエレンは、酔っ払いの男達に更に爆笑を生ませてしまう。
「いい加減にしねぇか馬鹿共! いつまでも新人を困らせるんじゃねぇ」
「でもさ、ダッジ団長。この3人本当に使えるんですか? 女に青髪にご老人ですよ? そんなにリューティス王国は人手不足なんですか?」
「その心配はない。コイツらは伯爵の推薦状付きで実力テストを受けたからな。それに幾ら人手不足っつっても、弱かったらそもそもここにはいられないだろ」
「そりゃごもっともです! じゃあ新人も酒飲め酒ッ!」
最早収拾不可。
ダッジも半ば諦めたように溜息をつくと、「やる時はやる奴らなんだ」と余りに説得力のないフォローをエレン達にする。
そんなダッジ団長の様子を見たエレンは、団長という立場は大変そうだと思いながら苦笑いを返す事しか出来なかったのだった。
「とりあえず飲め飲め!」
護衛隊の1人がそう言いながらお酒の入ったジョッキをエレン達に無理矢理渡した。
「さて、ではいただこうかな」
渡されたお酒を躊躇いなく飲み始めたエド。
ジョッキのお酒を一気に飲み干すと、「ぷはー!」と満足そうな表情を浮かべた。
「おお! 爺さんいい飲みっぷりだな! まだまだあるからこっちに来て飲んでくれよ!」
「ハハハ。たまにはこういう時間も悪くない」
流石の対応と言うべきか。エドは早くも護衛隊の者達と打ち解けたようだ。
「さあ、お前達も景気よく飲め!」
男達に言われたエレンも、一先ず飲み慣れないお酒に口を付けた。
「うげッ、マズい!」
まともにお酒を飲んだ事がない上に、エレンはお酒に弱い体質のようだ。
「だははッ! まだお子ちゃまにはこの味が分からんか! ほら、青髪の兄ちゃんも飲んでみろ!」
どんちゃん騒ぎの熱気と、アルコール独特の匂い。
そして今飲んだお酒が早くも回ってきた様子のエレンは顔が赤く火照っていた。
(あれ……なんかフワフワしてきた。体も熱いし、ちょっと外に出よッ……!?)
エレンがこの場を離れようとした瞬間、彼女は護衛隊の1人に腕を掴まれバランスを崩す。踏ん張りが効かなかったエレンはそのまま床に尻餅をついてしまった。
ズドン。
「アハハハ! こんなので転ぶなんて本当に大丈夫かよ金髪女!」
「何回もしつこいなぁ。僕は男だって言ってるだろ! 護衛団は頭の弱い人しかいないみたいだね(あ、やば。頭がクラクラしてきた……)」
「なにぃ? 生意気だな、お前」
お酒のせいで自然と挑発的な態度になっていたエレン。
絡んできた男もヘラヘラした顔から一転して眉間に皺を寄せていた。
それでも、アルコールが回ってしまったエレンも更に言い返す。
「なんでだよ。そっちがいつまでも間違えてるから悪いんだろ」
「あ? おい、新人。どうやらお前は痛い目に遭わないと分からないタイプらしいな」
そう言った男はグッとエレンの胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。
「ふん。頭が弱いからってすぐに暴力に走る男なんてダサ過ぎ」
「テメェ……! くたばれこの野郎!」
ガシッ。
男がエレンに向かって拳を振りかざした刹那、突如その動きが止まった。
「おいおい、俺の配属された護衛隊はこんな軟弱野郎にしか喧嘩を売れない集団なのか?」
「離しやがれ! テメェも生意気な態度取るならぶっ飛ばすぞ!」
「やってみろクソ酔っ払い」
アッシュは鼻で笑いながら男を挑発した。
「お、どうした。喧嘩か? おーい、皆! 新人とエディが喧嘩するってよ!」
「なんだって! そりゃ面白そうだ」
「やったれ、青髪の兄ちゃん!」
悪ノリに悪ノリが重なり、どんちゃん騒ぎの場が更なるボルテージを上げた。
そして。
「何やってんだお前らッ! もういい加減にッ……『――ズガン!』
見兼ねたダッジ団長がこの場を収めようとした次の瞬間、エディと呼ばれた男とアッシュの喧嘩は一瞬で勝負が着いたのだった。
「がはッ……!?」
ぶん殴られたのだろうか、エディは悶絶の表情で腹を抱えると、そのまま床に倒れて気を失った。
「本当に……お前ら羽目を外し過ぎだ馬鹿共! この3人はジャック団長相手に圧倒した挙句、エレンに至ってはあのローゼン総帥と仕合をして認められた実力者だぞ。というよりもう仲間だ。いつまでも下らない事してんじゃねぇ」
ダッジ団長の一喝で騒がしかった場が静寂となった。
「さてと、それじゃあ年寄りはそろそろ部屋に戻るとしよう。アッシュとエレン君も一緒に行きましょうか」
「戻るぞ。お前も酔っ払ってんじゃねぇよ、ったく」
「僕は酔ってないぞ」
そう言うエレンは完全にダウン寸前であった。
「お……おいッ、お前……!」
アッシュに殴られた男が意識を取り戻した。
「そっちの金髪、お前噂によると“目が光る”らしいじゃねか……! まさかお前、魔物とか悪魔の類じゃねぇだろうな? 気持ち悪いんだよ!」
「――!?」
エディは咳込みながらエレンの事を揶揄し、一方のエレンもこの瞬間だけは一瞬酔いが醒めたように我に返らされた。
「エディ! テメェは当分酒禁止だ!」
ダッジ団長は遂に怒声を上げ、他の団員にエディを部屋に連れて行くよう命令する。
我に返ったエレンは気が付くと、支えてくれていたアッシュの腕を振り払って宿舎の外へと走り出して行ってしまったのだった――。