「ハァ……ハァ……ハァ……(また“いつもの”だ。でも、ここで倒れる訳にはいかない……!)」
出現した5体のモンスター全てを倒したエレン。
彼女はいつも投擲を使うと“こう”なる。幼少の頃からだ。
投擲を行えば行う程体が重くなり、全身を疲労感が襲ってくる。理由は未だに本人もよく分かっていない。マナによる力なのかとも思ったが、生前マナ使いであった祖父が「それは違う」と言っていた。
だからエレンはあまりこの力を使わない。制限がある為、ここぞという時だけにしていた。彼女自身が不必要に力を使いたくないという事も勿論あるが、それ以上にこの副作用的な効果が単純に嫌だったからである。
だがどんな理由があるにせよ、今のこの仕合では皆無。
見事モンスターを倒したエレンであったが、これで終わりではない。まだローゼン総帥との仕合は続いているのだから。
「ハァ……ハァ……まだまだ」
エレンは気怠く重い体を懸命に動かして剣を拾った。
そしてローゼン総帥の方向を向いて剣を構える。
「随分とお疲れみたいね」
「そんな事ないですよ……。まだ戦えますから!」
力強く言い放つエレン。
しかしエレンの疲労は誰が見ても一目瞭然であった。
「フフフ。まぁこれで仕合の“意味”は十分あったと言えるでしょう。レイモンドよ、妾はこれで帰るぞ」
「……!」
突如そう言い残すと、ローゼンはこの場に姿を現した時と同じように音も無く姿を消し、本当にどこかへ去ってしまったのだった。
「さてと。じゃあこれで全員の実力テストは終わりましたね。3人共合格です――」
終わりは唐突に。
ローゼン総帥まさかの行動に場には数秒の沈黙が流れたが、その沈黙を破るようにレイモンド国王がエレン達に入団の合否を伝えたのだった。
「ありがとうございます。レイモンド国王」
「まぁ俺の実力なら当然だな」
あまりに急な事にエレンは戸惑うも、アッシュとエドはいつも通り。二つ返事でレイモンド国王の言葉を受け入れていた。
こうして無事実力テストも終わり。
誰しもがそう思っていたその時。
――バン!
エレン達のいた部屋の扉が勢いよく開かれた。
「“パパ”! 彼らは私の隊に配属させて!」
突如響き渡った女の声。
この場にいた者達全員が一斉に扉の方を向いた。
すると、そこには煌びやかなドレスに身を包み、長い髪をハーフアップに束ねたエレンと同じ年頃の1人の女の子が立っていた。
「公の場でパパと呼ぶのは控えるよういつも頼んでいるだろう、マリア……」
マリア――その聞き覚えのある名前と、彼女のいかにも“王女様”っぽい装いを見てエレンは察した。
(マリアって……もしかしてレイモンド国王の娘さんのマリア王女!?)
レイモンド国王がリューティス王国の民の前に姿を現す事は決して多いとは言えない。だが王国の大事な節目節目にはその姿を公に見せる為、王国の民の殆どはレイモンド国王の顔を知っている。
しかし、レイモンド国王の娘であるマリア王女は国王以上に姿が見られない存在であった。
実際にエレンもマリア王女という名は聞いた事があっても、これまで1度として顔を見た事がない。
そんなマリア王女の登場に、エレン達は愚か他の騎士団員や国王の側近の者達まで驚いた様子の表情を浮かべていた。
「なるべく控えるようには心掛けているわ、お父様。でも今はそんな事よりも彼らの配属先が重要! 絶対に私の隊に配属させてほしいの!」
マリア王女によってこの場の空気は一変した。
それと同時に先程まではレイモンド“国王”の姿が確かにそこにあったが、今はまるで年頃のお転婆な娘の行動を全く予期する事が出来ずに困りは果てていると言った“父親”の姿が垣間見られている。
エレンはそんなレイモンド国王を見て心が和んだ。
「良いかマリア、私達は今取り込み中だ。大事な話をしている。それに彼らの配属はマリアが決める事じゃないぞ」
「ええ。勿論分かっているわ。だから今こうしてお父様に直接頼んでるの」
マリア王女はどうやらグイグイ前へ出るタイプらしい。完全にペースはマリア王女が握っている。
「配属に関しては他の団長達とも話し合う。現場での能力は彼らの方が優れているからね。それにしても、何故急に彼らの配属を希望してきたんだい、マリアよ。今まではそんな事なかっただろう」
エレンは少し意外だと思った。
マリア王女がこの感じならば、城ではこの程度の事は日常茶飯事だったのではないかと勝手に思ってしまっていたからだ。
だがそうではないらしい。
「だってお父様も今見ていたでしょ! そちらのダンディなおじ様も、目つきの悪い青髪の人も2人共凄い強かったわ!」
「なんだ、今の仕合を見ていたのかい?」
「ええ、偶然だけどね!」
マリア王女のテンションはこれがデフォルトなのか、はたまた今の仕合を見ていたからテンションが上がっているように見えるのかは分からないが、その後もマリア王女は興奮気味にレイモンド国王に言った。
「それに、私が1番気に入ったのは貴方よ!」
そう言いながらマリア王女はエレンを勢いよく指差した。
「貴方の仕合凄かったわ。相手がローゼン総帥だって事は勿論だけど、それ以上に貴方の戦いが美しかったの。もう1回見せて! あの綺麗に“光る目”! お願い――!」
グイっとエレンの顔を覗き込んで懇願するマリア王女。
驚いたエレンは戸惑ったまま何も言う事が出来ずに、自分の眼前にまで迫ったマリア王女の大きな瞳をただただ見つめているしかなかった――。
出現した5体のモンスター全てを倒したエレン。
彼女はいつも投擲を使うと“こう”なる。幼少の頃からだ。
投擲を行えば行う程体が重くなり、全身を疲労感が襲ってくる。理由は未だに本人もよく分かっていない。マナによる力なのかとも思ったが、生前マナ使いであった祖父が「それは違う」と言っていた。
だからエレンはあまりこの力を使わない。制限がある為、ここぞという時だけにしていた。彼女自身が不必要に力を使いたくないという事も勿論あるが、それ以上にこの副作用的な効果が単純に嫌だったからである。
だがどんな理由があるにせよ、今のこの仕合では皆無。
見事モンスターを倒したエレンであったが、これで終わりではない。まだローゼン総帥との仕合は続いているのだから。
「ハァ……ハァ……まだまだ」
エレンは気怠く重い体を懸命に動かして剣を拾った。
そしてローゼン総帥の方向を向いて剣を構える。
「随分とお疲れみたいね」
「そんな事ないですよ……。まだ戦えますから!」
力強く言い放つエレン。
しかしエレンの疲労は誰が見ても一目瞭然であった。
「フフフ。まぁこれで仕合の“意味”は十分あったと言えるでしょう。レイモンドよ、妾はこれで帰るぞ」
「……!」
突如そう言い残すと、ローゼンはこの場に姿を現した時と同じように音も無く姿を消し、本当にどこかへ去ってしまったのだった。
「さてと。じゃあこれで全員の実力テストは終わりましたね。3人共合格です――」
終わりは唐突に。
ローゼン総帥まさかの行動に場には数秒の沈黙が流れたが、その沈黙を破るようにレイモンド国王がエレン達に入団の合否を伝えたのだった。
「ありがとうございます。レイモンド国王」
「まぁ俺の実力なら当然だな」
あまりに急な事にエレンは戸惑うも、アッシュとエドはいつも通り。二つ返事でレイモンド国王の言葉を受け入れていた。
こうして無事実力テストも終わり。
誰しもがそう思っていたその時。
――バン!
エレン達のいた部屋の扉が勢いよく開かれた。
「“パパ”! 彼らは私の隊に配属させて!」
突如響き渡った女の声。
この場にいた者達全員が一斉に扉の方を向いた。
すると、そこには煌びやかなドレスに身を包み、長い髪をハーフアップに束ねたエレンと同じ年頃の1人の女の子が立っていた。
「公の場でパパと呼ぶのは控えるよういつも頼んでいるだろう、マリア……」
マリア――その聞き覚えのある名前と、彼女のいかにも“王女様”っぽい装いを見てエレンは察した。
(マリアって……もしかしてレイモンド国王の娘さんのマリア王女!?)
レイモンド国王がリューティス王国の民の前に姿を現す事は決して多いとは言えない。だが王国の大事な節目節目にはその姿を公に見せる為、王国の民の殆どはレイモンド国王の顔を知っている。
しかし、レイモンド国王の娘であるマリア王女は国王以上に姿が見られない存在であった。
実際にエレンもマリア王女という名は聞いた事があっても、これまで1度として顔を見た事がない。
そんなマリア王女の登場に、エレン達は愚か他の騎士団員や国王の側近の者達まで驚いた様子の表情を浮かべていた。
「なるべく控えるようには心掛けているわ、お父様。でも今はそんな事よりも彼らの配属先が重要! 絶対に私の隊に配属させてほしいの!」
マリア王女によってこの場の空気は一変した。
それと同時に先程まではレイモンド“国王”の姿が確かにそこにあったが、今はまるで年頃のお転婆な娘の行動を全く予期する事が出来ずに困りは果てていると言った“父親”の姿が垣間見られている。
エレンはそんなレイモンド国王を見て心が和んだ。
「良いかマリア、私達は今取り込み中だ。大事な話をしている。それに彼らの配属はマリアが決める事じゃないぞ」
「ええ。勿論分かっているわ。だから今こうしてお父様に直接頼んでるの」
マリア王女はどうやらグイグイ前へ出るタイプらしい。完全にペースはマリア王女が握っている。
「配属に関しては他の団長達とも話し合う。現場での能力は彼らの方が優れているからね。それにしても、何故急に彼らの配属を希望してきたんだい、マリアよ。今まではそんな事なかっただろう」
エレンは少し意外だと思った。
マリア王女がこの感じならば、城ではこの程度の事は日常茶飯事だったのではないかと勝手に思ってしまっていたからだ。
だがそうではないらしい。
「だってお父様も今見ていたでしょ! そちらのダンディなおじ様も、目つきの悪い青髪の人も2人共凄い強かったわ!」
「なんだ、今の仕合を見ていたのかい?」
「ええ、偶然だけどね!」
マリア王女のテンションはこれがデフォルトなのか、はたまた今の仕合を見ていたからテンションが上がっているように見えるのかは分からないが、その後もマリア王女は興奮気味にレイモンド国王に言った。
「それに、私が1番気に入ったのは貴方よ!」
そう言いながらマリア王女はエレンを勢いよく指差した。
「貴方の仕合凄かったわ。相手がローゼン総帥だって事は勿論だけど、それ以上に貴方の戦いが美しかったの。もう1回見せて! あの綺麗に“光る目”! お願い――!」
グイっとエレンの顔を覗き込んで懇願するマリア王女。
驚いたエレンは戸惑ったまま何も言う事が出来ずに、自分の眼前にまで迫ったマリア王女の大きな瞳をただただ見つめているしかなかった――。