「始め――!」
この日3度目となる仕合開始の声が響く。
「貴方、投擲の名手なんですって? マナ使いでもないのに凄い才能ね」
「そんな……。ローゼン総帥に褒めてもらう程大層なものではありません」
剣をグッと握り締めるエレン。
王国最強を相手に自分がどこまで出来るか――いや、何が出来るのかを必死に模索する。
だがそんなものの答えは出ない。
彼女はその答えを持ちわせていないのだから。
今まで生きてきたように、エレンはただ自分が出来る事をやるしかない。
「成程。やはりまだ“自分の力”に気付いていないわね」
ローゼンの言葉の真意が分からなかったエレンは首を傾げて一瞬眉を顰めた。
「フフフ。これは何十年ぶりかに面白そう」
不敵な笑みを浮かべたローゼン。
それと同時、彼女の体は徐々にマナ使い特有のあの青白いオーラを纏っていく。
(王国一と謳われるローゼン総帥……。僕は当然彼女を見るのは今が初めて。でも、王国の民なら誰もが知る彼女の情報がそのままなのだとしたら……)
マナを練るローゼンを見ながらエレンがそんな事を思っていると、次の瞬間、ローゼン総帥の体がフワリと宙に浮いた。
更に彼女はどこからとなく“杖”を出現させると、そのまま聞いた事の無い言語で“詠唱”をし始める。
そう。
ローゼン総帥は一握りの者しか扱えないマナ使いの中でも更に希少な“魔導師”――。
その力は言わずもがな絶大であった。
「これが魔法……」
目の前で聞き慣れない詠唱をしているローゼンを見ながら、エレンは静かに言葉を漏らす。呆気に取られているエレンは動く気配がない。
鳴り響いていたローゼンの詠唱が突如止むと、刹那エレンとローゼンの間の地面に淡く光る大きな“魔法陣”が出現した。
そして、魔法陣が更に強い光を放った瞬間、エレンの前に数体の大きなモンスターが姿を現したのだった。
「!?」
「フフフ。さあ、貴方の力を見せてくれるかしら」
ローゼンがそう言いながら手にしていた杖を振ると、出現したモンスター達が一斉にエレンに向かって飛び掛かった。
「ちょッ、いきなり……!」
突撃してきたモンスターを何とか躱したエレン。
彼女は焦りながらも体勢を立て直す。
(1、2、3、4、5……。全部で5体。ギリギリ反応出来たけど、これじゃあ躱すだけで一苦労だ)
苦悶の表情とは対照的な笑みを浮かべるローゼン総帥。
エレンはそんなローゼンの笑みを見て急に腹が立ってきた。
(くそう、絶対に負けないぞ……! 僕も受かるんだ!)
ここに来るまでに遭遇した魔物の経験と、いい意味で開き直ったエレンは傭兵に自ら志願してから初めて自分の意志で足を前に踏み出した。
エレンは小柄な体を活かした素早い動きで1番近くにいたモンスターとの距離を詰めた。そして彼女は覚悟を決めた瞳でモンスターをグッと睨むと、何時かの難民街で襲って来た男達の時と同様、躊躇なく手にしていた短剣をモンスター目掛けて振るった。
シュバン。
『グァ……!』
「よし、先ずは1体」
見事エレンの攻撃がモンスターに命中すると、ダメージを受けたローゼン総帥のモンスターは霧のように消滅していってしまった。
「へぇ。初めて動いてる所見たな」
アッシュが皮肉交じりに呟く。
残るモンスターは4体。
確かな手応えを感じていたエレンは逃げる事ではなく、この戦いに勝つための手段を必死に考える。
(大丈夫……いける……!)
自分に言い聞かせるように頷きを見せたエレン。
彼女は剣を持っている手とは逆の手でもう1本の短剣を引き抜くと、幼少の頃から両親にも褒められていた唯一の得意技である投擲を繰り出した。
――ヒュン。ザシュ。
『ギギャ!?』
「ほう。これが噂の……」
エレンから放たれた短剣は1体のモンスターの胸に的中。
勢いよく短剣が突き刺さり、食らったモンスターはさっきのモンスターと同じように消滅していった。
「残り3体……」
エレンは唯一の武器である投擲、そして祖父から教えてもらった護身術など自分が出来る事を最大限に活かして立ち回る。
カラァン。
モンスターの消滅によって突き刺さっていた短剣が床に落ち、その落下音とほぼ同時のタイミングでエレンは既に次の投擲の体勢に入っていた。
「あれは……」
短剣を振りかぶる彼女の傍らで、エドが少し驚いたような声を出す。
「やっぱり気のせいじゃなかったか」
驚くエドの一方で、アッシュは納得の表情を浮かべていた。
(当たれぇぇ!)
振りかぶっていた腕を勢いよく降ろして短剣を投げたエレン。
いつからだろうか……。
よく見ると、投擲を放つ彼女の体からはマナのような光が溢れ、それと同時にエメラルドグリーンのエレンの瞳が淡い“輝き”を発していた――。
ザシュン。
『ッ……!』
「よし! あと2体」
今まで逃げてばかりだった彼女が嘘のよう。
流れる動きで瞬く間に3体のモンスターを倒したエレンはその動きを止める事なく走る。床に転がった短剣を拾い上げた彼女は、再び得意の投擲のモーションに入るのだった。
「……」
自分のモンスターが一気に3体も倒されたローゼン総数であったが、焦る様子は微塵も伺えない。寧ろエレンの事を確認するかの如くじっと彼女の事を見ている。
――ヒュン。ザシュ。
『グガッ……!』
4体目のモンスターを撃破。これで残るは1体。
『グオオオ!』
投擲し終えたエレン目掛けて、最後のモンスターが彼女に飛び掛かった。
投擲によって剣を持っていないエレンは素早いバックステップでモンスターの攻撃を上手く躱すと、そのまま短剣を拾おうと走り出す。
――ぐらん……。
(踏ん張れ、残りはあの1体だッ……!)
走り出したエレンは一瞬バランスを崩したような動きを見せたが、すぐに立て直して短剣を拾った。
そして。
「ハァ……ハァ……!」
呼吸が荒くなるエレン。
全身を襲う疲労感に座り込んでしまいたくなったエレンであったが、彼女は重い腕に力を込めて投擲を放った。
『グァッ!』
見事に命中したエレンの攻撃。
急所を刺されたモンスターは静かに消滅していった――。
この日3度目となる仕合開始の声が響く。
「貴方、投擲の名手なんですって? マナ使いでもないのに凄い才能ね」
「そんな……。ローゼン総帥に褒めてもらう程大層なものではありません」
剣をグッと握り締めるエレン。
王国最強を相手に自分がどこまで出来るか――いや、何が出来るのかを必死に模索する。
だがそんなものの答えは出ない。
彼女はその答えを持ちわせていないのだから。
今まで生きてきたように、エレンはただ自分が出来る事をやるしかない。
「成程。やはりまだ“自分の力”に気付いていないわね」
ローゼンの言葉の真意が分からなかったエレンは首を傾げて一瞬眉を顰めた。
「フフフ。これは何十年ぶりかに面白そう」
不敵な笑みを浮かべたローゼン。
それと同時、彼女の体は徐々にマナ使い特有のあの青白いオーラを纏っていく。
(王国一と謳われるローゼン総帥……。僕は当然彼女を見るのは今が初めて。でも、王国の民なら誰もが知る彼女の情報がそのままなのだとしたら……)
マナを練るローゼンを見ながらエレンがそんな事を思っていると、次の瞬間、ローゼン総帥の体がフワリと宙に浮いた。
更に彼女はどこからとなく“杖”を出現させると、そのまま聞いた事の無い言語で“詠唱”をし始める。
そう。
ローゼン総帥は一握りの者しか扱えないマナ使いの中でも更に希少な“魔導師”――。
その力は言わずもがな絶大であった。
「これが魔法……」
目の前で聞き慣れない詠唱をしているローゼンを見ながら、エレンは静かに言葉を漏らす。呆気に取られているエレンは動く気配がない。
鳴り響いていたローゼンの詠唱が突如止むと、刹那エレンとローゼンの間の地面に淡く光る大きな“魔法陣”が出現した。
そして、魔法陣が更に強い光を放った瞬間、エレンの前に数体の大きなモンスターが姿を現したのだった。
「!?」
「フフフ。さあ、貴方の力を見せてくれるかしら」
ローゼンがそう言いながら手にしていた杖を振ると、出現したモンスター達が一斉にエレンに向かって飛び掛かった。
「ちょッ、いきなり……!」
突撃してきたモンスターを何とか躱したエレン。
彼女は焦りながらも体勢を立て直す。
(1、2、3、4、5……。全部で5体。ギリギリ反応出来たけど、これじゃあ躱すだけで一苦労だ)
苦悶の表情とは対照的な笑みを浮かべるローゼン総帥。
エレンはそんなローゼンの笑みを見て急に腹が立ってきた。
(くそう、絶対に負けないぞ……! 僕も受かるんだ!)
ここに来るまでに遭遇した魔物の経験と、いい意味で開き直ったエレンは傭兵に自ら志願してから初めて自分の意志で足を前に踏み出した。
エレンは小柄な体を活かした素早い動きで1番近くにいたモンスターとの距離を詰めた。そして彼女は覚悟を決めた瞳でモンスターをグッと睨むと、何時かの難民街で襲って来た男達の時と同様、躊躇なく手にしていた短剣をモンスター目掛けて振るった。
シュバン。
『グァ……!』
「よし、先ずは1体」
見事エレンの攻撃がモンスターに命中すると、ダメージを受けたローゼン総帥のモンスターは霧のように消滅していってしまった。
「へぇ。初めて動いてる所見たな」
アッシュが皮肉交じりに呟く。
残るモンスターは4体。
確かな手応えを感じていたエレンは逃げる事ではなく、この戦いに勝つための手段を必死に考える。
(大丈夫……いける……!)
自分に言い聞かせるように頷きを見せたエレン。
彼女は剣を持っている手とは逆の手でもう1本の短剣を引き抜くと、幼少の頃から両親にも褒められていた唯一の得意技である投擲を繰り出した。
――ヒュン。ザシュ。
『ギギャ!?』
「ほう。これが噂の……」
エレンから放たれた短剣は1体のモンスターの胸に的中。
勢いよく短剣が突き刺さり、食らったモンスターはさっきのモンスターと同じように消滅していった。
「残り3体……」
エレンは唯一の武器である投擲、そして祖父から教えてもらった護身術など自分が出来る事を最大限に活かして立ち回る。
カラァン。
モンスターの消滅によって突き刺さっていた短剣が床に落ち、その落下音とほぼ同時のタイミングでエレンは既に次の投擲の体勢に入っていた。
「あれは……」
短剣を振りかぶる彼女の傍らで、エドが少し驚いたような声を出す。
「やっぱり気のせいじゃなかったか」
驚くエドの一方で、アッシュは納得の表情を浮かべていた。
(当たれぇぇ!)
振りかぶっていた腕を勢いよく降ろして短剣を投げたエレン。
いつからだろうか……。
よく見ると、投擲を放つ彼女の体からはマナのような光が溢れ、それと同時にエメラルドグリーンのエレンの瞳が淡い“輝き”を発していた――。
ザシュン。
『ッ……!』
「よし! あと2体」
今まで逃げてばかりだった彼女が嘘のよう。
流れる動きで瞬く間に3体のモンスターを倒したエレンはその動きを止める事なく走る。床に転がった短剣を拾い上げた彼女は、再び得意の投擲のモーションに入るのだった。
「……」
自分のモンスターが一気に3体も倒されたローゼン総数であったが、焦る様子は微塵も伺えない。寧ろエレンの事を確認するかの如くじっと彼女の事を見ている。
――ヒュン。ザシュ。
『グガッ……!』
4体目のモンスターを撃破。これで残るは1体。
『グオオオ!』
投擲し終えたエレン目掛けて、最後のモンスターが彼女に飛び掛かった。
投擲によって剣を持っていないエレンは素早いバックステップでモンスターの攻撃を上手く躱すと、そのまま短剣を拾おうと走り出す。
――ぐらん……。
(踏ん張れ、残りはあの1体だッ……!)
走り出したエレンは一瞬バランスを崩したような動きを見せたが、すぐに立て直して短剣を拾った。
そして。
「ハァ……ハァ……!」
呼吸が荒くなるエレン。
全身を襲う疲労感に座り込んでしまいたくなったエレンであったが、彼女は重い腕に力を込めて投擲を放った。
『グァッ!』
見事に命中したエレンの攻撃。
急所を刺されたモンスターは静かに消滅していった――。