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「1番手は貴方ですね。私は外見で人を判断する訳じゃありませんが、失礼ですが随分お年を召しているように伺えますね」
「ハハハ。貴方の見る目は正しい。どうぞお手柔らかに」
「それでは始め――!」

 エドとジャック団長が互いに言葉を交わすと、仕合開始の掛け声が部屋に響き渡った。

「私は何時でも大丈夫ですよ。どこからでも来て下さい」
「団長というのは優しい人ですな。では――」
「……ッ!?」

 次の瞬間、いつもの温厚な表情から一瞬で鋭い眼光に変化したエドは目にも留まらぬ速さでジャック団長の背後に回った。そして、いつ引き抜いたかも分からない剣を振りかぶり、ジャック団長目掛けて横一閃に剣を振るう。

 ――ガキィンッ!
「ぐッ!?」
「ほう、流石は団長様。反応してきましたね」

 エドの鋭い一振りに対し、ジャック団長は間一髪のところで剣で身を守っていた、上手くエドの攻撃を防いだジャック団長はエドを振り払う。

(なんて速さだ……! しかもあの老体で攻撃が重い)

 ジャック団長は決してエドを見下していた訳ではない。しかし、ほんの僅かな気の緩みが彼の動きを鈍らせた。今の攻撃で集中し直したジャック団長は顔つきが変わった。

「今からが本番という事で宜しいですかな?」
「食えぬお方ですね。貴方は」

 静かに一呼吸吐いたジャック団長。

 彼は次は自分だと言わんばかりに動き出すと、剣を構えてエドに素早い突きを放った。

 ヒュン、ヒュン、ヒュン。

「うむ。悪くない」
「くッ……! やはり速いか」

 ジャック団長の連続攻撃で剣が右へ左へと数度振るわれたが、エドはまるでその太刀筋を観察するかの如くいとも簡単に躱した。

 レッドウルフとの戦いでその実力は十分理解していたが、仕合を見ていたエレンは改めてエドの強さを垣間見る。

「次は私がいかせてもらましょう」

 後退しながら攻撃を躱していたエドは再び前傾姿勢となって一気に前へ出ると、足、心臓、喉、頭……と、的確に人体の急所を狙った攻撃が次々に繰り出された。

「うぐッ! (なんて人だ……! 躊躇なく急所ばかり狙ってくる。1発でも食らったらまずいッ……!)」
「中々良い動きですな、ジャック団長」

 顔を歪めているジャック団長とは真逆に、エドはずっと涼しいそうな顔をしている。

 ガキィン、ガキィン、ガキィン。

 全ての攻撃を見切って躱していたエド。
 何とか反応して防御をする事で手一杯のジャック団長。

 その実力差は戦闘経験がほぼ皆無なエレンでも分かる程に一目瞭然であった。

 そして。

「動きは悪くなかった。だがもう少し鍛錬が必要ですな、ジャック団長」
「ハァ……ハァ……参りました。私の負けですね……」
「そこまで――!」

 団員の掛け声が響き、仕合が終わった。

 両者の最後の攻撃。

 ジャック団長が渾身の一振りを放とうと剣を振り上げた刹那、完璧なタイミングで間合いを詰めて懐に入ったエドがそのまま剣の切っ先をジャック団長の首元に突き付け仕合終了。

 激しい攻防の末、勝者はエドとなった。

「ハハハハ。流石、自ら名乗り出て来ただけはありますね。私もジャック団長同様、其方という人を外見で判断してしまっていました」
「いえいえ。ご老体には変わりありませぬ。歳は取りたくないものですな」
「どこまでも頼もしい御方ですね、エドワード・グリンジ。合格です」

 レイモンド国王が優しい笑顔を浮かべながらそう告げると、エドもいつもの温厚な笑顔を見せながら国王に一礼する。

 その場から下がったエドはそのままエレンとアッシュの元へと戻って行った。

「凄かったですよエドさん! おめでとうございます!」
「当然の結果だ。こんな事でいちいちはしゃぐなお前は」
「ハハハ。ありがとうございます。歳を重ねても、誰かに認めてもらうというのは嬉しいですね」

 3人が言葉を交わし終えると、再びジャック団長がエレン達に向かって次にテストを受ける者を促した。

 残るはエレンとアッシュ。

「もしかしてあの団長1人で俺達を相手にする気か? 随分と舐めた真似してくれるじゃねぇか」
「いや、ジャック団長が個人的な判断で動いている訳じゃないと思うけど」
「なら次は俺が行くぜ。戦闘不能にすればお前も助かるだろ」

 アッシュが言うとどこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からないとな思うエレン。

(まぁ最後なら最後の方が得だよね。まだ何にも倒す策も思いついていないし、アッシュがいい感じに弱らせてくれれば僕にだって僅かなチャンスがあるかもしれない)

 アッシュの言った事がどちらにせよ、本当にジャック団長が3人を相手にするのならエレンにとってはまたとないチャンスである。

 ジャック団長は確かに強い。
 でも今のエドとの仕合で少なからず体力は消耗し、今からのアッシュとの連戦で今より消耗する事は間違いないだろう。

 エレンは自分が生き残る為の僅かな兆しに期待するしかなかった。

「なぁ、アンタ1人で俺らの相手するのか?」
「そうですよ。推薦状の実力テストは団長クラスが相手をすると決まっていますが、生憎今日は他の団長が出払っていて私1人しかいないのです。流石の私も1人で3人を相手にするとは思いませんでしたよ」
「……へぇ。そうか」

 アッシュとジャック団長が話していると、仕合開始の掛け声が響いた。

「初めッ――!?」

 そしてこの仕合開始の掛け声が響いたと同時、アッシュは既に“そこ”にいるのだった。

「大変そうだから直ぐに“休ませやるよ”――」

 ――ズガンッ!
「がはッ!?」

 電光石火の一撃。

 一瞬で間合いを詰めたアッシュは思い切り剣を振り抜くと、ジャック団長の丈夫な甲冑を砕く強烈な一刀を決め込んだ。

「ちょっと力込め過ぎたか」

 甲冑の上からでも凄まじい威力だったのか、攻撃を食らったジャック団長は砕かれた胸を押さえながら悶絶の表情で膝から崩れ落ちた。

「おい、終わったぞ」
「あ……そ、そこまでッ――!」

 仕合終了の掛け声が響き、勝利したアッシュは静かに剣を鞘に納めるのだった。

「素晴らしい実力ですね。想像以上で驚きましたよ、アッシュ・フォーカー。合格です――」
「ありがとうございます」

 レイモンド国王に一礼したアッシュは何食わぬ顔でエレン達の元へと戻るのだった。