「お、おは、お初にお目に掛かれて……たい、大変ご光栄に、思いますです!(……思いますですって何だよ! しかも噛み噛みじゃないか)」
初めて見る国王を前に、エレンはとんでもない緊張に襲われていた。
「そうかしこまるでない、エレンよ。ブリンガー伯爵の推薦状によると、其方は騎士に珍しい投擲の“名手”であるらしいな」
「は、はい! (って嘘付くな僕! 投擲の名手なんて肩書き初耳だよ……!)」
勢いで返事してしまったのを後悔したがもう遅い。
レイモンド国王は納得したように頭を頷かせた。
「我が王国は今優秀な騎士団員を募っている。推薦状を与えられたという事はそれ相応の実力があるという事。エレンよ、其方は王国の為に騎士団員として使命を務め抜く決意があるか?」
レイモンド国王の問いに一瞬躊躇うエレン。
しかし。
「はい。勿論です」
エレンは真っ直ぐ首を縦に動かした。
ここにきて僅かにビビッてしまったのは確か。
でも彼女はもう引かない。もう逃げない。
自分の弱さを受けれ、更に前に進むぞとエレン決意を固めていた。
「成程。其方の決意は確かに伝わった」
「ありがとうございます」
「そうと決まれば早速実力を見せてもらおうか――」
「へ……?」
予想外の展開に予想外の気の抜けた声が出てしまった。
エレンは「そんなの聞いていない」と言いたげな不安な表情を浮かべながら横にいるアッシュ達に目配せをする。
だがそんなエレンの気持ちなど知る由もなく、レイモンド国王は淡々と話を進めていくのであった。
「なぁに、簡単な実力テストみたいなものだから大丈夫さ。推薦状を貰っている時点で強さは認められている。最後にその実力を私に見せてくれるだけで良い。個人的に投擲の名手の実力も気になるのでね」
(だからそんな肩書き1度も名乗った事ありませんって!)
エレンが心の中でレイモンド国王にツッコミを入れたとほぼ同時、突如彼女の横から予想だにしない声が響いた。
「レイモンド国王。その実力テスト、私――“アッシュ・フォーカー”も受けさせていただきたいです」
(は!? また急に何を言い出すかと思えば、どういう事? “騎士団”の君が何で入団試験なんか受けるんだよッ)
心の中で連続でツッコミを入れるエレン。
突如口を開いたかと思ったアッシュは真っ直ぐレイモンド国王を見てそう言い放ったのだ。
「それはつまり、君も騎士団への入団を希望しているという解釈でいいのかな」
「はい」
「もし可能であるならば……いえ、その実力テスト是非私も受けさせていただきたく思います。レイモンド国王」
(えぇ!? エドさんまで!?)
訳の分からないエレンはただ呆然と2人を交互に見つめる。
「成程。隣の其方もですか」
「はい。申し遅れました、私の名は“エドワード・グリンジ”と申します。私も王国の為に騎士団入団を希望いたします」
これには流石のレイモンド国王も予想外だったのか一瞬困った表情を浮かべたが、瞬時の決断力はやはり国王たる片鱗を垣間見せる。
「見たところ推薦状は持っていないようですが、まぁいいでしょう。今は騎士団の戦力を少しでも高めておきたいので優秀な者は受けれます。
ただし、当然それ相応の実力は見せてもらわなければいけない。
アッシュ・フォーカー、エドワード・グリンジ。
其方達は自らを推薦するという形で、今回は特別に許可しましょう。どうやら昨日今日の思いつきではない目をしていますからね。期待していますよ」
レイモンド国王の計らいによりアッシュとエドも実力テストを受ける事に。
相変わらず意味不明なこの展開に思考回路が止まりかけたエレンであったが、そんな彼女を他所にレイモンド国王はどんどん実力テストの準備を進める。
実力テストの内容は実戦形式の“仕合”。
シンプルに仕合相手となる騎士団員を倒せば合格らしい。
「レイモンド国王、準備は整いました。私はいつでも大丈夫です」
リューティス王国の紋章が施された甲冑を身に纏う1人の騎士団員。
(わぁ……強そう。勝てる気がしないぞ)
エレン達の前に現れた騎士団員は甲冑の上からでも分かる程に屈強な肉体をしていた。それも見た目だけではない。他の団員が何気なく頭を下げながら会話をしていた事から、彼が騎士団員の中でも上の位の者であるとエレンは察した。
「赤い紋章か。アイツは“団長クラス”だな」
「え! 団長って色で分かれてるんだ」
「お前そんな事も知らねぇのか。呆れるぜ本当に」
騎士団員の位が色分けされているという事を初めて知ったエレン。
関心した彼女は「本当だ」と呟きながら、他の団員達の紋章の色を確認した。
「私は第12師団の団長、ジャックだ。今から君達の仕合相手となる。遠慮せずに本気で倒しに来てくれ。先ずは誰からだ?」
「では、私からやらせていただこうか」
ジャック団長の声が響き、特に順番は決めていなかった3人だがエドが最初に名乗り出た。そしてエドはエレンの耳元で小さく呟いた。
「よく見ていて下さいね、エレンさん」
「え、はい。勿論!」
エレンはそう返事をした。
だが、彼女は“意図”を分かっていなかった。
「馬鹿。そういう事じゃねぇ。エドが先に奴と戦うからその内に策を練れって事だ。不安が顔に出てるからな、お前」
「嘘ッ、顔に!? しかも今のはそういう意味だったのか。(エドさん、僕の為にわざわざ……)」
「何でもいいから考えろ。お前クソ弱いんだから」
アッシュとエレンがそんな会話をしていると、部屋の中央でエドとジャック団長の仕合が始まった――。
初めて見る国王を前に、エレンはとんでもない緊張に襲われていた。
「そうかしこまるでない、エレンよ。ブリンガー伯爵の推薦状によると、其方は騎士に珍しい投擲の“名手”であるらしいな」
「は、はい! (って嘘付くな僕! 投擲の名手なんて肩書き初耳だよ……!)」
勢いで返事してしまったのを後悔したがもう遅い。
レイモンド国王は納得したように頭を頷かせた。
「我が王国は今優秀な騎士団員を募っている。推薦状を与えられたという事はそれ相応の実力があるという事。エレンよ、其方は王国の為に騎士団員として使命を務め抜く決意があるか?」
レイモンド国王の問いに一瞬躊躇うエレン。
しかし。
「はい。勿論です」
エレンは真っ直ぐ首を縦に動かした。
ここにきて僅かにビビッてしまったのは確か。
でも彼女はもう引かない。もう逃げない。
自分の弱さを受けれ、更に前に進むぞとエレン決意を固めていた。
「成程。其方の決意は確かに伝わった」
「ありがとうございます」
「そうと決まれば早速実力を見せてもらおうか――」
「へ……?」
予想外の展開に予想外の気の抜けた声が出てしまった。
エレンは「そんなの聞いていない」と言いたげな不安な表情を浮かべながら横にいるアッシュ達に目配せをする。
だがそんなエレンの気持ちなど知る由もなく、レイモンド国王は淡々と話を進めていくのであった。
「なぁに、簡単な実力テストみたいなものだから大丈夫さ。推薦状を貰っている時点で強さは認められている。最後にその実力を私に見せてくれるだけで良い。個人的に投擲の名手の実力も気になるのでね」
(だからそんな肩書き1度も名乗った事ありませんって!)
エレンが心の中でレイモンド国王にツッコミを入れたとほぼ同時、突如彼女の横から予想だにしない声が響いた。
「レイモンド国王。その実力テスト、私――“アッシュ・フォーカー”も受けさせていただきたいです」
(は!? また急に何を言い出すかと思えば、どういう事? “騎士団”の君が何で入団試験なんか受けるんだよッ)
心の中で連続でツッコミを入れるエレン。
突如口を開いたかと思ったアッシュは真っ直ぐレイモンド国王を見てそう言い放ったのだ。
「それはつまり、君も騎士団への入団を希望しているという解釈でいいのかな」
「はい」
「もし可能であるならば……いえ、その実力テスト是非私も受けさせていただきたく思います。レイモンド国王」
(えぇ!? エドさんまで!?)
訳の分からないエレンはただ呆然と2人を交互に見つめる。
「成程。隣の其方もですか」
「はい。申し遅れました、私の名は“エドワード・グリンジ”と申します。私も王国の為に騎士団入団を希望いたします」
これには流石のレイモンド国王も予想外だったのか一瞬困った表情を浮かべたが、瞬時の決断力はやはり国王たる片鱗を垣間見せる。
「見たところ推薦状は持っていないようですが、まぁいいでしょう。今は騎士団の戦力を少しでも高めておきたいので優秀な者は受けれます。
ただし、当然それ相応の実力は見せてもらわなければいけない。
アッシュ・フォーカー、エドワード・グリンジ。
其方達は自らを推薦するという形で、今回は特別に許可しましょう。どうやら昨日今日の思いつきではない目をしていますからね。期待していますよ」
レイモンド国王の計らいによりアッシュとエドも実力テストを受ける事に。
相変わらず意味不明なこの展開に思考回路が止まりかけたエレンであったが、そんな彼女を他所にレイモンド国王はどんどん実力テストの準備を進める。
実力テストの内容は実戦形式の“仕合”。
シンプルに仕合相手となる騎士団員を倒せば合格らしい。
「レイモンド国王、準備は整いました。私はいつでも大丈夫です」
リューティス王国の紋章が施された甲冑を身に纏う1人の騎士団員。
(わぁ……強そう。勝てる気がしないぞ)
エレン達の前に現れた騎士団員は甲冑の上からでも分かる程に屈強な肉体をしていた。それも見た目だけではない。他の団員が何気なく頭を下げながら会話をしていた事から、彼が騎士団員の中でも上の位の者であるとエレンは察した。
「赤い紋章か。アイツは“団長クラス”だな」
「え! 団長って色で分かれてるんだ」
「お前そんな事も知らねぇのか。呆れるぜ本当に」
騎士団員の位が色分けされているという事を初めて知ったエレン。
関心した彼女は「本当だ」と呟きながら、他の団員達の紋章の色を確認した。
「私は第12師団の団長、ジャックだ。今から君達の仕合相手となる。遠慮せずに本気で倒しに来てくれ。先ずは誰からだ?」
「では、私からやらせていただこうか」
ジャック団長の声が響き、特に順番は決めていなかった3人だがエドが最初に名乗り出た。そしてエドはエレンの耳元で小さく呟いた。
「よく見ていて下さいね、エレンさん」
「え、はい。勿論!」
エレンはそう返事をした。
だが、彼女は“意図”を分かっていなかった。
「馬鹿。そういう事じゃねぇ。エドが先に奴と戦うからその内に策を練れって事だ。不安が顔に出てるからな、お前」
「嘘ッ、顔に!? しかも今のはそういう意味だったのか。(エドさん、僕の為にわざわざ……)」
「何でもいいから考えろ。お前クソ弱いんだから」
アッシュとエレンがそんな会話をしていると、部屋の中央でエドとジャック団長の仕合が始まった――。