さて、エリカの部屋にいくか。

俺は、同じ階にあるエリカの部屋へ向かう。

そしてドアをノックし、声をかける。

「エリカ、今大丈夫か？」

「あ、お兄ちゃん？うん、大丈夫だよー」

俺は、ドアを開ける。
そしてそこで目にしたのは、明らかに泣いた跡がある妹の顔だった。

「……エリカは、優しいな。エリカも親父と兄貴には、結構理不尽なことを言われてきたのに、泣けるんだもんな。俺なんか、嬉しくも悲しくもなくて困ってるところだ……」

「ううん。わたしなんて、お兄ちゃんに比べたらなんてことないよ。精々婚約者にって人が、少し年上だったり、少し太ってて、少し髪が薄くて、少し背が低いだけだったし」

「いや、それ大したことだろ！？なんなんだ？１２歳の娘に、オッサンでチビデブハゲって！舐めてんのか！」

「お兄ちゃん！人がせっかく、オブラートに包んだのに台無しだよ！まあ、お兄ちゃんの言う通りなんだけどね。貴族の娘として、家のための結婚は仕方ないと思うけど、さすがに３０歳くらい離れてるとね……。それでもここまで育ててくれたし、優しかったこともあったから、やっぱり悲しいよ」

俺は、深く息を吐いた。

「そうか……俺は物心ついた時には、もう嫌いだったからな。親父も兄貴も、爵位なんかに興味ないと言っても、全然信じないし」

「しょうがないよ。お父さんとバルス兄さんは、貴族であることが誇りだったんだから。お兄ちゃんみたいな変わり者は、少数派だよー」

「まあ……そうだろうな。でも、そんな俺が男爵を継ぐことになるとは……。人生はわからないものだな」

「そうだね……。でも、冒険者の方はどうするの？今までみたいには、出来ないでしょ？」

俺は自分のパーティである、白き風の連中のことを考える。

「まあ、そもそも貴族だって知らない奴もいるしな。俺も継ぐことはないから、自分のパーティを作ってしまったし」

エリカは、真剣な表情で言う。

「ちゃんと、考えなきゃダメだよ？人の人生を預かってるんだもん」

「ああ、わかってるよ。まあ、問題ないと思うがな。俺には頼りになる副団長が付いているからな」

「あ、噂のお兄ちゃんが頼りしてるっていう、山賊みたいな人？」

「はは！それ、本人に言うなよ？気にしてんだから」

「言わないよ！そんなデリカシーないこと！」

「そうだな、エリカは良い子だな」

「むー！なんか馬鹿にされてる気がする……」

「ふ、可愛い妹を馬鹿にするわけないだろう？ただ、可愛いなと思っただけだ。では名残惜しいが、冒険者の仲間のところに行ってくるよ」

「はいはい、貴方の可愛い妹ですよー。じゃあ、いってらっしゃい」

「ああ、じゃあ後でな」

俺は部屋を出て、歩き出す。




すると、声をかけられる。

「これは、ユウマ坊ちゃん。お久しぶりでございます。この度は急な知らせで、いまだに信じられない思いでございます。なんとお慰めしていいのか、言葉もございません。心より、お悔やみ申し上げます」

そこには我が家を取り仕切る、老執事のセバスがいた。
そして、今にも泣きそうな表情だ。

「いや、こちらこそ。セバスにとっては、仕える主人が亡くなったんだ。俺なんかより、よほど悲しいだろうに」

「そうですね……ランド様もバルス坊ちゃんも、お生まれになられた頃から、お仕えしていましたから……もちろん、ユウマ坊ちゃんにも同じ気持ちでお仕えしております」

「ああ、わかっている。セバスは親父と兄貴に嫌われる俺にも、分け隔てなく仕えてくれた。それどころか、俺がこの家に来ることを嫌がる親父と兄貴を宥めてくれたんだろ？おかげで俺は、母上とエリカに会うことができた。感謝している」

「勿体ないお言葉でございます。ただ、ランド様とバルス坊ちゃんも、ユウマ坊ちゃん自身が憎かった訳ではないことだけは、ご理解ください」

「ああ……俺の才能が憎かったのは、わかっている。まあ、故人に対して今更どうこうは言わないよ」

セバスは、安心した様子だ。

「そうですか、それなら良いのです。そういえば、どこかに行く途中でしたか？」

「ああ、冒険者の仲間達のところにな」

「なるほど、そうでしたか。では、邪魔をしたようで申し訳ございません」

「いや、俺もセバスと話せてよかったよ。おそらく、これからお世話になるからな」

「それは……お継ぎになるということですか？」

「ああ、そうなると思う。まあ、仕方ない。妹に婿なんて早すぎる！」

「……相変わらずでございますね。では、ここからはユウマ様と呼ばせていただきますね」

「ああ、それで頼む。さすがに坊ちゃんはな……。では、また後でな」

俺は家を出て、冒険者ギルドへ向かう。

さて、どう説明したものか？