前線で、本格的な戦が始まったようだ。

「シノブ、兵士を連れて行ってこい。いいか?無茶だけはするな。俺には、お前が必要だ」

「団長……はい!必ず、貴方の元に帰ってまいります!」

そう言ってシノブは、張り切って駆け出した。
おいおい、兵士置いてくなよ。
兵士達は、必死に追いかけていった。

「イージス、俺達は医療場に行くぞ」

「はい!ところで団長、オイラはどうしたら?」

「お前は運ばれてくる重傷患者を担いで、俺のところへ持ってきてくれ。普段の冒険者活動と、同じようにな」

「了解です!それなら、お役に立てそうです!」

俺達が医療場に着くと、部下の5人が待っていた。

そしてしばらく経つと、続々と患者がやってきた。

そして、すぐに戦場と化した。
怒号が飛びかう。
悲鳴がこだまする。

そして予定通り、俺には重傷患者が運ばれてくる。

俺は部下の人に暴れる患者を抑えてもらいながら、回復魔法を使い続けた。

そして何やら騒がしいと思い見ると、リーダーの1人である平民の女の子が30代くらいの男性と揉めていた。

俺はルイベ中佐を探したが、いなかったので自分で向かった。

「どうかしましたか?」

「あ、ユウマさん。この患者さんが、自分を先に治療しろって・・・」

「なんだ貴様は?俺は準子爵家の当主だぞ!あんな騎士爵より先に治せ!」

俺はとりあえず、女の子を現場に返した。

そしてその騎士爵を見て、次に目の前の男を見て言った。

「あんたの怪我は、大したことじゃない。だがあちらの男性は、すぐに治療しなきゃ命が危ない。理解できましたか?」

「貴様!俺に向かって、なんて口の利き方だ!あいつは俺の家臣だ!俺を庇って怪我しやがったが、そんなの家臣なら当然だ!いいから、俺を治せ!」

俺はその言葉に、ブチ切れた。

「はぁ?ふざけんなよ?家臣が庇ってくれたなら、尚更だろ。むしろお前が、騎士爵を先に治してくれと頼むべきだろ。それを……なんだお前は?感謝もせずに、わめき散らして。もういい、お前と話してたら時間が勿体無い。イージス、連れて行け。責任は俺が取る」

そしてイージスは、わめき散らしてるそいつを担いで医療場から離れた。

俺はすぐに現場に戻り、治療を再開した。

なんか、みんなにキラキラした目で見られた……なんだ?

時間が経ち、数が増え、重傷患者が間に合わないと思った俺は、大きな声で言った。

「皆さん!重傷患者を、一箇所にまとめてください!とりあえず応急処置するので、時間に余裕ができるはずです!」

そうゆうと、イージスが率先して手伝ってくれ、周りの人も手伝ってくれた。

俺は半径2メートルの円を描き、そこに誘導した。

俺は皆に礼をし、エリアヒールを唱えた。

魔力をごっそり持っていかれたが、その甲斐もあり重傷患者の傷がみるみるふさがっていく。

皆が俺を見て、固まっていた。

そして、患者のだれかが言った。聖女だ、女神だとか。

はぁ!?と思ったが、とりあえず無視。
多分、また女に間違われたのだろう。

「はい!皆さん!傷はふさがりましたが、あくまでも一時的な処置です。あとは、よろしくお願いします!」

するとそれぞれ返事をし、患者を引き取っていく。

その後、前線は膠着状態に入ったらしく、患者の数が減ってきた。

そしてある程度治療を終え、あとは回復魔法が使えない人でも大丈夫だなという状態になった。

すると、ルイベ中佐がこちらに来て話しかけてきた。

「やあ、お疲れ様。ユウマ殿がいてくれて、本当に助かったよ。あと、すまないね。何かあったみたいなんだけど不在で」

「こちらこそ、お疲れ様です。いや、気にしなくでください。中佐殿も、大変だったでしょうから」

「はは、まあね……。中将が、早く治して前線に回せって。目に見える傷は癒えても、血は足りてないから無理ですと言っても理解してもらえなくて」

「あーご苦労様です。医療の知識がない人を相手にするの疲れますよね」

「ちなみに、君と口論した人は君の名を聞いてブルブルしながら引き下がったよ。どうやら、シグルド殿にボコボコにされたことがあるらしい」

「ああ、叔父上が嫌いなタイプですね……。まあ、もちろん俺も嫌いですけど」

「部下達が、感心していたよ。責任を取るなんて言ってくれる貴族がまだいたなんてって」

「はは、お恥ずかしい。でも、責任を取るのが上の者の役目だと思うので」

「……そうか。私も見習わなくてはいけないな」

すると、悲鳴が聞こえた。

「どうした?何があった!?」

「ルイベ中佐!とりあえず、行ってみましょう!イージス!ついてこい!」

「はい、団長!」

そして3人で悲鳴の方へ行くと、人々がオーク数体とオーガに襲われていた。

何故?どこから?と思ったが、後回しにしてイージスに言う。

「イージス!オーガを抑えろ!」

イージスは迷わず「はい、団長!」と言い、オーガと対峙した。

「中佐!俺とイージスで、オーガを抑えます!残りのオークを、他の皆で抑えてください」

「わ、わかった!すまないが任せる!皆!聞こえたか!?怪我人や戦えない人は下がって!戦えるものは、私の指揮に従ってくれ!」

そして10人ほどが集まり、オークと戦うのを確認し、すぐにイージスの元へ向かった。

そこには、死が溢れていた。
すでに、何人も犠牲者がでていた。

「イージス!無理はするな!2人でやるぞ!」

「はい!団長!気をつけてください!」

俺は冷や汗をかきながら、オーガと対峙した。

なぜなら、オーガは三級クラスの魔物だからだ。

その3メートル近い大きさ。
剣も槍もほとんど通さぬ、頑強な身体。
そして、その身体から繰り出される破壊力。

正直2人だとキツいが仕方がないと思い、切り替えた。

オーガは、腕に持つ棍棒を打ち下ろす。

イージスは、それを盾で受け止める。

俺はその隙に、オーガを剣で斬っていく。

オーガが、俺を狙い打ち下ろす。

俺は神経をすり減らしながら、それを避けてカウンターを決める。

その隙に、イージスが背中を槍で刺す。

ひたすら、それを繰り返した。

俺の腕をもってしても、傷をつけるのがやっとだった。

イージスの盾はもうベコベコに凹んでいて、壊れるのは時間の問題だった。

俺は仕方がないと思い、奥の手を使うことにした。

「イージス!奥の手を使う!少しの間耐えてくれ!」

「団長!?でもそれは身体に負担が……。いや、わかりました!」

俺は剣に左手を添え、集中した。

俺が今やろうとしているのはまだ完成していないが、魔法剣という俺のオリジナルだ。

剣に魔力を通し、斬撃そのものを飛ばしたり、斬れ味が抜群に良くなったりする。

ただ恐ろしく魔力を消費するので、滅多に使えるものではない。

すでに、回復魔法で消費しているので尚更キツい。

「よし!イージス!一瞬でいい!隙を作ってくれ!」

「はい!わかりました!」

そして俺は、オーガに近づきながら待った。

すると、イージスが槍をオーガに投げる。

オーガは一瞬驚いた様子だが、それを棍棒を持っていない手で払いのける。

イージスは、その隙をついてオーガに迫る。

なんと、盾ごとオーガに体当たりをした。

流石のオークも、重鎧をきた大男の全力の体当たりをくらい、ふらつき膝をつく。

俺は今だ!と思い、駆け出す。

そして一瞬で距離を詰め、オーガの首目掛け、剣を下から斜めに振り抜いた。

オーガの首が飛び、血が溢れ、そして身体が倒れた。

俺は目眩がして、フラフラした。

するとこちらに、あぶれたオークが迫ってきていた。

俺は剣を構えようとするが、力が入らなく不味いと思った瞬間、風が吹いた。

そして次の瞬間、オークの首が飛び絶命した。

「団長!大丈夫ですか!?生きてますよね!?死んだら承知しないですよ!」

「わかったから落ち着けシノブ。生きてるから。お前のおかげだ。ありがとう」

「ううー!良かったですよー!間に合って。でも、なんでこんなことに?」

「それはわからん。だがシノブ、それは後にしよう。まずは、すまんがオークを一掃してくれ」

「はい!シノブちゃんにお任せください!さあ、行きますよー」

そして言葉通り、残っていたオークをシノブは一掃した。

そして、歓声が上がった。

「うおー!すげー!」「あんたらなにもんだ!?」「オーガを2人で倒すなんて!」

俺はその歓声を聞きながら、意識を失った。