俺達は王都の入り口に用意された馬に乗り、休憩を挟みながら移動していた。

さすがに全員分はないので、交代で乗っている。

そして休憩時間に、イージスから質問を受けた。

「団長、オイラはなにをすればいいんですか?」

「まあ、俺の護衛だな。敵がこないとは限らないしな」

「はい、了解です!」

「お前が来てくれて助かったよ。これで俺は、治療に専念できる」

「はい!団長の守りは任せてください!」

「団長、わたしにはなにもないんですかー?」

「はいはい、付いてきてくれてありがとな」

「うわー、全然気持ちがこもってない。もう!」

そんな会話をしていると、少し離れたところにいた兵士達がやってきた。

その中の古参の兵士が、恐る恐る話しかけてきた。

「あの~ユウマ様、お話中に失礼いたします。我々は、どうしたらよろしいですか?」

「そうだな……では、ここにいるシノブに従って戦場に出てくれ」

「え!?いつも、ユウマ様のそばにいる綺麗な方も戦場にでるんですか?」

俺は、唖然としてしまった。
こいつは、なにを言っているんだ?

「……どういう意味だ?」

「えっと、ユウマ様の恋人だと、我々は思っていたのですが……なので、今回いるのか謎だったのです。何か、聞いてはまずいことでしたか?」

「え?恋人ですって!団長、聞きました?そう見えるんですねー。ふふふ」

俺は、そこでようやく気付いた。

普段あまり会話もしないし、うちに住んでるわけではない兵士からしたら、そうなるわな。

シノブは、いつも俺の隣にいるもんな……俺にとっては、最早当たり前のことだからな。

「あーすまん。これは、俺が悪かった。こいつはこう見えて、冒険者ランク3級のアサシンだ。実力は俺が保証する。一応、俺の専属護衛みたいなものだ」

すると、皆が騒ついた。

あんなに若いのに3級なのか、すげー可愛いのに、ユウマ様いいなーとか色々だ。

「こら!静かに!そうでしたか。これは失礼しました。ではシノブ殿、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくです。ふふー、ご機嫌が良いので頑張っちゃいますよー」

「はぁ……まあ、そういう訳だ。ほかに何かあれば、なんでも聞いてくれ。正当な理由があれば不満でも、苦情でもな」

そういうと、皆驚いた様子。

「団長、なんか皆さん驚いて固まってますよー?」

「ああ、恐らく親父と兄貴の所為だろ。あいつら、すぐ怒るからな。不満とか言ったら、どうなるか。というか、俺が悪かった。当主になってから忙しかったからな。シノブを側に置くときに、きちんと説明をすべきだった。これからは疑問があればなんでも聞いてくれ。答えられるものなら答えるから」

「これは……わかりました。皆にも、そのように伝えます。では、失礼します」

そうして、兵士達は離れていった。

「これは、中々重症ですねー」

「ああ……いかに親父と兄貴が、理不尽な振る舞いをしてたかってことだな。こればっかりは、俺が少しずつ信頼してもらえるよう努力するしかあるまい」

「まあ、団長なら大丈夫ですよー。ね、イージスさん?」

「はい!団長は素晴らしい人です!」

「というか、イージス。喋って良いんだからな?いくら口数少ないほうとはいえ、黙りすぎじゃないか?」

「いや……オイラ難しい話とかわからないし、話も早くてついていけないし。でも別に、団長をお守りできれば、それだけで幸せです」

「お、イージスさん。気が合いますねー。わたしも、団長の側にいれば幸せですもん!2人で、団長を支えましょうね」

「はい、シノブさん。オイラも、シノブさんいれば心強いです」

俺は、そんな2人の会話を聞きながら思う。
馬鹿野郎……そんなお前らが側に居てくれる、俺こそが幸せ者だと。





2日後、俺たちは予定通りに、アクナライナ平原の野営地に到着した。

幸い、小競り合いほどで本格的な戦はまだだった。

まず俺は、この戦いの指揮官で伯爵でもあるザガン中将に、イージスを連れ挨拶に行った。

「ザガン中将!本日、国王陛下の命により、中尉として着任したユウマ-ミストルと申します!よろしく、お願いいたします!」

「ふん!貴様が、ミストル家の新しい当主か。いいか、よく聞け!偶々、ウィンドルの怪しい動きに気づいただけで調子にのるなよ?お前は、後方の方で大人しく回復でもしておれ」

「はっ!肝に銘じます!では、失礼いたします!」

俺はそう言って頭を下げ、その場から去った。

「団長、なんか嫌われてるみたいなんですけど……」

「まあな。典型的な、貴族の態度だな。下の者が功を立てるのが、気に食わんのだろう。シノブを連れてこなくて正解だった。絶対に、文句言われてたよ」

「はは、そうですね。シノブさんは、文句いってましたけど」

そうして俺らは、後方の方へ下がっていった。

そして兵士達が、テントを張り終えていた。

俺はそれにご苦労様と言い、中に入る。

「団長、どうでした?噂通り、嫌なやつでした?」

「まあ、典型的な貴族って感じだ。最近会う貴族は、まともな方が多かったから忘れてたけど、本来ならあれが普通なんだよな」

「そうですよねー。まあ、しょうがないですよ!わたし達は、できることをやるだけです」

「シノブ……そうだな。お前の言う通りだ。では戦に備え、しっかりと休んでおこう」

「ええ、そうしてください。不寝番は、わたしにまかせてください」

「いつもすまないな。ありがとう」

「えへへ、いいんです。団長の寝顔見てるの好きなんで」

そうして俺は食事をとり、移動で疲れた身体を癒やすため眠りについた。







幸い朝まで襲撃はなく、ぐっすり寝て移動の疲れが取れた。

テントを出ると、シノブとイージスがいる。

「団長!おはようございます!」「団長、おはよー」

「ああ、2人ともおはよう。見張りありがとな」

そして俺達3人が朝食を食べて、休憩をしていると続々と人がやってきた。

どうやら、俺達は早く着いたほうらしい。

そしてしばらく経つと、こちらに30代後半くらいの、平凡な男性が近寄ってきた。

「すみません。貴方は、ユウマ中尉で間違いないでしょうか?」

「あ、はい。私がユウマ中尉です。何かご用ですか?」

「ええ、まずは自己紹介を。私はルイベ中佐です。後方支援部隊が集まったので、一度話し合おうと。なので、一緒に来てくれますか?」

俺は頭を下げる。

「これは中佐殿でしたか。わざわざ、ご足労ありがとうございます。では、行きましょう」

ルイベ中佐は、驚いた様子。

「え、ええ行きましょう」

そして、イージスとシノブを置いて歩き出した。

雑談をしていると、ルイベ中佐が突然言った。

「ところで、私の爵位は聞かないのですか?」

「え?なんでですか?戦場に爵位は関係ないでしょう」

すると、ルイベ中佐はキョトンとしたあと、笑い出した。

「はは、いや失礼。散々悩んでいた、自分が馬鹿らしい。いや、私の爵位は準男爵でして。先程から貴方が下手に出るので、私の爵位を知らないからと思ったのですが……。いやはや、嬉しい誤算でした」

「すみません、ちょっと意味がわからないのですが……?」

「いえ、こちらこそすいません。実は、後方部隊で一番の爵位は準子爵に近い男爵の貴方でして。誰が呼びに行くか、一悶着あったもので」

「もしかして……同じような立場の人間が、以前何かご迷惑を?」

「いや、まあ、はい。 失礼ながら……」

「それは、同じ男爵として申し訳ない。どうせ、階級が中佐だがなんだが知らないが、準男爵が男爵に指図するなとか言ったんじゃないですか?」

「もしかして、見ていたのですか?」

「いや、見てないです。ただ、言いそうだなぁと」

「はは……でも、皆さんによく言われます。準男爵のくせに、中佐とは生意気だとか。お前の命令はきけんとか」

「はぁー。やっぱりいるんですね。どこにでもそういう人は」

「そうですね。でも、貴方がそうでない方で安心しました。情報が、剣聖シグルドの甥っ子の回復魔法使いとしかなかったので」

「ええ。回復魔法は得意ですから、バンバンこき使ってください」

「はは!気持ちの良い方だ。わかりました。遠慮なく、使わせて頂きます」

そうして俺達は、後方支援部隊が集まった医療場にやってきた。

だいたい、100人くらいであろうか?

そしてリーダーが集まっているテントに入り、俺を軽く紹介し、問題ない人物であることを伝えた。

明らかに、皆安心した様子。
おいおい、普段どんな扱い受けてんだ?

「では、全員集まったところで話し合いを始める。まず、この度後方支援部隊の責任者になったルイベ中佐だ。よろしく頼む」

そして20人いるリーダーが、自己紹介をしていく。

ここにいる20人だけが、程度の差があるが回復魔法を使えるということがわかった。

中には爵位をわざわざ名乗る奴もいたが、まあ問題なく進んだ。

そして、俺の番がきた。

「私の名前は、ユウマです。階級は中尉。回復魔法は、上級まで使えます。よろしくお願いします」

すると、周りが騒つく。

「上級までだって?」 「あんな若いのに?」 「貴族なのに名乗らない?」

「はいはい、静かに!ではそれぞれに、部下として5~6人つくので皆で協力して治療にあたろう!」

まあ、20人で1500人を見なきゃだからなぁ。
いかに、回復魔法使いがすくないか。

そうして担当の部下に挨拶をし、お互いに何ができるから確認して、一度解散ということになった。

そしてテントに戻り、しばらく経つとその知らせは来た。

いよいよ、本格的な開戦である。