俺は、母上とエリカが居る部屋に入る。

そこには、不安な表情をした2人がいた。
まあ、無理もないか……。

「ユウマ……」 「お兄ちゃん……」

「母上、エリカ。俺は当主として、戦争にいかなくてはなりません。家のことを、よろしくお願いします」

「ええ、わかっています。それが、貴族当主の務めですから。ただ、ユウマ……元使い手として言いますが、回復魔法は万能ではありません。貴方の優しい心を母はとても誇りに思い、嬉しく思います。でも決して無理をして、回復魔法を使わないでくださいね。無理をすれば、命に関わりますから」

「はい、肝に命じます。でも、大丈夫ですよ。今、魔力がどんどん上がってきてますから。それに、俺1人ではありませんから。ただ、決して無理はしないと約束します」

母上は、安心した様子。

エリカの方を向くと、今にも泣き出しそうな顔をしている。

「お兄ちゃんは、ちゃんと帰ってくるよね?」

「ああ、もちろんだ。俺が、エリカとの約束を守らなかったことがあるか?」

エリカは、首をブンブンと横に振った。

「なら心配ないだろ?大丈夫。今回は、後方支援らしいしな」

「でも……」

「エリカ、お前には笑って送り出してほしいんだ。そうすれば、俺はシスコンパワーで元気百倍!必ず、帰ってくるだろう」

「ふふ、お兄ちゃんってば」

「そう、それでいい。お前には、笑顔がよく似合う」

「わかった!お兄ちゃん、気をつけていってきてね!」

多少無理はしているが、エリカは笑顔で言う。

「ああ。では母上、エリカ行ってきます」

そうして、俺は部屋から去った。

さて、次はと考えていると、叔父上がやって来た。

「よう、ユウマ。気負ってはなさそうだな」

「ええ、不思議とそうですね」

「今回は後方支援だが、戦場では何が起こるかわからん。最悪、人間を切ることになるが大丈夫か?」

「ええ。大丈夫とはいえませんが、割り切ります。戦争ですから。それに、盗賊退治も何回か経験あるので」

叔父上は、なにやら神妙な表情だ。

「そうか。ならいい。そうだな……もうガキじゃなかったな」

「どうしたんです?珍しい」

「はは!確かにそうだ。いや、すまん。昨日な……お前がまだ小さく、可愛かったころの夢をみてな。柄にもなく、センチな気分になったらしい」

「勘弁してくださいよ。逆に、不安になるじゃないですか」

「悪い悪い。まあ、お前の腕なら油断さえしなきゃ大丈夫だろ。俺は戦場に出たとこで役に立たんから、王都で待機だ。大物の魔物がでたら、頼むと言われたがな」

「そうですね、叔父上は最強の剛剣使い手ですから。本気で剣を振るったら、味方ごとバッサリ斬ってしまいますもんね。かといって1人で敵の中突っ込んだら、さすがの叔父上もどうにもなりませんし」

「そういうことだ。俺は一対一なら誰にも負けない自信はあるが、集団戦に弱いからな。お前みたいな柔剣の使い手なら、戦場でも活躍できるがな」

「まあ、俺は基本回避盾タイプですから。回復役が、傷を負うわけにはいきませんし。叔父上は相手の攻撃を受け止めて、跳ね返すタイプですもんね」

「ああ。そもそも、弱い奴と戦ってもつまんねえしな」

「はは!叔父上らしいですね。では、他にも行かなくてならないところがあるので、行ってきますね」

「おう、呼び止めてすまんかったな。じゃあ、気をつけてな」

俺はそのまま家を出て、冒険者ギルドへ向かった。

冒険者ギルドに入ると、人で溢れかえっていた。

そして、聞いたことのある声がしたので振り向いた。

「おお、ユウマ殿。久しぶりだな」

「おお、ゼノスか。久しぶり。ごめんな。忙しくて、結局訪ねてないんだよな」

「いやいや、気にすんな。そういや、ウィンドルが攻めてきたとか。ユウマ殿も出陣するのか?」

「まあ、そうなるな」

「そうか。ユウマ殿の腕なら、心配ないが気をつけてな」

「ああ、ありがとな」

「そういや仲間を探しているんだろう?さっき見たな。こっちだ」

俺達は人混みを掻き分け、アロイスを発見した。

「お、いたな。ではユウマ殿、また無事に会おうぜ」

「ああ、ありがとな。助かったわ」

そうして、ゼノスはギルドから出て行った。

俺がアロイス達に近づくと、あっちが気がついたようだ。

「団長!こっちですぜ!」

「アロイス、会議室はおさえたか?」

「へい、会議室はおさえていやす」

「よし、よくやった。じゃあ、とりあえず行こう」

会議室に入ると、アテナとホムラがいた。

とりあえず挨拶をして、席に座る。

「ふう、凄い人の数だったな」

「へい……やはり、いつもと時期が違うんで皆浮き足立ってますぜ」

「まあ、そうだろうな。さて、知っての通り戦争になった。俺は当主として出陣しなくてはならない」

全員が、不安そうな顔をした。

「おいおい、大丈夫だ。俺はどうやら、後方支援らしいからな」

「まあ……ワタクシは、何も心配などしていませんが」

「はっ、よく言うぜ。さっきまでアタシにどうしよう、ユウマが帰って来なかったらどうしようとか、言ってたのは誰だい」

「な、な、なんで言っちゃうのですか!?アテナのバカ!あう~」

「はは、ホムラ。心配してくれて、ありがとな」

ホムラは、耳まで真っ赤になって俯いた。

「で、団長俺らはどうすれば?」

「そうだな……まず俺に何かあればアロイス、後のことは頼んだぞ」

「団長!?」

「落ち着け。万が一の話だ」

「ふぅー、わかりやした。任してくだせえ」

視線を感じて見てみると、ホムラが真剣な眼差しで俺を見つめていた。

「ユウマ、ワタクシも4級になりましたわ。これで、一流の冒険者に近づきましたわ」

「おお!そうか!こんな時だが、おめでとう。良かったな」

「ええ、ありがとう。それで……ユウマが帰ってきたら話したいことがありまして、聞いてくれるかしら」

「ああ、もちろん。だが……戦争前に死亡フラグみたいだな」

「え、え、ワタクシそんなつもりじゃ。ご、ごめんなさい!」

「おいおい。素の状態と、気を張った状態が混じって変になってるぞ?まあ……俺は、どっちのホムラも好きだからいいけどな」

「あ、え、好き?ユウマが?今好きって」

「おいアテナ、こいつほんとどうした?なんか悪い物でも食ったか?」

普段なら、これくらいの軽口は流すんだけどな。

「はは!まあ、気にすんな。女心は、複雑なのさ」

「はぁ、まあいいや。じゃあ、そういう訳でよろしく頼む。では俺は家に戻り、出陣する。また生きて会おう!」

「団長!お気をつけて!」「油断すんじゃないよ!」「ユウマ!待ってますから!」

俺は3人にエールを貰い、ギルドを去った。

俺が家に戻ると、玄関で皆が待っていた。

「セバス、準備ありがとう。後のことを頼む」

「はい、お気をつけていってらっしゃいませ」

俺は母上、エリカ、叔父上、クリス、セバスの顔をそれぞれ見る。

「では、行ってくる!皆の者出陣!」

そうして俺は、王都を発った。