「ユウマ、よく聞きなさい。夫ランドと長兄バルスは、ウィンドルとの戦争により、亡くなりました」

俺を急に実家に呼んだ母上は、開口一番にそう告げた。

「親父と兄貴が……?そうですか……死因はなんですか?」

「敗走に見せかけた罠にかかったようです。そして、魔法による奇襲にあったと」

「そうですか……正直なんとも思わないですけどね。親父と兄貴には、散々な目に遭わされましたから」

自分でも驚くほどに、俺は悲しくもなんともなかった。

「ええ、わかっています。貴方が私やエリカのために、ずっと我慢をしていたことは」

母上は、複雑そうな表情だ。

「そうですね。親父はすぐ殴るし、怒鳴るし。口を開けば、お前には継がせん!だし。こんな良い奥さんがいるのに、浮気するし。兄貴も口を開けば、爵位は譲らん!お前は所詮スペアだ!お前がいくら優秀でも次男だからな!と、物心ついた時には言われていましたから」

昔の嫌な記憶を思い出しながら、俺は母上に言った。
正直、親父と兄貴には憎しみを通り越して、無関心に近いからな。
そうしなければ、精神の均衡を保つことが出来なかったからだ。


「ええ……あの人もあんな人ではなかったのですけどね……。あの人は、剣一本で生きてきた人でした。しかし、準男爵から男爵に上がったことで、仕事内容が変わりました。慣れない政治の駆け引きや、軍の内部闘争により、少しずつ変わっていってしまったのでしょう……。バルスも、貴方の方が明らかに優秀だったので、不安だったのでしょう。そんなつもりはなかったけれど、私と同じ回復魔法の才能を持つ貴方を、特別可愛がっているように見えていたかもしれません」

母上は目に涙を浮かべ、そう呟いた。
俺は、反省した。
俺にとってはどうでも良い相手だが、母上にとっては夫と息子だ。

「母上、ごめん。言い過ぎた。俺が、悪かった」

「いいのよ……貴方にとっては、良い父、良い兄ではなかったものね」

母上はそう言い、涙を拭いた。
そして、真剣な表情で告げる。

「ユウマ、貴方にはミストル男爵家を継いでもらいます」

「まあ、そうなりますよね。結局兄貴は、結婚もしてないですし」

正直、今更感が半端ないな。
何故なら、俺は既に冒険者として、生計を立てているからだ。
さらに、自分のパーティを抱えている。

「ええ。貴方には申し訳ないですが、我が家には貴方とエリカしか残っていませんから。エリカもまだ12歳なので、婿を迎えるのも早いですし」

その言葉を聞き、俺は一瞬で決断した。

「やります!男爵継ぎます!エリカには結婚なんて早すぎる!というか、嫁になんてやりません!」

「……ユウマは、本当にエリカが好きね。まあ、純粋な兄妹愛だからいいけれど。あまり構い過ぎて、嫌われないようにね?」

「はい!気を付けて可愛がります!」

母上は、ため息をつく。
何故だ?げせぬ。

「まあ、いいわ。幸い、今回の戦争は罠にかかったものの、負け戦ではありません。あと司令部でも読めなかったそうなので、懲罰金もありません。さらに、遺族補償金もでるので、貴方の男爵継承の費用に使いましょう」

「継承費用ですか?何をすれば?」

俺は継ぐつもりは毛頭なかったので、その辺の勉強は疎かにしていた。

「そうね……まずは家庭教師に来てもらい、貴族制度や軍制度、、マナーなどを学んでいきましょう」

俺は、気持ちを切り替える。

「わかりました。やるからには、母上やエリカに恥をかかせないよう、頑張ります」

「ありがとう。大丈夫、ユウマなら立派にやれると思うわ」

母上はそう言い、微笑んだ。

「さあ、これで話はおしまいです。諸々の準備は私がやりますので、ユウマはエリカに顔を見せてきなさい。あの子も、複雑でしょうから……」

「わかりました。では、失礼します」

俺はドアを開け、部屋を出る。
ドアが閉まり、俺は歩きだそうとする。
すると、部屋の中からすすり泣く声が、聞こえる。

それは、そうだ。
一度は愛した男と、お腹を痛めて産んだ息子が亡くなったのだから。
気丈に振る舞っていたが、限界だったのだろう。
俺は母上を、これ以上悲しませてはいけないと心に誓った。