お父さんとバルス兄さんが亡くなり、戦争でなくなった人たちの集団葬儀をすませ、もう約三か月が過ぎようとしていた。

わたしは幼少部を卒業し、4月から新しく中等部へ入学していた。

そして13歳になり、もう季節は夏。暑い時期がやってきた。

わたしは、あれから色々とチャレンジをしていた。

ユウマお兄ちゃんに、どんなにきつくても三か月は必ず続けなさいと言われた。

一概には言えないけど、だいたい三か月やれば向いているか向いていないかがわかるらしい。

そして結果が出なくても、その行為自体が無駄ではないと教えてくれた。

ユウマお兄ちゃんも、色々失敗したけど無駄ではなかったと。

そしてわたしは今、その三か月を過ぎようとしていた。

まず勉強。
これはわりとすぐに効果が出て、学校の成績が普通から上位に上がった。

次に武術。
意外にも、わたしは剣の才能があったらしく、剣の腕が上がった。

でも学校の武術教官に言わせると、剣聖シグルドとソードマスターのユウマお兄ちゃんの血筋なら当たり前だろと言われた。

言われてみれば、確かにそうだなと思った。
今までは、剣も触ったことなかったから気がつかなかった。

次に魔法。
これはわかってはいたけど、才能はほとんどなかった。

それでもユウマお兄ちゃんにお教わりながら、なんとか初歩の初歩であるヒールを使えるようになった。

もちろんヒールといっても、お兄ちゃんみたいなどんな重傷者でも治すようなものではなく、精々傷を治したり出血を一時的に止めることができるくらいだ。

今のところは、そんな感じ。
次は、これを継続しようかどうかで悩んでいた。
なにか、別のことをしてみようかなとも考えてみた。

あとユウマお兄ちゃんに、3つ以上手を出すと全部が中途半端に終わってしまうので、気をつけなさいと言われたことを思い出していた。

そんなある日のこと、それは起こった。

わたしがそんな三か月を過ごしていた時、夢中で気にもとめなかったのだけど、今この中等部の二年生に第3王子がいるらしい。

というのも、わたし自身自分のことで忙しかったし、友達もいないどころか若干疎遠されているので気がつかなかったようだ。

何故友達がいないかと言うと、お父さんが無理にいい学校に行かせたので、ほとんどが上位貴族の方々だからだ。

そしてしがない男爵令嬢のわたしは、場違いだと白い目で見られている。

そんなわたしは、皆に変な目で見られながら、男の子ばっかりの訓練場で日課にしている素振りをしていた。

集中していたわたしは、声をかけられたことに気づかずに素振りを続けていた。

そしたら、突然肩を掴まれた。

「おい!カロン様がお前みたいな下級貴族に声をおかけしてやってるのに、無視するとは何事だ!?」

振り返ると、上級生の制服を着た男の子がいた。

「ふえっ?あ、すみません。集中していたので、気がつきませんでした」

わたしは軽く頭を下げた。

「よさないか!未婚の女性の肩を、許可なく触るんじゃない。ごめんね。こいつも悪気があったわけじゃないので、許してやってくれ」

「いえ、わたしも気がつかなかったのが悪いので大丈夫です。こちらこそごめんなさい」

わたしはそこで顔を上げその人を見た。

そこには身長は160くらい、整った顔立ち、髪は肩まであるサラサラの金髪、眼は吸い込まれそうな青、体型は細身の男の子が立っていた。

わたしは、思わず見惚れてしまった。

こんなに綺麗な男の子がいるのかと。

女の子と言われても、何も違和感がない。

そして、ユウマお兄ちゃんになんとなく似ているなと思った。

わたしはユウマお兄ちゃんを異性として見てはいないけど、ユウマお兄ちゃんみたいな人がタイプなのでキュンときてしまった。

ユウマお兄ちゃんも自分では普通って言ってるけど、女性に間違えられるくらい綺麗な顔だもん。

まあ、本人はシグルド叔父さんみたいな、男っぽい身体や顔に憧れてるからしょうがないけど。

わたしがそんなこと考えてぼーっとしていたからか、その人が大丈夫?と声をかけてくれた。

「あ、いえ大丈夫です。ちょっと驚いただけです。ところで、わたしに何かご用ですか?」

「ああ、急にごめんね。最近になって、訓練場で誰とも話さず一心不乱に素振りをする女の子がいるって聞いたので、気になって見にきたんだ。まさか、こんな可愛らしい女の子とは思わなかったけど」

「あはは、やっぱり変ですよね。でもやってみたら、楽しくなってきちゃって」

「おい!さっきから黙ってきいていたが、お前誰に向かって口をきいてるんだ?この方は、我が国の第3王子であられるカロン様だぞ!」

「カロン様?あ、ごめんなさい。わたし、貴族の方々のお名前まだあまり知らなくて……」

すると、皆がポカーンとしてしまった。

「ははは!これはこれは……大変失礼しました。いや、そんな反応されたの初めてだよ。そうだね、こちらこそ名乗りが遅くなり申し訳ない」

その綺麗な男の子は、その青い目でわたしを見つめてくる。

「私の名はカロン-デュランダル。一応この王国の第3王子です。よろしくね」

今度は、わたしがポカーンとしてしまった。

「え!?王子様なの!?あ、え、その、ごめんなさい!」

「いやいや、気にしないで。むしろ、新鮮で楽しかったよ。やはり知らず知らずのうちに、王子だなんだと持て囃され調子に乗っていたようです。これは、気をつけなくてはいけないね」

「なにを言ってるんですか!カロン王子を知らないとか、どうなってるんだお前は!?」

「いや我が国の民でも、私の名を知らない人はたくさんいるでしょう。私も、またまだ精進が必要ですね。それとアキト、私のためとはいえ初対面の女性に失礼ですよ?」

「あ、いや、でも……すいません」

「頭を上げてください!わたしは、気にしてないですから。こちらこそ、失礼な口を聞いて申し訳ございません」

「じゃあ、お互い様ということでいいかな。ところで、名前を伺ってもよろしいですか?」

「あ、ごめんなさい。申し遅れましたが、わたしの名前はエリカ-ミストル。この王国の男爵ユウマ-ミストルの妹です」

わたしがそう言うと、とまたもや周りの皆がポカーンとしてしまった。

すると我に返ったアキトという男の子が、代表でわたしに聞いてきた。

「ということは……お前は剣聖シグルド様と、バーサクヒーラのソードマスターで有名なユウマ殿の身内ということか!?」

「はい、シグルドは叔父にあたります。ユウマは、兄にあたります」

「ふむ……そういえば父上が、前回の戦争でシグルド殿の生家であるミストル家の当主と長兄が戦死したと言っておられたな」

「はい。わたしの父と、もう1人の兄になります」

「いや、これは失礼した。悲しいことを思い出させて申し訳ない」

わたしは優しく、きちんと謝れることに好感を持った。

「いえ、気にしないでください。もう大丈夫ですから」

「ありがとう。いや、実はシグルド殿とは小さい頃から会う機会があって、よく遊んでもらったのだよ」

「え!?そうなんですか!?あ、でもユウマお兄ちゃんが、乾いた表情でこの前言ってました。なんか叔父さんと、この国の国王様が友達らしいよ。そりゃないよーって」

「ははは!そうであろうな。いや、私もよくは知らないが隠しておく事情があったらしい」

「あーそれはわたしはわかりますが……」

「いや、詮索はしない。いやしかし、そうか。それで、女性にしては鋭い素振りだったのか。納得だな」

「まだ始めたばかりなんですけど、ありがとうございます。ところで隣の方固まってますけど、どうかしたんですか?」

「いや、こいつはな……シグルド殿とユウマ殿の大ファンだから、身内である君と会って驚いてるんだろう。おーい、アキトー帰ってこーい」

「はっ!失礼しました、カロン様。こやつが、シグルド様とユウマ殿の身内だと幻聴が聞こえたので」

「むー、わたし嘘ついてないよ!ほら!家紋だってあるし」

「なに!?どれどれ……確かにミストル家のものだ。だが、我々と同い年くらいの女の子がいるとはしらなかったぞ?」

「それは……色々事情があって、それはあまり知られないようにお願いをしてたから。どうしたって、色眼鏡で見られちゃうし」

「なに!?なんと贅沢な!私だったら、みんなに自慢して歩き回るぞ!」

「こらアキト、女性に詮索をしちゃいけないよ?それに、私には彼女の気持ちはよくわかるしね。私も王子ということで、色々あるからね」

「カロン様……私は何があっても貴方の側にいます!」

「ありがとう。いつもアキトには助かってるよ。そうだ、えーとエリカさんと呼んでもいいかな」

「はい!大丈夫です」

すると、カロン様は満面の笑みを浮かべる。

「よかった。じゃあエリカさん、良ければ私とアキトと友達になってくれないかな?」

「ふえ?わたしがですか!?それは畏れ多いというか……」

わたしがそう言うと、カロン様は寂しげな表情になる。

「ダメかな?私達も、取り巻きはいても友達はあまりいなくてね」

わたしはその表情を見てたら、心臓の鼓動が速くなってきた。
うーん、これなんだろ?ドキドキする……。

「はい、わかりました。ではよろしくお願いします。カロン様、アキト君」

「うん、よろしくね。ほら、アキトも」「ふん、よろしくしてやるよ」

そうして場所を移動して、3人で楽しくお喋りをして家に帰った。

わたしは自分の部屋で、今日のことを思い出していた。

すごいドキドキしたなぁ。
やっぱり高貴な人達だからかなぁ。
でも、アキト君にはドキドキしなかったような?
うーん、なんだろ?

わたしは悶々とし、眠れそうにないのでお母さんのところへ行った。

「お母様、今大丈夫ですか?」

「あらエリカ、こんな時間にどうしたの?入ってらっしゃい」

わたしはお邪魔しますと言い、中に入りベットに腰をかけた。

「あのねーお母様、なんかその人のことを見てたり考えたりすると、胸がドキドキするんだけどこれなんだろ?」

お母さんは興奮気味に言う。

「まあ!あらあら!そうですか。エリカがついに……。エリカ、それは恐らく恋をしたのでしょう。その方と一緒いて楽しいですか?ドキドキしますか?」

「え!?恋!?そうなの?これが?だって胸が痛いよ?」

「そういうものです。で、どんな方なの?」

「そ、それは内緒!もう寝るからおやすみ!」

「あらあら、そうですか。仕方ないわね。おやすみなさいエリカ」

わたしは、自分の部屋のベットにうずくまった。

「恋?でも王子様だよ?無理だよ?どうしようー」

どうやら、男爵令嬢であるわたしは、この国の王子様に恋をしたらしい。