次の日の朝起きると、シノブがいつもと変わらない黒装束の姿で立っていた。
「おい、シノブ。ちゃんと寝ているんだろうな?いくらヴァンパイアの血を引くからといって、無理はするなよ?」
こいつの種族は、眠りをあまり必要とはしない。
それに立ったまま、眠ることもできる。
「はい、大丈夫ですよー。団長の寝顔堪能したら、ちゃんと寝てますからー」
「……それはそれで、どうかと思うのだが?」
「まあ、いいじゃないですか!ほら、ご飯行きましょう!」
「はいはい、朝から元気なことで」
「あ、私午前中出かけてきますねー」
「ん?俺が授業を受けてる間か。まあ、退屈だろうしな。了解だ」
その後、朝食を食べたら、シノブは出かけていった。
そして俺は今、授業を受けている。
初老を迎えているモーリスという男性が、講師だ。
「まずは、我が国について説明しましょう。デュラン王国は500年前、初代国王である剣聖デュランダル様が建てた国でございます」
「我が国は、国王を頂点とした王政です。上から、国王、公爵、侯爵、伯爵、子爵、準子爵、男爵、準男爵、騎士爵となります。ちなみに、騎士爵以外には継承権があります。ではユウマ様、何故子爵と男爵は2段階に分かれているのでしょうか?」
「それは、伯爵以上の方々は数が決まっているからです。公爵は2つ、侯爵は6つ、伯爵は12までとなっています。しかし、それ以下の下級貴族には限度はありますが、基本的に数に制限はありません。なので、子爵に近い男爵と、準男爵に近い男爵とでは、収入も規模も差が大きいからです」
「はい、その通りです。王族の血を引く二大公爵、六大侯爵、12個ある都市の領主である12の伯爵。そしてその下で働いたり、王都の警備や防衛を担うのが、下級貴族でございます」
「では、軍内部の階級に移ります。貴族当主は、軍に入る義務が生じます。階級は上から、大将が3人、中将が6人、少将が12人とここまでは人数がきまっています。そこから大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉、曹長、軍曹、一等兵、二等兵、三等兵となっています。では何故、大将から少将まで数が決まっているのでしょうか?」
「大将から少将までの方が、戦争において指揮権を持っているからです」
「ええ、その通りです。戦争が起きれば、その規模により国王様が任命します。そして、ユウマ様は軍学校を卒業していますので、尉官の少尉からスタートとなります」
「なるほど、よく分かりました」
その後は、1年が360日であるとか、1ヶ月は30日だとか、1週間は7日だとか、1日は24時間などの基本的なことを教わり、授業は終わった。
「では、今日はこの辺にしときましょう」
「はい、本日はありがとうございました」
俺が昼食後に執務室に入ると、シノブがソファーで寝息を立てている。
こいつが、こんなに無防備なのは珍しいな……。
相変わらず、可愛い顔してんな……。
いかんいかん、仕事しよ。
俺が1時間ほど仕事をしていると、シノブが目を覚ました。
「あれ?団長だー。どうしてここに?」
「こ・こ・は・お・れ・の・へ・や・だ!」
「えへへー、わかっていますよー」
すると、ノックの音がした。
「お兄ちゃん?今いいかな?」
「お、エリカか。ああ、入っていいぞ」
「お邪魔しまーす」
エリカは、シノブと並んでソファーに座る。
「エリカちゃんも、お菓子食べます?」
いつのまにか、シノブはお菓子を食べていた。
いや、お菓子食べます?じゃないから。
それ、うちのお菓子だから。
「わーい!いただきます!……おいしー」
「ですよねー」
仲良く、キャッキャしてるなぁ。
これが、眼福というやつか。
おっと、いかんいかん。
「で、どうしたんだ?」
「あのね、相談があって……」
「ん?私席はずしますか?」
「あ、シノブさんなら大丈夫です。あのね、お父さんとバルス兄さんがいなくなったでしょ?それで、わたしはこれからどうしたらいいのかなって思って……」
俺は、エリカの言葉をじっと待つ。
「お父さんは、わたしを爵位の高い人と結婚させようとしてたでしょ?お母さんとお兄ちゃんは、それでよくお父さんと喧嘩してたよね……。だけどわたしは、わたしの所為で家族が喧嘩するのは嫌で……でも知らないおじさんと結婚するのも嫌で、どうしていいかわからなかったの。でも、最近は諦めてたの。だってじゃないと……お兄ちゃんが、わたしのために何をするかわからなかったから……」
「エリカ……」
「まあ、団長ならやりかねないですねー」
「あ、でも違うの!それ自体は嬉しくて……でも、わたしが嫌だったの。大好きなお兄ちゃんの負担になることが……」
「馬鹿言うな。俺がエリカを負担に感じることなんか、あるわけがない」
「えへへ、お兄ちゃんならそう言うと思った。でも、結婚もなくなったでしょ?そしたら、これから何をしたらいいかわからなくなってきて……」
「ふむ……エリカは、これまで流されて生きてきた。だが、それはエリカの所為ではない。全ては、俺を含めた家族の所為だ。エリカが家族の仲をどうにかしようして、自分の希望や願いを押し殺し、いつも頑張っていたのを俺は知っている。だから俺も、ギリギリのところで我慢が出来ていた。エリカがもしいなければ……母上には申し訳ないが、とっくに縁を切っていただろう」
「……お兄ちゃん……わたしも、お兄ちゃんがいたから頑張れたよぉ……グスッ」
「おいおい、泣くなよ。あーつまりだ……俺が言いたいのは、好きに生きろということだ。親父に、女には必要ないと言われた勉強に励むのもよし。剣術に励むもよし。適性はないが、回復魔法を覚えるのもよし。ただ一つ言えることは、これからは全部自己責任ということだ。自分で決め、自分で行う」
エリカは顔を伏せ、考えているようだ。
「自分で決めて、自分で行う。自己責任……」
「そうだ。そして俺は、エリカが決めたことを全力で応援する。ただ、それだけだ」
「……うん、なんとなくわかったかも。お兄ちゃん!ありがとう!」
「ふ、可愛い妹のためだ。なんてことはない。いつでも相談に来なさい」
「ありがとう!じゃあ、またね。お仕事中にごめんね」
「ああ、気にするな。お前の方が、優先だ」
エリカは部屋を出て行った。
どうやら、少しは力になれたようだ。
兄として、面目躍如といったところか。
「団長、かっこよかったですよー」
「よせやい、照れるわ」
「ふふ。話には聞いていましたが、良い子ですね。人の気持ちを考えられて」
「だろ?自慢の妹だ」
「出た、シスコン発言!」
「ほっとけ!」
さて、重荷がなくなったエリカは、どんな素敵な女性に成長するかね?
「おい、シノブ。ちゃんと寝ているんだろうな?いくらヴァンパイアの血を引くからといって、無理はするなよ?」
こいつの種族は、眠りをあまり必要とはしない。
それに立ったまま、眠ることもできる。
「はい、大丈夫ですよー。団長の寝顔堪能したら、ちゃんと寝てますからー」
「……それはそれで、どうかと思うのだが?」
「まあ、いいじゃないですか!ほら、ご飯行きましょう!」
「はいはい、朝から元気なことで」
「あ、私午前中出かけてきますねー」
「ん?俺が授業を受けてる間か。まあ、退屈だろうしな。了解だ」
その後、朝食を食べたら、シノブは出かけていった。
そして俺は今、授業を受けている。
初老を迎えているモーリスという男性が、講師だ。
「まずは、我が国について説明しましょう。デュラン王国は500年前、初代国王である剣聖デュランダル様が建てた国でございます」
「我が国は、国王を頂点とした王政です。上から、国王、公爵、侯爵、伯爵、子爵、準子爵、男爵、準男爵、騎士爵となります。ちなみに、騎士爵以外には継承権があります。ではユウマ様、何故子爵と男爵は2段階に分かれているのでしょうか?」
「それは、伯爵以上の方々は数が決まっているからです。公爵は2つ、侯爵は6つ、伯爵は12までとなっています。しかし、それ以下の下級貴族には限度はありますが、基本的に数に制限はありません。なので、子爵に近い男爵と、準男爵に近い男爵とでは、収入も規模も差が大きいからです」
「はい、その通りです。王族の血を引く二大公爵、六大侯爵、12個ある都市の領主である12の伯爵。そしてその下で働いたり、王都の警備や防衛を担うのが、下級貴族でございます」
「では、軍内部の階級に移ります。貴族当主は、軍に入る義務が生じます。階級は上から、大将が3人、中将が6人、少将が12人とここまでは人数がきまっています。そこから大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉、曹長、軍曹、一等兵、二等兵、三等兵となっています。では何故、大将から少将まで数が決まっているのでしょうか?」
「大将から少将までの方が、戦争において指揮権を持っているからです」
「ええ、その通りです。戦争が起きれば、その規模により国王様が任命します。そして、ユウマ様は軍学校を卒業していますので、尉官の少尉からスタートとなります」
「なるほど、よく分かりました」
その後は、1年が360日であるとか、1ヶ月は30日だとか、1週間は7日だとか、1日は24時間などの基本的なことを教わり、授業は終わった。
「では、今日はこの辺にしときましょう」
「はい、本日はありがとうございました」
俺が昼食後に執務室に入ると、シノブがソファーで寝息を立てている。
こいつが、こんなに無防備なのは珍しいな……。
相変わらず、可愛い顔してんな……。
いかんいかん、仕事しよ。
俺が1時間ほど仕事をしていると、シノブが目を覚ました。
「あれ?団長だー。どうしてここに?」
「こ・こ・は・お・れ・の・へ・や・だ!」
「えへへー、わかっていますよー」
すると、ノックの音がした。
「お兄ちゃん?今いいかな?」
「お、エリカか。ああ、入っていいぞ」
「お邪魔しまーす」
エリカは、シノブと並んでソファーに座る。
「エリカちゃんも、お菓子食べます?」
いつのまにか、シノブはお菓子を食べていた。
いや、お菓子食べます?じゃないから。
それ、うちのお菓子だから。
「わーい!いただきます!……おいしー」
「ですよねー」
仲良く、キャッキャしてるなぁ。
これが、眼福というやつか。
おっと、いかんいかん。
「で、どうしたんだ?」
「あのね、相談があって……」
「ん?私席はずしますか?」
「あ、シノブさんなら大丈夫です。あのね、お父さんとバルス兄さんがいなくなったでしょ?それで、わたしはこれからどうしたらいいのかなって思って……」
俺は、エリカの言葉をじっと待つ。
「お父さんは、わたしを爵位の高い人と結婚させようとしてたでしょ?お母さんとお兄ちゃんは、それでよくお父さんと喧嘩してたよね……。だけどわたしは、わたしの所為で家族が喧嘩するのは嫌で……でも知らないおじさんと結婚するのも嫌で、どうしていいかわからなかったの。でも、最近は諦めてたの。だってじゃないと……お兄ちゃんが、わたしのために何をするかわからなかったから……」
「エリカ……」
「まあ、団長ならやりかねないですねー」
「あ、でも違うの!それ自体は嬉しくて……でも、わたしが嫌だったの。大好きなお兄ちゃんの負担になることが……」
「馬鹿言うな。俺がエリカを負担に感じることなんか、あるわけがない」
「えへへ、お兄ちゃんならそう言うと思った。でも、結婚もなくなったでしょ?そしたら、これから何をしたらいいかわからなくなってきて……」
「ふむ……エリカは、これまで流されて生きてきた。だが、それはエリカの所為ではない。全ては、俺を含めた家族の所為だ。エリカが家族の仲をどうにかしようして、自分の希望や願いを押し殺し、いつも頑張っていたのを俺は知っている。だから俺も、ギリギリのところで我慢が出来ていた。エリカがもしいなければ……母上には申し訳ないが、とっくに縁を切っていただろう」
「……お兄ちゃん……わたしも、お兄ちゃんがいたから頑張れたよぉ……グスッ」
「おいおい、泣くなよ。あーつまりだ……俺が言いたいのは、好きに生きろということだ。親父に、女には必要ないと言われた勉強に励むのもよし。剣術に励むもよし。適性はないが、回復魔法を覚えるのもよし。ただ一つ言えることは、これからは全部自己責任ということだ。自分で決め、自分で行う」
エリカは顔を伏せ、考えているようだ。
「自分で決めて、自分で行う。自己責任……」
「そうだ。そして俺は、エリカが決めたことを全力で応援する。ただ、それだけだ」
「……うん、なんとなくわかったかも。お兄ちゃん!ありがとう!」
「ふ、可愛い妹のためだ。なんてことはない。いつでも相談に来なさい」
「ありがとう!じゃあ、またね。お仕事中にごめんね」
「ああ、気にするな。お前の方が、優先だ」
エリカは部屋を出て行った。
どうやら、少しは力になれたようだ。
兄として、面目躍如といったところか。
「団長、かっこよかったですよー」
「よせやい、照れるわ」
「ふふ。話には聞いていましたが、良い子ですね。人の気持ちを考えられて」
「だろ?自慢の妹だ」
「出た、シスコン発言!」
「ほっとけ!」
さて、重荷がなくなったエリカは、どんな素敵な女性に成長するかね?