狐の面を被った少女と、裏葉色の羽織の少年?
えーと、30年ぐらい前かなぁ?
見たことがあるよ。
ここは小さい町だからねぇ、町の人はなんとなく覚えているけど、見慣れない2人組が現れて、しかも数週間滞在してたもんだから、今でも覚えているんだな。
その辺の木の下で、立ち話をしていたね。「妖」だとか「任務」だとか怪しげな単語が聞こえてきたから吃驚したよ。
その後、少年が
「木暗山というのはどちらの方向ですか?」
って聞いてきてな。
「この道を真っ直ぐ歩いて行った先だよ」
って教えたは教えたんだが、その当時、その山は行方知らずになる人が妙に多いから、あまり行かない方が良いって言ったんだ。
その忠告に一瞬目を見開いたものの、何事もなかったかのようににっこりと笑ってお礼を言ってきたから、少しばかり奇妙に感じたな。
それ以降、少年の姿は見てないなぁ。
少年の姿を見なくなって少し経った頃、狐の面を被った少女が道端で泣き叫んでたって話を耳にしたんだ。少年が行方知らずになっちまったのかもしれないってな。不憫に思ったが、その後すぐに少女の姿もぱったりと見なくなってな。
まるで元からいなかったみたいに、ころっと居なくなったんだ。

あぁ、思い出した。
2人がいなくなって少しした頃かな。
狐の面を被った少女が、迷子になってた小さい女の子を助けたって話が広まってたんだ。確か、すごく大きな犬たちを連れた少女だったって。
犬の毛の色?
そこまで詳しくは分からないなぁ。
ただ、犬は3頭いて、怪我をしたんだろうな、3本足の奴と、それぞれすごく綺麗な赤目と青目を持った奴らがいたらしい。赤目の犬も青目の犬も聞いたことも見たこともないから、見間違いじゃないかってみんな言ってたけどな。
そうそう、その女の子、あの狐の面を被った少女によっぽど良くしてもらったらしいな、町に来た時には、
「わたしの命の恩人なの」
って、よく嬉しそうに話していたよ。

その女の子が、いまどこにいるか?
あの細い道の先に住んでたんだが、もう20年も前になるかな、どこかにお嫁に行ったそうだ。
その子の名前?

千歳(ちとせ)、だ。その時8歳だったみたいだ。