狐の面を被った少女と、裏葉色の羽織の少年?ああ、確か30年ぐらい前だろうかね、見たことがあるよ。
うちの茶店に2人で来て、お茶と団子を美味しそうに食べて行ったよ。
どうだい少年も、せっかくだから、うちの店で団子でも食っていかないかい?

あぁ、あの2人の話だったな。
どこに行くのか聞いたら、ここの隣町に用があるんだとさ。背中に武器が入ってるような細長い袋を背負っていたから、怪しまなかったと言ったら嘘になる。
でもうちの団子を美味しそうに食べて、嬉しそうに笑ってたから、なんか問いつめる気も起きなくてな。2人とも丁寧にお礼を言って、出発していったよ。
それから1ヶ月ぐらい経って、隣町を騒がせていた連続失踪事件がぴたりと収まったんだ。
俺には、あの2人が人攫いをやっつけたんだと思えてならなかったね。
なんでそう思ったか?そりゃあ、2人の笑った顔を見たからだよ。
あんな風に屈託なく笑う奴らが、人を傷付けて踏み付けて笑うようにはとてもとても思えなかった。それに、美味いものを美味そうに食べる奴に、悪い奴はいないと俺は思ってるからさ。
根拠がないって?そう言われたら言い返せないんだがな。
でも、俺も信じたいんだよ、あの2人はまるで守り神みたいに、みんなの日常を人知れず守る人たちだったんじゃないかって。
長いこと客商売やってるから、これでも人を見る目はある方だぜ。

団子、美味かったかい?
少年は、あの2人の足跡を追っかけてるのか。ちなみに、なんの仕事してた人たちなんだい?
ははぁ、妖を狩る人たち?
へぇ、本当にいるんだなぁ、妖なんて。
あ、居た、になるのかい?
もしそうならあの2人の守り神みたいな佇まいも納得だな。
もうあれから30年かぁ。
元気にしていると良いがな。
隣町で2人のこと、聞いてみたら良いさ。もしも元気に会うことができたら、よろしく伝えてくれ。それから、いつでもまた来てくれってな。
少年も、またいつでも来てくれ。
待っているぞ。