妖の討伐をする組織、ですか?
ええ、知っていますよ。知っている、というか、私もその組織の一員として働かせて頂いていましたから。とは言っても、私には彼らのような才能はなかったので、看護要員として、ですが。
大きな犬を連れた3人組?
嗚呼、オオカミを連れた3人組なら、見たことがあります。いえ、正しくはオオカミを連れた、元は3人組だったらしい2人組、ですね。私がその方たちに初めて会った時は、裏葉色の羽織の少年と、白縹の羽織の少女の2人組でした。
白縹の羽織の少女の妹さんが妖との戦闘中に亡くなったばかりで、2人ともかなり憔悴していました。
あれは、その悲惨な出来事が起こった2週間程後だったでしょうか。2人の言い合う声が聞こえて、私は近くの花瓶の掃除をしながら、横目で様子を見ていました。
「私は」
「私は別に大丈夫、だろ?」
少女が少し驚いたように少年に目を向けます。
「よく分かったね」
「お前最近それしか言ってないからな」
少年は皮肉を込めたつもりだったのでしょう、しかしそれは少女には届いていないようでした。
「そうかもね。でも、本当に私は別に何ともないよ、大丈夫」
「...演技がお上手なことで」
その声に、少女の肩がぴくりと震えたのが見えました。
「お前さぁ」
少年が少女の正面に立ち、真っ直ぐ向かい合います。
「平気な振りするのも良い加減にしろよ、そのままだとお前そのうち...」
「そのうち?」
少年が息を吸い込む音が聞こえました。
「壊れるぞ、本当に」
少女が羽織の衿を強く握りしめたのが見えました。
「...壊れる?」
「嗚呼」
「壊れてないように見える?」
少年が黙り込みます。
少女は、心の中の何かが決壊するように、大きな声を上げました。
「平気な振りでもしてないとおかしくなりそうなんだよ!」
少年だけでなく、近くにいた私も思わず身を竦ませました。
「毎日毎日、なんで私が生きてるのか分かんなくなってさ、妹を殺した奴のことを考えるだけで怒りで身体がばらばらになりそうな気がするよ、でも妹も妹を殺した奴ももう死んでるから怒りの捌け口が見つからなくて、辛くて苦しくて虚しくて、どうして死んだのが私じゃなかったんだろうって」
「うん、」
少女の声が、力尽きたように勢いを失います。
「...会いたいよ」
「うん」
少年が少女の頭を優しく撫でたのが見えました。
「気持ちは、心の中に抱えてたら飼い慣らせることもあるけど、閉じ込めているうちにもっともっと強くなって、制御できなくなることも多い。だから、聞かせてくれないかな、お前の、その、気持ちを、話せる範囲で構わないから」
少女はこくりと頷きました。
その拍子に、涙が一粒溢れ落ちました。
「あんたの気持ちも、聞かせてね」
「普段から聞こえてるだろ、お前は」
「うん、でも。たまにはちゃんと口から聞きたい」
「...そ、じゃあ、偶にはな」
穏やかな沈黙が訪れて、私はほうと息を吐きました。

『普段から聞こえてるだろ』
先ほど少年の言葉に、私は首を傾げました。まるで、少女が人の心の声を聞くことができるような物言いです。
割と普段から冗談を言い合うような2人でしたが、あの場面で冗談を言うようには、とてもじゃないけど思えませんでした。
あの言葉の意味は未だに解らないけれど、その後も少年と少女はほとんどの任務を一緒にこなしていました。
あの2人の結束力は、誰にも及ばないようなものがあったと思います。例えるならば、魂が繋がりあっているような、どちらか片方が倒れたなら、もう片方も立っていられなくなるような。共依存とも取れる、本当に強い結び付きだったと感じます。

そうか、あれからもう30年以上も経つんですね。私は最終決戦の直前にあの組織を辞してしまったので、その後2人がどうなったのかは知らないんです。
もし2人のその後を知りたいようでしたら、私の当時の同僚を紹介しますので、会いに行ってみては如何でしょうか?
2人が今、どこで何をしているのか、もしかしたら分かるかもしれないですよ。