シンクが産まれ、三日が経過した。

 カグヤは……すっかりお母さん気分のようだ。

 シンクもお母さんだと思ってるのだろう。

 カグヤの後を必死で追いかけている。

「ピー!ピー!」

「シンク?どうしたの?……もう?さっき魔力あげたばかりじゃない?」

「ピー!」

「はいはい、俺がやるからな」

 シンクを抱き上げ、魔力をやる。

「ピー……」

「なんだ、その仕方ないみたいなツラは……」

 俺も嫌われているわけではないが、やはりカグヤの方が良いらしい。

「グルルー!」

 ご主人様には俺がいるのだ!という気持ちが伝わってきた。

「そうだな、俺にはハクがいるもんな」

「ピー!」

「クロウ、もう良いって」

「おっ、そうか。ほら、遊んでこい。ハク、任せるぞ?」

「ピー!」

「グルルー」

 ドラゴンとトラが庭で遊んでいる……よくよく考えたらすごい光景だな。
 空の覇者と森の王者が一緒にいるとは……。
 野生ではあり得ないことだからな。

「なんだか平和ね」

「なんだか平和だな」

 2人の声が重なった。

「エヘヘ……」

「ハハ……」

「良いのかな?こんなに幸せで……」

「1つだけ言えるのは……戦場で生きてきた俺から言わせてもらうと、休むときはしっかり休んだ方がいいということだな。まだまだ、問題は山積みだしな」

「……そうよね、ずっと神経張り詰めてたらダメよね。うん、クロウが居て良かったわ。ありがとう、クロウ」

「気にすることはない。まあ、俺とは違いカグヤは考えることが多いだろうからな。戦うことや守りに関しては任せておけ。カグヤの答えが出るその日まで、俺は君を守り続けよう。もちろん、答えが出た後もな」

「クロウ……ごめ……ううん、ありがとう。そ、その時は頼らせてもらうわよ?」

 カグヤはモジモジしながら、言葉を選んでそう言った。

「ククク……ようやく、俺の扱いがわかってきたな?そう、それでいい」

「もう!……私が何者でも、クロウは側にいてくれる?」

 ……あの宰相との会話のことか……。

「ああ、もちろんだ……《《そして俺が何者であろうともだ》》」

「うん!エヘヘ……」

 カグヤの頭が、俺の肩に寄りかかってくる……。


 ……俺にも、何やら自分では知らない秘密があるらしいが。
 そんなことはどうでもいい……!
 俺の願いはただ一つ……!
 カグヤの側にいることだけだ……!


「あれ?ねえ!見て!」

「ん?なに?もう放てるのか?」

 2人で庭に出て、様子を眺めることにする。
 シンクが首を引き、大きく息を吸い込んだように見えたからだ。
 そして……。

「ビャー!!」

 甲高い声と共に、小さな火の玉が吐き出された!

「グルルー」

 ハクが水風船を作り、それに当てる。
 火の玉は跡形もなく消える。

「凄いわ!もう、火を吐けるのね!」

「まだ、三日だもんな。身体の成長も早そうだし、これなら思ったより早く活動できそうだな」

「ビャー!!」

「グルルー」

 その後も連続して火を吐き続け、ハクが打ち消すを繰り返す。

 俺とカグヤはそれを眺めながら、ゆったりとした時間を過ごすのだった……。



 その後疲れ果てたシンクをカグヤが抱え、庭に寝転ぶハクの尻尾側に寄りかかる。
 俺はハクの顔側に座り、アゴを撫でてやる。

 ……思えば、俺もこんな穏やかな時間を過ごすのは……いつぶりだろうか?
 戦場ではいつなん時も気が抜けなかったし、最近ではカグヤの護衛があった。
 だがハクのおかげで、俺は心にゆとりができた。

「グルルー……」

「偉いぞ、ハク。よく遊んであげたな。そして、穏やかな時間をありがとう」

「そうね!ハクのおかげよね!ありがとう!」

「グルッ!」

「ピー……ピー……」

「あら?寝ちゃったわ……可愛い……撫でても、ゴツゴツしてないわね」

「ドラゴンとはいえ、まだ子供だからな。今は可愛いもんだ」

「んー……あんまし大きくならないで欲しいかも……」

「おいおい、それではカグヤを守れないぞ?」

「でも……この子を戦わせるの?私のために……」

「カグヤ……だが、そいつは戦いたいと思うぞ?カグヤを母親だと思っているんだ。いざという時に、守れなかったら後悔するだろう。俺がそうだからな……」

「そうなのかな?」

「今は幼いからしっかり意思疎通は出来ないが、少し成長したら聞いてみるといい」

「……そうね。うん、そうしてみる。シンク〜貴女はどんな大人になるのかな〜貴女がどんな姿になろうとも〜貴女は私の大事な子よ〜」

「なんだ?その歌は?」

「うん?……小さい頃、お母様が歌ってくれたわ。もう、顔も覚えてないけれど……この歌だけは覚えているわ」

 ……気のせいか、少し気になるフレーズだな。
 ……どんな姿とはなんだ?
 ……カグヤの秘密と何か関係があるのか?

「クロウ……?どうしたの?恐い顔して……」

「いや、なんでもない……俺は酷い目にあったからな……」

「ププッ!そ、そうよね!カエラさん、音痴だったものね!」

「笑うなよ……と言いたいところだが、全く否定できない。俺もやめてくれ!って頼んだくらいだからな」

「ふふ、でも楽しい思い出よね」

「そうだな……」

 ……あと少しだけでいい……このまま穏やかに過ごさせてくれ……。

 俺はカグヤの顔を眺めながら、そんなことを思っていた。

 ……このままで終わるはずはないことはわかっていたから……。