さて、卵の様子だが……色々あった……。

 カグヤと交代で温めたり、ハクにも手伝ってもらったり。

 カグヤが卵をナデナデしながら、鼻歌を歌いながら名前で悩んだり。

 お風呂まで連れて行こうとするのを、なんとか引き止めたり。

 あっという間に、一週間が過ぎていった。

 つまりは……そういうことである。





「ク、クロウ!!動いたわ!」

「落ち着け、カグヤ。さっきと同じこと言ってるぞ?」

「そ、そう?で、でも……」

「おいおい、三時間はかかるって言ってだぞ?まだ、昼だから。そんなんじゃ疲れてしまうぞ?大変なのは産まれてからだ。頼りないかもだが、俺もいるから」

「そ、そうね……クロウは頼りになりそう……素敵な……にも……」

「は?なりそう?うん?」

「な、なんでもないわ!」

「グルルー」

「ほら、ハクが見てるってよ。昨日、ほとんど寝てないんだろ?今のうちに寝ときなさい」

「だって気になったんだもん!私、起きてるもん!」

 なんだ?このもんもん言っている可愛い生き物は?
 俺が悶々とするじゃないか……!

「はい、ダメだ。それじゃもたない。仕方ないか……」

「にゃ!?」

 カグヤをお姫様抱っこして、ベットに寝かせる。
 起きたままの格好で、パジャマなので問題ない。

「ほら、少しでいいから寝なさい」

「お、起こしてくれる?」

「ああ、ちゃんと起こすから」

「や、約束よ……あっ……」

 カグヤの綺麗な真紅の髪を、優しく撫でてやる……。

「……んっ……スースー……」

「可愛い寝顔なこと。やれやれ、俺の自制心もどこまで保つかね?」

「グルルー」

「そうだな、男なら気張らなきゃいけないな」

 その後カグヤの寝顔を眺めつつ、卵を見守るのだった……。






 ……そして。

「グルルー!」

「ん?お、来たか。すまん、俺もウトウトしてしまったな」

 俺は、急いでカグヤを起こす。

「カグヤ、産まれるぞ」

「にゃによ〜、まだ寝るもん」

 寝返りで、胸の部分が……チラチラしとる……!
 俺の理性、頑張って!
 ……やっぱり、意外とあるな……いかんいかーん!

「カグヤ、卵が割れそうだぞ?」

 カグヤを優しく揺する。

「卵〜なに……卵!!」

 ガバッと起き上がるので……。
 マ、マズイ!と思い、向こうを向く!

「カグヤ!前!前を!」

「なによ〜?それより、卵……キャーーー!!!」

「イテェーー!!」

 なにかが飛んできて、俺の頭に直撃した!

「ク、クロウのエッチーー!!わ、わ、私の、み、見たの……?」

「す、すまん!一瞬だから!見えてないから!」

「……そ、そう……なら、いいけど……何かしら?それはそれで複雑ね……」

「グルルー!」

 何してんの?産まれるよ?と聞こえる。

「そうだよ!卵だ!」

「そうよ!卵よ!」

 2人で卵の前に正座して、その時を待つ……そして。

「あっ!見て!」

「おお……!割れてきたな!」

 あちこちにヒビが入り始めた!

「て、手伝っちゃダメなのよね?」

「ああ、なるべくな。自分の力で出るほうがいいらしい」

「頑張って……!」

「……懐かしいな」

「やっぱり、クロウも?」

「小さい頃に、鳥の卵を2人で眺めていたな」

「そうよね、今か今かと楽しみ待っていたら寝てしまったのよね」

「そうだったな……母さんが、俺らを膝枕してたっけ……」

「カエラさん……そうだったわね。今考えると、あの方も不思議な雰囲気があったわよね。芯が強いし……それに、高貴な雰囲気があったわ」

「そうなのか?俺にはわからんが……でも、確かに兄弟とも似ていないし、祖父母とも似ていなかったな」

「1人だけ色々な意味で違ったわ。傲慢さはカケラもなかったし、平民にも優しくて……炊き出しとかにも、何度か連れてってもらってたわね……」

「そうだったな……口癖だった……彼らのおかげで生活できることを忘れてはいけないと。それが、貴族の義務《ノブレスオブリージュ》だと」

「うん……私もそれに憧れたり、共感したから……そうしようと思っていたんだけど……」

「カグヤ……君が望むなら、俺はいつでもこの力を振るおう。そして、俺だけは君の夢を笑わない。もし願うのなら、君の願いを……俺の全てをかけて、叶えると約束しよう。それだけは覚えておいてくれ」

「クロウ……ありがとう……えへへ、私は幸せ者だね……クロウみたいな素敵な恋人がいるんだもん……」

「カグヤ……」

「クロウ……」

 自然と2人の唇が重なる……。

「ク、クロウってば……慣れてるの?わ、私なんかドキドキしっぱなしなのに……」

「俺だって一杯一杯さ。ただ、好きな子の前で恥をかきたくないだけだ。それより……」

「ん?なに?」

「二日に一回じゃなかったのか?あれ?次していいのは、四日後ということか?」

「……バ、バカーー!!それはそれ!これはこれよ!雰囲気よ!察しなさーい!!」

「えぇ!?そうなのか!?イテェ!?殴るなよ!」

「グルルー」

 ハクが呆れた表情をしている。
 おい、俺は主人なんですけど?

 するとパキッと音が聞こえる。

「おっ!?」

「あっ!?」

 卵から手が出てきた。
 俺たちは手伝わないよう、必死に堪える。






 そして……産まれた。

「ピー、ピー」

「うわぁ……可愛い」

「うん?レッドドラゴンではないな。角まである……じゃなくて!」

「そうね!ぬるま湯よね!」

 あらかじめ用意していた容れ物に、そのドラゴンを入れる。

 そして、卵の殻やネバネバを取ってあげる。

「よしよーし、偉いわね」

「ピー、ピー」

「ふふ、指を舐めてきたわ。くすぐったいわよ〜」

 洗い終えたら、俺が預かりタオルで拭いてやる。

「ピー、ピー」

「はいはい、良い子だ。すぐ終わるからな」

「ふふ、上手ね……予行練習になるかしら?」

「はい?」

「ううん!ほら!置いてみましょう!」

 とりあえず、テーブルの上に置く。

 ……赤い……いや、紅いな。
 レッドドラゴンより、更に色が濃い。
 しかも、額に1本の角がある。
 あと……翼が、身体に対して大きい気がする。
 腕に当たる部分も、短い気が……足は普通なのに。
 四足歩行する感じなのか?
 これが、変異種ということか?

「ピー?」

「わ、私を見てる?」

「お母さんだと思っているんじゃないか?そもそも、カグヤに惹かれたようだし」

「ど、ど、どうしたら?」

「えっと、確か……産まれたては肉を食べない。餌は魔力だって……カグヤが送れば良いんじゃないか?」

「そ、そうね!」

 カグヤがそっと抱き上げる。

「んー……どうかしら?」

「ピー!ピー!」

「あっ……何か伝わってきたわ……嬉しい?」

「グルルー」

「ハクが、それであっているってさ」

「あっ、そうよね。これで、4人で意思疎通もできるわね」

「名前はどうする?こいつ、紅色だろ?レッド……ハク、この子は女の子か?」

「グルルー」

「女の子だそうだ」

「女の子……私と同じ紅……真紅……シンクね!この子はシンクよ!」

「おっ、良いんじゃないか?シンクちゃんか。よろしくな」

「ピー!」

「グルルー!」

 こうして、新たな仲間……いや、家族が増えたのだった。