ただ今、治療院へと歩いているのだが……。

 卵を抱えたカグヤは、すこぶるご機嫌な様子だ。

「ふふふ〜ん、この子の名前は〜なにかな〜?レッド君〜?レッドちゃん〜?」

「ん?レッドなのか?単純すぎやしないか?」

 ……ハクから『え?オイラの立場は?』という念が送られてきた。

「にゃにゃ!?なに聞いてるのよ!?」

「いや!無理あるから!隣にいるんだぞ!?」

「そこは……聞こえないふりよ!」

「いや!無茶だろ!?」

 ……まあ、楽しそうだからいいけどな。



 治療院に近づくと……人が溢れかえっていた。

「これは……流石は、国の守りの最前線ということか」

「す、凄い怪我人の数……私って恵まれてるのね。クロウっていう、強くてカッコいい……こ、恋人がいるんだもの……」

「こ、恋人……!?」

「にゃ、にゃによ!?違うの!?」

「ち、違くない!ああ!そうか!恋人なのか!」

 ……ジーン……胸にこみ上げるこの気持ち。
 そうか……側にいるとか、大切とか、愛してるとは言ったが……。

「そ、そう!ならいいけど……」

「カ、カグヤ!俺と付きあってくれ!」

「ニャーー!?にゃによ!急に!」

「い、いや、きちんと申し込んでいなかったと思ってな」

「ふ、ふ〜ん……もう、気づくの遅いんだから……」

「ん?どうした?」

「なんでもないわ!い、良いわ!付き合ってあげる!」

「おおー!!」

「ヒューヒュー!お熱いね!ご両人!」

「若いっていいなぁー」

「にいちゃん!良かったな!」

「にゃにゃ!?」

「うおっ!?」

 ……いつのまにか、人々が俺らを囲んでいた。
 ……この俺が気づかないとは、相当上の空だったようだ。

「グルルー」

 ……オイラが見てるから大丈夫か。
 ハク!感謝する!お前がいて良かった!

「もう!帰る!うわーん!」

「待て待てい!卵抱えて走るんじゃなーい!」

 その後、恥ずかしがって帰ろうとするカグヤをなだめるのだった……。






 さて、少し時間をおいて、再び治療院に向かう。

 そして目の前までやってきたものの、皆が忙しくなく動いているで、声をかけづらい。

 まずはどうしようかと、俺とカグヤが顔を見合わせていると……。

 近くから、聞いたことある声がした。

「クロウ様!!」

「あれ?確か……アリスだったか?」

 ナイルの妹のアリスが、俺の近くに寄ってくる。

「はい!覚えていてくださったのですね!」

 そして、満面の笑顔を見せる。

「むむ……!こ、こんにちは!」

 何故か、カグヤが膨れている……つついたら怒るかな?
 ……うん、怒られる未来しか見えない……。

「カグヤさん、こんにちは」

「むむむ……!余裕あるわね……!スタイルも良いし……」

 ……も、もしかして……嫉妬でもしているのか?
 いや、たしかにスタイルも見た目も良いとは思うが……。
 か、可愛いのだが……!

「団長!」

「お、ナイルか。隊長はやめろと……団長?」

「おっ、隊長だ!いや、団長か!」

「あっー!隊長!!お久しぶりです!」

「バカ!団長だっつーの!」

「お、お前ら……!」

 そこには、かつての部下達がいた。
 3人ほどであるが、たしかに奴らだ。
 俺は、思わず駆け寄ってしまう。

「団長!追いつきやしたぜ!」

 こいつはダン。
 黒髪黒目の大男で、年齢は大分上だ。
 だが、年下の俺を舐めることもなく、よく隊をまとめてくれていた。

「団長!こんにちは!僕もきましたよ!貴方は、僕の目標ですから!」

 こいつはゼノ。
 黒髪黒目の少年で、年齢は16だったはず。
 俺を慕ってくれていた。
 剣の腕前がよく、俺が稽古をつけていた。

「やれやれ……どーもです、団長。お互い生きてて良かったっすね」

 こいつはローレン。
 青髪青目の青年で、俺と同じくらいの年齢だ。
 容姿が整っており、性格も陽気で、隊のムードメーカーだった。
 そこそこの魔法を使える。

「生きていたか……!だが、団長とは?」

「すみません、団長。俺が作ったんです。貴方の力になりたくて……いずれ、戦力が必要となった時のために。貴方に恩を返したいのです!」

「ナイル……アレは、もう気にするな。それに、悪いが俺は……」

「わかっています。裏切りなどを恐れているのですよね?でも、こいつらは天涯孤独の身です。それに、行動はご一緒いたしません。いざという時に、駆けつけるだけです。なあ、みんな?」

「おうよ!」

「はい!」

「そういうことっす」

「クロウー!」

「グルルー」

 アリスと話していたカグヤが、こちらにくる。
 ハクがいると、本当に助かるな。

「クロウ!その人達も友達なの?」

「まあ、戦友ではあるな。俺の背中を預けられる奴らだ。皆、この子はカグヤという。俺の愛する女性だ」

「勿体ない言葉でさ!お嬢さんが、団長の想い人ですな?初めまして、ダンという者ですぜ」

「目標である貴方に……感激です!初めまして!ゼノといいます!可愛らしい方ですね!」

「まあ、悪い気はしないっすね。どーも、ローレンです。団長って、こういう子が好きなんすね」

「は、初めまして!カグヤと申します!ク、クロウの恋人です……はぅ……!」

「おやおや……」

「これはこれは……」

「ヒュー」

「おい、ニヤニヤするな。ぶった斬るぞ?」

 その後、軽く談笑をし、ひとまず解散となった。

 奴らでパーティーを組み、依頼を受けるそうだ。

 アリスも多少だが、魔法を使えるらしい。

 俺たちも、治療院での依頼を完遂して帰宅する。

「エヘヘ、楽しそうな人達だったわね!私も仲良くなれそう!」

「うん?まあ、気の良い奴らだな」

「……ごめんね?私がいるから、皆といれないんだよね?」

「カグヤ……俺は、君が1番大事だ。だが、君を籠の鳥にするつもりもない」

「クロウ……」

「それにカグヤの言葉も覚えている。人との繋がりは大事だということを。ハクがいるおかげで、大分楽になった」

「グルルー!」

「ふふ……ハク!いつもありがとね!」

「そして、そのドラゴンがいれば、万全の守り態勢が整うだろう。それが終わるまでは、しばらくはこのままでいよう」

「そうね……私のために、いつもありがとう!」

「なに、気にするな。それに……俺だってな、もう少し2人きりでいたいさ」

「ク、クロウ……わ、私も……」

 目を閉じたカグヤに、優しくキスをするのだった……。