翌朝起きてみると、カグヤがご機嫌で料理を作っていた。

 エプロンを身につけ、ポニテにし、鼻歌を歌っている。

「ふふふ〜ん、今日は〜何を作ろうかな〜クロウは〜何が好きかな〜?わ、私かな〜?」

 ……なんだ?あの可愛い生き物は?
 よし……!クロウ!勇気を出せ!漢なら、自分から行くのだ!

 俺は気配を消して、カグヤに近づく。
 もちろん、側にいるハクには念を送る……静かにしてろと。

「ふふふ〜ん、後は……ニャア!?」

 俺は、カグヤが包丁などを持っていないことを確認する。
 そして……後ろから、その小さな身体を優しく包み込んだ……。

「カ、カグヤ……おはよう」

「にゃ、にゃ、にゃにしてるの!?」

「い、いやか?」

「ニャア!?い、イヤじゃないわ!はわわ……!ど、どうしよう!?昨日、やりすぎたかしら!?」

 アワアワしてて可愛い……。
 段々と、耳まで真っ赤になってくるし……。
 離したくないという気持ちになるが、これ以上は俺がマズイな。
 だが……俺とて、このままでは終われない……!
 国境の守護者、白き虎と恐れられた漢を見せてやる!!

「……カグヤ、こっち向いてくれ」

「にゃい!?う、うん……」

 そのまま、カグヤにそっとキスをする……。

「ひゃん……んっ……」

 ……俺、我慢しろ……!
 今すぐベットに押し倒したい気持ちを……!
 ゆっくりと、唇を離す。

「にゃ、にゃーーー!!!」

「うおっ!?びっくりしたぁ……」

「ビックリはこっちのセリフよー!にゃにが起きたの!?」

「え、いや……また、していいって言ってたからな。まあ、してみた」

「い、言ったけど……!はぅ……」

「その……カグヤがイヤじゃなければ……毎日していいか?」

「ダ、ダメよ!!」

 俺の心に感じたことないダメージが来る!
 ガハッ!?この俺が、こんなダメージを受けるとは……!
 俺は膝をつき、その場に崩れ落ちる。

「ち、違うのよ!イヤじゃなくて……ド、ド、ド……」

「ド?なんだ?」

「……ドキドキしすぎて……心臓がもたないよぉ……」

 ゴハッ!?違う意味でダメージが!
 深刻なダメージだ……!
 お、落ち着け!理性を保て!

「わ、わかった。が、我慢しよう。すまない、俺が性急すぎた。俺の気持ちを押し付けてしまったな……」

 ……いかんな、これでは。
 わかってはいるのだが……。

「謝らないで!わ、私だってしたいもん!」

「カグヤ……無理してないか?俺なら平気だからな?いくらでも待つ。なに、10年以上前から好きだった子と一緒にいられるんだ。それを考えたら、なんてことはない」

「クロウ……ふ、2日に一回ならいいわ!」

「へ?……い、いつだ?朝?夜?」

「そんなのわかんないわよーー!!クロウのばかーー!!」

「おい!?待て!?包丁は勘弁してくれーー!!」

「グルルー!」

 いや、俺も遊んで!じゃないから!

 その後、なんとか生き残った俺は、朝食にありつくのだった。




 とりあえず、さっきのことはお互いに触れないことにした。

「さて……いくかね」

「これよね?」

 カグヤの腕の中には、卵がある。

「ああ。鑑定できるかはわからないが、とりあえず行ってみよう」

 そして、以前ハクと契約した場所へ向かった。

「おはようございます、ブレナさん」

 そこには、支配人のブレナさんがいた。

「これはこれは……何か、問題がございましたか?」

「いえ、ハクはよくやってくれています。な、ハク?」

「グルルー!」

「うむ、良好ですな……では、そちらですかな?お嬢さん?」

「は、はい!この卵を拾ったんですけど……なんの卵かわかりますか?」

「……少々お待ちを!皆!来てくれ!意見が欲しい!」

 すると、ぞろぞろと人が集まってくる。
 そして、皆が深妙な表情で話しだした。

「これは……いや、まさか」

「でも、それ以外には……だとすると……」

「ただ、おかしくないか?それなら、アレを倒す必要が……」

「ま、まさか!盗んできたんじゃないだろうな!?」

「マズイぞ!?怒り狂ったドラゴンが都市にやってくる!」

 ……ん?何か勘違いをされているな。
 ブレナさんが、こちらにくる。

「……クロウ様、ドラゴンと出会いましたか?」

「ええ、倒しましたけど」

「え!?嘘でしょ!?」

「あんな若い子が、最強の魔物を……?」

「いや!森の王者がいるなら……」

「いや、俺1人で倒しましたね」

「「「「……………………」」」」

 皆が驚愕の表情で固まってしまう。
 いち早く、正気に戻ったブレナさんが言う。

「ゴホン!……ハクドラを組み伏せるほどの実力者とはわかっていましたが……申し訳ありませんが、証拠はございますか?」

「ええ、もちろん」

 俺はアイテムボックスから、広い場所にドラゴンを出す。

「……間違いない、レッドドラゴンですな。この大きさなら、最低でも2級クラス……」

「えっと……つまりは、どういうことなの?」

「これはお嬢さん、失礼いたしました。見間違いかと思ったので、全員の意見が欲しかったのです。それは……ドラゴンの卵に間違いないかと……」

「……えぇーー!?これ、ドラゴン!?ど、どうしよう!?」

 ……やはり、そうか。

 どうやら、俺の予感は的中したらしい。