さて、ナイルが来た日から一夜明けた。

 あの後は、結局夜まで過ごしてしまった。

 さすがに泊まることはせず、後日改めて挨拶に来ると言い、自分の宿へ帰って行った。

 そんな俺達は気を取り直して、今日こそ冒険者ギルドへ向かう。



「ブルッ!!な、なんだ?」

「どうしたの?」

「グルルー?」

「いや……今、寒気が急に……」

「え?こんなに暖かいのに?ふふ、どこかでエリゼが見てたりね?」

「勘弁してくれ……今でこそ負けはしないが、トラウマに近いんだよ……」

「アレ凄かったわよね……よく死ななかったわ……」

「俺もそう思う。今考えるとやりすぎだよな。まあ、強くなれたから結果的には助かったけど」

 そのまま会話をしながら、冒険者ギルドの中に入る。

 もちろん、ハクも一緒である。

 なので……。

「おい!アレ!魔の森の王者だぞ!?テイムできた奴がいたのか!?」

「あれをテイムできたのは、確か……王弟殿下である、あの方以来じゃないか!?」

 やれやれ……流石に目立つか。
 まあ、それならそれでいい。
 カグヤには、ハクがついているという牽制になる。
 それにしても、相当強い魔物なのか。
 確かに、俺でも多少本気を出す必要があった。
 完全な大人になれば、カグヤを任せられるかもな。

「さて……今日はとりあえず、この間倒せなかったファイアウルフか」

 期限は今日までだから、倒せないと依頼そのものが失敗になる。

「私は薬草系と……ん?これは何かしら?」

「どれどれ……なるほど、そういうことか。これ、やってもいいかもな」

 そこには、治療院にて光魔法の使い手募集と書いてある。
 怪我した人や、冒険者を治療する場所のようだ。

「へぇー、こんなのもあるのね……うん!やってみたい!」

「まあ、安全だしな。それに、光魔法の特訓にもなる。バリア系を覚えるためにも、コントロールの上達は必須だからな。お金も稼げて一石二鳥だし」

 その後、俺も適当に依頼を見繕い、受付で受理される。

 すぐにギルドを出て、都市の出口まで行き、一度立ち止まる。

「さて……ハク」

「グル?」

「これから狩りにいく。お前の力、見せてもらおう」

「グルッ!!」

「えっと、馬でいくの?ハクはどうしたら……」

「そうだな……よし、早速ハクの力を見せてもらおう。ハク、まずは体力や速さを知りたい。カグヤを乗せて走れるか?」

「グルルー」

「にゃにゃ!?くすぐったいわよー!」

「グルルー!」

「乗れってこと?わ、わかったわ……よいしょっと……うわぁ……気持ちいい……」

「よし、ハク。俺が走るからついてこい!ただし、カグヤを落とすなよ!」

「グル!」

 脚に魔力を送り、魔の森へ向けて駆け出す。

「キャー!ハク!速いわ!」

「ほう?見た目に反して速いな。これなら馬はいらないな。あれも餌台や維持費が馬鹿にならない。後で、専門店に売りに行こう」

 俺も一から鍛錬したかったし、丁度いい機会だ。

 1時間ほどで、魔の森に到着する。

「フゥ……魔力維持も一から鍛錬だな。多少減ってしまったか」

「グルルー?」

「おっ、体力あるな。全く疲れていないか」

「ハク!少し周り見てて!ク、クロウ!」

「ん?どうした?」

「て、手を出して!わ、私の手を握りなさい!」

「あ、ああ……」

 カグヤの両手を、俺は両手で包みこむ……。
 うわー……柔らか……!手小せえ……!
 そして、暖かいもの……これは……アレか……!

「大きい手……ど、どう……?伝わるかしら……?」

「ああ、流れ込んてくる……魔力譲渡だな?」

「そうよ。昨日、クロウに魔力の感じを教えてもらったわ。そのおかげで、光魔法の一種でもある、エナジートランスファーを使えるかなと思ったのよ。今までは、コツがわからなかったけどね」

「なるほど……この間言っていたのはこれのことか」

「そういうことね……これで、どうかしら?」

「……ああ、満タンに近い。カグヤ、俺のために考えてくれたんだな?」

「ち、ちが……わない。そうよ!文句ある!?」

「いや、ないさ。ありがとう、カグヤ。これで、遠慮なく戦える……何より、その気持ちが嬉しい」

「クロウ……そ、そのかわり、ちゃんと守ってよね!?」

「もちろんだ。なあ、ハク?」

「グルッ!」

 うむ……目の端に捉えていたが、ハクは見張り役としても優秀かもな。

 その後、森の中へ進んでいく……。

「これは……楽だな」

 ハクがカグヤを見てくれているから、俺は警戒に専念できる。

「あっ!これも!あっ!あれも!」

「グルルー」

 カグヤが興奮してあちこち行っても、ハクがぴったりとついていく。

「む……来たか」

 俺の後ろから、何かが近づいてくる。

「ガルル……!」

「ゲルル……!」

 赤い皮膚の狼……ファイアウルフに相違ない。

「ハク!」

「グルッ!」

「にゃ!?どこ突っ込んでのよー!?」

 ハクがカグヤの股下に顔を潜らせ、そのまま背中に乗せる。

 さて……いや、俺が倒さなくてもいいのか。
 俺の契約魔獣ということは、ハクが倒しても俺が倒したということだ。

 ハクが近くに寄ってくる。
 俺はカグヤの手を取り、一旦下ろす。

「ハク、お前が倒せ。お前の力を見せてくれ」

「グルルー」

 ファイアウルフ三匹と、ハクが対峙する。
 俺とカグヤは、少し離れて様子を見ることにする。

 痺れを切らしたのか、奴らが動き出す!

「「「ガァァーーー!!!」」」

 三匹一斉に、火の玉を吐き出した!

「グルァー!」

 その全てを、ハクの水のブレスがかき消す!

「ガウッ!?」

「グルッ!」

 一瞬で距離を詰め、その鋭い爪で一匹を切り裂く!

「ギャウ!?」

 格上と気づいたのか、二匹が逃げようとする。
 やはり6級の魔物ともなれば、そういうこともあるか。

「グルァーー!!」

 ハクが木を利用して、三角飛びの要領で敵の逃げ道を塞ぐ!

「おっ!見たか!?」

「うん!すごいわ!」

 そして戸惑いを隠せない奴らを、強靭なアゴで噛み砕いた!

 断末魔をあげる暇もなく、二匹が絶命する。

「グルァ!!」

 ……これが、森の王者と呼ばれる所以か。

 今のように木々を利用し、更には登ることもできるだろう。

 うむ……これは、想像以上に使えそうだな。