うむ……カグヤは魔力はある。

 つまり、契約する最低条件は満たしている。

 あとは、相性のいい奴がいればできるかもしれん。

 もしくは俺が契約して、カグヤを守るように命じればいいのか。

「さて……まずはギルドに行くか」

「そうね。確認してもらいましょう」




 二人でギルドに入り、受付に向かったのだが……。

 俺が近づくと、いきなり受付の人が入れ替わった。

「クロウ様ですね?初めまして、ロレンソと申します。今後は、私が対応させて頂きます」

 まだ二十代くらいの男性で、眼鏡をかけて、知的な雰囲気の人が言った。

「はぁ、初めまして。えっと、ではお願いします」

 俺はまず、りんごを取り出す。

「え!?こ、これは……!」

「あれ?何か違うのかしら?」

「わからん。俺も、これ関係には疎いからな」

「クロウ様、これの近くにはどんな魔物がいましたか?」

「レッサードラゴンがいましたね」

「となると、やはり……少々お待ちください」

 後ろに下がり、誰かと話している。
 だが、すぐに戻ってくる。

「確認がとれました。これは、依頼のりんごではありません」

「え!?じゃあ、失敗かぁ……頑張って勉強したのに……」

「カグヤ……まあ、そういうこともあるさ。次、また行こうな」

「いや、大成功と言いましょうか……これは依頼の物より、値打ちがある物です。その名もドラップルと言います。ドラゴン系が好んで食べる高級食材です。そして、ドラゴンをテイムしたい方々にとって、喉から手が出るほどの食材です」

「え!?そうなの!?」

「確かに……これを落としたら、ドラゴンが来たな」

「見た目はさほど変わりはないので、わからないのも無理はないかと。そして、魔の森の中心部から先でしか手に入りません。これ一つで、銀貨二枚にはなるでしょう」

「えぇーー!?そんなに!?」

「……平民が二年暮らせるな……10個だから金貨二枚相当はあるということか。もっと叩けば良かったな……」

「いえ、一つの木に10個しかならないと決まっているのです。だから、尚更のこと価値があるのです。なので、それで全部ですね」

「ク、クロウ!!ど、どうしよう!?」

 カグヤはオロオロしている……可愛いな。
 おっと、いかんいかん……俺がしっかりせねば。

「うむ……これは、どこで売ればいいですか?」

「私達に任せてもいいですが、その場合手数料はかかりますね。物が物なので、全部で鋼貨一枚はかかります」

 平民の1ヶ月分か……だが、俺らには時間がない。
 流石に、今日明日には来ないだろうが、追っ手にも気をつけなくてはいけない。
 拠点を構えることが、まずは最優先だな。

「では、《《7つ》》を売ってください。手数料はそのままで結構です。その代わりに急いでもらえますか?」

「ええ、わかりました。では、他の物もよろしいですか?」

「アイテムボックスの中にあるのですが……」

「なるほど……さすがは、期待の新人さんですね。では、こちらの部屋にどうぞ」

 ロレンソさんに案内され、広い空間の部屋に通される。

「ここに、おいてください。係りの者が、処理や査定をします。処理に関しては、鉄貨三枚必要ですが……」

「払います……はい、これでお願いします」

「はい、確かに」

 俺はアイテムボックスから、魔物達を取り出す。

「こ、これは……今日の朝行ったばかりなのに……なるほど、ギルマスが私に任せるわけですね」

「少し張り切っちゃいましたね。時間はどのくらいかかりますか?」

「……ドラップルを含めると、明日の朝までにはどうにかできるかと思います」

「では、お願いします」

「お、お願いします!」

「ええ、お任せを。では、戻りましょう」

 戻る途中に、ロレンソさんに尋ねる。

「ロレンソさん、少しいいですか?」

「ええ、如何なさいましたか?」

「実は……」

「ああ、それなら……」

「ありがとうございます」

「いえいえ」

 その後、ロレンソさんに任せ、俺達はギルドを出る。

 ……何やら、先程から視線が熱いのだが……。

「カグヤ?どうかしたか?さっきから黙っているが……」

「にゃい!?い、いや別に!なんでもにゃいわ!」

「何か疑問があるなら答えるぞ?もしくは、勝手に話を進めたから怒っているのか?」

「ち、違うわ!……その、えっと……クロウは、カッコいいなぁって……」

 なんだ……?胸が熱い……?

「え?……そ、そうか。何があれなのかわからないが、ありがとな」

「だって、あんな賢そうな人と対等に話をしていたわ。それに色々と交渉まで……あっ!別に自分を卑下してるわけじゃないのよ?それは、やめたわ。ただ、単純に見惚れちゃっただけなの……」

 なんだ?どうした?人差し指と人差し指を、ツンツンしている?そして、照れ顔?
 いかん……いかん!抱きしめたくなる……!!

「クロウ……?なんで、手を上げたり下げたりしてるの?」

「い、いや、なんでもない。まあ、慣れだろう。そのうち、カグヤにもできるようになるさ」

「……うん!私、頑張るね!」

「早急に対応が必要だな……俺の精神力が限界に近い……」

「え?なんのこと?」

「いや、家を買おうかと。まずは、拠点が必要だろう」

 ……そうすれば、部屋も別々にできる。
 あの寝顔は反則だ……!
 それもあって、俺は早朝に稽古をしていたんだし……。

「……そうか。さっきのお金があれば買えるのね?」

「ああ、足りないということはないはずだ。とりあえず、今から見に行こう」

「え?どこかわかるの?」

「ああ、さっきロレンソさんに聞いておいた」

「いつの間に……クロウ!偉いわ!」

「だから!背中を叩くなよ!」





 都市の中を歩いていると、カグヤが問いかけてきた。

「そういえば、なんで3つはとっておくの?」

「いや、もしドラゴンと会ったとき用にな。うまくいけば、テイムできるかもしれん」

「あっ!そういうことね!それは、さっきのやつみたいな?」

「いや。あんなのは、本来ドラゴンなどと言えん。本物は恐ろしく強いし、翼もある。特に、上級ドラゴンは俺でも厳しいかもな」

「ク、クロウでも……?それは、凄いわね……会いたくない気も……」

「安心しろ。カグヤが側にいるなら、俺が負けることなどあり得ない。なにせ、俺の力の源だからな。カグヤは、自分を足手纏いかと思っているかもしれないが、それは違う。大切なカグヤがいる方が、俺は強くなれる」

「クロウ……フン!仕方ないわね!そ、側にいてあげるんだから!」

 カグヤは、スキップでもしそうな軽快な足取りで、俺の前を歩きだす。

「ふふ……幸せだなぁ……」

 ……幸せなのは、俺の方だ。

 さて……とりあえず、色々な問題が片付きそうだな。