ビュン!ビュン!ビュン!

 早朝の静寂中、素振りの音だけが聞こえる。

「フゥ……こんなものかな」

 もっと強くならなければ……どんな理不尽なことからも、カグヤを守れるように……!
 これからが、色々な意味で本番だ。
 冒険者活動もしかり、追っ手にも注意を払わなくてはならない。

「クロウ……?あっ!いた!」

「カグヤ、おはよう」

「おはよう!もう!起きたらいないから、不安になったじゃない……」

「そいつはすまんな。最近サボってしまってたからな。良い機会だから、もう一度基本から鍛え直そうかと思ってな。今よりもっと強くなるために」

「そ、それって私のため……?わ、私は何をすれば良いかしら!?」

 ふむ……俺は気にしないが、カグヤが気にしてしまうか。
 さて……どうしたものか。

「そうだな……今まで学んできたことを、紙に書き出してみると良いかもな。そして、それらがどのようなことに活かせるかを考えるんだ」

「今まで学んできたこと……昨日は学んでいたことが、役に立ったわね……うん!わかったわ!私、朝ご飯まで部屋で勉強してくる!」

 そう言い、宿の中に戻っていった。

「……良かった、元気が出てきたな。カグヤには笑っていてほしいからな。そのためなら、俺はどんな苦労も厭わない」

 さて、続きをするとしよう。
 次は型の稽古を始める。
 上段からの振り下ろし、そこからの逆袈裟。
 下段からの振り上げ、振り下ろし。

 最後は二本の剣を持ち、剣の勢いと体重移動により、流れるように剣を振るう!

 そして、そのまま30分ほど稽古をした。

 人々が起き出し、活動し始める。

「さて、風呂入って汗を流すか」

 部屋に戻ると、カグヤが真剣な表情で机に向かっていた。
 俺に気づいていないようなので、俺は黙って風呂に入る。




「フゥ……スッキリしたな」

「アレ?クロウ?……キャーー!!」

「なんだ!?曲者か!?」

「アンタよ!?な、なんで上半身裸なのよー!?そ、それに下半身が……!」

「いや、なんでって……風呂に入ったからだよ。下は履いてるだろ」

「いつよ!?私、知らないわ!良いから!上も着て!下もちゃんとして!これからはそうして!」

「そうか……配慮が足りなかったな。嫌な思いをさせて、すまない」

 しまったな……まだ、戦場での暮らしの癖が抜けないようだ。
 カグヤは女の子だからな、気をつけなくては。

「ち、違うの!嫌じゃないの!あの、えっと、ああもう!クロウのバカーー!!」

「おい!待てって!着るから!一人でどっかに行くんじゃない!」

 俺は慌てて着替え、カグヤを追いかけるのだった……。





 宿の共有スペースでオロオロしていたカグヤを捕まえ、そのまま食事をとることにする。

「悪かったよ。ほら、これあげるから。好きだったろ?ウインナー」

「す、好きじゃないし!ク、クロウのバカ!!」

「あれ?違ったっけ?昔、よくぶんどられた記憶があるんだが……まあ、好みも変わるか」

「だって……さっきの、たしかに下は履いてたけど……はぅ……」

 うーむ……女心というものは、やはりわからん。
 誰か、教えてくれないものか……。





 その後、機嫌を直したカグヤと共に、ギルドへ入る。

「さて……カグヤ」

「どうしたの?」

「今日から、本格的に稼ぐことにする。なので、魔の森に入ろうかと思う。必ず守り抜くから、一緒に来てくれるか?カグヤを一人にしてはおけない」

「クロウ……仕方ないわね!しっかり守るのよ!?」

「いや、守るけど……なんで、ニヤニヤしているんだ?」

「にゃによ!?してにゃいじゃない!」

「いや……まあ、いいか」

 二人で、掲示板を眺める。

「私は薬草系と、果物のリンゴやバナナを採ってきて、それを配達する……うん、これならできそう」

「俺は……オーク五匹、ゴブリン十匹、レッドウルフが三匹、ウォターキャットが一匹、最後はレッサードラゴンか……よし、これくらいにしておくか」

「ず、随分たくさんね?大丈夫?無理してない?ド、ドラゴンって強いんでしょ?」

「カグヤは優しい子だな。安心しろ、これくらいなら余裕だ。俺の敵じゃない」

「べ、別にクロウの心配したわけじゃないし!ちょっと、ドラゴンが怖いなって思っただけよ!?」

「大丈夫だ、下位のドラゴンなど俺の敵ではない。カグヤは安心して、俺に身を預けてくれ」

「身を預ける……!う、うん!いざという時は任せるわよ!?わ、私全然わかんないだから!」

 カグヤは何故だかわからないが、両手で頬を押さえてモジモジしている。

「任せておけ、俺はプロだ」

「えぇー!?そうだったのー!?」

 その後、ブツブツと何か言っているカグヤを連れて、都市を出発する。

 馬に乗り、魔の森に向かっていると、カグヤが話しかけてくる。

「クロウ……ご、ごめんなさい……」

「ん?ああ……さっきから様子が変なことか。気にするな、昔からよくあったことだ」

「何よ!?余裕こいちゃって!」

「おい!?叩くなよ!危ないから!!」






 そして、魔の森に到着する。

「さて、カグヤ。ここからは、何があっても俺から離れるなよ?」

「わ、わかったわ!」

「よし……行くか」

 二人で魔の森に入っていく。




「あっ!これとこれね!」

 カグヤは楽しそうに採取をしている。
 きっと自分にできることがあり、嬉しいのだと思う。
 それに、自分がしたいことができるのも……。
 話を聞くと、自由のない生活を強いられていたようだ……。
 カグヤが楽しく安心して過ごせるように、俺が全てのものを蹴散らすとしよう。

「……来たか。カグヤ!」

「うん!」

 カグヤが俺の側に来る。

「ギャキャ!」

「ギャー!」

「ブモー!」

「ブヒー!」

「ゴブリン十匹以上に、オークが八匹か。さすがは魔の森か。まあ、多い分には問題ない」

 依頼書は、後からでも可能だという。

「ク、クロウ!?た、たくさんいるわ……」

「安心しろ。俺にしっかり掴まってろよ?」

「う、うん!」

 俺は左腕にカグヤを乗せ、アスカロンを構える。

 すると、魔物達が一斉に動き出す!

「カグヤに近づくんじゃねえよ!」

「ゲヒー!?」

「ブヒャー!?」

 ゴブリンやオークを、一撃のもとに始末していく!

「あ、あっという間に……相変わらず、凄いわ……」

「まあ、ゴブリンやオーク程度なら、百匹以上いても問題ない」

「でも、あの魔刃剣?ってやつは使わないの?」

「アレは中々の魔力を消費するからな。こんな序盤で使っては、魔力切れになってしまうかもしれん。それに、こう木々が多いと、威力も落ちるしな」

「魔力……魔力供給……うん!頑張るわ!」

「ん?何を頑張るん……カグヤ!失礼する!」

「え!?きゃあ!?」

 カグヤを抱えて、その場から跳躍する!

「シャーー!!」

 すると、今まで俺達がいた場所に、大型の猫のような生き物がいた。

「木の上から狙ってきたか……こいつがウォーターキャットか……」

 さて、6級の魔物とはいえ、初めての魔物だ。

 油断せずに、戦うとしよう。