さて、魔物を倒したのたが……どうやら討伐証明がいるらしい。耳が証拠になるとのことだ。

「カグヤ。グロいからな、あっち向いてろ」

「み、見るわよ!だって、慣れなくちゃ……!」

「……そうか、無理だけはするなよ?」

「わかったわ!」

 俺はナイフを取り出し、耳を切り取っていく。

「しかし……これくらいならいいが、やはり《《アレ》》が必要になるか……」

「フフフ……クロウ!これを見なさい!ジャーン!!」

 カグヤは、何やら小さな巾着袋のようなものを見せてくる。

「その袋がどうかしたのか?」

「まあ、見ていなさい!
 だ、大丈夫よカグヤ!私、頑張るもの!」

 カグヤは恐る恐る、切り取った耳を手に取る。
 そして、袋の中に入れる。
 次々と入れていく。

「おい、そんな小さいのじゃ……アレ?袋の形状が変わっていない?」

 おかしい……袋の容量的に、あんなに入るわけ……まさか!?

「アイテムボックスか!?」

「正解よ!」

 アイテムボックスとは、中が異次元となっており、見た目よりも物がたくさん入る収納アイテムだ。
 ボックスは呼ぶが、その見た目は様々でリュック、カバン、壺、箱、袋などがある。古代の遺跡で、ごく稀に発見されるらしい。
 容量の大きい物は、それこそ王族や高位貴族でないと持ってはいない。容量が小さい物であっても、そこそこの値段はする。

 なので、中々の貴重アイテムである。

「 そんなもの、どうしたんだ?」

「エリゼがくれたわ!お金はありませんが、これなら差し上げられますって!」

「……なあ、あの人って何者なんだ?」

「え?エリゼはエリゼよ。クロウも知っているじゃない」

「いや、そういうことではなくてだな……。
 見た目も変わらないし、あの強さといい……。俺のこの服もおそらくは貴重なアイテムだろう。さらには、アイテムボックスまで……」

「うーん、まあ確かに。私が子供の頃からあの姿ね。私も、一度聞いたのよ?」

「……どうせ、アレだろ?『乙女の秘密ですよ』とか言ったんだろ?」

「あれ!?クロウも聞いてみたの!?」

「いや、聞いてない。聞いたら殺されると思ったからな……。
 まあ、いいか。カグヤを大事に思ってくれてるなら、何者でも」

「私も、そう思ったわ!」





 その後都市に戻り、ギルドで報告を済ませる。

「はい、確かに。では、こちらが報酬です」

「ありがとうございます。では、失礼します」

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ、珍しく丁寧な方で嬉しく思います」




 その後昼食を食べ、宿の部屋に戻り、話し合いをする。

「お金の価値は変わらないから、わかりやすくて助かるな」

「そうね。でも、私あまり詳しくないのよね……その、自分で買うことなかったから……」

「それもそうか。お嬢様だもんな」

「ご、ごめんなさい……世間知らずで……」

「いや、気にすることはない。俺も、最初はそうだった。こう見えてな、伯爵子息だったんだぜ?」

 俺は、なるべくおどけて見せる。

「ふふ、知っているわよ。ありがとう、励ましてくれて」

「……バレたか。じゃあ、軽く説明しとくか」

 白金貨……これ一枚で、平民であれば一生暮らしていける価値がある。 ほぼ、出回ることはない。持っているのは王族や高位貴族くらいだろう。

 金貨……これ一枚で、平民であれば10年は暮らしていける価値がある。 これも、滅多には出回らない。大きい取引や、家などの高い買い物などに使われる。大商人などが持っているな。

 銀貨……これ一枚で、平民であれば1年は暮らしていける価値がある。貴族や大商人が、普段の買い物によく使用するな。平民は滅多に持っていない。

 鋼貨……これ一枚で、平民であれば1ヶ月は暮らしていける価値がある。平民でも、そこそこ裕福なら持っているな。平民が大きい買い物の時に、使ったりもする。

 銅貨……これ一枚で、平民であれば3日は暮らしていける価値がある。ある意味、1番出回る貨幣かもな。貴族や商人も使うからな。

 鉄貨……これ一枚では、平民であっても1日も暮らせない。1番低い価値の貨幣だ。

「俺の報酬が銅貨二枚、カグヤの報酬が鉄貨二枚か。2人なら、3日程度は生きていけるな。とまあ、こんな感じかな。わかりずらかったらごめんな」

「ううん!わかりやすかったわ!クロウ、ありがとう!た、頼りになる男の人ってステキだと思う……」

 よし……!!頑張って覚えた甲斐があった!!これは、ナイルに感謝だな!

 俺が元高位貴族の新人兵士で、お金の価値がわからなかったから、平民である副隊長のナイルが教えてくれたのだ。
 俺が報酬を誤魔化されたり、騙されたりしないように……。
 アイツには、何も返してやれなかったな……。

「ありがとう……と言いたいところだが、これは受け売りなんだよ。俺の元部下のな」

「それって、西の国境のこと?」

「そうだ。ナイルといってな……。
 俺が右も左もわからない小僧だった時から、色々と教えてくれてな。年下の俺なんかにも、最後までついてきてくれた良いやつなんだ。
 それに、カグヤを助ける時に、アイツが協力してくれたんだ」

「そうなんだ……じゃあ、もし会ったら私もお礼を言わなきゃね!その人のおかげで助かったんだもの!それに、今も助かっているわ!」

「ああ、そうしてくれると嬉しい。まあ、お互いの場所を知らないから、会うことは難しいがな……」

「そうなんだ……でも、良かったわ!」

「ん?どうしてだ?」

「だって、悪い思い出ばかりじゃないってことでしょう?クロウに友達がいて良かったわ!」

「カグヤ……そうだな。辛いことが多かったが、悪いことばかりではなかったかもな。
 ……皆で飯食ったり、バカ話をしたり……」

「よし!今日はもうお終い!まずは、お互いの話をしましょう!」

「そうだな、そうするか」


 幸い、まだ追っ手は来ていない。 今のうちに、英気を養うほうを優先するか。そして、明日から本格的に動くとしよう。

 そうして、カグヤと思い出話をしながら、時間は過ぎていった……。