久々にゆっくり寝られた俺は、辺境伯邸の庭で素振りをしていた。

カグヤを守るためには、もっと強くならねば……!

どんな相手でも、負けない強さを……!

傷ついているカグヤが、安心して過ごせるように……!

心を癒す方法も、考えておかねばならんな……!

「朝から精が出るな。それに、良い太刀筋だ。あの小僧だったクロウが、こんなに強くなるとはな。よし……昨日は任せると言ったが、最終試験だ。今から、手合わせをする」

「願っても無いチャンスですね。アンタには一度も勝ったことがありませんから。どうやりますか?」

「魔力強化による肉弾戦でいこう。ただし、顔はなしだ。出立前に怪我を負わせるわけにいかんし、見栄えも悪いしな」

少し、カチンときた。

「おや?俺に怪我を負わせる自信がおありで?
 昔とは違いますよ。俺こそ、怪我をさせないように気をつけますね。女性の顔に傷をつけるわけにはいきませんから」

「ほう……?言うようになったな……!後悔するなよ!」

「そっちこそな!!」

お互いに魔力を高め、殴り合う!!

「ソラ!ソラ!ソラァ!」

「オラ!オラ!オラァ!」

「ハッ!やるようになったな! 魔力コントロールも完璧に近い!」

「アンタこそ、相変わらずだな!これでも、相当強くなったんだがな!負けはしないが、勝つのも難しそうだ!」

「贅沢な奴だな!私に勝てる奴など、そうそういないというのに!」

「俺は最強を目指す!どんな理不尽なことからも、カグヤを守るために!
 そしてカグヤが願ったのなら、俺は全力を尽くし、それを叶える!!それが、どんなことであろうとも!」

「……いい気迫だ。悔しいが、やはりお前に任せて正解か」

「ちょっと2人共!?いい加減になさい!」

「カグヤか、おはよう。今日も可愛いな。寝癖ついてるぞ?」

「お嬢様、おはようございます。お髪《ぐし》を直しましょうね」

「そ、そうじゃなくて!傷だらけじゃない!」

そう言いながら、こちらに近づいてくる。

「もう!朝から何をやっているのよ!
 この者たちの傷を癒したまえ、ヒール!」

身体が温かいものに包まれる……これは、回復魔法か!

「そういえば言っていたな。使えるようになったと。凄いな!カグヤ!」

「お嬢様、ご成長なさいましたね!私、感激です!」

「もう!大袈裟よ!
 そ、その……当時クロウが怪我ばっかりしていたから、ずっと覚えたいと思っていて……わ、私の所為でもあるしね!」

まあ、たしかに……お嬢様に近づくな!と言われて、傷だらけになっていたな。

「カグヤ……!俺のために……!俺は、なんという幸せ者か!!」

「べ、別にクロウのためだけじゃないから!覚えたら、怪我をした兵士達を治せるかなって……その、王妃として励ませるかなって……でも、意味はなか」

「カグヤ、それは違う。意味がないことなどない。それは、いつの日かきっと役に立つ。
 それに、それはカグヤの努力の証でもある。それを自分で否定してはいけない」

「クロウ……エヘヘ、ありがとう。クロウは、いつだって私の欲しい言葉をくれるのね。私は、いつも勇気付けられるわ」

「そんなのは、お互い様だ。うん、カグヤには笑顔が似合うな。怒った顔も可愛いが、笑顔が1番好きだな」

「ありがとう……クロウ……わ、私!頑張るわ!」

「ん?……よくわからないが、応援するとしよう。俺に出来ることがあれば、なんでも言ってくれ」

「これは……全くもって噛み合っていませんね……前途多難ですか。
 まあ、私にとっては良いことですかね」






そして、いよいよ出発の時間となる。

俺とカグヤはフードを被り、こっそりと裏口に向かう。

見送りは、ヨゼフ様とエリゼだけだ。

「では、クロウ。すまんが、よろしく頼む……!」

「私からも頼む!お嬢様をお守りしてくれ……!」

「2人とも、頭を上げてください。もういいですから。
 これは、俺自らが望んだこと。頼まれなくても、カグヤは俺が守ります。それこそが、俺の喜びです」

「ク、クロウ……そんなにまで……」

俺は馬に乗り、カグヤに手を差し伸べる。

「ほら、行こう。カグヤ、これからもよろしく頼むな」

「そんなのこちらの台詞だわ!ク、クロウ!これからも、私と一緒にいて!!」

「当たり前だろ。今更、何を言うか。言われなくても、一緒にいる」

「……うん!」

カグヤを後ろに乗せ、走り出す。

「クロウーー!!お嬢様を泣かせたら、殺すからなーー!!」

「カグヤーー!!クロウと仲良くやるんじゃぞーー!!」

「もう!2人して!秘密裏にした意味ないじゃない!」

「まあ、そう言うな。2人とも、本来なら側にいたいはずなんだ。
 それに、追い出すようになってしまったことを気にしているはすだ。カグヤ、声をかけてあげな」

「クロウ……うん!
 お父様ーー!!エリゼーー!!2人がいてくれて、私は幸せ者よーー!!また、会える日を楽しみにしいてるわーー!!」

カグヤは手を振りながら、そう応えるのであった。





「クロウ、振り向かないでね……?せ、背中、貸してくれる……?」

「ああ、見ない。俺のでよければ、いつでも貸そう」

「ありがとう……グスッ……ヒック……お父様……!エリゼ……!」

……カグヤを溺愛している2人に託されたこの使命。

必ずや、果たしてみせよう!!

俺の全身全霊をかけて!!