マルグリット王国とは、ベルモンド帝国のほぼ支配下にある。

 小さい国なので、ベルモンド帝国に脅されて、税を納めている。

 払わないと滅ぼすぞと。

 なので、ベルモンド帝国への敵感情は強いが、ムーンライト辺境伯には薄い。

 何故なら、当時のムーンライト辺境伯が国の命令を突っぱねて、多くの税を取らなかったからだ。

 それでは、最悪の場合戦争になるからと。

 そして、国の規模こそ小さいが、精強な軍隊を持っていると。

 戦えば勝てるだろうが、甚大な被害を被ると。

 そして滅ぼすよりは、時間をかけて税を取ったほうが得だと言いくるめたらしい。

 というよりベルモンド帝国が取ろうとしすぎただけであって、辺境伯が普通なだけだ。

 小さい国ではあるが、冒険者の国と言われるほど冒険者ギルドが盛んな国だ。

 魔の森に接していることが大きな要因だろう。

 海にも接していて、割と豊かな国である。

 お国柄も良く、我が国から逃げ出す人が行き着く場所でもある。





「マルグリット王国ですか……何故ですか?」

「ここに、カグヤは来なかった。そういうことにする」

「なるほど……いい考えかもしれませんね」

「え?どういうことなの?」

「カグヤ、辺境伯は時間を稼ぎたい。状況を把握するためと、もしもの時に戦力を整えるために。
 だが、カグヤがここにいることがわかれば、あちらも身柄を引き渡せと要求するだろう。
 幸い、カグヤの姿は市民に見られてはいない。それに、さっきの兵士達にも。俺が上官連中はほとんど殺したし、ただの兵士ではそもそもカグヤの顔も知らないだろう」

「そういうことだ。後は適当に言えばいい。そちらこそカグヤをどうした!?とな。そして抗議する。一体どういうつもりかと。それから判断するとしよう。
 一応、ワシの祖父の代までは皇家とは友好関係にあったし、今ほど酷くはなかった。もっと言えば、我が家に皇家の姫が嫁いだこともあるのだ。もしかしたら中枢で、何かが起きているのやもしれん」

「なるほど……お父様、理解できましたわ。では、私はこのまま皆と会わない方がよろしいですね?」

「そうだな、なるべくその方がいい。カグヤは民に人気があるから、会わせてやりたいが仕方あるまい。使用人にも最小限で済まそう。エリゼ、頼めるか?」

「……まあ、いいでしょう。他ならぬお嬢様のためですし。では、お嬢様。まずは、私と一緒にお風呂に入りましょう」

「え!?も、もう大丈夫よ!1人で入れるわよ!?」

「いえいえ、お疲れでしょうから。私が洗って差し上げましょう」

「カグヤ、付き合ってやれ。そやつは、また会えなくなるのだ」

「……そうよね、エリゼがいないと成り立たないもの。わかったわ、エリゼ。ただ、これからもお父様のことを頼んでも良いかしら?」

「私もついていきたいところですが、仕方ないですね。その代わり、今日は一緒に寝ましょうね」

「わかったわ。そ、その……私も、エリゼに会えなくて寂しかったし……」

「お嬢様……!!感激です!!では、行きましょう!!」

「ちょっと!?引っ張らないでーー!!」

 エリゼに引きずられ、カグヤは部屋から出て行った。

 相変わらずだな……でも、カグヤも喜んでいるからいいかな。

「クロウ、すまない。お主にばかり、苦労をかける。それと最悪の場合……」

「わかっています。もしバレたとしても、俺に全ての罪を着せてください。
 カグヤを連れ去った極悪人だと。そして、兵士達を殺した奴だと。辺境伯家とは関わりがないと。
 カグヤの側に居られるのなら、俺はどんな汚名を被ろうとも構いません。そして、どんな困難だろうと乗り越えてみせましょう」

「そう言ってくれるか……感謝する……!」

「いえ、お気になさらないでください。それで、どのような手はずで行きますか?」

「まず、今日は泊まっていけ。お主にはワシの隣の部屋を貸そう。明日、朝一でこっそりと出て行くのがよかろう。それまでにこちらで準備をしておく。
 ただ、非常に申し訳ないのだが……」

「了解しました。それ以上は結構です。お金はいりません。軍備増強などにも必要でしょう。
 俺がなんとかします。カグヤに、不自由な生活を送らせないことを約束いたします」

「なんと……武力だけではなく、頭の回転も成長していたか。これならば心配はなさそうだ。すまんな……」

「いえ、この剣は貴方に頂いたものです。これがあれば十分です。それに、まだ恩を返しきれていません」

「いい男になりおって……もう、小僧とは呼べないな。では、カグヤを頼む……!」

「お任せを。俺の全てをかけてカグヤをお守りいたします」






 その後、俺も風呂に入り、疲れを癒す。

「ふぅ、いい湯だった。思いの外、疲れていたようだな」

「あれ?クロウじゃない。お互い、サッパリしたわね」

「カグヤ……可愛いな。うん、今すぐ抱きしめたいくらいだ」

 風呂上がりのカグヤは、破壊力抜群だった。
 以前は、そんな余裕がなかったからな。

「な、な、何を………」

「照れた顔も愛らしいな」

「にゃに、にゅってんのにょ!!」

「いや、カグヤこそ何言ってるんだ?」

「おい、クロウ。殺すぞ」

「あれ?いたんですか。カグヤしか目に入りませんでした」

「はぅ……!わ、私もう寝る!おやすみーー!!」

「どうしたんだ?カグヤのやつ……」

「お前は相変わらずか……いいか、わかっているな?」

「ええ、お任せを」

「なら、いい。悔しいが、お前以外には任せられない。お嬢様は隠しているが、深く傷ついている!!お嬢様を頼む……!」

 この人が、俺に頭を下げるとは……。

「顔を上げてください。カグヤは必ずお守りします!!」

 文字通り、俺の全てをかけてな……!