□物語の世界観
・魔法・魔物ありで中世ヨーロッパと同程度の文明レベルを持つ異世界。科学技術の代わりに魔力を基礎とする魔法や魔道具が発展している。
・多くの国で信奉される聖メルグ教会では、各宗派が選んだ「聖女」をたった一人で巡礼に送り出すしきたりがある。おおよそ三年ほどかけて各国を巡り、困っている人を助けるなどの実績を積んで真の大聖女となる。
・聖メルグ教会は多くの国と関係しているが、当然ながら権力争いが存在するため、敵対派閥や有効派閥が存在する。
・魔物食は存在するものの戦争や天災、魔物のせいで食料生産量>人口となっているためそれほど盛んではない。寒村や冒険者、傭兵などが経験則のみで「食べられる魔物」を理解しており、「飢えないために仕方なく食べる」程度の認識。権力者にとっては魔物料理を出されるのは侮辱されるのと同義のような扱い。
・転生者、転移者は各国の勃興に関わる歴史書や教会に納められた神話に出てくるため知られてはいるが、実物を見たことがある者はほとんどいない。内容は千差万別だが、チートスキルがあることも知られている。




□主要キャラクターの説明

〇蓮見・斗真(はすみ・とうま) 21歳 176cm 75kg 黒髪 中肉中背

 理系の大学生。料理が化学変化の塊であることを知ってから料理に目覚め、キャンパーとして一人で山奥に入り食料を現地調達するようになった。久々のソロキャンプで調子に乗ってキノコに手を出し、食中毒を起こし死亡した。死の間際に「食材を見極められれば」「ここで死んだらせっかくそろえたキャンプ道具が」と考えたことでチートスキル『食材鑑定【極】』『キャンプセット』を手に入れた。
 異世界で知り合ったリィルが腹を空かせているのを見て料理を振舞ったことがきっかけで旅に誘われ、一緒に行動するようになる。

 物事をドライに考えるタイプの人間であるため、周囲の感情に振り回されることに疲れてソロキャンプをしている。人間関係や立場、損得勘定など、本来の目的から外れた理由で理不尽を被るのが嫌い。
 一方で周囲に人がいないことをさみしくも思っており、感情を素直に表現するリィルに好感を抱き、うらやましくも思っている。
 屁理屈とドライな理系思考でトンデモ料理を作る。全部美味しいのがむしろ問題で、リィルが幸せそうに食べてるところを見たくて割と無理やり食べさせている。



〇リィル  15歳 155cm 44kg 銀糸にアメジストを溶かしたような髪色 Aカップ→Dカップ

 聖メルグ教会の聖女の一人。清貧を尊ぶ教会の教えを受け、まっすぐに育った少女。心優しいが、まっすぐ過ぎて人を疑うことを知らない。類まれなる魔法の才を持っており「魔術師を目指すならば宮廷で召し抱えられるだろう」とまで言われた。自分が教会内部で大切に育てられてきたことを自覚しているため、知識や経験が偏っていたり乏しかったりすることを少々気にしている。

 そのためさまざまな知識を持ち、ロジカルな思考をするトーマを「頭が良い人」と尊敬している。

 巡礼の旅はその知識・経験不足を補う意味もあったが、リィルの場合は規格外の魔術素養があったために人一倍知識も経験も乏しく、行き倒れることとなる。

 教会内ではふすま入りのパンや全粒粉のパスタがメインだったため、美味しいものに飢えており、トーマが作るある種ゲテモノにも近い未知の料理も最終的には我慢できずに食べてしまう。栄養状態が改善されたことで胸が急成長した。

 トーマの料理の被害者(?)。涙目になりながら意味不明なものを食べさせられる係。毎回美味しくてお腹いっぱいになるまで食べてしまうのがまた問題。いくら食べても(胸以外は)太らない体質。


〇ハボック 67歳 172cm 63kg ロマンスグレーをオールバックにしたやせ型の好々爺 眼鏡

 聖メルグ教会の枢機卿でリィルの後見人。幼いころからリィルを指導していたこともあり、孫のようにかわいがっている。
 穏やかな物腰の人格者だが、やや思い込みが激しいところがある。

 箱入りで世間ずれしているリィルを巡礼の旅に出すことを渋っていたものの、本人が魔術的に素養があり基本的に魔物ごときには負けないことと、本人の強い希望もあって許可を出した。が、ずっと心配している。



〇上位貴族(仔細未設定)
 ハボック(聖メルグ教会)と政治的に敵対する派閥の貴族。
 ハボックの脚を引っ張るために毒性の強い魔物を食材に指定した。

〇国王(詳細未設定)
 悪人ではないが、賢君でもない。
 教会勢力と貴族との対立に手を焼いている。



□見どころ
・グルメ:魔物食材をがっつりしっかり取り入れて作られる美味しそうな料理
・掛け合い:なんとしても食べさせたいトーマと、涙目になりながらもおっかなびっくり食べさせられながらも満腹になるまで食べてしまうリィルとの会話劇
・とにかく可愛いヒロイン:涙目が可愛い! 理性と食欲のはざまで揺れるところが可愛い! パクパク食べるところが可愛い! 満足そうにしているのが可愛い! 可愛い胸が成長していく!
1.にわか知識は事故の元
 大学で缶詰になっての研究を終えた蓮見・斗真は久々のソロキャンプに赴いていた。バイト代をはたいて買ったキャンプ道具に囲まれ、大自然の中で料理に舌鼓を打つつもりだ。が、目当ての川魚が一向に釣れず、キノコに手を出してしまい、食中毒に倒れる。

「食材を見極められれば」「ここで死んだらせっかくそろえたキャンプ道具が」錯乱状態の斗真がそんなことを思って意識を失う直前、頭の中に声が響く。

——要請を受諾。スキル『食材鑑定【極】』『キャンプセット』を付与します。

 そして目覚めれば森の中にいた。空に浮かぶ二つの月、地球には存在しない生命体、行き倒れたシスター……異世界だと判断したトーマはとりあえず行き倒れシスターのために料理を始める。『食材鑑定【極】』『キャンプセット』で調理したのは茹でスライム麺の鶏出汁風味だ。

 良い匂いに釣られて目を覚ましたシスターはあっという間にそれを平らげる。美味しいものを頬張り喜色満面に溢れたシスター……リィルは自分が聖女として巡礼の旅に出て行き倒れたことを説明する。十分に人助けをしたのだからここで別れるべきだというロジカルな判断とは裏腹に、自分の料理で幸せそうにとろけるリィルをもっと見たいとも思ったトーマ。

「ここで出会ったのも神の御導きです。しばらくご一緒しませんか?」

 リィルに誘われ、トーマは言葉に詰まる。

「何か目的があって旅をされていたのですか?」
「ああ、いや……そうだな。しいて言うなら、食べたことないものを食べてみたい、かな」

 魔物という未知の食材に惹かれたトーマの耳に、きゅう、とリィルの腹が可愛らしく鳴ったのが聞こえた。

「こ、これは違います! 違うんですよトーマさん!」
「ああ、そうだな……夕飯は何が食べたい?」
「できれば暖かいスープが……って違うんですー!」

二人は美味しいものを求めて旅を始める。


2.ダッチオーブン

 食材鑑定や料理はお手の物だがまったく戦えないトーマに代わり、リィルが魔物を討伐しながら進んでいた。

「えっと、トーマさん? 何で倒した大ネズミを抱えてるんですか?」
「夕飯の材料にしようと思って」
「待ってください! ネズミですよ!? 苔が生えた灰色の体毛を見てください! どう考えても食べられる見た目じゃないです!」
「リィル……大切なのは見た目じゃなくて中身だろ? 神様は信徒を見た目で差別するのか?」
「そ、それはそうですが……ってそうじゃないですよ! 良い話っぽくまとめないでください!」
「大丈夫だ。食べられそうな山菜とか野草もゲットしてあるから」
「山菜とか野草があってもネズミが大丈夫な理由になりませんよ!?」
「まぁ落ち着けって」

 愛用のダッチオーブンとキャンプセットの調味料でスープを作るトーマ。
 複雑な表情をしていたリィルだが、口を付けたトーマの「美味しい」という言葉を信じてスープを口に運ぶ。

「あっ……仄かな甘みと旨味が……!」
「ネズミの脂だな」
「ネズミって言わないで下さいっ!」
「お代わりいるか?」
「………………要ります」

 リィルの常識が全力でブレーキをかけてもトーマの好奇心は一向に止まらない。

「た、食べ過ぎました……苦しいです」
「ネズミの体毛に生えた苔な。整腸剤になるらしいぞ?」
「い、嫌です。絶対に嫌です……!」
「香りも爽やかだし、大丈夫だよ。騙されたと思って」
「本当に騙されてるだけな気が——ムグッ」
「あー、ちょっと酸っぱいな。あと口の中がスースーする」
「……」
「どうしたリィル」
「…………なんかスッキリしました」
「良かったな。あと助けてもらったのに人を睨むもんじゃないぞ?」
「あっ、それは失礼しました……ってそうじゃないです! 乙女の口の中にネズミの苔を放り込むのってどうかと思いますよ!?」
「俺の世界では、緊急事態の医療行為は罪にならないんだ」
「何で良い笑顔なんですかー!?」


3.寒村の御馳走

 とある寒村にたどり着いたトーマたちは、魔物が村で暴れたせいで食糧庫が壊れ、冬を越せないと嘆く村民たちを見つけた。
 とりあえずの治療を行ったリィルは、村民を助けられないかトーマに訊ねる。

 自分たち無しでも生きていけるよう保存食を作ったり食材を探したりする、と動き始めるトーマ。

「ヒトクイウツボットなんてどうするんですか!?」
「アレの消化液……蜜は結構な糖度があるらしい。煮れば酸は飛ぶから、ジャム的な瓶詰が作れるだろ」

「トーマさん、大変です! 折角借りた空き家が火事に!」
「燻製だよ。冷蔵庫なしで肉や魚を保存するのに編み出された技術だ」

「スライムなんて捕まえてどうするんですか!?」
「ここで養殖する――エサは残飯とか雑草で良いし、干して切れば乾麺になるだろ」

 常識にとらわれないトーマのお陰で食料らしきものが出来上がる。
 誰も見たこともない食材と調理法を使っており、食べられる気がしないという問題点が残ったが、トーマはあっさりそれも解決する。

「わ、私が食べて見せるんですか!? コレを!?」
「大丈夫だ。美味いから」
「でもでもでも! これってヒトクイウツボットの蜜煮ですよね!? 食べた瞬間唇が溶けたりとか——」
「大丈夫だ。多分解けないし、どっちにしろ回復魔法は得意だろ?」
「多分ってなんですかー!?」
「多分って確信して断言できるほどじゃないが、経験や論理から導き出された推論ではそうなるだろう、という推量だ」
「トーマさん、頭いいですね……じゃないっ! そういうことを聞いてるんじゃありません!」
「ほら、この後燻製とスライム乾麺が待ってるんだからさっさと食べて」
「お、おざなり……! これでも私、聖女なんですよ!」
「村民が飢えないよう身体を張るなんてご立派です」
「こんな時だけー!!」



(基本的には一話完結型のグルメものベースですが、以下に大まかなストーリー構成を記述します)

冬を前に寒村を救ったトーマたちは、冬の魔物に舌鼓を打ちながら旅を続けていた。
聖女(魔術師)としては高い力量を持ちながら箱入りで世間ずれしているリィルを心配したハボック枢機卿が、リィルが寒村を救った噂を聞きつけて会いに来る。

「魔物食を聖女に強いるとは何事か!」と憤慨し、胸が大きくなったことから幼気なリィルを騙して良からぬことを致している、と邪推するハボックだが、トーマの料理を食べるリィルを見て、自らも実食することを決意する。
筆舌に尽くしがたいほどの美味しい料理を口にしたハボックは魔物食に関する考えを改めた。リィルは寒村を救ったことが認められ大聖女となる準備に取り掛かるため、トーマは魔物食を普及させための伝道師として王都に呼ばれる。

国王や上位貴族が納得する料理を作ってくれ――そう依頼されたトーマだが、ハボックと仲の悪い上位貴族が横やりを入れ、指定された魔物で料理を作ることになる。
指定されたのは全部位に毒を持った魔物ばかりだった。

御前料理に毒が出ればトーマは処刑されてしまうが、わざわざ無理をいって予定をねじ込んだのに「できませんでした」となればやはり社会的に抹殺されてしまう。

トーマの実力(と魔物食の美味しさ)を認めようとしないばかりか政争の道具にしようとしたことに憤慨したリィルは、聖女の力を使って全力で食材を解毒・浄化する。
料理人や貴族、国王を納得させたトーマとリィルは賞賛される。

が、自分たちをくだらない権力闘争に巻き込んだことや、本来は人を救うはずの聖女に食事の解毒をさせたことに対してトーマは激怒し、争う枢機卿と上位貴族、そしてそれを諫められない国王に説教をしてしまう。

「さて……不敬罪で縛り首になる前にトンズラするか」
「せっかくだから南に生きましょう! きっと美味しい魔物……じゃなかった、困っている人がたくさんいると思うんです!」
「リィル! いいのか!? 俺と一緒に逃げたら、お前まで——」
「大丈夫ですよ、ホラ」

 リィルの手には、国王と枢機卿の連名でトーマを”食の聖人”に任命する旨をしたためた書状が握られていた。

「トーマさんの言ってたことが正論過ぎて、誰ひとり反論できませんでしたからね。反省したみたいですよ?」
「それで、リィルは? 大聖女になるんじゃないのか?」
「聖女として、聖人様の下で更なる修養を積むって言ってきました」
「……さようか」
「あっ、あとコレ。ハボック枢機卿からです」

 封蝋が押された手紙には、「食の聖人としては尊敬しているがリィルに手を出したらおっぱいの聖人として歴史に名を刻んでやる」と書かれていた。魔物食に関する誤解は解けたものの、リィルの胸が成長した件はガッツリ疑われたままだった。

「ご、誤解を解きに行くぞ!」
「何言ってるんですか。旬の食ざ――ごほん。困っている人たちを待たせることなんて出来ません! 行きますよ!」

 こうして二人は再び美味しい魔物探し——それから困っている人を助ける旅に出た。

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