――一方その頃母国では。
ちょうどアルドが魔獣と対峙している頃。
王城の一角、とある廊下にはイライラしながら歩いているシンが居た。
原因は、手に持った沢山の分厚いファイルだ。
書類が閉じられたそのファイルは、重さが最早平気で筋トレレベル。
それを離れた資料室まで運ぶこの仕事は、体力仕事が大の苦手な彼にとって最悪の相性だ。
「そもそも、だ。資料室と執務室の間が遠いんだよ、この城は」
本当に、文官に優しくない造りになってる。
文官に対する嫌がらせか、さもなくば俺達の体力の無さを甘く見ているか。
もうそうとしか思えない状態だ。
もう本当に、思わず出るため息を垂れ流しにせざるを得ない。
なんて事を思いつつ、廊下を歩いていた時だった。
「おぅ、シンじゃないか?」
後ろから、そんな声が掛けられる。
振り返ると、そこには立派な白い顎鬚を蓄えた騎士服姿の男が居た。
一目で分かる鍛え抜かれた体躯に加え、只者じゃない存在感。
それに加えて堂々とした立ち居振る舞いともなれば、おそらく萎縮しない者は居ない。
が、何事にも例外はある。
「レングラムさん。珍しいですね、貴方がこんな所に居るなんて」
「なに、たまには私も書類仕事もせねばならん」
全く恐れる事も無くシンは彼にそう言えば、彼はワハハと笑いながらそんな風に言葉を返した。
しかし今の言はおかしい。
彼は書類仕事をしなければと言っているが、ここはもちろん執務室じゃない。
そう、つまり。
「レングラムさん、さてはまた書類が机に積みあがり過ぎて副官に怒られたんですね? しかも、すぐに飽きて現在は休憩と称して逃亡中」
そういう事でしょ。
疑問ではなく最早確認じみた風に言うと、彼は口を尖らせて「どうしてお前はそういつも、バッチリと当ててしまうんだ……」と言ってくる。
「今の俺にはお説教をしたばかりなのに、もうこうして逃げた隊長を探さなければならない副官の苦労さえ良く分かりますよ。それと全然可愛くないですから、年甲斐もなく口を尖らせるの止めてください」
「ワハハハハハッ、冷たい所まで相変わらずだなぁー!」
豪快過ぎる笑い声な、周りの人達の視線を集めた。
しかし声の主に気が付くと、みんなすぐにまるで何事もなかったように仕事に戻る。
「で、シンは資料運びの途中なのか?」
「そうですよ。ですからレングラムさんが手を貸してくれるというなら、私としても吝かでは――」
「お前は元々基礎体力が圧倒的に足りておらんしな。鍛える為には、むしろ足らんくらいだろう」
その声に、シンは「はぁ」と思わずため息を吐いた。
レングラムの理想は人のそれよりかなり高いからちょっとばかし迷惑だ。
「一介の文官を騎士のソレと比べないでくださいよ」
「そんなもんには当てはめとらん。私から言わせれば、アルドももっと鍛えた方が良いくらいだ」
「それじゃぁ騎士基準以上でしょうが。もっと悪いわ」
この国の王族にしては、アルドはきちんと鍛えてた方でしょう。
シンがそう続ければ、レングラムは「まぁそれはそうだがな……」とちょっと不服そうにする。
「アイツには剣の才能があったのだ。なのに『王太子』だというだけで、必要最低限の鍛錬時間以上のものは取れなんだ。これほど勿体ない事は無い」
「まぁアルドは神から『剣士』の祝福を受けていますから、そりゃぁ素質はあったでしょうが」
「鍛錬に耐えうる精神もあった。お前なんぞ鍛錬がキツイとすぐに逃げて……」
「ゲブンゲブン」
このまま行けば「今からでもいい、お前のその精神性を鍛え直してやろう」とか言い出しそうだ。
そう思って懸命に、咳払いで聞こえていないふりをする。
運動神経が皆無に近いシンにとって、鍛錬は本当に苦行でしかないのだから仕方がない。
と、ここでレングラムがおもむろに「おぉそうだった!」と言って手をポンッと叩く。
「アルドと言えば、あやつ謁見後すぐに出ていったそうではないか。しかも馬車を辞去した上で。どこまでも不器用というか、愚直なヤツよ」
「あぁまぁ確かに徒歩で出ていきましたが、あれってアルドが断ったんですか?」
「噂ではそうらしいな。たしか『平民が王城の馬車に乗る資格など無いから』と……って、何? まさかシン、アルドの事を見送ったのか?!」
「本人は何も言わずに出ていこうとしていましたけどね」
薄情な奴ですよ。
そう言いつつ遠回しに肯定すれば、レングラムも「はぁ」と深いため息を吐く。
「変な所で気を使うからな、あやつは」
「同感です」
「しかしそれにしても……それならば何故私を呼びに来なかった?! 挨拶したかったのに!!」
「だから口尖らせないでくださいってば、気持ち悪い」
そのいかつい日焼け顔で可愛いアピール、ホントに辞めてほしい。
そんな気持ちを前面に押し出して顔を顰めたシンだったが、レングラムは動じない。
まぁこれもいつもの事なのであまり気にしないとして、だ。
「どちらにしても、アンタを呼びに行ってたら多分間に合いませんでしたよ」
そのくらいタイミング的にはギリギリだったとシンは言う。
あの時シンは「アルド殿下が王族から平民に落ちるらしい」「それでか。さっき平民着で城外に向かって歩いてるところを見たぞ」という話を聞くと同時に、持っていた書類を全部ポイッと投げ出して、滅多にしない全力疾走したのである。
寄り道なんてしていたら、間違いなく無駄走りになっていたに違いない。
そうでなくともアルドを見送った後で元の場所まで戻っていって、モノの見事に散乱した書類達を拾うのに時間を食った上にその所業が上司にバレてお説教を食らったんだから、間に合わなければ割に合わない対価だった。
「事のあらましは聞いたが……あれはアルドが正しかったんだろうになぁ」
「その点については保証しますよ」
だってアルドが初期段階で王に見せた証拠群を揃えるのには俺も陰で手伝ってたから……とは流石に口に出さなかったが、その辺はシンが小さな頃から親戚の叔父さんよろしく面倒を見てきたレングラムである。
察するところはあっただろう。
「……シンよ。正直この国、お前は今後どうなると予想する?」
「まぁアルドが居なければ回らない事や、そもそも始まらない事があったでしょうから、今後は上手く行っても緩やかに衰退……といったところじゃないですかね?」
「あぁ確かアルドは国民に向けた政策関係に主に力を入れてたからなぁー」
思い出すようにレングラムがそう言って、それにシンも「うんうん」と頷く。
この国の法律は、わりと下々の思想や自由を制限するものが多い。
それはこの国の昔からの気質であり別に今の国王のせいではないのだが、国民にとってはそんな事は関係無い。
今感じている不満は必然的に、今の体制へと向けられる。
そんな中、国民に寄り添う政策を新たに取ろう尽力していたのが誰でもないアルドだった。
確かにアイツは裏工作をどうしようもなく苦手としていて、自分の周りの者達にもそれを禁止していたような甘ちゃんだけど、その分叩いてもホコリが出る心配は無いし国民たちの支持も高かった。
アイツが居なくなった穴は、誰にも埋める事は出来ない。
そんな予感がシンにはある。
アルド程、国民目線で物を考えそれが成せる気概と能力と権力を持っているヤツなんてそうそう居ない。
だから今後、アイツを追い出した国の未来は仄暗い。
「それでシン、どこに行くと言っておった」
と、シンの思考をレングラムが横からぶった切ってくる。
しかしそんな彼のちょっと空気が読めない所はいつもの事だ、シンもあまり気にしない。
「聞いてませんよ、そんな事。まぁアイツも子供じゃぁないんですし、ずっと重荷背負って窮屈な思いをしてたんだ。ちょっとくらい嵌めを外したっていいでしょう。ちゃんと『手紙書け』って言っときましたから、じきにどこに居るか分かりますよ」
届いたらレングラムさんにも見せますから。
シンがそんな風に告げれば、彼は「うぬぅー……」と唸りったもののそれ以上の不平は言わない。
「まぁアイツの腕ならばそんじょそこらの魔物相手くらい一捻りだろうし、あまり心配はしておらんが」
「アルドの腕はある程度知ってましたが、獣じゃなくて魔物までとは……アイツも存外化け物だな」
守られる立場だったくせにレングラムの指導のお陰かせいか、どうやらいっぱしの騎士以上の事が出来るらしい。
まぁこの国の随一の剣の使い手であり騎士団長でもある彼が言うんだから、アルドの実力に間違いはないんだろうけど。
「……って、あれ? アルドって魔物戦闘したことありましたっけ?」
「いや、一度だけ同行させた事があるが見ていただけだな、その時は」
え、それ大丈夫なのか?
シンがそう思っていると、レングラムがニヤリと笑って「しかし」と続ける。
「その時に隣で一通りのノウハウは教えたし、元々アイツの戦闘力は群を抜いてたからな。大丈夫だろ」
「貴方がそう言うんなら、俺に異論の余地は無いですけどね……でもアイツ、大丈夫かな」
「何がだ」
「だってアイツの手合わせの相手って、いつもレングラムさんだったでしょ? 自分の実力がどの程度なのか、ちゃんと把握してないんじゃぁ……」
「あぁまぁ負けるという事は無いだろうが、勝ち《《過ぎる》》という可能性は確かにあるのか」
ホント、大丈夫かなぁ。
そんな風に思いながら、シンがゆっくりと天を仰いだ。
その頃彼が想いを馳せる相手といえば、運悪くガイアウルフの亜種に出逢っちゃうどころか、守るモノを背中に隠して真っ向から対峙中なんていう割と修羅場な状況だったが、彼がそんな事を知る筈も無い。
ちょうどアルドが魔獣と対峙している頃。
王城の一角、とある廊下にはイライラしながら歩いているシンが居た。
原因は、手に持った沢山の分厚いファイルだ。
書類が閉じられたそのファイルは、重さが最早平気で筋トレレベル。
それを離れた資料室まで運ぶこの仕事は、体力仕事が大の苦手な彼にとって最悪の相性だ。
「そもそも、だ。資料室と執務室の間が遠いんだよ、この城は」
本当に、文官に優しくない造りになってる。
文官に対する嫌がらせか、さもなくば俺達の体力の無さを甘く見ているか。
もうそうとしか思えない状態だ。
もう本当に、思わず出るため息を垂れ流しにせざるを得ない。
なんて事を思いつつ、廊下を歩いていた時だった。
「おぅ、シンじゃないか?」
後ろから、そんな声が掛けられる。
振り返ると、そこには立派な白い顎鬚を蓄えた騎士服姿の男が居た。
一目で分かる鍛え抜かれた体躯に加え、只者じゃない存在感。
それに加えて堂々とした立ち居振る舞いともなれば、おそらく萎縮しない者は居ない。
が、何事にも例外はある。
「レングラムさん。珍しいですね、貴方がこんな所に居るなんて」
「なに、たまには私も書類仕事もせねばならん」
全く恐れる事も無くシンは彼にそう言えば、彼はワハハと笑いながらそんな風に言葉を返した。
しかし今の言はおかしい。
彼は書類仕事をしなければと言っているが、ここはもちろん執務室じゃない。
そう、つまり。
「レングラムさん、さてはまた書類が机に積みあがり過ぎて副官に怒られたんですね? しかも、すぐに飽きて現在は休憩と称して逃亡中」
そういう事でしょ。
疑問ではなく最早確認じみた風に言うと、彼は口を尖らせて「どうしてお前はそういつも、バッチリと当ててしまうんだ……」と言ってくる。
「今の俺にはお説教をしたばかりなのに、もうこうして逃げた隊長を探さなければならない副官の苦労さえ良く分かりますよ。それと全然可愛くないですから、年甲斐もなく口を尖らせるの止めてください」
「ワハハハハハッ、冷たい所まで相変わらずだなぁー!」
豪快過ぎる笑い声な、周りの人達の視線を集めた。
しかし声の主に気が付くと、みんなすぐにまるで何事もなかったように仕事に戻る。
「で、シンは資料運びの途中なのか?」
「そうですよ。ですからレングラムさんが手を貸してくれるというなら、私としても吝かでは――」
「お前は元々基礎体力が圧倒的に足りておらんしな。鍛える為には、むしろ足らんくらいだろう」
その声に、シンは「はぁ」と思わずため息を吐いた。
レングラムの理想は人のそれよりかなり高いからちょっとばかし迷惑だ。
「一介の文官を騎士のソレと比べないでくださいよ」
「そんなもんには当てはめとらん。私から言わせれば、アルドももっと鍛えた方が良いくらいだ」
「それじゃぁ騎士基準以上でしょうが。もっと悪いわ」
この国の王族にしては、アルドはきちんと鍛えてた方でしょう。
シンがそう続ければ、レングラムは「まぁそれはそうだがな……」とちょっと不服そうにする。
「アイツには剣の才能があったのだ。なのに『王太子』だというだけで、必要最低限の鍛錬時間以上のものは取れなんだ。これほど勿体ない事は無い」
「まぁアルドは神から『剣士』の祝福を受けていますから、そりゃぁ素質はあったでしょうが」
「鍛錬に耐えうる精神もあった。お前なんぞ鍛錬がキツイとすぐに逃げて……」
「ゲブンゲブン」
このまま行けば「今からでもいい、お前のその精神性を鍛え直してやろう」とか言い出しそうだ。
そう思って懸命に、咳払いで聞こえていないふりをする。
運動神経が皆無に近いシンにとって、鍛錬は本当に苦行でしかないのだから仕方がない。
と、ここでレングラムがおもむろに「おぉそうだった!」と言って手をポンッと叩く。
「アルドと言えば、あやつ謁見後すぐに出ていったそうではないか。しかも馬車を辞去した上で。どこまでも不器用というか、愚直なヤツよ」
「あぁまぁ確かに徒歩で出ていきましたが、あれってアルドが断ったんですか?」
「噂ではそうらしいな。たしか『平民が王城の馬車に乗る資格など無いから』と……って、何? まさかシン、アルドの事を見送ったのか?!」
「本人は何も言わずに出ていこうとしていましたけどね」
薄情な奴ですよ。
そう言いつつ遠回しに肯定すれば、レングラムも「はぁ」と深いため息を吐く。
「変な所で気を使うからな、あやつは」
「同感です」
「しかしそれにしても……それならば何故私を呼びに来なかった?! 挨拶したかったのに!!」
「だから口尖らせないでくださいってば、気持ち悪い」
そのいかつい日焼け顔で可愛いアピール、ホントに辞めてほしい。
そんな気持ちを前面に押し出して顔を顰めたシンだったが、レングラムは動じない。
まぁこれもいつもの事なのであまり気にしないとして、だ。
「どちらにしても、アンタを呼びに行ってたら多分間に合いませんでしたよ」
そのくらいタイミング的にはギリギリだったとシンは言う。
あの時シンは「アルド殿下が王族から平民に落ちるらしい」「それでか。さっき平民着で城外に向かって歩いてるところを見たぞ」という話を聞くと同時に、持っていた書類を全部ポイッと投げ出して、滅多にしない全力疾走したのである。
寄り道なんてしていたら、間違いなく無駄走りになっていたに違いない。
そうでなくともアルドを見送った後で元の場所まで戻っていって、モノの見事に散乱した書類達を拾うのに時間を食った上にその所業が上司にバレてお説教を食らったんだから、間に合わなければ割に合わない対価だった。
「事のあらましは聞いたが……あれはアルドが正しかったんだろうになぁ」
「その点については保証しますよ」
だってアルドが初期段階で王に見せた証拠群を揃えるのには俺も陰で手伝ってたから……とは流石に口に出さなかったが、その辺はシンが小さな頃から親戚の叔父さんよろしく面倒を見てきたレングラムである。
察するところはあっただろう。
「……シンよ。正直この国、お前は今後どうなると予想する?」
「まぁアルドが居なければ回らない事や、そもそも始まらない事があったでしょうから、今後は上手く行っても緩やかに衰退……といったところじゃないですかね?」
「あぁ確かアルドは国民に向けた政策関係に主に力を入れてたからなぁー」
思い出すようにレングラムがそう言って、それにシンも「うんうん」と頷く。
この国の法律は、わりと下々の思想や自由を制限するものが多い。
それはこの国の昔からの気質であり別に今の国王のせいではないのだが、国民にとってはそんな事は関係無い。
今感じている不満は必然的に、今の体制へと向けられる。
そんな中、国民に寄り添う政策を新たに取ろう尽力していたのが誰でもないアルドだった。
確かにアイツは裏工作をどうしようもなく苦手としていて、自分の周りの者達にもそれを禁止していたような甘ちゃんだけど、その分叩いてもホコリが出る心配は無いし国民たちの支持も高かった。
アイツが居なくなった穴は、誰にも埋める事は出来ない。
そんな予感がシンにはある。
アルド程、国民目線で物を考えそれが成せる気概と能力と権力を持っているヤツなんてそうそう居ない。
だから今後、アイツを追い出した国の未来は仄暗い。
「それでシン、どこに行くと言っておった」
と、シンの思考をレングラムが横からぶった切ってくる。
しかしそんな彼のちょっと空気が読めない所はいつもの事だ、シンもあまり気にしない。
「聞いてませんよ、そんな事。まぁアイツも子供じゃぁないんですし、ずっと重荷背負って窮屈な思いをしてたんだ。ちょっとくらい嵌めを外したっていいでしょう。ちゃんと『手紙書け』って言っときましたから、じきにどこに居るか分かりますよ」
届いたらレングラムさんにも見せますから。
シンがそんな風に告げれば、彼は「うぬぅー……」と唸りったもののそれ以上の不平は言わない。
「まぁアイツの腕ならばそんじょそこらの魔物相手くらい一捻りだろうし、あまり心配はしておらんが」
「アルドの腕はある程度知ってましたが、獣じゃなくて魔物までとは……アイツも存外化け物だな」
守られる立場だったくせにレングラムの指導のお陰かせいか、どうやらいっぱしの騎士以上の事が出来るらしい。
まぁこの国の随一の剣の使い手であり騎士団長でもある彼が言うんだから、アルドの実力に間違いはないんだろうけど。
「……って、あれ? アルドって魔物戦闘したことありましたっけ?」
「いや、一度だけ同行させた事があるが見ていただけだな、その時は」
え、それ大丈夫なのか?
シンがそう思っていると、レングラムがニヤリと笑って「しかし」と続ける。
「その時に隣で一通りのノウハウは教えたし、元々アイツの戦闘力は群を抜いてたからな。大丈夫だろ」
「貴方がそう言うんなら、俺に異論の余地は無いですけどね……でもアイツ、大丈夫かな」
「何がだ」
「だってアイツの手合わせの相手って、いつもレングラムさんだったでしょ? 自分の実力がどの程度なのか、ちゃんと把握してないんじゃぁ……」
「あぁまぁ負けるという事は無いだろうが、勝ち《《過ぎる》》という可能性は確かにあるのか」
ホント、大丈夫かなぁ。
そんな風に思いながら、シンがゆっくりと天を仰いだ。
その頃彼が想いを馳せる相手といえば、運悪くガイアウルフの亜種に出逢っちゃうどころか、守るモノを背中に隠して真っ向から対峙中なんていう割と修羅場な状況だったが、彼がそんな事を知る筈も無い。