「――という訳で、結局クイナちゃんを連れて戻って来た、と」
「はい……」
あの後クイナと2人で手を繋いで宿屋『天使のゆりかご』へと帰り、お腹一杯ご飯を食べて幸せそうに爆睡中のクイナを部屋に置いたまま、俺は下へと下りてきていた。
座るのは勿論いつものカウンター席で、話し相手はズイードだ。
この前クイナのような子の引き取り先について聞いた時、マリアと一緒に彼も居た。
だから彼も、既にクイナと俺の間に何の血縁も無ければこの前会ったばっかりのただの行きずりでしかない事だって知っている。
「それにしても、全然驚かなかったですけど」
俺がそう言えば、彼が瞳で「何が?」と聞いてくる。
「いえ、ですから今日俺達が教会に行く事は知ってたのに、2人して戻ってきても特に動じてなかったから、何でかなって」
「あぁそれは」
酒をチビッと口に付けながらそう聞けば、ズイードは小さく笑ってこう言った。
「多分2人で帰ってくることになるだろうって思ってたからね」
だからちゃんとクイナちゃん分の特性プリンもちゃんと用意してただろう?
そう言われて、「そういえば確かに」と思い出す。
多分今日の食卓もいつも通りだったお陰でどうやら危機感を覚えてしまったらしいクイナからの拘束も緩まって、寝静まった今こっそり酒を楽しめるという訳だ。
そう思えば、ズイードのいつも通りには最早感謝しかないな。
「……クイナに泣かれちゃいました」
「うんそうだろうね」
酒を呷ってポツリとそう言葉を零せば、彼は優しく頷いてくれる。
「俺に『アルドはどう思ってるの?』って」
「クイナちゃんは強いねぇー」
「もし俺があの時『ここに居た方が良い』って言ったら……」
「君の言葉を優先したんじゃないかなぁ。そういう子じゃない?」
そうかもしれない、と思った。
俺が気持ちを伝えきるまで、彼女はちゃんと待っててくれた。
色々な思いがあっただろうに、ずっと堪えてくれていた。
だから。
普段は騒がしくて直情的で、面白そうなものや美味しそうなものを見つけたらまるでイノシシみたいに突っ込んでいく。
それがクイナの素なんだろうけど、思えば彼女は星になった母親の意志を継いで一人で、この国まで歩いて来ようという猛者だった。
あの年で既にそれが出来ちゃう子なんだから、きっともし俺があそこで一線引いたらクイナは我慢しただろう。
そうならなくて、良かったと思う。
そうさせなくて、良かったと思う。
「もしかすると、今日の選択をいつか後悔する日が来かもしれないけど」
でも、それでも。
「もうこの先、本当に望む事を我慢させたくはないよなぁー……」
そんな言葉をポロッとズイードに吐き出した。
勢いとか、彼が醸し出してる「とりあえず全部吐き出しとけ」みたいな空気とか。
そんなものが滑り出しやすくさせた本音を、ズイードは「うんうん」と聞いてくれる。
だから俺は――。
「でねぇー、ズイードさぁん。あれっ、聞いてますぅ? ズイードさぁん……」
「はいはい聞いてるよ。っていうかめっちゃ酔ってるね」
口が滑り酒が進み、その結果飲んだくれた。
もしかしたらほぼ毎日飲んでいたアルコール類をほぼ1か月ぶりに飲んだからなのかもしれないし、王太子という地位を捨てて身軽になった今だからこそ何物も気にせず飲めてしまったのかもしれない。
どちらにせよ、人生で初めてここまで酔っ払い、飲んだくれて……。
次の日の朝。
一応自力で部屋まで戻って来たらしい俺は二日酔いのまま目を覚まし、クイナに「なんか臭いのぉー」と言われ、鼻に皺まで寄せられてしまったのだった。