――クイナ視点。


 ご飯を食べて、お腹が幸せでいっぱいになって。
 真っ白なベッドにピョンッと頭から飛び込むと、柔らかな布団に包まれてとっても幸せ気分になったの。

「クイナー? 眠いんならちゃんと布団に包まっとけよー」
「んー……」

 アルドがなんか「風邪引くぞ」とか言ってる。
 しょうがないから言う通りにしておく事にするの。
 
 うーん、あったかいの。
 その上アルドが『ご褒美ナデナデ』なんかするから、もうこの睡眠の誘惑には抗えないのー……。


 このナデナデはとってもクイナを安心させるの。

 だってアルドの手のひらは、いつも教えてくれるから。
 クイナに『大丈夫だよ』って。



 ――大丈夫。
 アルドはいつも、クイナにそう言ってくれるの。

 初めて出会った時も、そうだった。

 お母さんがお星さまになっちゃってから2回寝た次の日の事だったの。
 川の水を飲んで、木の実を食べて。
 ちゃんとお母さんが言ってた通り、ニョッキ山を目指して歩いて。

 寂しかったの。
 怖かったの。
 それでもお母さんは空の上から見てるって言ってたし、「集落には特に近づいちゃいけない。鍋にして食べられちゃうから」とも言っていたの。
 
 だからその言いつけを守って、お母さんの言った通り『ニョッキ山』を目指して頑張ったの。
 

 だけど怖い目をした大きなワンちゃんに追いかけられて、逃げて、逃げて、逃げて。
 それでもずっと追いかけてきて。

 もうダメだって思ったの。
 「お母さん、約束を守れない悪い子でごめんなさい」って、そう思ったの。


 だけどね?

「――もう、大丈夫」

 すぐ近くで大きな音がしたすぐ後に、そんな声が降ってきたの。
 その声がとても優しくて、ふわりとしてて温かくて。
 ギュッと閉じてた目を開けてみたら、そこには大きな背中があって。
 
「俺が助ける、だからそこでじっとしてろ」 

 その声を、クイナは何でか「信用できる」と思ったの。
 だから「一緒に行くか?」と言われて伸ばされた手を、ちゃんと握り返したの。

 クイナの前にしゃがんで「一緒に行けば、多分今より怖くも心細くも無くなる。なんてったって、俺は君より強いしね」って言ったアルドの『大丈夫』を信じる事にしたの。
 


 アルドは色んな事を知ってて、何でも持ってて、ご飯もくれる。
 一緒に居ると、心がホワッなれる人。

 人間だけどクイナを食べちゃったりしないし、とってもとっても『いい感じ』なの。

 
 アルドが居たから、人間の子と話すのも安心だったの。
 だからメルティーと仲良くなれたの。
 メルティーにクイナが獣人だってバレちゃった時も、アルドが「大丈夫」って言ってくれたからこそ大丈夫だったの。

 メルティーとお別れした時は、とっても悲しかったの。
 でもアルドは「またすぐに会える」って、「大丈夫」だって言ってくれたから、きっと本当にまた会えるの!


 お母さんがお星さまになっちゃう前、『お守り言葉』を教えてくれたの。
 お守り言葉は、クイナを守ってくれる言葉なんだって。
 お母さんはお父さんから「愛してる」を貰ったから、お母さんもクイナに「愛してる」をあげるって、そう言ってたの。
 
 クイナは知ってるの。
 「愛してる」は「大好き」っていう意味なんだって。
 だからクイナはあの森の中、一人でも頑張れたの。

 
 でもね? お母さん。
 クイナが持ってるお守り言葉は、もう一つだけじゃないの。
 
 ――大丈夫。

 この言葉は、何度もクイナを守ってくれたの。
 だからこれはアルドがくれたお守り言葉に違いないの!



 アルドはね、多分完璧なんかじゃないの。
 今日だって、串焼きでお口火傷してたみたいだし。

 だけどそれでも別に良いの。
 アルドがダメダメな時には別に、クイナが守ってあげればいいの。

 そうやって一緒に居れば、きっといつでも《《ぬくぬく》》なの。
 《《ぬくぬく》》は最強なの!
 
「……ったく、どうしたもんかなぁーコイツ」

 どこからかそんな声が聞こえてくるの。
 
「最初は俺に『調停者の祝福』があるからなんだと思ってたけど、もしかしてコイツには魅了系の恩恵でもあるのか? 誰に対しても発動させるコイツの無警戒さ、どうにも危なっかしいんだよなぁー……」

 何言ってるのか、良く分からないの。
 でもクイナが皆と仲良くできるのは、アルドが近くに居るからなの。

 アルドが居るから笑えるし、アルドが居るからぐっすり眠れるの。


 そんな言葉は声にならない。

 でも良いの。
 そんなのは、クイナだけが知ってればいいと思うから。