「マツルさん、お待ちしておりました。ギルドマスターがお呼びですので、二階奥の部屋へどうぞ」
2週間振りにギルドへ行くと、すぐに受付のお姉さんから声をかけられ、あれよあれよと言う間に二階の奥の部屋へ案内された。
ギルドマスター? そりゃあ居るか。そうだよな。で、なんでそんな凄い人が俺なんかと会おうとするんだ?
――――まさか! 「魔法が使えないようなクズは私の理想とするギルドには必要無いのですよ......消えろゴミ」
ギ ル ド 追 放 ! !
みたいな感じなのでは!? そこからなんか俺が意外とチートな事にみんなが気付いてなんやかんやあって「ざまぁwwww」を俺が言って俺の事見下してた奴らを全員顎で使って逆に見下す的な展開になるんですか!?
俺には無理だ!! 人の事を見下しつつ顎で人を使ったら顎がしゃくれて水がすくえるようになってしまう!!
それは困る! そうならないようにはどうすれば良いか? 舐められてはいけない!
とりあえず指を鳴らしながらヘドバンしてガンを飛ばすしかあるまいッ!!
「――では、この先でギルドマスターがお待ちです」
めちゃくちゃ豪華かつ重厚な扉がゆっくりと開く。完全に開いてからが勝負だ!
「やあ! 君がマツル君だね! 僕がサラバンド支部、ギルドマスターの――――」
「オウオウオウ!! テメー何ガンつけてくれとんじゃコラァァァ!!!!」
頭が取れる程振れ!! 指の骨が砕ける程鳴らせ!! 目が飛び出る程凝視しろ!! これが俺の舐められない為の奥義じゃあああああ!!!!
「え、ちょ......何!? あの......分かったから! 落ち着いてぇぇぇ!!」
――――
俺は気が触れていた。焦り過ぎてとんでもない失態を犯してしまった......
「ギルドから追放とかじゃなかったんですね...本当にすみませんでした。早とちりでした......」
頭が削れる程の土下座。顔が見れないッ! まじこの一件でクビとかでもおかしくはないだろ......本気でやってしまったかもしれん。
「わかってくれたみたいで良かった。とりあえず顔上げて? ゆっくり話をしようか」
「はい......分かりました...」
俺が顔を上げた瞬間、目に見えない程の速さでギルドマスターの顔が目の前に来た。
何怖い! 速いし! なんかめっちゃじろじろ見てくる!! 何!?
「ふーむ......大陸のどの種族とも顔の感じが違う。それに魔法が使えないという事前情報......君、異世界人だろう?」
ギルドマスターは顔を元の位置に戻した後俺に指を指してそう問うた。
バッ......バレたァァァ!!
どうすんべこれ!? 隠し通せる? 無理くね? この人絶対強いじゃん!! 嘘ついたらその場で処刑とか無きにしも非ずんば虎児を得ずって感じがする! 助けて美人で聡明なナマコ神様!!
『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン! ん~、誤魔化しは効かなそうだし、正直に話しちゃえば~?』
信じるぞ?
『大丈夫だよ~結局人生なんてなるようになるんだから安心してね? もし何かあったらこの私が助けてあげるよ』
俺は浅く深呼吸をした後、椅子に落ち着いて座り、事の顛末を正直に答えた。
「確かに俺は元々この世界の人間ではありません。目が覚めたらなんかこの世界にいて、冒険者として名を挙げたらモテるって聞いて......でも魔法使えなかったら女の子見向きもしてくれなくて......ウゥ...!」
目から大量に汗が出る...俺が汗っつったら汗なんだよ。
「うーん......この世界にいる異世界人は召喚、転移、転生とか色々な方式でやって来るんだけど......みんな何かしらの特殊能力を持ってるんだよね、それがあったら冒険者として有名になる事なんて簡単なんじゃないかな~? って僕は思うんだけども」
「ユニークスキル? 魔法とは違うんですか?」
この世界に来て初めて聞いたなユニークスキル。俺はてっきり魔法の世界でそういう類の物は無いと思ってたよ。
「ユニークスキルっていうのは本来この世界の人間が稀に持って生まれる......まぁ特殊な能力の事だよ。適正と魔力さえあれば誰でも使える魔法とは一線を画す、能力者本人にしか使えない強力な力さ」
なるほど、基本誰でも使える魔法とは違ってユニークスキルは本人にしか備わってない能力なのか。
「それで、異世界人は必ずユニークスキルを持ってるんだけど......君はそれがないの?」
あー、あれか! ナマコ神様から貰ったあの使えない能力!!
えーっと能力名なんて言ったっけ......
「思い出した!! 俺も“魔法の威力を無制限に上げられる”スキル持ってました!」
「おお! いいスキルじゃないか!! じゃあそれを使う前提で君にお願いが――――」
「でも俺魔力が無くてそもそも魔法が使えないから全く意味の無いスキルなんですよね......」
「あ......」
ギルドマスターはゆっくりと俺の後ろへ周り、肩にポンと手を置いた。
本来ユニークスキルと言うのは、魔力の無い異世界人の救済措置的な役割なので、魔力に関連しない物が大半らしいのだが......どうやら俺のは違ったらしい。
「――――どんまい、」
その憐れみを多少含んだ、優しい微笑みが逆に俺の心を深層まで抉った。
◇◇◇◇
「――――傷心の所申し訳ないけど本題に入らせて貰うね」
そうだった、ギルドマスターは俺に聞きたい事があって俺は呼ばれてたんだった。
「俺に聞きたい事......ってなんですか?」
大方予想はついちゃいるけど。
「その顔は僕が何を聞きたいか知ってるって顔だね。もし違ったら恥ずかしいから一応言うけど、【目無しの魔獣】について、で合ってるよね?」
「......目無しの魔獣? あぁもちろんそうですよね。はい、やっぱりそうですか」
あっぶねぇぇぇ! 俺ァてっきりホノラと2人でBランク冒険者を埋めた話かと思ったァァァ!
ボロが出る前に話を合わせておこう。
「それで、マツル君。君が知っている事でいい、僕に全てを教えて欲しい!」
「知ってる事って言われても.....黒い煙みたいなのに目を喰われてたって事くらいしか分かりませんよ?」
「黒い煙......新情報だね。よし! ありがとう!」
え? これだけ? あっさりしてるね。
「――――という事で僕からのギルドマスターとしてのお願いだ」
やっぱり何かあった......俺は知っている。こういうお願いが大体ロクな物じゃ無いと言う事を。
「君がギルドに顔を出さなかった間にも結構“目無しの魔獣”は発見されていてね......でも通常の魔獣よりも圧倒的に強い事からまだ君の2件の他に数件しか討伐報告があがってないのさ。ギルドからも支援するからさ、“第一発見者”の君が、この目無しの魔獣問題を解決してよ!」
「......嫌ですよ!!!!? 俺新米冒険者! 責任重大!」
「もし君が解決出来たら......ランクも爆上がりですごいんだろうなあ......」
「ぐっ...!」
なんでギルドマスターがその事知ってるんだ!? でもこれは流石に無理難題がすぎるってものではなかろうか?
「――――じゃあこうしよう! もし僕と戦って勝つ事が出来たら、この話は無かった事にしてあげる! どう?」
えぇ......こんな条件出すくらいなんだからめっちゃ強いじゃんギルドマスター!
でも、いくらなんでもあれもダメこれもダメは筋が通らないよな......
よし! 今の俺の強さがどの程度の物なのかを推し量るのも兼ねて戦ってみるか!
「――――その話乗った!! 俺が勝っても文句言わないで下さいよ!」
ギルドマスターは「楽しそうだね」とだけ呟き先にどこかへ行ってしまった。
◇◇◇◇
「この前ヤリナとモクナを2人同時に相手取って瞬殺した新人が今度はギルマスと戦うんだってよ!」
「お前どっちが勝つと思う?」
「流石にギルマスだろ!」
「でも俺ァギルマスが直接戦ってる所なんて見た事がないぜ? あの速さがあれば新人もワンチャン―――」
そんな会話があちこちで聞こえる。
俺とギルドマスターはギルド地下にある訓練場に来ていた。何故か外周には観客席が併設されており、そこは大量の冒険者で満員だ。
「なんでこんなに人がいるんですか!?」
「あ~、僕が集めたんだ!」
ギルドマスターはそう言うと俺に文字と魔法陣の書いてある紙を渡してきた。
「えーとなになに?『最強VS最強の大決戦!! 期待の新生マツルVSサラバンド最強その3の男ギルマス! 勝つのはどっちだ!? (裏面に転送用魔法陣が描いてあるので、クエスト中の方もぜひ戻ってご観覧ください)』......」
「これをサラバンド支部の全冒険者に転送したんだ! 僕が最強って所をみんなに見せる為にね!」
目立ちたがり屋すぎるだろ!! 何このギルマスに降り注ぐ声援! なんか『ギルマス勝って!!』って書いてある横断幕出てるし!
ってあの横断幕、持ってるのこの前俺達が助けた女性冒険者の皆さんじゃん!
「マツルーーー!!」
「兄ちゃん!!」
ッ! この声はホノラとメツセイ!?
そうか全冒険者に通達が行ったならアイツらも来てるのか! 俺の応援をしに来てくれたんだ――――
「あんたギルマスってめっちゃ強いらしいのよ!? 今のうちに降参しちゃった方が良いわよー!」
「兄ちゃんアレだ!......怪我だけはしないようにしろよ!」
応援じゃなかったんかいィィィィ!!!!
「なんかこの空気で負けるの腹立つ! 絶対勝ってやるわ!!!!」
「君のそういう心意気が僕は好きだぜ!」
「ルールは一撃でも相手に当てた方が勝利となります! では、用意......初め!!」
そう言って受付のお姉さんが笛を鳴らすと同時、
俺は地面を蹴り、一瞬で俺の間合いにギルドマスターを入れる事に成功した。
一撃で決める!
【居合”四――――!】
「確かに速い......けど、僕の知覚速度からしてみたら遅い方だし、何より君の身体は鉛の様に重そうだよ?」
「何!?」
【世界共有】
なんだ!? 身体が急に重く! これがギルドマスターの魔法!?
「動きが――!」
「それに、その刀とやらの扱いもなってないね。今にもどこかへ飛んでいきそうに見えるよ」
「ふざけんな―――!」
力任せに重い右腕を振り上げると、その勢いのまま俺の刀は手を離れ地面に突き刺さった。
「はぁ!? どういう事だこれッ!」
「これが僕の思う世界......それを君と共有しただけさ」
共有? クソ! 身体がみるみる重くなって......
俺は自分の体重を支えきれなくなり、うつ伏せに倒れ込んでしまった。
そこにギルドマスターは近寄り、俺だけに聞こえる声で耳打ちをする。
「これが僕のユニークスキル【共有】。僕に見えている、考えている世界を君と共有したんだ。これ、みんなには秘密ね?」
なんだよその能力......じゃあギルドマスターが”マツルの身体は重い“と思ったから本当に重くなっちまったのか?
こんなの、せーので戦い始めた時点で俺の負けじゃねぇか...俺もこんな強いスキルが良かったな......あれ、なんかめっちゃ悔しくなってきた。
「ぐっ......負けるかァ...!!」
「そんなに手足を動かしても無駄だよ。チャチャッと負けを認めないと怪我するぞ?」
「うるせぇなぁガチャガチャとッ!!!!」
よし! 全身に力入れたら立てたぞ!
「嘘ォ!? 僕のスキルが破られ.......いや、そんなハズは――――!」
俺が立てた理由? そんなの決まってるだろう!!
「根性!」
「なにそれェェェ!」
「じゃあギルドマスター、一発殴らせて頂きますッ!!」
俺はホノラから殴られ続けけた事で殴り方を学んだ。身体が重いなら!! その分威力も上乗せされるッ!!!!
「これは僕の負けかな......なんてね」
誰に聞こえたか分からない程の声でそう呟くと、ギルドマスターは俺の拳を受け止めるように両手を突き出した。
【防御魔法 反射防御壁】
俺の拳がギルドマスターの手に触れた瞬間、全衝撃......それ以上の衝撃が俺の身体を駆け抜けた。
「グァァァァッ!!!!」
「攻撃の威力を倍以上にして跳ね返す上位の防御魔法だよ。スキルは解除したけど、それでも暫くは立ち上がれないだろうね」
「くっそぉ~! 俺の負けだ!!」
観客席が揺れる。凄まじい歓声だな......中には俺の事を賞賛するような声も混じっている。
「マツル! 大丈夫!?」
観客席とフィールドを隔てる柵を蹴り飛ばしてホノラが駆け寄ってきてくれた。
「あぁ、なんとか生きてる......でも完璧に負けちゃったよ...」
「もっと腰を入れないからよ! 私なら魔法が反応するより早く殴り飛ばせてたわ!」
そんなはずは無いと思うのだが、この笑顔をみると本当にやりそうでちょっと怖い。
「いやぁ良い勝負だったね! これは皮肉でもなんでもなく純粋な気持ちだ。まさか【世界共有】が破られるとは思わなかったよ......でも、僕の勝ちだから、分かってるよね?」
「はい、俺はやると決めたら全力でやる男ですよ」
「いいえ。この勝負、マツルさんの勝利です」
「え?」
「えぇ?」
「「「えェェェェェェ!?」」」
「ウィールちゃんそれはないよ~! だって俺打撃の全衝撃を完璧に反射したよ!? それでマツル君ダウンしたし負けも認めてたよ!? なんで僕が負けなのさ!」
「完璧に反射できたからこそ負けなのです。私は、先に攻撃を《《当てたら》》勝利と宣言したので、反射するしないは関係なく、拳を当てた時点でマツルさんの勝ちです」
「という事は?」
ざわりと観客席がどよめきだす。
「マツルの大逆転大勝利ィ!!!!」
ええぇぇええええ!? そんな事ある!?
おぶさって来たホノラを降ろしながらふと前を見てみるとギルドマスターは困惑の表情を浮かべていた。多分俺も似たような顔をしているだろう。
「マツル君、まぁ......僕は試合に勝って勝負に負けた感じだね......てことであの話は無かった事に――――」
「いや、やらせてください。俺は一度やると言った身。責任を持ってこの問題を解決します」
「なになに!? 強い魔物や魔獣と戦えるの?」
ホノラが身震いしながら話に割り込んで来た。めっちゃ楽しみにしてるじゃん戦闘狂過ぎるだろこの子。
「俺の相棒もこう言ってる事ですし、俺に......いや、俺達に任せて下さい」
「よし! じゃあギルドマスター直々の依頼だ!! 『目無しの魔獣を討伐して、その原因の調査解決に当たる事』!」
「「はい!!」」
こうして、俺とホノラは目無しの魔獣が何処から来て、どうして生まれるのかを調査する事になったのだった。
この一連の事件の先に何が待っているのかもまだ知らずに。
2週間振りにギルドへ行くと、すぐに受付のお姉さんから声をかけられ、あれよあれよと言う間に二階の奥の部屋へ案内された。
ギルドマスター? そりゃあ居るか。そうだよな。で、なんでそんな凄い人が俺なんかと会おうとするんだ?
――――まさか! 「魔法が使えないようなクズは私の理想とするギルドには必要無いのですよ......消えろゴミ」
ギ ル ド 追 放 ! !
みたいな感じなのでは!? そこからなんか俺が意外とチートな事にみんなが気付いてなんやかんやあって「ざまぁwwww」を俺が言って俺の事見下してた奴らを全員顎で使って逆に見下す的な展開になるんですか!?
俺には無理だ!! 人の事を見下しつつ顎で人を使ったら顎がしゃくれて水がすくえるようになってしまう!!
それは困る! そうならないようにはどうすれば良いか? 舐められてはいけない!
とりあえず指を鳴らしながらヘドバンしてガンを飛ばすしかあるまいッ!!
「――では、この先でギルドマスターがお待ちです」
めちゃくちゃ豪華かつ重厚な扉がゆっくりと開く。完全に開いてからが勝負だ!
「やあ! 君がマツル君だね! 僕がサラバンド支部、ギルドマスターの――――」
「オウオウオウ!! テメー何ガンつけてくれとんじゃコラァァァ!!!!」
頭が取れる程振れ!! 指の骨が砕ける程鳴らせ!! 目が飛び出る程凝視しろ!! これが俺の舐められない為の奥義じゃあああああ!!!!
「え、ちょ......何!? あの......分かったから! 落ち着いてぇぇぇ!!」
――――
俺は気が触れていた。焦り過ぎてとんでもない失態を犯してしまった......
「ギルドから追放とかじゃなかったんですね...本当にすみませんでした。早とちりでした......」
頭が削れる程の土下座。顔が見れないッ! まじこの一件でクビとかでもおかしくはないだろ......本気でやってしまったかもしれん。
「わかってくれたみたいで良かった。とりあえず顔上げて? ゆっくり話をしようか」
「はい......分かりました...」
俺が顔を上げた瞬間、目に見えない程の速さでギルドマスターの顔が目の前に来た。
何怖い! 速いし! なんかめっちゃじろじろ見てくる!! 何!?
「ふーむ......大陸のどの種族とも顔の感じが違う。それに魔法が使えないという事前情報......君、異世界人だろう?」
ギルドマスターは顔を元の位置に戻した後俺に指を指してそう問うた。
バッ......バレたァァァ!!
どうすんべこれ!? 隠し通せる? 無理くね? この人絶対強いじゃん!! 嘘ついたらその場で処刑とか無きにしも非ずんば虎児を得ずって感じがする! 助けて美人で聡明なナマコ神様!!
『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン! ん~、誤魔化しは効かなそうだし、正直に話しちゃえば~?』
信じるぞ?
『大丈夫だよ~結局人生なんてなるようになるんだから安心してね? もし何かあったらこの私が助けてあげるよ』
俺は浅く深呼吸をした後、椅子に落ち着いて座り、事の顛末を正直に答えた。
「確かに俺は元々この世界の人間ではありません。目が覚めたらなんかこの世界にいて、冒険者として名を挙げたらモテるって聞いて......でも魔法使えなかったら女の子見向きもしてくれなくて......ウゥ...!」
目から大量に汗が出る...俺が汗っつったら汗なんだよ。
「うーん......この世界にいる異世界人は召喚、転移、転生とか色々な方式でやって来るんだけど......みんな何かしらの特殊能力を持ってるんだよね、それがあったら冒険者として有名になる事なんて簡単なんじゃないかな~? って僕は思うんだけども」
「ユニークスキル? 魔法とは違うんですか?」
この世界に来て初めて聞いたなユニークスキル。俺はてっきり魔法の世界でそういう類の物は無いと思ってたよ。
「ユニークスキルっていうのは本来この世界の人間が稀に持って生まれる......まぁ特殊な能力の事だよ。適正と魔力さえあれば誰でも使える魔法とは一線を画す、能力者本人にしか使えない強力な力さ」
なるほど、基本誰でも使える魔法とは違ってユニークスキルは本人にしか備わってない能力なのか。
「それで、異世界人は必ずユニークスキルを持ってるんだけど......君はそれがないの?」
あー、あれか! ナマコ神様から貰ったあの使えない能力!!
えーっと能力名なんて言ったっけ......
「思い出した!! 俺も“魔法の威力を無制限に上げられる”スキル持ってました!」
「おお! いいスキルじゃないか!! じゃあそれを使う前提で君にお願いが――――」
「でも俺魔力が無くてそもそも魔法が使えないから全く意味の無いスキルなんですよね......」
「あ......」
ギルドマスターはゆっくりと俺の後ろへ周り、肩にポンと手を置いた。
本来ユニークスキルと言うのは、魔力の無い異世界人の救済措置的な役割なので、魔力に関連しない物が大半らしいのだが......どうやら俺のは違ったらしい。
「――――どんまい、」
その憐れみを多少含んだ、優しい微笑みが逆に俺の心を深層まで抉った。
◇◇◇◇
「――――傷心の所申し訳ないけど本題に入らせて貰うね」
そうだった、ギルドマスターは俺に聞きたい事があって俺は呼ばれてたんだった。
「俺に聞きたい事......ってなんですか?」
大方予想はついちゃいるけど。
「その顔は僕が何を聞きたいか知ってるって顔だね。もし違ったら恥ずかしいから一応言うけど、【目無しの魔獣】について、で合ってるよね?」
「......目無しの魔獣? あぁもちろんそうですよね。はい、やっぱりそうですか」
あっぶねぇぇぇ! 俺ァてっきりホノラと2人でBランク冒険者を埋めた話かと思ったァァァ!
ボロが出る前に話を合わせておこう。
「それで、マツル君。君が知っている事でいい、僕に全てを教えて欲しい!」
「知ってる事って言われても.....黒い煙みたいなのに目を喰われてたって事くらいしか分かりませんよ?」
「黒い煙......新情報だね。よし! ありがとう!」
え? これだけ? あっさりしてるね。
「――――という事で僕からのギルドマスターとしてのお願いだ」
やっぱり何かあった......俺は知っている。こういうお願いが大体ロクな物じゃ無いと言う事を。
「君がギルドに顔を出さなかった間にも結構“目無しの魔獣”は発見されていてね......でも通常の魔獣よりも圧倒的に強い事からまだ君の2件の他に数件しか討伐報告があがってないのさ。ギルドからも支援するからさ、“第一発見者”の君が、この目無しの魔獣問題を解決してよ!」
「......嫌ですよ!!!!? 俺新米冒険者! 責任重大!」
「もし君が解決出来たら......ランクも爆上がりですごいんだろうなあ......」
「ぐっ...!」
なんでギルドマスターがその事知ってるんだ!? でもこれは流石に無理難題がすぎるってものではなかろうか?
「――――じゃあこうしよう! もし僕と戦って勝つ事が出来たら、この話は無かった事にしてあげる! どう?」
えぇ......こんな条件出すくらいなんだからめっちゃ強いじゃんギルドマスター!
でも、いくらなんでもあれもダメこれもダメは筋が通らないよな......
よし! 今の俺の強さがどの程度の物なのかを推し量るのも兼ねて戦ってみるか!
「――――その話乗った!! 俺が勝っても文句言わないで下さいよ!」
ギルドマスターは「楽しそうだね」とだけ呟き先にどこかへ行ってしまった。
◇◇◇◇
「この前ヤリナとモクナを2人同時に相手取って瞬殺した新人が今度はギルマスと戦うんだってよ!」
「お前どっちが勝つと思う?」
「流石にギルマスだろ!」
「でも俺ァギルマスが直接戦ってる所なんて見た事がないぜ? あの速さがあれば新人もワンチャン―――」
そんな会話があちこちで聞こえる。
俺とギルドマスターはギルド地下にある訓練場に来ていた。何故か外周には観客席が併設されており、そこは大量の冒険者で満員だ。
「なんでこんなに人がいるんですか!?」
「あ~、僕が集めたんだ!」
ギルドマスターはそう言うと俺に文字と魔法陣の書いてある紙を渡してきた。
「えーとなになに?『最強VS最強の大決戦!! 期待の新生マツルVSサラバンド最強その3の男ギルマス! 勝つのはどっちだ!? (裏面に転送用魔法陣が描いてあるので、クエスト中の方もぜひ戻ってご観覧ください)』......」
「これをサラバンド支部の全冒険者に転送したんだ! 僕が最強って所をみんなに見せる為にね!」
目立ちたがり屋すぎるだろ!! 何このギルマスに降り注ぐ声援! なんか『ギルマス勝って!!』って書いてある横断幕出てるし!
ってあの横断幕、持ってるのこの前俺達が助けた女性冒険者の皆さんじゃん!
「マツルーーー!!」
「兄ちゃん!!」
ッ! この声はホノラとメツセイ!?
そうか全冒険者に通達が行ったならアイツらも来てるのか! 俺の応援をしに来てくれたんだ――――
「あんたギルマスってめっちゃ強いらしいのよ!? 今のうちに降参しちゃった方が良いわよー!」
「兄ちゃんアレだ!......怪我だけはしないようにしろよ!」
応援じゃなかったんかいィィィィ!!!!
「なんかこの空気で負けるの腹立つ! 絶対勝ってやるわ!!!!」
「君のそういう心意気が僕は好きだぜ!」
「ルールは一撃でも相手に当てた方が勝利となります! では、用意......初め!!」
そう言って受付のお姉さんが笛を鳴らすと同時、
俺は地面を蹴り、一瞬で俺の間合いにギルドマスターを入れる事に成功した。
一撃で決める!
【居合”四――――!】
「確かに速い......けど、僕の知覚速度からしてみたら遅い方だし、何より君の身体は鉛の様に重そうだよ?」
「何!?」
【世界共有】
なんだ!? 身体が急に重く! これがギルドマスターの魔法!?
「動きが――!」
「それに、その刀とやらの扱いもなってないね。今にもどこかへ飛んでいきそうに見えるよ」
「ふざけんな―――!」
力任せに重い右腕を振り上げると、その勢いのまま俺の刀は手を離れ地面に突き刺さった。
「はぁ!? どういう事だこれッ!」
「これが僕の思う世界......それを君と共有しただけさ」
共有? クソ! 身体がみるみる重くなって......
俺は自分の体重を支えきれなくなり、うつ伏せに倒れ込んでしまった。
そこにギルドマスターは近寄り、俺だけに聞こえる声で耳打ちをする。
「これが僕のユニークスキル【共有】。僕に見えている、考えている世界を君と共有したんだ。これ、みんなには秘密ね?」
なんだよその能力......じゃあギルドマスターが”マツルの身体は重い“と思ったから本当に重くなっちまったのか?
こんなの、せーので戦い始めた時点で俺の負けじゃねぇか...俺もこんな強いスキルが良かったな......あれ、なんかめっちゃ悔しくなってきた。
「ぐっ......負けるかァ...!!」
「そんなに手足を動かしても無駄だよ。チャチャッと負けを認めないと怪我するぞ?」
「うるせぇなぁガチャガチャとッ!!!!」
よし! 全身に力入れたら立てたぞ!
「嘘ォ!? 僕のスキルが破られ.......いや、そんなハズは――――!」
俺が立てた理由? そんなの決まってるだろう!!
「根性!」
「なにそれェェェ!」
「じゃあギルドマスター、一発殴らせて頂きますッ!!」
俺はホノラから殴られ続けけた事で殴り方を学んだ。身体が重いなら!! その分威力も上乗せされるッ!!!!
「これは僕の負けかな......なんてね」
誰に聞こえたか分からない程の声でそう呟くと、ギルドマスターは俺の拳を受け止めるように両手を突き出した。
【防御魔法 反射防御壁】
俺の拳がギルドマスターの手に触れた瞬間、全衝撃......それ以上の衝撃が俺の身体を駆け抜けた。
「グァァァァッ!!!!」
「攻撃の威力を倍以上にして跳ね返す上位の防御魔法だよ。スキルは解除したけど、それでも暫くは立ち上がれないだろうね」
「くっそぉ~! 俺の負けだ!!」
観客席が揺れる。凄まじい歓声だな......中には俺の事を賞賛するような声も混じっている。
「マツル! 大丈夫!?」
観客席とフィールドを隔てる柵を蹴り飛ばしてホノラが駆け寄ってきてくれた。
「あぁ、なんとか生きてる......でも完璧に負けちゃったよ...」
「もっと腰を入れないからよ! 私なら魔法が反応するより早く殴り飛ばせてたわ!」
そんなはずは無いと思うのだが、この笑顔をみると本当にやりそうでちょっと怖い。
「いやぁ良い勝負だったね! これは皮肉でもなんでもなく純粋な気持ちだ。まさか【世界共有】が破られるとは思わなかったよ......でも、僕の勝ちだから、分かってるよね?」
「はい、俺はやると決めたら全力でやる男ですよ」
「いいえ。この勝負、マツルさんの勝利です」
「え?」
「えぇ?」
「「「えェェェェェェ!?」」」
「ウィールちゃんそれはないよ~! だって俺打撃の全衝撃を完璧に反射したよ!? それでマツル君ダウンしたし負けも認めてたよ!? なんで僕が負けなのさ!」
「完璧に反射できたからこそ負けなのです。私は、先に攻撃を《《当てたら》》勝利と宣言したので、反射するしないは関係なく、拳を当てた時点でマツルさんの勝ちです」
「という事は?」
ざわりと観客席がどよめきだす。
「マツルの大逆転大勝利ィ!!!!」
ええぇぇええええ!? そんな事ある!?
おぶさって来たホノラを降ろしながらふと前を見てみるとギルドマスターは困惑の表情を浮かべていた。多分俺も似たような顔をしているだろう。
「マツル君、まぁ......僕は試合に勝って勝負に負けた感じだね......てことであの話は無かった事に――――」
「いや、やらせてください。俺は一度やると言った身。責任を持ってこの問題を解決します」
「なになに!? 強い魔物や魔獣と戦えるの?」
ホノラが身震いしながら話に割り込んで来た。めっちゃ楽しみにしてるじゃん戦闘狂過ぎるだろこの子。
「俺の相棒もこう言ってる事ですし、俺に......いや、俺達に任せて下さい」
「よし! じゃあギルドマスター直々の依頼だ!! 『目無しの魔獣を討伐して、その原因の調査解決に当たる事』!」
「「はい!!」」
こうして、俺とホノラは目無しの魔獣が何処から来て、どうして生まれるのかを調査する事になったのだった。
この一連の事件の先に何が待っているのかもまだ知らずに。