「――――んで、俺が来なかったら森の中で野垂れ死にしてたかもしれない......と」

「メツセイさんいやもう本当にありがとうございます」

 採取クエストでウッソー大森林に赴いた俺とホノラは、Cランク魔獣の”ボールボーグ“に襲われたり、帰り道が分からなくなるなどのハプニングがあったものの、なんとか街まで帰ってくる事ができたのだった。そして受付に魔ンドラゴラを提出してびっくり! なんと初クエストでDランクに上がる事が出来たのだ! 

 受け付けのお姉さん曰く「採取難度Cの魔ンドラゴラでこんなに元気な顔なのは初めて」との事。魔ンドラゴラは口が開いていれば開いている程良質な薬になるらしく、それが一発昇格の決め手だったんだそう。

 しかし、帰ってからいい事ばかりは続かないのであった。

「ギャハハハハハ!! 大体商人でも半日あれば覚えられる探索魔法すら使えないクセに大森林に入るのが間違いなんだよ!」

「やっぱり魔法が使えない奴らの集まるパーティはダメだな! 出直してこい~!」

 酒場の酔っ払い冒険者が俺達を笑い者にして酒を浴びている。あーもうほらホノラなんか涙目になって下を向いちゃって。

「やめねえかお前らァ!」

 その場を一喝したのはメツセイだった。

「コイツらは冒険者になりたての新米(ルーキー)だ! ”女狩り“の一件で
強さは申し分無いと思って高ランクの依頼を紹介した俺にも責任がある! 笑うならまずこの俺を笑いやがれ!」

 メツセイの言葉で周りは静まり返る。ドワーフのおっちゃんカッコよすぎかよ! ならず者集団の大将って感じがしていいね!

「でもよぉメツセイ、コイツらがボールボーグを仕留めたってのはいくらなんでも信用出来ねぇぜ?」

「魔法が使えても沼魔法で沈めて窒息...ってのが定石のアイツを......しかも男位の大きさなんてそうそういないぜ...?」

 まぁ知ってたけどここも疑いの声が漏れ出てきている。ボールボーグの死体は持って来れなくて証拠も無いので当然と言えば当然なのだが。

「そういえば兄ちゃんに嬢ちゃん、あの時のボールボーグの死体はどうしたんだ? 確か俺と森で会った時には嬢ちゃんが担いでたよな?」

「あぁ......帰り道で腐り出して...それで......う気持ち悪くなってきた」

「暑かったですからね...腐敗が中々に早くて......」

 ホノラの背中が腐敗した死体でぐちゃぐちゃのびちゃびちゃになったのだった...あれは女の子じゃなくてもトラウマだよ。俺も思い出したくない。

「それぁ災難だったな......」

 本来なら保存魔法や氷魔法が必ず一人は使える為、長距離移動でも防腐処理は完璧なのだそう。よってメツセイもこのような状況は初めての体験らしい。

「あ、そうだ。ボールボーグ関連で一つ皆さんに聞きたい事があるんですけど――――」

「おう? どうしたんだ兄ちゃん?」

 メツセイだけでなく酒場の冒険者も、果ては受付のお姉さんまで興味津々な顔で俺を見始めた。大勢の人の前で質問なんて小学校以来だからなんか緊張する......

「あの、実物は見せられないんですけど、俺達が倒した個体の目が潰れてたんです。しかもただ怪我したんじゃなくて、よく分からない黒い煙みたいなのが顔を食べてて。そういう魔物とか魔獣ってよくいるんですか?」

「なんだそれ...聞いた事あるか?」

「さぁ? 見た事も聞いた事も無いな」

「魔法が使えないのをバカにした腹いせで俺達をからかってるんじゃ無いのか~?」

「ちげぇねぇ! さっさと白状しちまえよ!」

 なんでそうなるんだよ!? 

「お前らいい加減に――――」

「良いわよメツセイさん。こんな酔っ払いに何かを期待した私達が悪かったわ。マツル、帰りましょ!」

 ホノラは俺の手を強引に引っ張りギルドを後にしようとする。

「嬢ちゃんちょっと待ってくれ!」

 俺を反対から引っ張る形で引き止めたのはメツセイだった。

「なに?」

「さっきの詫びの話だ! 嬢ちゃんも兄ちゃんも装備がなんと言うか......簡素だからな! 良い武具屋紹介してやるよ!」

「おお! 武具屋! やっぱりあるのか!」

 俺のホノラの装備は、お世辞にも立派とは言えない物である。

 俺は師匠から貰った刀一本だけだし、ホノラに至っては完全丸腰である。今回の一件でさすがに防具位は欲しいねと二人で話をしていたところだったのだ。

「――いいじゃない! 早く行きましょ!」

「嬢ちゃんも乗り気で助かるぜ! 案内してやる!」


◇◇◇◇


 メツセイに連れられて、俺達は街の外れまで来ていた。

「――――ここだ。この店は、俺が知る限り最高の品を提供してくれる」

 メツセイが立ち止まり指さした建物は、やけにボロボロで、入口の前に掲げてあったであろう看板は掠れて文字を読み取る事は出来ない。

「メツセイさん? ホントにここであってるんですか?」

「ああ! ここの店主は...まぁなんと言うか少々ガサツでな。あんまり見てくれにゃあ興味が無い訳よ」

「だが、腕は本物だ!」と豪快に笑いメツセイはドアを開けた。それと同時に店の中からホコリとカビが解放される。

「これはガサツなんてもんじゃ無いわよ!? 何をどうしたらこんな埃だらけになるわけ?」

 メツセイを含む3人の中で一番綺麗好きであろうホノラが目を見開き驚愕の表情で叫ぶ。

「やっぱり職人って放っておくとこうなる運命なんですかね......」

 俺は師匠の家の惨劇を目にしているので動揺が少ない。何か一つを極める職人は、それ以外の部分が疎かになってしまう物なのだろう。弟子の修行とか弟子の修行とかね。

「やっぱり兄ちゃんと嬢ちゃんはお似合いのパーティだな......おーいフューネス! 生きてるかー!!」

 一体どこでそう思ったのか分からないメツセイが店の奥へ声をかける。

 少し時間を置いて、店の奥から人影が現れた。

「――――ンだよ久しぶりに客かと思ったらお前かよメツセイ......飛び起きて損したわ...」

「残念ながら本当に客だ。俺じゃないがな」

 メツセイと親しげ(?)に話すその人物は、メツセイと同じ褐色の肌で、茶髪の女性だった。名前はフューネスと言うらしい。

「ほーん...メツセイにしてはやるじゃないか。こんな可愛い男の子を連れてくるなんて......」

 近くで見るとよく分かる。フューネスはデカい! 威圧感がすごい! 後顔がちょっと怖い!

「――――食べるなよ?」

「安心しな! メツセイにはアタシが客も食べる怪物に見えてンのかい? それに、アタシはもう少し年下が好みなんだよ......」

「良かったわねマツル! 食べられそうだったけど助かって!」

 にこやかなホノラがヒソヒソと耳打ちをする。ごめんなホノラ。多分言葉通りの意味じゃないんだ。

「食べるってそういう意味じゃ......」

「違うの? じゃあなんの事?」

 あ、知らないなら大丈夫でーす。そのままでいてくださーい。

「それで、客はなんの用だい? まさか! ウチが武具屋だと知ってここに......」

「フューネス......俺が連れて来たんだから当たり前だろうが!」

 なぜ俺達がここへ来たのか、メツセイが全て説明してくれた。魔法が使えないから近接戦闘主体な事と、そしてそれに伴う装備が欲しい事を。

「――――つー訳なんだが、一つ頼まれちゃくれないか?」

「無理だな」

 無理なのかよ! 腕のいい職人じゃ無かったのか!?

「理由は2つある。まず1つに、アタシは近接戦闘主体の奴に向けた装備を作った事がない。ジジーの代まではノウハウがあったらしいが親父が儲からないからと私に作り方を教えちゃくれなかった」

 元の世界でも似た様な悩みがあった気がするな......伝統技術の後世の担い手が少ない的な問題とそっくりだ。

「そして2つ目。これが技術云々よりも問題だ」

「その心は?」

「頑丈な防具を作る為の鉱石が足りねえ。魔鉱は腐る程あるのに普通の鉱石が全くと言っていいほど手元に無い」

 フューネスが言うには、鉱石にも大まかに分けて通常の鉱石と魔力を大量に含んだ魔鉱石の2種類があるのだと。

 魔鉱石は魔力を通しやすい為様々な魔道具や魔法発動の触媒としてはよく使われるが、硬さに難点があるという事で防具には向かないそうだ。そして通常の鉱石の採掘量が段々減ってるんだと。

 そもそも魔法使いしかいないこの世界では、防具と言えば対魔力に耐性のあるローブやコートを着用するのが一般的。物理攻撃はされる前に消し飛ばすのが常識なのでこの問題はあって無いような物なのだが......

「俺達には致命的だな......」

「どうするマツル? 私達も殺られる前に殺るノーガード戦法で行く?」

 ホノラ、それは余りにもリスクがあるね。うん。

「――――という事で客とメツセイに冒険者として依頼を出そうと思う! 私が案内するので、質の良い鉱石が取れる坑道までの護衛と採掘の手伝い! 報酬はアンタ達に最高の武具防具を作ってやる! どうだい? 受けるかい?」

 フューネスはメツセイそっくりな豪快な笑みを浮かべ提案をしてきた。ホノラの方に顔を向けて見るとウキウキ顔で頷いている。決まりだな。

「その依頼! 受けさせていただきます!」

「じゃあ決まりだな! アンタら、すぐ出かけるよ! 準備しな!」

「「はいっ!」」

「あー...フューネス? 俺の報酬は?」

「メツセイにはギルドの酒場で酒でも奢ってやるよ。それが一番好きだろ?」

「流石は俺の旧知の友!! 最高だぜ! ガハハッ!」

 酒と装備で繋がる信頼。俺達は準備を整え、採掘場へと向かうのだった。


◇◇◇◇


「目無しの魔物...か......」

「はい、最近入ったばかりのマツルと言う冒険者がウッソー大森林で見たと」

 ギルド内のとある一室で受付嬢と若い男が話をしている。

「何か不吉な事の前触れかもしれない。他の地域でも目撃した人物がいないか調べておいてくれ」

「かしこまりました。ギルドマスター」

――――目を黒煙に喰われた魔物、これは僕が動く案件かもね。

 ギルドマスターは思案する。全てはこの街を、国を守るため。