牢にぶち込まれてから一体どれ程の時間が経っただろうか......ここに来たのは昼過ぎで、天井付近に僅かだが空いている鉄格子の窓から月明かりが差し込んでいるから多分夜なのだろう。

「ぐおー......ジュパパパパプピー......」

 牢屋のど真ん中でロージーはいびきをかきながら爆睡している。てかなんでこの状況で寝れるんだ? 

 俺はここに来て直ぐ気が付いた事がある。なんと今の俺、武器を取り上げられていないのだ!

 オマケに監視の看守の一人もいない! これはもうガバを通り越してバカだろ!!
 牢の鉄格子と結界魔法はスパンと一刀両断出来そうだし、これは脱獄のチャンスなのでは!? 

『いや、明らかに罠でしょ。どう考えても』

 もし罠なら罠で蹴散らせばいいだけ! そうだろ?

『はぁ......私しーらない』

 若干ナマコ神様に呆れられた気もするけど、今はここから出る事を優先しなければ!

 いざ娑婆へ!!

 両断された鉄格子がガラガラと音を立てて崩れる。結界魔法と言っても物理に抵抗を示す物では無かったらしく、力を入れた割にすんなりと斬れ、一先ず牢屋の外へと出る事には成功した。

「そこそこデカ目の音が鳴ったと思うけど誰も来ないのな......」

 大丈夫かこの国の警備? 罪人(無実だけどね!)の立場から見ても心配になってくる。

 出口までは一本道だったので迷う心配も無かったのだが、最後の最後で大きな問題に直面してしまった......

「音声認識でしか開かない出口の扉......斬り壊して出ようと思ったけど流石にこっちは対物理も万全か......」

 大金庫レベルで重厚な扉。その横には音声入力式の魔道具があり、そこに特定の音声を入力すると扉が開くようだ。

『扉のカギになるのはこのクイズ!! ぱぱっと解いて、自由の翼を手にしよう!!』

 やけに陽気だな音声入力......よし、簡単な問題こい! 出来れば俺の浅い異世界知識でも解けるような簡単な問題こい!

『という事で問題!! ノヴァーリス第三聖騎士長“ガブリエーラ・トクソーン”が婚期を逃し続け結婚できない理由はなーんだ!』

「分かるかいそないなもん!!!!」

 いかん! 極限の声量でツッコんでしまった!! これは......実に不味いのでは!?

『ベッベー! ハズレ~! 脱獄囚だよー!!!! であえであえー!!!!』

 音声入力魔道具の陽気な声が響くと同時に、俺の目の前の扉が轟音を立てて斜めに斬れて崩れた。

「な! 俺の言った通りだろ? 武器渡しておけば絶対出ようとするって!! 賭けは俺の勝ちだな」

「うーん物分り良さそうな良い子だと思ったんだけどなー......ってそれより! なんで私の婚期が鍵になってる訳!? まだエルフの中では若い方なんですけど!?」

「うるせぇ長命種。寿命に甘えんな......」

「なにを~!?」

 絶妙に緊張感の無い言い争いをしながら俺の前に立っているのは、2m程の身長と、それと同等の大剣を担ぐ頭に鈍い金色の角の生えた赤髪の大男。そして左手に掌サイズの匣を持った、金の長髪と長い耳が特徴的なエルフであった。

 剣を振るう鬼......婚期の話をするエルフ......音声入力魔道具の出した問題......総合的に考えなくてもこの二人は!!

「ノヴァーリス聖騎士長......!」

「当たりー! で? このまま『はいそうですか』って外に出す訳には行かないから、俺達と戦うか、大人しく牢に戻るか、選んでくれ」

 ニヤニヤと笑いながら男の方がそう告げる。

「だったら戦うに決まってるだろうが!」

 怯んじゃ駄目だ! 虚勢を張れ!!

「オーケイ脱獄少年! 命日が一日早まるだけだが、相手をしてやろう!」

 聖騎士長二人と俺。二対一の圧倒的に不利な戦闘が始まろうとしていた。