「オーバーサイトマスター、サラバンドギルドマスターと冒険者マツルを連れてきました。失礼します」
少し緊張したような顔をちょび髭もしていた。見てるとこっちまで緊張する......
真っ黒のドアをちょび髭が軽くノックしゆっくりと開ける。
一体どんなすごい人オーラを纏った人物が出てくるんだ――――
「ああ、良く来たね二人とも......まぁ楽にしてくれ」
おぉ? 背もたれがこちらを向いているので体が見えない。でも声の感じからして幼いぞ? でもギルドマスターはババアって......
「あの......あなたがオーバーサイトマスター、ですか?」
俺が問いかけたその時! 椅子から人間が跳び上がった!!
俺達の前のテーブルに華麗に着地したのは、ババアとは程遠い幼女だった。
「よくぞ聞いてくれたねマツル君!! 私の名前は! “フリージア・サンスプライト”! 冒険者ギルドの創始者にていっちばん偉い冒険者協会本部統括なのだ!!」
フロア全体に幼女の高笑いが響く。
つまり......この人はアレなのか?
「ロリババ――――」
「おっとマツル君それ以上はいけない!!」
大慌てで俺の口を塞ぐギルドマスター。あぁ、フリージアさんの前で《《ソレ》》は厳禁なのね。把握。
「あのババア......じゃなくてオーバーサイトマスター殿はユニークスキル【不変】を持っているんだ!! だから見た目が小さい頃のまま変わってないの!!」
「全部聞こえちゃったりしてるわよー“ロージー”」
「ロージー? 誰それ?」
フリージアさんに睨みつけられて震え上がっているギルドマスターが手を挙げる。
え、ギルドマスターって名前ロージーって言うの!? 初耳なんですけど!!
「あー、今日はロージーの話をしに来たんじゃないのよ~? はい! さっさと本題に入っちゃうわよ~今日はなんで呼ばれたかの確認だけだから、弁明は明日の裁判で聞くわね」
ここでは弁解の余地無しかよ!! てかそれ以上に明日裁判って......どんな特急日程だよ!
――――
フリージアさん曰く、今回俺達が問われている罪は、先のサラバンド防衛戦にて、目無しの魔獣の大群、総数約100万匹に対して国際条約で禁止されている超魔導兵器を使用した疑いがあるのだと。
言うまでもなくその100万匹を消し飛ばしたのは俺(のユニークスキル)なので、そんな併記一切使っていないと報告すれば済んだ話なのだが......
どうやらウチのギルドマスター、ロージーがそこの所を詳しく報告しなかった為に国際評議会で槍玉に挙げられてしまったらしい。
「サラバンド王国は小国なら軽々と消滅させる兵器を所持している」
と......正直俺は今回何も悪くないと思うのだが、原因を作ってしまったと言う時点で頭が痛い......
おいロージー、なんでお前は「自分何も知らないですよ?」みたいな顔で頷いれられるんだ? この騒動9割くらいお前のせいだぞ?
「――それで......俺達どうなるんですか?」
「そうだねぇ~。『そんな超魔導兵器使ってないよ~! 私のスキルだよ~』って事を証明する為に裁判が始まったらぶっぱなして見るとか?」
「却下却下!! そんな事したら周りの人全員死んじゃうでしょうが!! 大体、あれは俺の全魔力を使って放った魔法です。もう一度なんて無理ですよ......」
「じゃあ国際条約違反でロージー諸共死刑だね~」
しっししししし死刑!?!?!?
「死刑ってそりゃどういう事ですかァ!?」
「あ、方法? 多分大丈夫だよ~? 即死の魔法で苦しむこと無くポックリ――――」
「なんで既にポックリな方向で話進めとんねんババアおい!!」
俺に続きさっきまで素知らぬ顔を貫いていたロージーも切れた。やっぱり死ぬのは嫌らしい。俺だってやだもん。
「だからその辺は明日頑張って弁明してね!! 死にたくないなら死ぬ気で!」
何を無茶苦茶言ってんだこの見た目幼女......頭のネジぶっ飛んでんじゃねぇの?
「マツル君は今日の宿泊施設に戻っていいよ。お疲れ様!――――――――ロージーは私の事ババアって言った件でちょっと話があるから黙って座ってろよ?」
......アイツ、死んだな。
――――
「ちょび髭、俺が泊まるのってどこなんだ?」
ずっと部屋の外で直立不動だったちょび髭。汗一つかいてないな......
「ああ、オーバーサイトマスターが特別に用意してくださった。この国の中心に位置するノヴァーリス城の――――」
まさか客室!? やっぱり俺達が罪人って嘘なんじゃねぇかよ~!
「――――地下牢だ」
「ふぇい?」
◇◇◇◇
ガチャァン!! と漫画でしか見た事ないバカでかい南京錠を掛けられ、絶対に逃げ出せないように結界魔法を施され、陽の光が僅かしか当たらない地下牢へ幽閉されてしまった。
「出せよぉぉぉぉ!! 俺無実なんだよぉぉぉぉ!! こんな......こんなのあんまりだァァァァ!」
誰にもこの叫びは届かず虚しく反響するのみ。
暫くして、顔をねりけしのようにぐちゃぐちゃにしたロージーも俺と同じ牢にぶち込まれた。
こうして、俺......と全ての元凶の命日が、明日に迫ったのである。
――――
ここで話は少し別の視点、少し前へ遡る。
話は、マツルとロージーがちょび髭に連行されてから少し後のギルドサラバンド支部に移動する。
夢の色鉛筆クエストの後、ホノラはマツルから少し遅れてギルドへ戻ってきた。
「――――あれ? マツルは? 私より先に戻ったと思うんだけど......何みんなザワザワしてるの?」
ホノラはここでギルド内の違和感に気付く。普段は飲んだくれている暇人達が慌ただしく何かを話している。いつもはクエストカウンターでニコニコしているウィールが動揺しきった顔でどこかと連絡を取っている。
「三馬鹿、何があったか教えなさい」
ちょうどホノラの目の前を通りかかったパンナ一行を捕まえて話を聞く事にした。
「ハッ!!!! 誰かと思えば子猫ちゃんか......」
「次その呼び方したらまた土下座させるわよ」
ホノラの言う土下座とは釘のように地面に埋める事を指す。
それを聞いたパンナは名前を言い直して話を続ける。
「ハッ......ホノラちゃん......落ち着いて聞いて欲しい。ついさっきの事なんだが――――」
マツルとロージーが国際条約違反で捕まり、ノヴァーリスのギルド本部へ連行された事をパンナは話した。
その事実はホノラを激怒させるには十分だった。
「何よそれ!!!! マツルが何したって言うの!?......納得できない。今から追えばまだ間に合う、すぐ行ってブチのめしに――――」
「ホノラさん待ってください!!!!」
「話を聞いてくれ嬢ちゃん!!!!」
自分のコントロールが出来なくなり、感情のままに追いかけようとしたホノラを制止したのはウィールとメツセイだった。
「二人とも離して!! 今行けば間に合うの!! マツルを連れて行ったカスを殺す!!」
「ホノラさん冷静になって――! 恐らく来たのは本部の職員! そんな人殺してしまったらもっと問題が大きくなってしまいます!」
「ウィールの言う通りだ!! 今から俺達もどうやって兄ちゃんとギルマスを取り戻そうか話し合ってた所なんだ!!」
ホノラは入口の扉を蹴破ろうとしていた足を戻し、ウィールとメツセイ主導の作戦会議に参加する事になった。
――――
作戦会議は、酒場“ヨージ”の一角を使用して行われた。
「――大体、なんでマツルが捕まらなきゃなんないの!? そんな大それた事してないでしょ!?」
怒りが落ち着いたとはいえまだ煮え切らないホノラが威嚇するように机に手を叩き付ける。
「これは、あくまで私の推測なのですが――」
そう言うとウィールは、みんなの前に置かれた黒板に一枚の紙を貼り付けた。
「――この書面には、国際条約違反の詳細に『超魔導兵器使用の疑い』と書かれています。恐らく......マツルさんが最後に放った大魔法をそれと勘違いされたのではないかと」
その場にいる大半の人間がこの推測に「納得」の二文字を浮かべた。
「じゃあマツルは尚更悪くないじゃない。あれは自分だって簡単に証明出来るわ」
「しかし兄ちゃんがそれを証明するのは不可能ってモンだ」
ここから説明を始めたのはメツセイだった。
「どうして?」
「兄ちゃんはあの魔法でごく微量にあった魔力を全て使い果たした。その後一切魔力が回復していない所を見るにどこかしらから借り受けた魔力だったんだろう......異世界から来た人間は魔力が無いってぇのは事実だし、兄ちゃんが魔法を使いましたという“事実”を証明するのは不可能だろうなぁ......」
「もし証明出来なかったらどうなるの......?」
ホノラの質問はウィールとメツセイに聞こえたはずなのに、二人とも答えない。
「なんで答えないの......? 教えてよ!」
ホノラがウィールの腕を掴み今にも泣きそうな顔で訴える。
ウィールも隠し切れないと踏んだのか重々しくその口を開く。
「もし......もしもの話ですよ......国際条約違反が確定してしまった場合......死刑になってしまうかと」
「マツルが死ぬ」しかも戦いの中でではなく嘘に塗れた不本意の中で。
その事実は、ホノラの心の枷を壊すのには十分すぎる一撃になった。
「私......やっぱり行くわ。マツルを連れて行った奴を殺しにじゃない。マツルを助けに行くの」
その目に涙は無く、赤色の瞳には決意を込めていた。
「やっぱりこうなっちまうのか......」
「まぁ、元よりそのつもりでしたしね」
ウィールとメツセイがホノラの肩に手を置く。
「俺達も一緒に行くぜ」
「私達も一緒に行きます」
「メツセイさん......ウィールさん......ありがとう!」
「ハッ......やはりノヴァーリスか......いつ出発する? 俺も同行する」
バァァァン! とホノラ達の前に現れたのは冒険者でもないパンナであった。三分の二馬鹿は同行しないらしい。
「三馬鹿」
「ハッ!!!! 今回は俺のみだ! しっかりと名前で......パンナと呼んで頂こう!!!!」
またやかましい奴が仲間になったな。と三人は思った。
しかし戦力としては支部最高になるので快く(?)迎え入れる事になり、四人は4日後の裁判の日に向けてサラバンドを出発する。
全てはマツルを、おまけとしてギルドマスターを助ける為に。
マツル達の住むサラバンドより東、【インキクセー湿原】の最奥にかの者は居城を構えている。
「あぁ......ようやく来ましたね。私の忠実なる部下。バカラ......」
「はっ......ニシュラブ様。本日はどのようなご要件で?」
魔王ニシュラブ。この世界に君臨する魔王の一柱。
彼はこの世の贅をこれでもかと詰め込んだ城の一室にバカラと呼ばれる魔人を呼び出した。
「――――私が苦労して集めた200万の魔獣の軍勢......“無眼魔獣”が全滅した」
この言葉を聞いて、バカラの眉がピクリと上がる。
「ネメシスは私の恐ろしさを人間共にアピールする為の商材でしかありませんでしたから、計画の三割程しか蹂躙を達成出来ずサラバンドで消滅したとはいえそこは大目に見ましょう......」
ここでニシュラブの雰囲気が豹変する。
自身の魔力をその感情のままに放出し、部屋にあったありとあらゆる物をその魔力で破壊しながら話を続ける。
「ノヴァーリスまでのありとあらゆる国を! 聖騎士との激戦の後死ぬ予定だったワイヴァーグリッドウルフが、何故今ノヴァーリスの城にいるんだ!!!!」
バカラはニシュラブが何に怒っているのか理解出来なかったが、これだけは分かった。
今のこの状況は思い描いたシナリオ通りでは無かったのだと。
バカラは考えを整理する。
本来はサラバンドなど蹂躙の通過点でしか無く、数多のギルド支部のある国を壊滅させた上で本部のあるノヴァーリスを襲撃。
本部の冒険者達と聖騎士の戦力を限界まで削った上でネメシスとワイヴァーグリッドウルフは彼らに負ける。と言うのがニシュラブ様の考えていた最初のシナリオだったのだろう。
しかしそうはならずにネメシスの軍勢はサラバンドで全て消滅。何故か生き残っているワイヴァーグリッドウルフは現在生きた状態でノヴァーリスに居る......と。
「では何故私は今ここに呼ばれたのでしょうか......?」
恐る恐るニシュラブに尋ねるバカラ。
バカラは先程の魔力の暴威に当てられ完全に萎縮していた。
「バカラ......貴方には一人でワイヴァーグリッドウルフを連れ戻してきて欲しいのです。生きているという事は、まだ利用価値が残っているという事ですからね」
一人でワイヴァーグリッドウルフを連れ戻す。それが意味するのは聖騎士を一人で相手にしなければならないという事だった。
バカラは高位の魔人である。それこそ、魔物の等級を当てはめるならAランクの中でも最上位に位置する程に。
しかし最強の聖騎士を一人で相手取るのは自殺行為と甚だしいというものであった。
一人でと言うのも、無意味にこちらの戦力を失いたくないという考えの表れだろう。
バカラは許せなかった。こんなにも忠誠を誓っている私を捨て駒にして獣一匹を取り戻そうとしている事が。
「お言葉ですが、流石に私一人で攻め込むのは無謀という物......何より、そんな獣一匹いなくても、私がいるではありませんか! なのにな――――」
バカラは一瞬何が起こったのか理解できなかった。気がついた時には横に吹き飛ばされ、壁に叩き付けられていた。殴られたであろう顎を触ろうとするも顎が無くなっている。
「―――ッガ! オ゛ヴ......!」
バカラは高位の魔人なので再生出来ないことは無いが、それでも痛いものは痛い。
うずくまるバカラを見下ろしながら、ニシュラブは吐き捨てるように話す。
「何も貴方に死ねと言っている訳ではありません。ちゃんと貴方に向けて切り札を用意してあります......その顎を治し、床に撒き散らした自分の血を掃除してからノヴァーリスに向かいなさい。期待していますよ? 魔人化実験の成功検体さん?」
「はっ......」
◇◇◇◇
バカラはニシュラブからの“切り札”を受け取った時に確信した。
(この力を使いこなせるようになれば......私が魔王になる事も夢では無いのでは......?)
バカラはニシュラブに忠誠こそ誓ってはいるが信用はしていなかった。
だから渡された切り札にも念入りに解析魔法を掛け、支配系の罠が組み込まれていなかった事も含めて心に誓った。
この任務を遂行した暁には、私がニシュラブを殺し、新たな魔王になってやる......
バカラはノヴァーリスに向けて飛び立つ。到着は10時間後。マツルの裁判が行われる日の正午である。
牢にぶち込まれてから一体どれ程の時間が経っただろうか......ここに来たのは昼過ぎで、天井付近に僅かだが空いている鉄格子の窓から月明かりが差し込んでいるから多分夜なのだろう。
「ぐおー......ジュパパパパプピー......」
牢屋のど真ん中でロージーはいびきをかきながら爆睡している。てかなんでこの状況で寝れるんだ?
俺はここに来て直ぐ気が付いた事がある。なんと今の俺、武器を取り上げられていないのだ!
オマケに監視の看守の一人もいない! これはもうガバを通り越してバカだろ!!
牢の鉄格子と結界魔法はスパンと一刀両断出来そうだし、これは脱獄のチャンスなのでは!?
『いや、明らかに罠でしょ。どう考えても』
もし罠なら罠で蹴散らせばいいだけ! そうだろ?
『はぁ......私しーらない』
若干ナマコ神様に呆れられた気もするけど、今はここから出る事を優先しなければ!
いざ娑婆へ!!
両断された鉄格子がガラガラと音を立てて崩れる。結界魔法と言っても物理に抵抗を示す物では無かったらしく、力を入れた割にすんなりと斬れ、一先ず牢屋の外へと出る事には成功した。
「そこそこデカ目の音が鳴ったと思うけど誰も来ないのな......」
大丈夫かこの国の警備? 罪人(無実だけどね!)の立場から見ても心配になってくる。
出口までは一本道だったので迷う心配も無かったのだが、最後の最後で大きな問題に直面してしまった......
「音声認識でしか開かない出口の扉......斬り壊して出ようと思ったけど流石にこっちは対物理も万全か......」
大金庫レベルで重厚な扉。その横には音声入力式の魔道具があり、そこに特定の音声を入力すると扉が開くようだ。
『扉のカギになるのはこのクイズ!! ぱぱっと解いて、自由の翼を手にしよう!!』
やけに陽気だな音声入力......よし、簡単な問題こい! 出来れば俺の浅い異世界知識でも解けるような簡単な問題こい!
『という事で問題!! ノヴァーリス第三聖騎士長“ガブリエーラ・トクソーン”が婚期を逃し続け結婚できない理由はなーんだ!』
「分かるかいそないなもん!!!!」
いかん! 極限の声量でツッコんでしまった!! これは......実に不味いのでは!?
『ベッベー! ハズレ~! 脱獄囚だよー!!!! であえであえー!!!!』
音声入力魔道具の陽気な声が響くと同時に、俺の目の前の扉が轟音を立てて斜めに斬れて崩れた。
「な! 俺の言った通りだろ? 武器渡しておけば絶対出ようとするって!! 賭けは俺の勝ちだな」
「うーん物分り良さそうな良い子だと思ったんだけどなー......ってそれより! なんで私の婚期が鍵になってる訳!? まだエルフの中では若い方なんですけど!?」
「うるせぇ長命種。寿命に甘えんな......」
「なにを~!?」
絶妙に緊張感の無い言い争いをしながら俺の前に立っているのは、2m程の身長と、それと同等の大剣を担ぐ頭に鈍い金色の角の生えた赤髪の大男。そして左手に掌サイズの匣を持った、金の長髪と長い耳が特徴的なエルフであった。
剣を振るう鬼......婚期の話をするエルフ......音声入力魔道具の出した問題......総合的に考えなくてもこの二人は!!
「ノヴァーリス聖騎士長......!」
「当たりー! で? このまま『はいそうですか』って外に出す訳には行かないから、俺達と戦うか、大人しく牢に戻るか、選んでくれ」
ニヤニヤと笑いながら男の方がそう告げる。
「だったら戦うに決まってるだろうが!」
怯んじゃ駄目だ! 虚勢を張れ!!
「オーケイ脱獄少年! 命日が一日早まるだけだが、相手をしてやろう!」
聖騎士長二人と俺。二対一の圧倒的に不利な戦闘が始まろうとしていた。
「じゃあ俺から行くぞォ!! 一撃で終わったりしないでくれよぉぉぉ!!!!」
先に動いたのは鬼の男だった。
その長さや厚みからから大剣と言うよりは鋼鉄の板と言った方が正しい気もする得物を軽々と俺に振り下ろして来る。
「ぐぉぉぉぉ!!!! 重い重い重い!!」
真上から俺を両断せんと振り下ろされた大剣を刀身で受けたは良いもののその衝撃が全身を駆け巡る。
骨の軋む音が、床がひび割れる音が酷く耳に響く。
受け止めるのが精一杯!! 受け流して反撃と思ったけどそれを許さない圧倒的な重量!!
「俺だって伊達に鍛えてねぇんだよ!!!!」
ようやっと押し戻す事に成功した。
「やっぱりそう来なくちゃな!! 俺達のいる牢から逃げ出そうってんだ。これくらいで潰れてくれちゃ困る!」
その言葉が俺の耳に入ると同時、「さっきはまじで力抜いてたよ」と言わんばかりの大剣の連撃が襲い掛かる。
てか大剣の連撃って何? 一撃必殺の重みが魅力なのにその武器の特性を失った必殺の連撃叩き込んで来ないで?
「ぐわぁぁぁぁッ!!!! 死ぬッ!! 死んじゃうッ!!」
「本当に死にそうな奴は『死ぬ』なんて言葉に出さないよなァ!? もっと強く! 速くやっても大丈夫って事だよなァ!?」
振り下ろすスピードが更に早くなった!!
くっそぉ~! まだ秘密にしておきたかったけど使うしかない!!
【我流“防御剣術”流静・颯免】
俺は考えた。やっぱり目に見える攻撃位は全部捌きたいと。
だから指を鍛えた。細かな刀の動きを実現出来るように。
だから眼を鍛えた。どんな攻撃も視えるように。
「何!? さっきまで避けるのが精一杯だったろ? なんで急に全て弾けてるんだ!?」
全ての一撃を弾かれるとは予想外だったのか鬼も一度剣を構え直す。
「お前の攻撃が“視えた”。だから全部弾いた。それだけだ」
「そんな技術あるなら最初から使えよ......」
「悪いな。俺の親父ならこんな技使わなくても全部弾けるから、俺も試してみたくなったんだ。それよりそっちも、二人でかかって来なくて良いのか?」
エルフの女の方は動いている様子が無い......まだ婚期の話に怒ってるんだろうか?
「あら、私の事は心配しないで? もう動いているから」
「なに――――」
その瞬間、壁から出現した無数の光の矢が俺の全身を貫く。
「ガッ―――!!」
エルフの持っていた匣はいつの間にか巨大な弓に変化していた。
「そんな大きな弓......持ってたらいくらなんでも気付くわ俺でも......」
そう、彼女はなにも持っていなかった。俺は鬼の攻撃を避けつつもエルフの行動に気を配っていたが、一度もそんな大弓を出す素振りなど見せていなかった。
「あぁ、この匣が弓なんだけど、大きさは自在なのよ。だからさっきまでは爪先サイズで壁に光の矢を仕込んでたの。で、今は見せたいから大きくしてるだけ! 簡単でしょ?」
全身に穴が空き立ち上がれない俺に近付いてエルフの女が流暢に語る。
反則だろそんなの......
「終わりだな。こんな形で終わるのは俺としても不本意だが......お前が望んだ道だ。恨まないでくれよ」
動けない俺の頭をかち割ろうと大剣が振り上げられる。
しかし、その大剣が俺に振り下ろされる事は無かった。
「ッなんだ!? 俺の剣が急に重く......!」
「私の弓も!! なんで!?」
二人は使い慣れているだろう己の武器を持ち上げる事すら出来なくなっていたのだ。
「――――マツル君酷いよ~。逃げるなら僕も一緒に連れて行って欲しかったなー!」
後ろを振り向くとそこにいたのは寝起きで寝癖がこれでもかと付いたロージーだった。
「これで僕達は二対二......さぁ、条件共有の時間だ!!」
「これで僕達は二対二......さぁ、条件共有の時間だ!!」
「ハァ......お前がロージーだな? 多少俺の剣を重くした所で、持てなくなるようなヤワな鍛え方してねぇんだよォ!!」
嘘だろ!? あの鬼持ち上げやがった!! マズイ! 一回持ち上げられたらその重さも威力に掛け算された一撃が来る!!
「あれ? やっぱり軽いかもしれないな!」
「うぉぉぉ!? 急に軽くッ――――!?」
振り上げた超重量の大剣の重さがいきなりゼロになる。勢い余った鬼の身体はそのまま後ろへ倒れ込んでしまった。
これがロージーの......サラバンドギルドマスターの戦い方......
「マツル君、少し動けるなら俺の身体......腕とか足が良いかな。を斬ってくれ!」
「えぇ!? どうしたんですか急に」
俺は言われるがままにロージーの右腕を薄く斬った。
「ぐおッ!!」
「いったぁ......」
すると鬼とエルフの右腕の同じ位置に全く同じ傷ができたのだった。
「ギルドマスター......何したんですか?」
「簡単だよ~! 僕の傷を、ユニークスキルで【共有】しただけ! これ自分もめちゃくちゃ痛いからあんまりやりたくないんだよね」
俺はロージーが相手の武器を重くしたり軽くしたりしている隙に、ロージーの身体を斬り続けた。その度に、相手の身体に傷も増えていく。
そうだった。ロージーは今回戦犯なだけで基本強いんだった。
聖騎士長二人相手に押してる感あるし、これ行けるんじゃね!?
「なぁガブリー......これは本気でいっといた方が良いかもな......」
「えぇー......“アレ”やるの疲れるから嫌なんだけどなー......仕方がないか!」
アレってなんだ......?
武器を地面に突き立てた二人が両手を前に突き出し叫ぶ。
「最後に名前を教えてやろう!! “クーガ・クロシェール”だ!」
「ガブリエーラ・トクソーンよ!」
二人が名前を叫んだ瞬間、とてつもない重圧が俺達を襲う。
地下牢の天井からパラパラと石の粉が落ちてきて、今にも崩れそうな程空間が震えている。
「「今こそ真の力を示せ!! 神機解ほ――――」」
「全員そこまで!!!!」
俺達とクーガとの間にフリージアさんが割って入って来た。
「そこの聖騎士長二人......あんた達ソレを二人同時に!! こんな狭い所で使って、城ごと崩れたらどうしちゃうつもりだった訳!?」
「すまねぇマスター殿。こいつらが余りにも手強かったもんでつい......」
幼女に詰められてタジタジの大男。初めてみるな......
「大体なんであんた達は脱獄なんて下らない真似しようとしちゃったの......まだ有罪が確定した訳じゃないんだからどう弁解するか二人で考えちゃったりすればよかったじゃないのよ......」
今度はこちらに矛先が向いたが、ごもっともすぎる意見だ。
ぐうの音も出ないのは悔しいので、ぐうの音位は出しておこう。
「ぐう......」
「ほら、それが分かったらみんなさっさと寝ちゃう! 裁判は明日の正午からだからね! 寝坊しないように!!」
オーバーサイトマスターの一喝により、夜中の戦闘は幕を閉じた。
◇◇◇◇
「――――ではこれより、国際条約違反についての裁判を始める。被告人は前へ」
「はい」
翌日の正午、ついに裁判が始まった。
「――――ではこれより、国際条約違反についての裁判を始める。被告人は前へ」
「はい」
遂に裁判が始まった。
この世界の裁判は元の世界の物とは大きく違う。
まず弁護士がいないので、自分達でなんとかしなければならない。
そして魔法なんて言う超便利アイテムがあるので的中率100パーセントの嘘発見器が存在する。
魔法で過去なり見たらええやんと思ったが、なんかそれすると次元がナンタラとナマコ神様に説明されたがよく分からなかった。
この条件の元、俺とロージーは無罪を勝ち取らなければならない。
ます傍聴席や裁判官に向かって、詳しい状況説明が行われた。
サラバンド防衛戦にて俺が超魔導兵器を使用した疑いがある事。
ギルドマスターからの報告が無かったのは兵器使用を隠す為であるという事。
この二つが今回の争点となる。
つまり、「俺の魔法で勝った事」と「ギルドマスターの討伐要因の報告漏れは故意では無い事」を証明出来れば無罪という訳だ。
もし出来なかった場合は死刑みたいだけど。
「――――説明は以上です。被告人、何か反論がある場合は、魔道具【真偽の聖鐘_】に手を当てながら話して下さい。嘘を吐けば荒く、真実を話せば柔らかな音が鳴ります」
俺は裁判官に促されるまま、魔道具に手を当てて反論を始める。
「サラバンド防衛戦で100万の魔獣の大群を消滅させたのは、他でもない私の魔法です! 私のユニークスキルは魔法の威力を無限に上げられます! それで一撃で勝利したのです! 決して国際条約に違反などしていません!」
どうだライブラ・ベル!? 俺は本当の事を言っている!! 柔らかい音が――――
ベルは一切の反応を示さなかった。どちらの音が鳴るでもなく無反応なのだ。
「なんで!?」
「被告人は異世界人だと言うでは無いか。なら魔力が無いのが普通。魔力がないならベルは反応しないし魔法も使えない。その時に魔法が使えたという証拠も無いのだから無実の立証は不可能だな」
はっ......ハメられたァァァァ!? 非常にいけない状況だッ!!
一度俺達に不利なように思われたらそこの争点での挽回は難しい! あとはロージーの討伐要因の報告漏れが故意じゃなかったという事を証明出来るかで全てが変わる!
「――――では次は被告人、ロージーに聞こう。あなたは《《本当》》に報告に隠し事をしていなかったのですか? 何かやましい事があって、報告してない事があったのではないですか?」
俺と同じように魔道具に手を置いたロージーが口を開く。
ロージーには魔力があるからちゃんと音は鳴るはずだ。
「僕は何もやましい事なんて隠してません! 報告漏れは本当に忘れていただけなんです!!」
ギャリリリリリリリリリ!!!!!!
ベルはけたたましく鳴り始めた。
「やはり嘘なのではないか!!」
なんでぇぇぇぇ!? 本当の事言ってたじゃん!!
いや......今の発言の中に嘘があったと言う事は確定なのか......「報告はし忘れていただけ」の部分は本当だとするなら嘘になるのは「やましい事を隠していない」という所......
ハッ!!!!
確かロージーって宴の代金全額本部にツケてたよな......もしかしてやましい事ってそれか!?
くっそぉぉぉやましいと思ってたならそんな馬鹿なことするなよぉぉぉぉ!!
終わった。完全に終わった。
「この状況を覆す証拠も無し......では判決を言い渡――――」
「ちょっと待ったァァァァ!!!!」
どこからともなく爆発したような声量が裁判所中に響き渡る。
次の瞬間、裁判所の壁が急に円形に吹き飛んだ。
「その判決! 待った!」
崩れた壁の土煙の中から登場したのはホノラ達であった。
「ホノラァァァァ!!!! メツセイぃぃぃぃ!!!! ウィールさんんんんんん!!!! 一馬鹿ァァァァ!!!!」
「ハッ!!!! 何故俺だけ名前じゃないのかは気になるがまぁいいだろう!」
「誰だお前達は!!!!」
「マツルの判決に納得がいかないから、待ったをかけに来たのよ」
「ならわざわざ壁を蹴破って来なくても良かったであろう!! 警報音が鳴り止まないでは無いか!!」
壁を吹き飛ばしたせいなのか、街の至る所から警報音が鳴り響いている。にしてはちょっと異常じゃないか? このうるささは。
「いや......これはホノラちゃん達のせいじゃないね......何者かが魔力障壁を魔法で破ったんだ」
さっきまで俺達の審議を必死に笑いを堪えながら見ていたフリージアが真面目なトーンで話し始めた。
「ホノラ......まさかお前......」
「マツル違う!! 私じゃない!! 第一魔力障壁なんて簡単に破れるわけがないでしょ!」
「でも現実に破壊されて警報がなっている......相当な緊急事態だね」
「――――ッ!! なんだ......このオーラは?」
全員が、突如出現した圧倒的な存在感に気が付いた。裁判中だと言うのに、俺の体が走り出すのを、理性では止められなくなっていた。
「やっぱりマツルも気になるわよね。こんなに邪悪なオーラ!」
ホノラも俺と同じみたいだ。
「あぁ......俺は今容疑者で、この国からしてみたら部外者だが、それは指くわえて逃げる理由にはならないよな!」
「あの.....あなたは容疑者なので一応ここにいて頂きたいのですが......」
裁判長と警備員が俺を引き留めようと押さえつけるが、俺はその制止を気合で撥ね飛ばす。
「うるせぇクソ裁判長! 後でちゃんと戻って来るわ!」
俺とホノラは、オーラが出現した方向へ全力で走った。
「マツル遅い! 私先に行くわよ!!」
ホノラ足クッソ速ぇ! 俺だって鍛えてたしこまで遅くはないと思うけど次元が違う!
ホノラは家屋を軽々飛び越え、一瞬で城門の外まで行ってしまった。
――――
「ハァ......ハァ......やっと着いた......」
途中道なりに進もうとして大迷いをかまし、俺が到着したのはかなり時間が経ってからだった。
「んぉ......お前は確か......マツルとか言った野郎じゃねぇか」
「お前はゆうべの......」
城門を出た所で聖騎士長、クーガが腕を組んで立っていた。そしてここから少し離れた辺りで凄まじい戦闘音が鳴り響いていた。
「クーガ......さん、一体何があったんですか?」
「呼び捨てで俺は構わん......それでだな、魔王ニシュラブの配下を名乗る上位魔人が城壁の魔力障壁を破壊した」
まっ......魔王の配下!? 魔獣の大群から敵の強さがインフレしすぎじゃないですか!?
「――なんでも......『ワイヴァーナンチャラウルフ』っていうのが? 国にいるらしくて、要求を無視して突っ込んで行った俺の部下が三十人ほどやられた......」
「ワイヴァーナンチャラウルフ」? どこかで聞いた事があるような......
「小僧、それは我の種族名であるぞ! それに、ニシュラブと言う名の魔王は先の魔獣の大群とこの我を操って、ついでに我を捨て駒にしようとしていたな!」
俺の服の中に居た(いつから居たんだ?)モフローがひょっこり顔を出して答える。
あ! そうだ!! モフロー呼びが定着し過ぎて忘れてたよ!
......じゃあ魔王の配下が来たの俺のせいじゃぁぁぁぁん!!
「モフロー......お前がここに居るのは黙ってろ。な?」
バレたら......バレたらマズイ!!
「どうしたマツル? なにをコソコソ喋ってるんだ?」
「あ! なんでもないよクーガ! それで......今戦ってるのは誰なんだ?」
いや、聞かなくても大体予想はついている。てか俺より先に来て俺の視界にいないって事はそういう事だろ。
「確か......配下の方が名前を言おうとして......『私の名はバカ――――』って所まで言いかけた所で『バカは一人で十分よ!!』ってパツキンの女の子が上空から飛び蹴りしてきた。んで今その女の子がバカを一方的に殴ってる」
ホノラ......モフローの件でちゃんと相手の名乗りは聞こうって俺と約束したじゃん......
恐る恐る近付いてみると、バカ(仮称)はホノラに仰向けに押さえつけられ、一方的に顔とボディを殴打されていた。
「――ホノラ落ち着け!! もうこのバカ意識無いって!!」
一先ずホノラを羽交い締めにしてバカから引き剥がす。
「マツル見て見て!! あのバカ凄いの!! どんなに殴ってもすぐ傷が治るの!!」
ホノラは眩い笑顔でえぐい事を言うなぁ......
「おのれ小娘......私の事を勝手にバカにしやがってぇ......大体私の名前は“バカラ”だ! あと一文字位頑張ってもらおう!」
もう意識戻ってる! しかも傷も完治か......これ意外と厄介な相手なのでは?
「見てほらマツル! すぐ治っちゃうのよ! これは殴りごたえがあるわね!」
良い感じのサンドバックってことかよ......サンドバック? アレ、確か俺にホノラがついてきた理由って殴打に耐えたからだったよな?
じゃあ多分だけど俺より耐久性の高いこのバカラとか言う野郎もサンドバックになったら俺はどうなるんだ?
えーとつまり......つまりだけど......俺とコイツは恋敵!? ってコト!?
「おい......バカラとか言ったな......俺がテメェを殺す」
「男の方は一体何に“キレ”てんだ――――」
【我流“斬術”王虚・霧冷】
バカラの胴体が肩から脇腹にかけてジグザグに両断される。
「“斬れ”てんのはお前の方だよバーカ......」
再生が難しくなるように刃をノコギリのようにして斬ってやった。俺のライバルになんてなるからじゃクソが。
「――――体が......上手く繋がらない!!」
ほら見ろ。どうやら再生よりも傷の修復の方が近かったみたいだな。新しく部位を生やす事は出来ないのだろう。
「マツルもう倒しちゃったの!? 私もっと楽しみたかったのに!」
わーおバイオレンス! って俺も人の事言えないか......
「凄いなマツル! 昨日ももっと本気でやってくれれば良かったものを!」
大剣を担ぎながらえっほえっほとクーガが走ってくる。
「で、どうするバカラとやら。色々と情報を話してくれるなら命と安全な生活だけは保障して――――」
「黙れ!! 貴様ら私の事を愚弄しやがってぇ......!!」
唇を血が出る程噛み、地面に拳を叩き付けながらバカラが唸る。
「どうみたってお前の負けだろ。それともアレか? トドメ刺して欲しいのか?」
人に見た目が近しい生物を殺した事ないから気が引けるんだよなぁ......
「カアッ! その甘さが、後に後悔を生むことになるのだ!!」
「何を――――」
バカラは胸ポケットからビー玉サイズの黒い球体を取り出した。
その球体はそこだけ空間を抜き取ったかのような漆黒で、それを飲み込んだバカラの身体から黒い煙が噴き出した。
「なんだ!?」
「身体が繋がって......!」
「マツルとそこの女の子! この煙はマズイ!! 身体に触れないうちに下がれ!」
俺達はクーガに叫ばれるまま、煙に触れないように後ろへ下がった。
膨大に流れ出た煙は一瞬で繋がったバカラの身体に吸収された。
「これがワタシの切り札!! これがワタシの闇の力!! アァ......最高にいい気分ダ!!」
俺達の目の前に立っていたのは、身体から出た煙を纏ったバカラのような物であった。
「あの黒い煙......目無しの魔獣のヤツとそっくりだな」
「アレは煙じゃねぇ。闇だ。あのバカラとか言う魔人、“闇の欠片”を取り込みやがった!」
「闇の欠片? なんだよそれ」
「この世界の創造主である闇の欠片なの!」
「そのまんますぎて分かんねーよ!! もっと分かりやすく教えてくれ!」
「細かい事はどーだって良いのよ! 今度は私がぶん殴る!」
「待て突っ走るな!! えーと名前なんて言ったっけ......そうホノラ!! 絶対闇に触れるな!」
「ホウ......そこのデカい鬼の方はワタシの闇の恐ろしさが分かっているヨウだな......」
「――だがワタシを恐れるだけでハもう遅イ! ワタシは闇の力を我が物にして最強になっタ!!(※個人の感想です)もうこの世にワタシを止められる者ハ存在しない!!(※個人の感想です)」
なんだろう......闇バカラのセリフの後に(※個人の感想です)って見えるのは気の所為だろうか?
「誰ダ!? ワタシのセリフの後に(※個人の感想です)と入れているのハ!?」
気の所為じゃないとなると、こんなふざけた事が出来るのは一人しかいない!
「じゃじゃーん! 僕でーす!!」
「兄ちゃん! 俺もいるぞ!」
「ハッ!!!! 俺もだ!!!!」
「マツルさーん、ホノラさーん、大丈夫ですかー?」
遅れてロージー達の到着だ!
「どうする闇バカラ、こっちは一気に戦力大増強で超有利だぜ?」
「マサカ、頭数を揃えたからワタシに勝てルと思っているのカ? ナラ、それは間違イというモノダ【闇魔法 闇放射】」
「闇の散弾!?」
「ッッ!? 全員避けろぉぉぉぉ!!!! もう一度言う! 絶対に当たるんじゃないぞぉぉぉぉ!!」
闇バカラの周りに出現した無数の闇の球が俺達に降り注ぐ。
着弾した部分の地面はジュワジュワと音を立てて蒸発していた。
危なかった。クーガの呼び掛けがなかったら誰か一発は食らっていたかもしれない。
ナマコ神様、闇魔法ってなんだ?
『闇魔法って言うのはね、文字通り闇を扱う魔法で、闇の力を取り込んだ闇の眷属にしか使えないんだ。コントロールが難しい分超強力で、当たったら死ぬ』
死ぬ!?!? なんだよそれ強過ぎだろチートじゃんチート!!
『ごめん、死ぬは言い過ぎた。死んだ方がマシになる位の激痛が全身を止めどなく襲い続けるよ』
どっちもほぼ変わんねぇ......
とりあえず誰も死んでないみたいで安心安心! あとは触れなくても遠距離からバカスカ撃てる魔法使いの皆さんに任せて――
「今度は私の番ね!! やっぱり我慢出来なかったパーンチ!!」
いつの間に接近してんだホノラぁッ!? 思いっきり顔面殴ってるし! ガッツリ闇に触ってるし!?
「グァッ......!! ワタシに一発入れた事ハ褒めてやるガ、ただの人間ガ闇に触れれバ残された道ハ死のみ!!」
「このモヤモヤ、触ってもなんともないじゃない」
ええええええええええええ!? なんでぇ!?!?!?
「信じられねぇ......あの子、闇に触れてやがる......」
「なァギルマスよ......俺ァ初めて闇魔法なんて見たがよ、これは嬢ちゃんがおかしいんだよな?」
「これはホノラ君がおかしいね......普通、少し触っただけで死に至る代物なのに......」
皆が口々に驚きの感想を示している。
そしてその間にも、闇バカラはまたしてもホノラにボッコボコに殴られ続け、心が完全に折れかかっていたのだった。