「少年ー! 帰ったぞー!」

「お兄ちゃんたち! 早かったね!!」

 まぁそうね。移動含めて30分くらいで帰ってきたもんね。

「見つけたぜ! 夢の色鉛筆!」

「ホント!? 見せて見せて!!」

 俺は24分割された絵本のページを見せたのだが、露骨に微妙な顔をされた。

「お兄ちゃん......? 僕の大切な絵本破ったの......?」

 アカン。今にも泣きそうや!

「待て待て待て泣くな!! これはこう分割する事で探してた夢の色鉛筆になるんだ!! ほら! シュネを呼んできて! 早速仕掛けを始める!」

――――

 俺はシュネを外に連れ出し、草原の真ん中に立たせ、そのまわりにちぎったページを円を描くように置いた。

「お兄ちゃん......? 私これから何されるの......?」

 シュネは酷く怯えた表情で震える手を伸ばす。

「安心しろ! 何があっても、絶対お兄ちゃんが守ってやるからな!」

 そしてその手を少年は優しく、しかし力強く握る。
 健気だよ~! こっちも泣きたくなってくるよ~!

「でも安心しろ。お前ら兄妹が心配するような事は起こらないから」

 俺は最後の一枚を置く。
 
 するとシュネの震えがピタリと止まった。

「ふわぁぁぁぁ! すごい! お兄ちゃん! すごいよ! 目が見える!! 目が開けてられないくらい綺麗!」

「シュネ......まさか目が...見えるの......?」

「うん! はじめまして! お兄ちゃん!」

「あぁ......あぁ! はじめまして......シュネ......」

 その言葉を少年は聞き泣き崩れてしまった。そこにシュネは駆け寄り、抱き合いながら遂にはシュネも泣いてしまった。

 俺は一度体験したから分かる。シュネには今、この瞬間色が、世界が見えているのだ。

 複雑に絡む色の空が、大地が、兄が、初めてその目に写っているのだ。

 これがヒルデスハイムの刻印魔法......不可能を可能にする昔の人やべぇな!

――――

 シュネの目は完全に見えるようになり、初めての世界を楽しんでいる。二人は抱き合い、前が見えなくなる程に涙を流していた。

 少年は俺達に報酬金を絶対に払うと言っていたが、俺はそこまで鬼じゃないので断っておいた。

 子供達の笑顔という最高の報酬を貰って俺達はギルドへと帰ってきたのだが――――

「貴様がマツルだな!」

 いきなりちょび髭のおっさんに拘束魔法で縛られ、床に転がされた。

 そこで俺と同じ様に縛られて転がってるのは......ギルドマスター!?

「お前ら二人を国際法違反の容疑で逮捕する! これから冒険者ギルド本部で裁判じゃぁ!!」

「ぇぇぇぇぇぇ!?」

 一難去ってまた一難。その難去ってもう一難。

 嵐はまた、すぐに始まるのである。