「“助けて欲しい”って言われたって......俺はただの冒険者だぞ? ヒーローじゃない」

「そうだぞ餓鬼。何故助けて欲しいのか順を追って説明しろ」

 俺とモフローが案内された部屋も玄関と同様に薄暗く、小さなテーブルと三つ椅子があるだけの狭い部屋だった。
 
 少年はモフローの言葉に静かに頷き、話をしてくれた。

――――

「実は......俺の妹...シュネは生まれつき目が見えないんだ......」

 だから壁伝いで歩いていたのか。一先ず衰弱しきっている訳じゃない所は安心だな。

 ナマコ神様。目が見えないのって高位の回復魔法で何とかなったりしないのか?

『無理だね。回復魔法は後天的な怪我や病気は治せるけど、生まれつきの機能欠損は治せないんだ』

 そうなのか......魔法も万能じゃないんだな。

「それで、俺たちの母ちゃんが生きてた頃、俺たちに読んでくれた絵本に書いてあったんだ!『目が見えない人にだけ見える夢の色鉛筆がある』って! それを妹に見せてあげたいんだ!」

「それが“七色に光る24色色鉛筆”って訳か......んで少年はそれを探して来て欲しいと」

 少年は力強く頷いた。そしてちょうどそのタイミングでそれはもう大量の食料と飲み物を抱えたホノラが帰ってきた。

「帰ったわよ~! どれ買ったらいいか分からなかったから取り敢えずミルクと水! あとパンとお肉と果物! 買ってきたわよ!!」

「お姉ちゃん......これほんとに食っていいのか!?」

「アンタ達が食べる為に買ってきたんだから、お腹いっぱいになるまで食べなさい!」

「ありがとう......! ほらシュネ! あーんして」

「......ん! 美味しいよ! お兄ちゃん!!」

「そうか!! 美味しいなぁ!! うん!」

 コロコロと笑う妹は、涙と共に笑う兄はとても幸せそうで、見てるこっちが泣きたくなっていた。

「ホノラ......見てるこっちが泣きたくなってきたよ......」

「あら奇遇ね......私もよ」

「わ、我は泣いてなど......ブァボォォォン!!」

 この状態で話を進めるのは不可能なので、食事と涙が落ち着くまで待つ事になったのだった。

――――

「美味しかった!!」

 余程お腹が空いていたのだろう。二人はかなりの量の食事をぺろりと食べた。

「おーすげぇ食べたな。じゃあ話を本題に戻そう。で? その夢の色鉛筆とやらはどこにあるんだ?」

「それが......よく分からないんだ。この絵本に書いてあっただけで......」

 少年はそう言って一冊の絵本を俺に見せてくれた。

 その絵本は、所々ページが破けていて中身は読みづらかったが、表紙だけははっきりと読む事ができた。

「『ヒルデスハイムの夢幻小旅行記』......作者は“バンクシア・ヒルデスハイム”。絵本なら作り話の可能性の方が――」

「あ、私この人知ってる!」

「我も知っているぞ」

 え? 有名人なのか......

「この人は何者なんだ?」

 俺の質問に答えたのはホノラだった。

「ヒルデスハイムはね、めちゃくちゃ昔に実在した史上最高の魔法使いよ! 今存在するほぼ全ての魔導書を作ってありとあらゆる魔法体系を確立させた偉人よ偉人!」

 滅茶苦茶すごい人じゃん!! 元の世界で言う所のアインシュタインとかそのレベルじゃね?

 しかし、そんな偉人だからといっておとぎ話を書かないとは限らないからな。

「作り話だと思います」で終わらせるのは簡単だが、こんな健気な兄妹の姿見ちゃうと力になってあげたくなるんだよなぁ。

「マツル、もう答えは出てるでしょ?」

 どうやらホノラも同じ気持ちのようだ。

「よし! 俺達が何とかして見つけてきてやる!! それまで待ってろ!」

「兄ちゃんたち......! ありがとうございます!」

 少年は泣きながら頭を下げてきた。報酬はこの兄妹の笑顔で十二分だな。

 俺達は兄妹の家を後にした。後、絵本は借りてきた。何か秘密が隠されているかもしれないからな!