―航海1日目―
海は穏やかで快晴。まじで何の心配もない。一つ不満を言うとするなら屋根が無い事位であろうか? まあ小舟だし、あと3日で着くし文句は言うまい。
―航海2日目―
まっじで何も書くことが無いくらいには平和だ。あえて書くとするなら昨日より風が少し強い事位か? まあ師匠は荒れることを知らない海だと言っていたし、心配は要らないだろう。
―航海3日目―
信じられんくらいの嵐が直撃している。絶対舟2,3回沈みかけてる! でもこの嵐を乗り切れば大陸はもうすぐそこだろう! 俺は生き残るんじゃあ!
―航海4日目―
終わった。ようやく荒れた海域から抜け出したと思ったら、食料及び飲み水が全て流されていた。大陸はまだ見えない。
―後悔5日目―
腹が減った。知らぬ間に師匠から貰った刀を齧ったのか、口が血だらけになっていた。もし時を戻せるのなら、出航前に。いや、この世界に転移する前日の夜に戻してください。
―後悔6日目―
何か書かなければ。気を紛らわせる手段がこれしかない。書かなければ。書かなければ。書かなければ。書かなければ。
◇◇◇◇
「書かなければあっ!」
俺は何をしていた? 確か喉の渇きと飢えを紛らわせる為に日記を書いてて意識が遠くなって.......なんだここは? 何も無い。真っ白な空間だ。
「遂に死んだか.......俺」
意識が途切れる前の状況的にも今俺がいる空間的にも、俺は死んだと考えるのが妥当だろう。
「――――いんや、まだ君は死んでいないよ」
「誰だ?」
後ろから誰かの声と足音が聞こえる。こっちに向かってきているようだ。振り向くとそこには......
「なまこあッ!」
俺がこっちの世界へ来た時の夢。その時に追いかけてきた足の生えたナマコが立っていた。
「ちょっ! おまっ! 誰なんだよほんとによぉ!?」
「誰! 君は私を知らないのか? 私の名は!!.......なんだっけ.......長いこと名乗りなんかしてないから忘れちった!」
「ナマコてめぇ何しに来たんだよ!」
俺はなんかもう色々と我慢できなくて拳を振り上げナマコを殴りつける。
ぶにょんという音が鈍く響いた。
ナマコはとても柔らかかった。
「きっ.......君~いきなり殴るのは反則だろ~? でも、私は軟・体・動・物!! 物理攻撃なんざこれっぽっちも効かないのだァ~! 凄いだろ? 君もナマコになりたくなっただろう?」
なんか無駄に可愛い声なのが腹立つので今度は生えている足を蹴ってみた。するとナマコはビクリと震えてのたうち回り始めた。
「いったぁぁぁい! ちょっと!! 私これでもレディーなんですけど!? なんでそういう事する訳!?」
なんだろう.......レディーと聞いた途端必死にローリングして痛みを分散させようとしているナマコをちょっと。ほんのちょっとだけ可愛いと思ってしまった。
「話は変わりますがナマコこの野郎。この際あんたが何者かはどうでもいいとして、ここどこなの? 俺あの小舟の上でどうなったの?」
「はいそれいい質問! 言うなればここは君の精神世界.......的な感じのアレで、肉体的な君は今も舟の上で死にかけてるよ。ほれ」
そう言うとナマコは俺の目の前になにやら画面のようなものを映し出した。そこには舟の上でぶっ倒れている俺が映っていた。
「.......これ、どうするんですか.......?」
「早とちりはダメよ~? それを今から君に教えてあげる所なんだから~!」
うにうにと、いやナマコなのだからなまこなまことムカつく動きをしながら決めポーズを取っている。
めんどくさいな。このナマコ。
「と言いますと?」
「君の肉体を今この海の上から大陸のどこか.......国のある所に飛ばします! そこまでは大サービスしてあげるから、あとはまあなんとか頑張んなさい」
あれか、このナマコは神的な上位存在なのか.......多分.......ならここから少しおだてれば何かオプションが付いちゃったりするんじゃないの?
「まじ? あんた神だな! いやぁ~さっきは殴ったり蹴ったりして申し訳なかった!」
「いいよいいよ~。マツル君が今度から気を付けてくれれば!」
「さっき少し触れてみて分かったけど、あんた.......いや、ナマコ神様の足スベスベで綺麗ですね!」
「も~褒めたって何も出ないぞ?」
「それじゃあ言いたい事は言えたんで、ちゃっちゃと大陸のどこかの国に飛ばしちゃってください!」
「ちょちょちょ~っと待ちなさいマツル君!! 君.......中々見所があるじゃあないか! そんな君にはこの世界で役立つプレゼントを一つあげよう!!」
「プレゼント.......いえ、気持ちだけで十分です!」
「謙虚~! ますます君の事が気に入ったよ!――もうすっごく強い! 最早チートな能力あげちゃう!!」
ビンゴ!!! この人(ナマコ?)チョロいな.......ここまで読み通りに事が運ぶとは驚きだよ。
「では、有難く頂戴致します.......して、一体どんな能力が貰えるのですか?」
そこが重要だ。これで使えない能力だったら本当に困る。てかキレる。
「ふっふっふ.......この世界にピッタリなチート能力を授けよう! その名も! 【全力全開】!!!」
「フルスロットル???」
「この能力は単純明快! 《《魔法》》の威力を無限に高める事が出来る能力ッ! 見た所君は剣士っぽいけど、魔法剣士と言うのも結構乙なものじゃないかい?」
「うぉぉぉ魔法剣士! 異世界っぽい!! 最高ですナマコ神様!!」
俺は自慢じゃないがそこそこ強いだろう。しかも魔法無しでだ。
そこに無限に強くなる魔法が加わる......?
控えめに言って最高のチート能力じゃあないか!
「ありがとうございます! ナマコ神様! この能力、一生大事に使います!!」
「ウムウム――――私も話しかけてくれさえすれば必要な事は答えるから、気軽に頑張ってね~!」
そのナマコ神様の言葉を最後に、俺の意識は再び闇へと落ちるのだった。
◇◇◇◇
「―――――?」
誰かが何かを言っている。
「――? #“→@?」
「んん.......う.......」
「█▎▁А! @↓!」
目を開けると俺の眼前には.......ものすごい美少女が覗き込んでいた。
「あなたは.......?」
「! @→↓#“・!!」
俺は何が何だか分からないままその美少女に担がれてどこかの屋敷らしき所に連れてこられた。
てかこの美少女、力すげーな。男一人担いでダッシュて。そうそう出来るもんじゃないぞ? 流石は異世界人ってやつか。
「0.『』▎→@??? →▎“А」
.......そういえば、運ばれてる辺りから意識は割とハッキリしてたけど、この美少女が何を言ってるのか全くわからん。あれ?
確かケルド島の人達の言葉は何もしてなくても自然と分かったよな.......ナマコ神ぁぁぁぁ! 早速ピンチです!!
『それはね、多分ケルド島と大陸じゃ使われてる言語が違うからよ』
脳内にナマコ神様の声が響く。
成程こういう感じでアシストしてくれるのか.......って納得してる場合じゃねーよ! なんかそこら辺って神の力的なのでなんとかならないんですか!?
『あー.......無理ね』
ナマコ神様はそうあっけらかんと答えた。
『だってほらマツル君、考えてもご覧よ。君の元いた世界だって生まれながらに触れてきた言語は何となく喋れてくるけど、いざ第二言語を習得しようとしたらなんかめんどくさかったでしょ? それと同じよ』
そんなぁ!? 一体どうすりゃ良いんですか!?
『落ち着きなさい。ここは魔法の世界よ! ちょうど目の前に現地人がいるんだから、「言語習得魔法を使ってください!」ってお願いすればいいのよ』
その手があった! てかそんな便利な魔法もあるのか!
「7·・#↓@А>?」
(ワタシ! コトバ! ワカラナイ!)
「./《》↗<.......」
俺は少女の前で手をブンブンと振り回して必死にこの思いを伝えようとした。
手を振り回し、必死に口をパクパクさせ、一体どれ程の時間が経っただろうか? 少女はハッとしてどこかへ行き、戻ってきた時には傍らに本を携えていた。
表紙に魔法陣らしき物が書いてある赤い本。あれはかの有名な【魔導書】なるものでは無いか!?
「↓#『』→▎▁@.......ぽんぽんぺいん!」
少女はなにやらブツブツと呟いた後.......「ぽんぽんぺいん!」と叫び俺の頭を魔導書で殴った。
「痛いよ!? なんで急に殴るの!?」
「?????」
少女は「なんで言葉が分からないんだろう?」とでも言いたげな不思議そうな表情を浮かべ、またどこかへ走って行ってしまった。
クリーム色に近い金髪のポニーテール。そして赤い瞳の可愛らしい女の子だったが、許せることと許せない事があるだろう。
「↗<>.▁А!」
「↗<▁А▎【】“?」
しばらくしてから、少女は老齢の執事服の男を連れて戻って来た。俺の事を指さしながら、なにやら会話をしている。
「↓#『』→▎▁@.......ぽんぽんぺいん」
「お?」
執事服の男が俺の頭に手を置いて先程と同じ詠唱を行う。
先程と違うのは、殴られていない事と俺の体が薄く光った事だろうか?
「爺やどう? 成功した?」
「恐らくは.......どうですかなお客人。私達の言葉は理解出来ますかな?」
「おお! 分かります! ありがとうございます!」
「それは良かったです。しかしこの魔法は会話が出来るようになるだけで読み書きは改めて学ばないといけません。ご注意ください」
「それは私が教えてあげるわ! その前に、あなたの事を教えてちょうだい!」
俺は少女に全てを話した。
名前、朝起きたらこっちの世界へ来ていた事。ケルドという島から大陸へ渡る途中で遭難したこと。
流石にナマコ神様の事は話さなかった。多分信じて貰えないだろうし。
「なるほどね.......って! あなた海で遭難したのよね!? なんでこんな内陸の国のど真ん中で倒れてた訳!?」
詳しく聞いてみると、今俺がいる場所は大陸のほぼ中心に位置する【サラバンド】と言う王国なのだそう。ナマコ神はなんでこんな所に飛ばしたんだ.......
「あの.......川をバタフライで」
「それ遭難じゃなくて馬鹿って言うのよ.......?」
「そうなんです.......」
畜生なんで内陸部に飛ばしたんだナマコテメェ!!!!
少女は深い所まで聞いては来なかった。なにか事情があるのだろうと。優しい!
「それじゃあ次は私の自己紹介ね! 私の名前はホノラ! そっちの執事はベスビアス! よろしくね! マツル!」
うーん可愛い。無い胸を反らし、満面の笑みで俺の事を見ている。最高ですありがとうございます!!!
簡単な自己紹介をお互いに済ませた所で、早速大陸言語の読み書きの勉強が始まった。ホノラはそれはもう手取り足取り教えてくれた。ただ一つ想像と違った事は……
「だからその文字のそこで繋げたらこっちの文字と同じ形になっちゃうでしょ!? なんで何回も何回も同じ間違いをする訳!?」
「あーもうだから今消して直そうとしてただろ! 可愛いからって黙って聞いてりゃつけ上がりやがって! もっと優しく教える事は出来ねーのかよ!」
「あっそう......そういう態度に出るなら今すぐぶん殴って外に叩き出しても良いのよ?」
「すみませんでしたホノラ先生。これからもよろしくお願いします」
「じゃあ次はこっちの文ね!」
ホノラは死ぬほどスパルタだった。
しかしそのお陰か、俺は約2ヶ月で大陸語を完璧にマスターできた。ボディに拳二百六十と七発――蹴り百九十八発――俺も多少やり返したのでトントンか?
「こんな短期間で完璧に覚えるとは思わなかったわ......」
「ホノラさんのお陰ですよ! 本ッ当にありがとうございました!」
「私の方が年下だし...呼び捨てで......ホノラで良いわよ」
ホノラは気恥しそうに頬を掻いて笑った。
「そうか?......じゃあ改めて、ありがとう! ホノラ!」
「って! そんな事はそんな事はどうでもいいのよ! マツルあんた、何しにその島から出てきたの?」
そういえば、まだそこら辺話してなかったのか。
こういう時はなんて言えばいいんだ?
「えーっと......強くなるため?」
少しの沈黙が流れた後、ホノラは目を輝かせながら俺の手を取った。
「あら奇遇ね! 私も強くなりたいの! ちょうどギルドに冒険者の登録に行こうと思ってたんだけど......一緒に来る?」
ギルド! 冒険者!!ってアレだろ? 依頼とかこなして、モンスター討伐とかするやつ!
こりゃあ強くなれそうだ!
「よし! じゃあ行く! 目指すはギルド支部!」
「? そんな張り切って行くところじゃないわ。歩いてすぐよ?」
「あそう......」
なんかいつもいつも絶妙に締まらねぇな......
こうして、俺はこの世界での二人目の恩人、ホノラと行動を共にすることになった。
海は穏やかで快晴。まじで何の心配もない。一つ不満を言うとするなら屋根が無い事位であろうか? まあ小舟だし、あと3日で着くし文句は言うまい。
―航海2日目―
まっじで何も書くことが無いくらいには平和だ。あえて書くとするなら昨日より風が少し強い事位か? まあ師匠は荒れることを知らない海だと言っていたし、心配は要らないだろう。
―航海3日目―
信じられんくらいの嵐が直撃している。絶対舟2,3回沈みかけてる! でもこの嵐を乗り切れば大陸はもうすぐそこだろう! 俺は生き残るんじゃあ!
―航海4日目―
終わった。ようやく荒れた海域から抜け出したと思ったら、食料及び飲み水が全て流されていた。大陸はまだ見えない。
―後悔5日目―
腹が減った。知らぬ間に師匠から貰った刀を齧ったのか、口が血だらけになっていた。もし時を戻せるのなら、出航前に。いや、この世界に転移する前日の夜に戻してください。
―後悔6日目―
何か書かなければ。気を紛らわせる手段がこれしかない。書かなければ。書かなければ。書かなければ。書かなければ。
◇◇◇◇
「書かなければあっ!」
俺は何をしていた? 確か喉の渇きと飢えを紛らわせる為に日記を書いてて意識が遠くなって.......なんだここは? 何も無い。真っ白な空間だ。
「遂に死んだか.......俺」
意識が途切れる前の状況的にも今俺がいる空間的にも、俺は死んだと考えるのが妥当だろう。
「――――いんや、まだ君は死んでいないよ」
「誰だ?」
後ろから誰かの声と足音が聞こえる。こっちに向かってきているようだ。振り向くとそこには......
「なまこあッ!」
俺がこっちの世界へ来た時の夢。その時に追いかけてきた足の生えたナマコが立っていた。
「ちょっ! おまっ! 誰なんだよほんとによぉ!?」
「誰! 君は私を知らないのか? 私の名は!!.......なんだっけ.......長いこと名乗りなんかしてないから忘れちった!」
「ナマコてめぇ何しに来たんだよ!」
俺はなんかもう色々と我慢できなくて拳を振り上げナマコを殴りつける。
ぶにょんという音が鈍く響いた。
ナマコはとても柔らかかった。
「きっ.......君~いきなり殴るのは反則だろ~? でも、私は軟・体・動・物!! 物理攻撃なんざこれっぽっちも効かないのだァ~! 凄いだろ? 君もナマコになりたくなっただろう?」
なんか無駄に可愛い声なのが腹立つので今度は生えている足を蹴ってみた。するとナマコはビクリと震えてのたうち回り始めた。
「いったぁぁぁい! ちょっと!! 私これでもレディーなんですけど!? なんでそういう事する訳!?」
なんだろう.......レディーと聞いた途端必死にローリングして痛みを分散させようとしているナマコをちょっと。ほんのちょっとだけ可愛いと思ってしまった。
「話は変わりますがナマコこの野郎。この際あんたが何者かはどうでもいいとして、ここどこなの? 俺あの小舟の上でどうなったの?」
「はいそれいい質問! 言うなればここは君の精神世界.......的な感じのアレで、肉体的な君は今も舟の上で死にかけてるよ。ほれ」
そう言うとナマコは俺の目の前になにやら画面のようなものを映し出した。そこには舟の上でぶっ倒れている俺が映っていた。
「.......これ、どうするんですか.......?」
「早とちりはダメよ~? それを今から君に教えてあげる所なんだから~!」
うにうにと、いやナマコなのだからなまこなまことムカつく動きをしながら決めポーズを取っている。
めんどくさいな。このナマコ。
「と言いますと?」
「君の肉体を今この海の上から大陸のどこか.......国のある所に飛ばします! そこまでは大サービスしてあげるから、あとはまあなんとか頑張んなさい」
あれか、このナマコは神的な上位存在なのか.......多分.......ならここから少しおだてれば何かオプションが付いちゃったりするんじゃないの?
「まじ? あんた神だな! いやぁ~さっきは殴ったり蹴ったりして申し訳なかった!」
「いいよいいよ~。マツル君が今度から気を付けてくれれば!」
「さっき少し触れてみて分かったけど、あんた.......いや、ナマコ神様の足スベスベで綺麗ですね!」
「も~褒めたって何も出ないぞ?」
「それじゃあ言いたい事は言えたんで、ちゃっちゃと大陸のどこかの国に飛ばしちゃってください!」
「ちょちょちょ~っと待ちなさいマツル君!! 君.......中々見所があるじゃあないか! そんな君にはこの世界で役立つプレゼントを一つあげよう!!」
「プレゼント.......いえ、気持ちだけで十分です!」
「謙虚~! ますます君の事が気に入ったよ!――もうすっごく強い! 最早チートな能力あげちゃう!!」
ビンゴ!!! この人(ナマコ?)チョロいな.......ここまで読み通りに事が運ぶとは驚きだよ。
「では、有難く頂戴致します.......して、一体どんな能力が貰えるのですか?」
そこが重要だ。これで使えない能力だったら本当に困る。てかキレる。
「ふっふっふ.......この世界にピッタリなチート能力を授けよう! その名も! 【全力全開】!!!」
「フルスロットル???」
「この能力は単純明快! 《《魔法》》の威力を無限に高める事が出来る能力ッ! 見た所君は剣士っぽいけど、魔法剣士と言うのも結構乙なものじゃないかい?」
「うぉぉぉ魔法剣士! 異世界っぽい!! 最高ですナマコ神様!!」
俺は自慢じゃないがそこそこ強いだろう。しかも魔法無しでだ。
そこに無限に強くなる魔法が加わる......?
控えめに言って最高のチート能力じゃあないか!
「ありがとうございます! ナマコ神様! この能力、一生大事に使います!!」
「ウムウム――――私も話しかけてくれさえすれば必要な事は答えるから、気軽に頑張ってね~!」
そのナマコ神様の言葉を最後に、俺の意識は再び闇へと落ちるのだった。
◇◇◇◇
「―――――?」
誰かが何かを言っている。
「――? #“→@?」
「んん.......う.......」
「█▎▁А! @↓!」
目を開けると俺の眼前には.......ものすごい美少女が覗き込んでいた。
「あなたは.......?」
「! @→↓#“・!!」
俺は何が何だか分からないままその美少女に担がれてどこかの屋敷らしき所に連れてこられた。
てかこの美少女、力すげーな。男一人担いでダッシュて。そうそう出来るもんじゃないぞ? 流石は異世界人ってやつか。
「0.『』▎→@??? →▎“А」
.......そういえば、運ばれてる辺りから意識は割とハッキリしてたけど、この美少女が何を言ってるのか全くわからん。あれ?
確かケルド島の人達の言葉は何もしてなくても自然と分かったよな.......ナマコ神ぁぁぁぁ! 早速ピンチです!!
『それはね、多分ケルド島と大陸じゃ使われてる言語が違うからよ』
脳内にナマコ神様の声が響く。
成程こういう感じでアシストしてくれるのか.......って納得してる場合じゃねーよ! なんかそこら辺って神の力的なのでなんとかならないんですか!?
『あー.......無理ね』
ナマコ神様はそうあっけらかんと答えた。
『だってほらマツル君、考えてもご覧よ。君の元いた世界だって生まれながらに触れてきた言語は何となく喋れてくるけど、いざ第二言語を習得しようとしたらなんかめんどくさかったでしょ? それと同じよ』
そんなぁ!? 一体どうすりゃ良いんですか!?
『落ち着きなさい。ここは魔法の世界よ! ちょうど目の前に現地人がいるんだから、「言語習得魔法を使ってください!」ってお願いすればいいのよ』
その手があった! てかそんな便利な魔法もあるのか!
「7·・#↓@А>?」
(ワタシ! コトバ! ワカラナイ!)
「./《》↗<.......」
俺は少女の前で手をブンブンと振り回して必死にこの思いを伝えようとした。
手を振り回し、必死に口をパクパクさせ、一体どれ程の時間が経っただろうか? 少女はハッとしてどこかへ行き、戻ってきた時には傍らに本を携えていた。
表紙に魔法陣らしき物が書いてある赤い本。あれはかの有名な【魔導書】なるものでは無いか!?
「↓#『』→▎▁@.......ぽんぽんぺいん!」
少女はなにやらブツブツと呟いた後.......「ぽんぽんぺいん!」と叫び俺の頭を魔導書で殴った。
「痛いよ!? なんで急に殴るの!?」
「?????」
少女は「なんで言葉が分からないんだろう?」とでも言いたげな不思議そうな表情を浮かべ、またどこかへ走って行ってしまった。
クリーム色に近い金髪のポニーテール。そして赤い瞳の可愛らしい女の子だったが、許せることと許せない事があるだろう。
「↗<>.▁А!」
「↗<▁А▎【】“?」
しばらくしてから、少女は老齢の執事服の男を連れて戻って来た。俺の事を指さしながら、なにやら会話をしている。
「↓#『』→▎▁@.......ぽんぽんぺいん」
「お?」
執事服の男が俺の頭に手を置いて先程と同じ詠唱を行う。
先程と違うのは、殴られていない事と俺の体が薄く光った事だろうか?
「爺やどう? 成功した?」
「恐らくは.......どうですかなお客人。私達の言葉は理解出来ますかな?」
「おお! 分かります! ありがとうございます!」
「それは良かったです。しかしこの魔法は会話が出来るようになるだけで読み書きは改めて学ばないといけません。ご注意ください」
「それは私が教えてあげるわ! その前に、あなたの事を教えてちょうだい!」
俺は少女に全てを話した。
名前、朝起きたらこっちの世界へ来ていた事。ケルドという島から大陸へ渡る途中で遭難したこと。
流石にナマコ神様の事は話さなかった。多分信じて貰えないだろうし。
「なるほどね.......って! あなた海で遭難したのよね!? なんでこんな内陸の国のど真ん中で倒れてた訳!?」
詳しく聞いてみると、今俺がいる場所は大陸のほぼ中心に位置する【サラバンド】と言う王国なのだそう。ナマコ神はなんでこんな所に飛ばしたんだ.......
「あの.......川をバタフライで」
「それ遭難じゃなくて馬鹿って言うのよ.......?」
「そうなんです.......」
畜生なんで内陸部に飛ばしたんだナマコテメェ!!!!
少女は深い所まで聞いては来なかった。なにか事情があるのだろうと。優しい!
「それじゃあ次は私の自己紹介ね! 私の名前はホノラ! そっちの執事はベスビアス! よろしくね! マツル!」
うーん可愛い。無い胸を反らし、満面の笑みで俺の事を見ている。最高ですありがとうございます!!!
簡単な自己紹介をお互いに済ませた所で、早速大陸言語の読み書きの勉強が始まった。ホノラはそれはもう手取り足取り教えてくれた。ただ一つ想像と違った事は……
「だからその文字のそこで繋げたらこっちの文字と同じ形になっちゃうでしょ!? なんで何回も何回も同じ間違いをする訳!?」
「あーもうだから今消して直そうとしてただろ! 可愛いからって黙って聞いてりゃつけ上がりやがって! もっと優しく教える事は出来ねーのかよ!」
「あっそう......そういう態度に出るなら今すぐぶん殴って外に叩き出しても良いのよ?」
「すみませんでしたホノラ先生。これからもよろしくお願いします」
「じゃあ次はこっちの文ね!」
ホノラは死ぬほどスパルタだった。
しかしそのお陰か、俺は約2ヶ月で大陸語を完璧にマスターできた。ボディに拳二百六十と七発――蹴り百九十八発――俺も多少やり返したのでトントンか?
「こんな短期間で完璧に覚えるとは思わなかったわ......」
「ホノラさんのお陰ですよ! 本ッ当にありがとうございました!」
「私の方が年下だし...呼び捨てで......ホノラで良いわよ」
ホノラは気恥しそうに頬を掻いて笑った。
「そうか?......じゃあ改めて、ありがとう! ホノラ!」
「って! そんな事はそんな事はどうでもいいのよ! マツルあんた、何しにその島から出てきたの?」
そういえば、まだそこら辺話してなかったのか。
こういう時はなんて言えばいいんだ?
「えーっと......強くなるため?」
少しの沈黙が流れた後、ホノラは目を輝かせながら俺の手を取った。
「あら奇遇ね! 私も強くなりたいの! ちょうどギルドに冒険者の登録に行こうと思ってたんだけど......一緒に来る?」
ギルド! 冒険者!!ってアレだろ? 依頼とかこなして、モンスター討伐とかするやつ!
こりゃあ強くなれそうだ!
「よし! じゃあ行く! 目指すはギルド支部!」
「? そんな張り切って行くところじゃないわ。歩いてすぐよ?」
「あそう......」
なんかいつもいつも絶妙に締まらねぇな......
こうして、俺はこの世界での二人目の恩人、ホノラと行動を共にすることになった。