何故かホノラの兄と戦うことになった俺は、例によってギルド地下の訓練場に来ていた。
国王の凱旋パレードを見に来ていた人がそのまま観客席に入ったので、ギルドマスターと戦った時より多く人が来ていた。
「じゃあホノラ兄、ルールはどうする?」
「無い。死ぬまでやろう」
おっかねえなまじで! コイツ本当は騎士じゃなくて危険人物だろ!
「流石にそれは私が許しません。どちらかが降参させるか、戦闘不能の状態になったら勝負ありとします!」
立会人のウィールの提案を、ホノラ兄は渋々だが受け入れてくれた。マジで俺の事殺すつもりだったんかいワレェ......
「――では、サラバンド王国騎士団長筆頭“レオノラ”様対! 冒険者ギルド、サラバンド支部Bランク冒険者“マツル”さん! 試合――――開始です!」
開戦の笛の音が鳴り響いた。
――――
さてどうするか......確かギルドマスターと戦った時は突っ込んで負けたからな、今回は様子を伺ってみるか......
ホノラ兄......レオノラだっけ? はローブを脱ぎ、長い髪を纏めて動きやすい服装になっている。だが魔法を使う為の杖等は持っていない......どうやって魔法を使うんだ?
そういえば俺だとは知らなかったけど目無しの魔獣事件解決の立役者が剣士だって事は知ってたよな......
アイツは俺の情報知ってて俺は知らないって既に不利じゃねぇか!?
「――――おい、あまり流暢にしていると貴様の負けが確定するぞ?」
「だったら俺が攻撃を始めたらテメェの負けが確定するけどいいのか?」
「じゃあやってみるといいさ」
舐めやがって......! じゃあお望み通り斬ってやるよ!
「疾!!」
全身の力を足に移動させ、踏み込みの速度を上げる!
俺の間合いに入った瞬間! 足に込めた力を腕に移動!! これで終わりだァッ!!
必殺の威力を込めた剣撃が人の反応を軽く超える速さで腕に命中する。
ギィィン!!!!......
しかし響く音は鋼と何か硬い物を打ち付けた様な音だった。
「硬い!?」
いや、ただ硬いだけじゃない。それなら簡単に斬れるはずだ.......
「不思議かい? この程度の貴様が救国の英雄だのとは笑わせてくれる......」
レオノラは俺を馬鹿にしたような、ニヤついた顔で話しかけてくる。
「ンだとテメェ......! 余裕こいてられるのも今のうちだぞ!?」
俺は休む間を与えないように連続で攻撃を繰り出した。
三十分程斬り続けただろうか......しかし全てダメージになることは無く、ただ虚しい金切り音を響かせるだけだった。
「クソ......これじゃあ俺が先にバテちまう!」
レオノラはピンピンしてるのに俺の息が上がってきた。肩で大きく息をしないと酸素の供給が間に合わない。
「あぁ......もう終わりか。じゃあ、大人しく負けを認めてもらおう」
心底退屈そうな表情のレオノラが俺に降参を勧めてくる。
「まだ俺負けてねぇからな!? 絶対その無敵余裕面をボコボコの泣き顔に変えてやるわぁ!!!!」
大きく息を吸い込め! 次の行動のエネルギーに全てを変えろ!!
「――――貴様の負けだ」
大きく息を吸い込んだ瞬間、肺に凄まじい激痛が走る。
「ゲホッゴホッ......!」
咳が止まらない......肺が痛い......
口に当てていた手を見ると大量に吐血していた事が分かった。肺と気道から出血したであろう血液は、手に収まり切る事はなく地面にボタボタと滴っている。
「な゛ん゛だ......ごれ゛」
これがレオノラの魔法って事か......!?
◇◇◇◇
くっそ......息が上手く吸えねぇし吐けねぇ......
『肺と気道。特に肺の方が大きく損傷しているね......このまま動き続けるのはダメージが大き過ぎる気がするよ』
ナマコ神様が言うには、何か粉のような有害物質を吸い込んだ可能性が高いらしい。
つまり、それがレオノラの魔法による効果って訳だな。
あれ? でも魔法使いって魔鉱石を媒体にして魔法を使ってるって言ってたよな? 杖らしきものは持ってないし、一体どうやって......
『多分あれだね――――』
「レオノラ......お前がどうやって魔法を使っているのか気になってたが......その左手薬指の指輪だな?」
指輪には、灰色に発光する石が埋め込まれている。恐らくあの石が魔鉱石なのだろう。
「ふふ......口から血を垂れ流しながら無様に倒れ伏す男が聞く事ではないが良いだろう教えてやる――――」
レオノラは退屈そうな表情から一転して満面の笑みを浮かべながら語り出した。
「そう! この指輪は魔鉱石が埋め込まれた俺の宝物!! これは俺の誕生日にまだ小さかった頃のホノラが『おりーりゃんプレゼント!』と俺にくれた世界最高の至宝! あぁ......! 今のホノラも最強に可愛いがあの頃のホノラもまた愛らしい!」
遂には指から外し頬擦りまで始めた......
「おいクソ兄貴コラァ!! なに恥ずかしい事大人数の前で言っちゃってるの!?」
とんでもない過去をバラされた結果、顔を怒りで真っ赤に染めたホノラが乱入してきた。
つか、妹からのプレゼントを左手薬指にはめてるのか......シスコンキモいな。
「愛する俺の妹よ。なぜ怒る? 後世に語り継ぐべきエピソードではないか?」
「そういう所が一々気持ち悪いって言ってるの! ホント信じられない!」
遂には俺を差し置いて兄妹喧嘩が始まってしまった。
「あの......ホノラさん? そろそろ再開したいんですけど......」
ウィールさんも困惑のこの表情である。
「わかったわ......邪魔して悪かったわね......マツル! 私のクソ兄貴の得意な魔法は“灰魔法”よ! だから気を付けなさい!」
最後の最後で超重要な情報きたぁァァァ!!!!
成程灰魔法か......灰を作る魔法ってのが自然な考えで、それを吸い込んだから
肺が損傷したと!
「ホノラ、サンキュな! ネタが割れたならこっちのもんじゃい!」
「......絶対勝ちなさいよ」
「任せとけって」
ホノラは顔が赤いまま観客席へ戻って行った。モフローを頭に乗せて一緒に跳ねている。
「貴様......そうやって僕の愛する妹を誑かしたのだな......」
「だから誑かしてなんかいねぇって! アイツは俺の大事な仲間だ!」
こっちはこっちでご立腹か。だが、灰を生成すると言う魔法のネタが知れた以上負ける事は――――
「貴様、俺がなんの魔法を使うか分かったから勝てるとか思っていないよな......良いだろう。俺の灰魔法の真の力、見せてやろう......」
◇◇◇◇
マツルとレオノラの戦闘を見るモフローは、大福の形状に似合わない険しい顔でホノラに話しかける。
「小娘よ......小僧が本気で勝てると思っているのか?【灰色の英雄のレオノラ】と言えば、我の元主である魔王ニシュラブも警戒する程の人物。いくらなんでも――」
ここまで言いかけたモフローをホノラが顔の前に近付けてつぶやく。
「黙って見てなさい。マツルなら勝てるわ。でも、ここから戦いはより激しくなってくるわね」
ホノラの言う通り、ここから戦闘は激化していく。その決め手は思いの外早く訪れた。
国王の凱旋パレードを見に来ていた人がそのまま観客席に入ったので、ギルドマスターと戦った時より多く人が来ていた。
「じゃあホノラ兄、ルールはどうする?」
「無い。死ぬまでやろう」
おっかねえなまじで! コイツ本当は騎士じゃなくて危険人物だろ!
「流石にそれは私が許しません。どちらかが降参させるか、戦闘不能の状態になったら勝負ありとします!」
立会人のウィールの提案を、ホノラ兄は渋々だが受け入れてくれた。マジで俺の事殺すつもりだったんかいワレェ......
「――では、サラバンド王国騎士団長筆頭“レオノラ”様対! 冒険者ギルド、サラバンド支部Bランク冒険者“マツル”さん! 試合――――開始です!」
開戦の笛の音が鳴り響いた。
――――
さてどうするか......確かギルドマスターと戦った時は突っ込んで負けたからな、今回は様子を伺ってみるか......
ホノラ兄......レオノラだっけ? はローブを脱ぎ、長い髪を纏めて動きやすい服装になっている。だが魔法を使う為の杖等は持っていない......どうやって魔法を使うんだ?
そういえば俺だとは知らなかったけど目無しの魔獣事件解決の立役者が剣士だって事は知ってたよな......
アイツは俺の情報知ってて俺は知らないって既に不利じゃねぇか!?
「――――おい、あまり流暢にしていると貴様の負けが確定するぞ?」
「だったら俺が攻撃を始めたらテメェの負けが確定するけどいいのか?」
「じゃあやってみるといいさ」
舐めやがって......! じゃあお望み通り斬ってやるよ!
「疾!!」
全身の力を足に移動させ、踏み込みの速度を上げる!
俺の間合いに入った瞬間! 足に込めた力を腕に移動!! これで終わりだァッ!!
必殺の威力を込めた剣撃が人の反応を軽く超える速さで腕に命中する。
ギィィン!!!!......
しかし響く音は鋼と何か硬い物を打ち付けた様な音だった。
「硬い!?」
いや、ただ硬いだけじゃない。それなら簡単に斬れるはずだ.......
「不思議かい? この程度の貴様が救国の英雄だのとは笑わせてくれる......」
レオノラは俺を馬鹿にしたような、ニヤついた顔で話しかけてくる。
「ンだとテメェ......! 余裕こいてられるのも今のうちだぞ!?」
俺は休む間を与えないように連続で攻撃を繰り出した。
三十分程斬り続けただろうか......しかし全てダメージになることは無く、ただ虚しい金切り音を響かせるだけだった。
「クソ......これじゃあ俺が先にバテちまう!」
レオノラはピンピンしてるのに俺の息が上がってきた。肩で大きく息をしないと酸素の供給が間に合わない。
「あぁ......もう終わりか。じゃあ、大人しく負けを認めてもらおう」
心底退屈そうな表情のレオノラが俺に降参を勧めてくる。
「まだ俺負けてねぇからな!? 絶対その無敵余裕面をボコボコの泣き顔に変えてやるわぁ!!!!」
大きく息を吸い込め! 次の行動のエネルギーに全てを変えろ!!
「――――貴様の負けだ」
大きく息を吸い込んだ瞬間、肺に凄まじい激痛が走る。
「ゲホッゴホッ......!」
咳が止まらない......肺が痛い......
口に当てていた手を見ると大量に吐血していた事が分かった。肺と気道から出血したであろう血液は、手に収まり切る事はなく地面にボタボタと滴っている。
「な゛ん゛だ......ごれ゛」
これがレオノラの魔法って事か......!?
◇◇◇◇
くっそ......息が上手く吸えねぇし吐けねぇ......
『肺と気道。特に肺の方が大きく損傷しているね......このまま動き続けるのはダメージが大き過ぎる気がするよ』
ナマコ神様が言うには、何か粉のような有害物質を吸い込んだ可能性が高いらしい。
つまり、それがレオノラの魔法による効果って訳だな。
あれ? でも魔法使いって魔鉱石を媒体にして魔法を使ってるって言ってたよな? 杖らしきものは持ってないし、一体どうやって......
『多分あれだね――――』
「レオノラ......お前がどうやって魔法を使っているのか気になってたが......その左手薬指の指輪だな?」
指輪には、灰色に発光する石が埋め込まれている。恐らくあの石が魔鉱石なのだろう。
「ふふ......口から血を垂れ流しながら無様に倒れ伏す男が聞く事ではないが良いだろう教えてやる――――」
レオノラは退屈そうな表情から一転して満面の笑みを浮かべながら語り出した。
「そう! この指輪は魔鉱石が埋め込まれた俺の宝物!! これは俺の誕生日にまだ小さかった頃のホノラが『おりーりゃんプレゼント!』と俺にくれた世界最高の至宝! あぁ......! 今のホノラも最強に可愛いがあの頃のホノラもまた愛らしい!」
遂には指から外し頬擦りまで始めた......
「おいクソ兄貴コラァ!! なに恥ずかしい事大人数の前で言っちゃってるの!?」
とんでもない過去をバラされた結果、顔を怒りで真っ赤に染めたホノラが乱入してきた。
つか、妹からのプレゼントを左手薬指にはめてるのか......シスコンキモいな。
「愛する俺の妹よ。なぜ怒る? 後世に語り継ぐべきエピソードではないか?」
「そういう所が一々気持ち悪いって言ってるの! ホント信じられない!」
遂には俺を差し置いて兄妹喧嘩が始まってしまった。
「あの......ホノラさん? そろそろ再開したいんですけど......」
ウィールさんも困惑のこの表情である。
「わかったわ......邪魔して悪かったわね......マツル! 私のクソ兄貴の得意な魔法は“灰魔法”よ! だから気を付けなさい!」
最後の最後で超重要な情報きたぁァァァ!!!!
成程灰魔法か......灰を作る魔法ってのが自然な考えで、それを吸い込んだから
肺が損傷したと!
「ホノラ、サンキュな! ネタが割れたならこっちのもんじゃい!」
「......絶対勝ちなさいよ」
「任せとけって」
ホノラは顔が赤いまま観客席へ戻って行った。モフローを頭に乗せて一緒に跳ねている。
「貴様......そうやって僕の愛する妹を誑かしたのだな......」
「だから誑かしてなんかいねぇって! アイツは俺の大事な仲間だ!」
こっちはこっちでご立腹か。だが、灰を生成すると言う魔法のネタが知れた以上負ける事は――――
「貴様、俺がなんの魔法を使うか分かったから勝てるとか思っていないよな......良いだろう。俺の灰魔法の真の力、見せてやろう......」
◇◇◇◇
マツルとレオノラの戦闘を見るモフローは、大福の形状に似合わない険しい顔でホノラに話しかける。
「小娘よ......小僧が本気で勝てると思っているのか?【灰色の英雄のレオノラ】と言えば、我の元主である魔王ニシュラブも警戒する程の人物。いくらなんでも――」
ここまで言いかけたモフローをホノラが顔の前に近付けてつぶやく。
「黙って見てなさい。マツルなら勝てるわ。でも、ここから戦いはより激しくなってくるわね」
ホノラの言う通り、ここから戦闘は激化していく。その決め手は思いの外早く訪れた。