ギルド舎に戻ってきた一同は、クエストカウンターの横に併設されている酒場“ヨージ”にて祝勝会を行っているのだった。
「――――えー、と言う訳でみんな!! お疲れ様でした!! 今日は僕の奢りだから、好きなだけ楽しんでくれ!! 乾杯!!」
「「「乾杯ァーイ!!!!」」」
ギルドマスターの号令と共に皆が酒を酌み交わす。酒の他にも様々な種類の料理が並び、見渡す限り笑顔、笑顔、笑顔だ!
「やっぱり兄ちゃんはすげぇや! 俺達まで吹っ飛んじまうかと思ったぜ!!」
酒樽を片手にメツセイが肩を組んでくる。
「酒クサッ!! 開始数分でもう酔ってる!」
「バッキャロウ......! まだ2樽半しか飲んでねぇやい!」
2樽と言うと、大体40L位だろうか?
ドワーフってこんなにお酒に強いのか......
「マルル~......」
俺の膝の上に寝転がってきたのはホノラだった。
なんか声がフワフワして呂律が回ってないし顔トロトロじゃね?
「お前まさか未成年の身で酒を――!」
「いや、嬢ちゃんは酒は飲んでないぞ? どうしても飲みたいって聞かないもんだからオレンジジュースを酒と言って渡したらこうなった」
メツセイはホノラがこうなった理由を樽3本目を飲み干しながら教えてくれた。
オレンジジュースと言っても、俺が元の世界で慣れ親しんだオレンジジュースではなく、薄く黄色に発光している飲み物だ。味は元の世界のオレンジジュースと全く変わらないのだが。
「マルルもたりかりすろかっらけろわらひのくろろにいりゃんがいれらもっろかんらんにかれらのに~」
うん。何言ってるかわからんからそっとしておこう。
因みに俺もオレンジ(のような果実を使った)ジュースだ。酒の美味さがイマイチ分からんからな。
◇◇◇◇
みんなが良い感じに酔ってきた所で、俺はある重大な事に気が付いた。
「魔法を使えた! オマケにこの国の危機を救った今なら女の子にモッテモテのウッハウハなのでは!?」
俺が唐突に立ち上がったせいで肩を組んでいたメツセイは酒樽ごと一回転し、膝の上で寝ていたホノラは床に転がっていった。
「――――凄いよね~」
「ね~ホントに! 好きになっちゃいそう」
俺達から少し離れたテーブルで女性冒険者達が集まって何かを褒める話している!!!!
これは!? まじにあるのでは?
早速行ってみるしかあるまい!
「なんの話してる――――」
「この白い毛もふもふでフワフワ~すごーい!」
「お目目もくりくりでかわいい~好きになっちゃいそう」
「ワンちゃん名前なんて言うの~?」
「我は名も無き只の閃狼よ......えぇ背中にくっつくでない!!」
俺が連れて来た狼に女性冒険者達は集まっていた。
背中、お腹、顔。ありとあらゆる所をモフっている。
狼も嫌がっているように見えてしっかりと尻尾をぶん回している辺り、めちゃくちゃ嬉しいようで何よりだ。
「兄ちゃん......漢の魅力ってぇのは、完璧には女に伝わらないモンなのよ......」
状況を察したメツセイが俺の背中をポンと叩く。なんだろう......すっごい涙が出そうだ。
「ハッ!!!! 兄貴、メツセイ殿の言う通りだ! 俺も先程子猫ちゃん達に話し掛けたら、俺のチャームポイントの下まつ毛を全部抜かれてしまった!」
パンナが話に割り込んで来た。そういえばいつの間に俺の事“兄貴”って呼んだりし始めたんだ? 今更遅い改心って奴か。
「ハッ!!!! だが俺は兄貴の事を尊敬してるぜ?」
パンナが渾身のキメ顔で俺の顎をクイッとする。
「キモ死ね」
「パンナ......お前は、今は亡きその下まつ毛と言動と性格をなんとかしたら普通にモテると思うんだがなぁ......」
「全部ではないか!! ハッ!!!!」
この一言は俺とメツセイとパンナは大爆笑をかっさらっていった。
酒の気でこっちも酔っているような気分になりつつ、宴はまだまだ続く......
◇◇◇◇
「メツセイさん......そろそろお酒が無くなりそうです」
「マジかイントリーグ......大将のヨージは?」
「それが......置き手紙に『あるよ』とだけ書き記してどこかへ行ってしまって......」
イントリーグさんは酒場“ヨージ”の見習い兼雑用係の俺と同じ位の歳の青年だ。
また、ヨージさんとはこの酒場のマスターである。俺も今初めて知った。
しかしヨージさんとは......なんか日本人っぽい名前だな。今度大将が居る時にご飯食べに来よっと。
――――
「――はいみんな注目ー!! 僕から重大発表があります!」
椅子の上に立ってギルドマスターが急に叫び出した。完ッ全に顔が酔っ払ってる。真っ赤だもん。
「今回のサラバンド防衛戦で! 特に沢山の魔獣を討伐したマツル君とホノラ君は、なんと一気に二ランクアップ!! Bランクに昇格しまーす!!!!」
「スゲぇぇぇぇ!!!!」
みんな酔った勢いだろうか。凄まじい歓声が上がる。
「マルルすろ~い!!」
いつの間にか起き上がってきたホノラが俺をよじ登り肩車の体勢でジュースを飲み始める。そしてすぐにそのまま寝てしまった。
「野郎共!! 今度は兄ちゃんの昇格祝いだ!! もっと飲むぞォォォ!!」
「「「ウェェェェェイ!!!!」」」
それから宴はさらに盛り上がり、俺達は酒と食べ物が店から消え去るまで騒いだのだった。
こうして、俺の人生で一番長い一日は終わったのだった。
◇◇◇◇
翌日――
「う......頭痛てぇ......」
俺が目を覚ますと、そこには荒れに荒れた店内が広がっていた。
大いびきをかきながら床で倒れたそのままの体勢で眠る冒険者達。
割れた食器類、山のように転がる酒樽、壊れたテーブル・窓ガラス。これはもう戦場と言っても差し支えない惨状だ。
......あれ? こんな面白い顔の石像、ギルドにあったっけ?
「あ、マツルさん! おはようございます」
「もし良ければここの片付け手伝って貰えませんか?」
話し掛けてきたのはウィールとイントリーグであった。何時から起きていたのか分からないが、二人で戦後処理をしているようだ。
「手伝います......それで、何がどうしてこんな事になってるんですか?」
「やっぱりなにも覚えてないんですね......」
俺は片付け手伝いつつ、何があったのか聞くことにした。
――――
まず、俺達の昇格祝いも落ち着いて、ちらほらと寝始める人が出てきた頃、(俺もこのタイミングで寝た)それまで寝ていたホノラが起きたらしい。
『おらけがたりないー!!』
酒が足りないと暴れ出したホノラ。それがこの散らかりようの正体か......
「で、つい先程ギルドマスター様が起きられたのですが......」
あれ? そういえば俺より先に起きてきたらしいギルドマスターはどこにいるんだ?
「それが、こちらの領収書を見せたら石になってしまいまして......」
「石に? 石ってまさかこの面白い顔の石像ギルドマスターなの!?」
ギルドマスターは、今回の宴の総額が大金貨200枚。日本円に直すと2000万円だろうか? 金額を知った途端石になってしまったそうだ。原理は知らん。
「石になる直前に、『本部にツケといて』と仰っていたのでそうしようと思いますが、バレたら不味いですよね......」
ほぼ徹夜で仕事をしていた事が、イントリーグの疲れた顔からとても良く想像出来る。
俺達三人はみんなが起きてくる前に片付けを全て終わらせ、昼からまた通常業務が再開された。
避難していた住民も徐々に帰ってきていると言う。
こうして、俺がこの世界に来てから初めての大事件。“目無しの魔獣”事件は幕を下ろしたのだった。
「――――えー、と言う訳でみんな!! お疲れ様でした!! 今日は僕の奢りだから、好きなだけ楽しんでくれ!! 乾杯!!」
「「「乾杯ァーイ!!!!」」」
ギルドマスターの号令と共に皆が酒を酌み交わす。酒の他にも様々な種類の料理が並び、見渡す限り笑顔、笑顔、笑顔だ!
「やっぱり兄ちゃんはすげぇや! 俺達まで吹っ飛んじまうかと思ったぜ!!」
酒樽を片手にメツセイが肩を組んでくる。
「酒クサッ!! 開始数分でもう酔ってる!」
「バッキャロウ......! まだ2樽半しか飲んでねぇやい!」
2樽と言うと、大体40L位だろうか?
ドワーフってこんなにお酒に強いのか......
「マルル~......」
俺の膝の上に寝転がってきたのはホノラだった。
なんか声がフワフワして呂律が回ってないし顔トロトロじゃね?
「お前まさか未成年の身で酒を――!」
「いや、嬢ちゃんは酒は飲んでないぞ? どうしても飲みたいって聞かないもんだからオレンジジュースを酒と言って渡したらこうなった」
メツセイはホノラがこうなった理由を樽3本目を飲み干しながら教えてくれた。
オレンジジュースと言っても、俺が元の世界で慣れ親しんだオレンジジュースではなく、薄く黄色に発光している飲み物だ。味は元の世界のオレンジジュースと全く変わらないのだが。
「マルルもたりかりすろかっらけろわらひのくろろにいりゃんがいれらもっろかんらんにかれらのに~」
うん。何言ってるかわからんからそっとしておこう。
因みに俺もオレンジ(のような果実を使った)ジュースだ。酒の美味さがイマイチ分からんからな。
◇◇◇◇
みんなが良い感じに酔ってきた所で、俺はある重大な事に気が付いた。
「魔法を使えた! オマケにこの国の危機を救った今なら女の子にモッテモテのウッハウハなのでは!?」
俺が唐突に立ち上がったせいで肩を組んでいたメツセイは酒樽ごと一回転し、膝の上で寝ていたホノラは床に転がっていった。
「――――凄いよね~」
「ね~ホントに! 好きになっちゃいそう」
俺達から少し離れたテーブルで女性冒険者達が集まって何かを褒める話している!!!!
これは!? まじにあるのでは?
早速行ってみるしかあるまい!
「なんの話してる――――」
「この白い毛もふもふでフワフワ~すごーい!」
「お目目もくりくりでかわいい~好きになっちゃいそう」
「ワンちゃん名前なんて言うの~?」
「我は名も無き只の閃狼よ......えぇ背中にくっつくでない!!」
俺が連れて来た狼に女性冒険者達は集まっていた。
背中、お腹、顔。ありとあらゆる所をモフっている。
狼も嫌がっているように見えてしっかりと尻尾をぶん回している辺り、めちゃくちゃ嬉しいようで何よりだ。
「兄ちゃん......漢の魅力ってぇのは、完璧には女に伝わらないモンなのよ......」
状況を察したメツセイが俺の背中をポンと叩く。なんだろう......すっごい涙が出そうだ。
「ハッ!!!! 兄貴、メツセイ殿の言う通りだ! 俺も先程子猫ちゃん達に話し掛けたら、俺のチャームポイントの下まつ毛を全部抜かれてしまった!」
パンナが話に割り込んで来た。そういえばいつの間に俺の事“兄貴”って呼んだりし始めたんだ? 今更遅い改心って奴か。
「ハッ!!!! だが俺は兄貴の事を尊敬してるぜ?」
パンナが渾身のキメ顔で俺の顎をクイッとする。
「キモ死ね」
「パンナ......お前は、今は亡きその下まつ毛と言動と性格をなんとかしたら普通にモテると思うんだがなぁ......」
「全部ではないか!! ハッ!!!!」
この一言は俺とメツセイとパンナは大爆笑をかっさらっていった。
酒の気でこっちも酔っているような気分になりつつ、宴はまだまだ続く......
◇◇◇◇
「メツセイさん......そろそろお酒が無くなりそうです」
「マジかイントリーグ......大将のヨージは?」
「それが......置き手紙に『あるよ』とだけ書き記してどこかへ行ってしまって......」
イントリーグさんは酒場“ヨージ”の見習い兼雑用係の俺と同じ位の歳の青年だ。
また、ヨージさんとはこの酒場のマスターである。俺も今初めて知った。
しかしヨージさんとは......なんか日本人っぽい名前だな。今度大将が居る時にご飯食べに来よっと。
――――
「――はいみんな注目ー!! 僕から重大発表があります!」
椅子の上に立ってギルドマスターが急に叫び出した。完ッ全に顔が酔っ払ってる。真っ赤だもん。
「今回のサラバンド防衛戦で! 特に沢山の魔獣を討伐したマツル君とホノラ君は、なんと一気に二ランクアップ!! Bランクに昇格しまーす!!!!」
「スゲぇぇぇぇ!!!!」
みんな酔った勢いだろうか。凄まじい歓声が上がる。
「マルルすろ~い!!」
いつの間にか起き上がってきたホノラが俺をよじ登り肩車の体勢でジュースを飲み始める。そしてすぐにそのまま寝てしまった。
「野郎共!! 今度は兄ちゃんの昇格祝いだ!! もっと飲むぞォォォ!!」
「「「ウェェェェェイ!!!!」」」
それから宴はさらに盛り上がり、俺達は酒と食べ物が店から消え去るまで騒いだのだった。
こうして、俺の人生で一番長い一日は終わったのだった。
◇◇◇◇
翌日――
「う......頭痛てぇ......」
俺が目を覚ますと、そこには荒れに荒れた店内が広がっていた。
大いびきをかきながら床で倒れたそのままの体勢で眠る冒険者達。
割れた食器類、山のように転がる酒樽、壊れたテーブル・窓ガラス。これはもう戦場と言っても差し支えない惨状だ。
......あれ? こんな面白い顔の石像、ギルドにあったっけ?
「あ、マツルさん! おはようございます」
「もし良ければここの片付け手伝って貰えませんか?」
話し掛けてきたのはウィールとイントリーグであった。何時から起きていたのか分からないが、二人で戦後処理をしているようだ。
「手伝います......それで、何がどうしてこんな事になってるんですか?」
「やっぱりなにも覚えてないんですね......」
俺は片付け手伝いつつ、何があったのか聞くことにした。
――――
まず、俺達の昇格祝いも落ち着いて、ちらほらと寝始める人が出てきた頃、(俺もこのタイミングで寝た)それまで寝ていたホノラが起きたらしい。
『おらけがたりないー!!』
酒が足りないと暴れ出したホノラ。それがこの散らかりようの正体か......
「で、つい先程ギルドマスター様が起きられたのですが......」
あれ? そういえば俺より先に起きてきたらしいギルドマスターはどこにいるんだ?
「それが、こちらの領収書を見せたら石になってしまいまして......」
「石に? 石ってまさかこの面白い顔の石像ギルドマスターなの!?」
ギルドマスターは、今回の宴の総額が大金貨200枚。日本円に直すと2000万円だろうか? 金額を知った途端石になってしまったそうだ。原理は知らん。
「石になる直前に、『本部にツケといて』と仰っていたのでそうしようと思いますが、バレたら不味いですよね......」
ほぼ徹夜で仕事をしていた事が、イントリーグの疲れた顔からとても良く想像出来る。
俺達三人はみんなが起きてくる前に片付けを全て終わらせ、昼からまた通常業務が再開された。
避難していた住民も徐々に帰ってきていると言う。
こうして、俺がこの世界に来てから初めての大事件。“目無しの魔獣”事件は幕を下ろしたのだった。