「嘘だろ......ホノラが......」

「クァハハハ!! みたか小僧! これが我の力! 我とその一族のみが使える究極の魔法!“閃狼魔法”!! ほんの雑魚処理用ですらこの威力だ!」

「はーびっくりした!」

「――この声は......」

 もうもうと立ち上る煙の中から現れたのは他の誰でもないホノラであった。
 服こそ焼け焦げているが、その白い肌には傷一つ付いていない。

「ナニィィィィ!? 我の閃狼魔法を喰らって無傷だと!? いや、上手く避けたに違いない! 今度は外さん! 死ねぇ!【閃狼魔法 轟狼六光雷(ウルフバーン・ヘキサグル)】!!!!」

 “アビスサンダーレイ”を6個同時に放ち、それらがホノラに向かって一斉に襲いかかる。
 狼の上位魔法は、確実にホノラの身体を貫いた。

「流石にこれはまずいんじゃねぇか!? ホノラァァァッ!!!!」

「アバババババッ!」

 大丈夫そうだ。本当にこんな雷撃喰らってる奴は恐らく「アバババババッ!」なんて言わない。

「このクソオオカミ! これ以上服が無くなったら帰れないでしょ!? どうしてくれるの!?」

 ホノラはクレーターのように抉れた地中から怒りを前面に出した鬼の様な形相で狼を睨み付けていた。

 ホノラの身体を覆う布面積は既にギリギリアウトな範囲まで減っていた。

 直視したらブチ殺されるから目を逸らしておこう。

「なぜ無事なんだこの小娘は!? あの魔法は我の切り札だぞ......? 我が最強の魔法だぞぉぉぉ!!」

 俺狼なんて今日初めて見たのにこれが困惑の表情をしているとはっきり分かる位困惑した表情をしている。

 俺だって同じ気持ちだよ! ホノラって時々化け物より化け物してないか?

「なぁ小僧よ......貴様付き合う奴は考えた方が良いぞ?」

 初めの威厳のあった切れ長の目からは想像もつかない程に丸くなった目を狼はこちらに向ける。
 そんな目で見るなよ! なんかちょっと悲しくなるだろ!?

「その潤んだ目でこっちを見るなぁ!!!! 俺達と相対した時の威厳を取り戻せよI☆GE☆Nをよォ!」

「黙れ小僧!!!!」

 狼は気を持ち直した。目がかっこいい方に戻ったのだ。

「――――貴様にこの我の傷付いたメンタルを癒す事ができるのか!? 出来ないであろう? ならば我は証明する!! 貴様を我の魔法で殺し、やはり我の魔法は最強であったと言う事を!!」

 なんか話がおかしな方向に飛躍したぞ!? さてはこのクソ狼、ホノラに自分の魔法が効かなかった腹いせに俺の事殺っちゃおうとしてる?

「さっきまで“誇り”だの“流儀”だの言ってた奴とは思えない台詞!! そんな下らない理由で殺されてたまるか!!」

「ふざけんじゃないわよ! 私の服を燃やす程度が精々の魔法がマツルに効くわけないじゃない!」

 なんでホノラは怒りに薪をくべてんだよ!? 焚き付けんなバカ!

「そこまで言うなら見せてやろう! そこの小娘もこの男が我の最強魔法に耐えられるか、そのちんちくりんな(まなこ)で確かめると良いわァ!!」

 あ......俺、死んだ。

 流石にここまでの状況になったらホノラも事態のヤバさに気が付いて止めるだろ......いや止めてくれ!

「上等じゃないのよやってみなさいよ!! マツルー! 絶対に死ぬんじゃないわよー!!」

 お前はどっちの味方なんだよホノラおい! 

 え、まじでどうする? 今回ばかりは本当の本当にまずい気がする。
 
『なんでこうなるまで止めなかった訳? この状況は一歩間違えなくても死んじゃうよ?』

 こうなるって分かってたら初めの時点で止めてたよ!! 頼むナマコ神様! 今回はお前の知恵が欲しい!

『んぇーとね......この世界での素晴らしい来世に期待してワンチャン転生目当てで雷撃を喰らう(サンダー)とか?』

 人間とは感覚が違いすぎる! 俺は人間だ。今世をそんな簡単に諦め切れない。

 まずは俺の死期を引き伸ばさなければ......さてどうする......こういう場合は俺の全てを使って勝負に勝つしかない! 試合には負けても良い。生き延びた方が勝ちだ。

「なぁ狼さんよ......お前が今から使うのはお前にとって最強の魔法なんだろう?」

「......その通りだ」

「ならその最強の魔法を俺が耐える事が出来たら、お前は俺の言う事を一つ聞いてもらう」

「くだらん......我がその条件を呑む理由が無い」

 よし、ここまでは予想通り。あとはこの狼が単細胞馬鹿である事を願うばかりだが......

「あれれぇ~!? もしかしてもしかして怖いんですか~!? その”最・強“の魔法とやらは高々人間一匹殺せない程の軟弱! 脆弱な魔法なんですか~? そんな心持ちだからお前の言うホノラ(小娘)に魔法が効かなかったんじゃないですか~?」

「小僧言うではないか!! 良いだろうその話乗った!! 我を本当の本気にさせた事を死んだ後に悔いるが良い!」

 単細胞馬鹿だったァァァァァ!!!! 

 よぉし! これで耐えれば俺の勝ちまで持って来れた!



 さてどうやって耐えようかな......

「小僧言うではないか!! 良いだろうその話乗った!! 我を本当の本気にさせた事を死んだ後に悔いるが良い!」

 さて条件は整った。あとはどうやって狼の最強魔法を耐えるかだけだな......

『バカは君の方なんじゃないのかい? わざわざ本気にさせることは無かっただろうに』

 あー、本気のあいつの魔法を耐え切ってこそあいつも気持ち良く俺のお願いが聞けると思うんだよ。あと、俺の師匠なら絶対そうするからかな。

『イカれてるねぇ......やっぱり私は君の事が大好きだ!』

 自称女神のナマコに言われても嬉しくないなぁ......

「――――小僧、準備は良いか?」

「ああ! どっからでもかかって来い!」

 とは言ったものの、結局確実に耐える手立ては思い付かなかったので、俺は賭けに出る事にした。
 
 狼は頭を下げ、何かを呟き始めた。

「天を裂き、地を穿つ万雷の皇帝よ。閃狼の王は欲す。その力よ、眼前の御敵を焼き尽くせ【閃狼魔法 “狼王轟雷皇咆(ウルフガーンロア)”】!!!!」

 詠唱を経て繰り出されたたった一本の爆雷は今までのどの魔法よりも強力で、俺が防御の反応をするよりも早く身体を貫きその勢いのまま地面を抉り周囲を吹き飛ばした。

「ガァァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!!!!」

「マツルーーーー!!!!」

 ホノラも涙ぐみながら俺の名を叫んでいる。いや、ほぼホノラがこの状況作ったんだからな? 

「クァハハハ!! どうだ小僧! 詠唱を破棄せず繰り出された我の魔法の味は!! やはり貴様は我を本気にさせてしまったことを後悔しながら死ね!!」

 ここまで言って狼は不可解な事に気が付いたみたいだ。

「小僧......何故貴様はまだ人の形を保って絶叫していられる!? 本来ならば声を上げる事すら許されず消滅するはず......貴様一体何をしたァァァ!!!!」

 驚愕の表情で叫ぶ狼。

「根性!!!!」

 本当に種も仕掛けもないただの根性だ。体裂けるんじゃないかって位痛いのと熱いのとで意識はいつ飛んでも可笑しくないが、それでも死んでない俺が今一番驚いてる。

「根性......我の最強魔法を根性......今日だけで二人に耐えられた......なんなのだこの小僧と小娘は......」

 狼はガックリと項垂れる。その時、延々と降り注ぎ続けた雷も止まった。

「っはぁ~! どうだクソ狼......俺の勝ちだ......」

 とにかく大きく深呼吸。酸欠だった全身に酸素が行き渡るのがわかる。
 あと数秒雷が当たり続けてたら死んでたかも知れない。

「我は貴様等の強さを存分に知った。小僧の願い。なんでも聞こうぞ」

 強い電撃で忘れかけてた......えーとじゃあどうしようかな...そうだ!

「お前、俺の仲間にならないか?」

「良いぞ」

「――――やっぱりお前みたいな強い魔獣を従えるってなんかカッコイイし。あ、嫌なら他の...え? 良いの?」

「なんでも言う事を聞くと言っただろう? それに、強き者の仲間と言うのは我も願ったり叶ったりだ」

 狼はしっぽをブンブンと振り回し、とても嬉しそうな声で吠えた。

「マツル......根性で耐えるって何よ!? アンタさては化け物だったのね!?」

 無傷だった奴に化け物呼ばわりはされたくねーよ。

「じゃあ狼、俺達の仲間として最初の仕事だ。服が殆ど燃え尽きて痴女まっしぐらのホノラをその毛並みで優しく包みつつ城壁の上まで運んでくれ......あとは頼ん...」

 あれ......身体に力が入らない...地面に倒れたのに......受身を取れなかったのに痛くない...肺に空気が入らない......あれ?

「どうした小僧!? 返事をしろ! おい!!」

「マツルが息してない! 私は良いからマツルを――――」

 俺の意識は、ここで途切れてしまったのだった。