夜が明ける。太陽の光で薄く照らされている一面の草原は先日の鮮やかな緑色から一転、どす黒い塊が絨毯のように地平線の遥か向こうから大地を埋めつくしている。

「――あれが全部“目無しの魔獣”......」

「200万ってこの目で見ると圧倒的ね。マツル」

 俺とホノラ、そしてメツセイは城門の前。パンナとギルドマスター、その他のBランク冒険者は城壁の上で戦闘準備を整えていた。

「――時間だみんな。そろそろ攻撃を始めるけど、もう一度細かな作戦の確認をしておこう」

 ギルドマスターの重みのある言葉に全員が静かに頷く。

「まず城壁上のチームは、パンナの溶岩魔法で分断を図る。そこから後ろの方を高火力範囲魔法で攻撃していこう。回復魔法を使える者は待機しておいてくれ」

「「「おう!!!!」」」

 結構念入りに決めてたからな。最後まで指示たっぷりだ。

 そう言えば、俺とホノラはまだ指示を受けていないんだが、これからあるのか?

「そして、城門前のマツルとホノラは......まぁなんとか上手くやってくれ」

「雑ゥゥゥゥ!! 俺達だけ雑ゥゥゥゥ!! なんだよ“上手くやる”って! 細かくなくていいからもっと的確な指示くれよ!!」

「だってしょうがないじゃん!! 僕だって近接職動かすの初めてなんだから! 好きに暴れてとしか言えないよ! 」

 あんまりに雑な指示にキレたら泣きそうな声で反論された。「なんかごめん......」としか言えないので、取り敢えず“突っ込んで暴れる”作戦でホノラと合意したのだった。

「安心しろ兄ちゃん。何かあれば俺が援護してやるから、な?」

そう言えばメツセイも城門前なんだな。酒飲んでる所しか見た事ないけど強いんだろうか......

「――さぁ、時間だ。全住民の国外退避が完了した。パンナの魔法が発動し次第各自行動に移ってくれ」

「ハッ!!!! 承知したぞギルマスよ! とくと見よ! これがこの私の最強範囲魔法!【溶岩魔法”長城溶岩壁(壁で裂かれた愛☆回り出す運命の歯車)“】」

 パンナが魔法を発動すると、遥か前方で地平線を覆う溶岩の壁が生成された。

「ハッ......! 範囲と距離を限界まで引き伸ばしているからこの魔法はいつまで持つかわからん......早くケリをつけて貰おうか......」

「みんな!! 作戦開始だ! 相手は200万回殺さないと永遠に再生する一つの生物だと思って対処してくれ!」

「「「了解!!!!」」」

 ギルドマスターの声と同時に、城壁の上から数多の高火力範囲魔法が降り注ぐ。

 火炎、激流、烈風、顕岩。様々な爆煙が魔獣の塊を散らしていく。

「すっげ......」

「見蕩れてる場合じゃないわよマツル! 私も遅れてられないわ!!」

 ホノラは目をキラキラさせ、身震いしながら突っ込んで先頭部分を吹き飛ばし始めた。

 パンチ一発で30匹位一気に消し飛んでる気がするんだけど......

「ホノラって本気だとあんなパワー出たのか......俺も負けてられねぇな!!」

「兄ちゃんこれを使いな!」

「これは?」

メツセイから手渡されたのは二枚の呪符だった。

「それは身体強化(アームドバフ)の魔法が込められた呪符だ! お二人の為に王国大図書室の奥底で見つけてきた! 使ってくれよ!!」

 この前フューネスに使用した回復の呪符同様、胸に当てると呪符はポロポロと崩れ身体に染み込んでいった。

 凄いぞこれ! 力が漲るってこういう感覚の事を言うのか!

「メツセイありがとう! 俺も行ってくる!!」

「あと一枚は嬢ちゃんに渡してくれよー!」

その言葉を後に、俺も魔獣の中へ突っ込んで行くのだった。