……うん、意外と寝れたな。

 これも、火の魔石を使ってテント内を暖めていたからか。

 限られた鉱山にて取れる魔石には、魔法を込めることができる。

 この世界は、それらを使って様々な生活に役立てている。

 ただし、取れる量も限りがあるし値段も安くない。

 「ふぁ……ユキノ、おはよう」

 「おはようございます」

 「そういや、昨日の風狐はどうした?」

 「食べ終わった後、すぐに立ち去りましたよ。ただ、相変わらず傷だらけだったので心配ですねー」

 「そうか……無事だといいが。ただ、人には懐かないという話だし、俺たちで保護するのも難しい」

 「そうですねー。ところで、昨日の残りで作ったスープを飲みますか?」

 「すまんが頼む」

 寝ぼけつつも、ユキノの作業を眺める。
 ヴァンパイア族であるユキノは睡眠をほとんど必要としない。
 立ちながら寝ることもできるし、気配が近づけばすぐに起きる。
 まさしく、護衛としてはうってつけの能力がある。
 俺が隠しキャラであるユキノを仲間にした大きな理由だ。

 「はい、どうぞー」

 「ありがとな、では頂きます——ズズー……ふぅ、あったまるわ」

 ファンブルのバラ肉がとろとろに溶けて良い。
 脂から甘味も出て美味いし、寝起きの体に力がみなぎってくる。

 「朝は特に冷え込みますからねー」

 「ユキノは平気そうだな?」

 「私は元々寒さに強い種族ですから」

 「そういや、そうだったな。というか、寝ずの番をしてたのか?」

 「いえいえ、きちんと寝たから大丈夫ですよー」

 「それなら良いが……ん? アレはなんだ?」

 眠気が覚めてきて、ふと辺りを見回すと……昨日とは状況が違っていた。
 草木一本もない大地だったのに、少し草が生えていた。

 「やっぱり、昨日はなかったですよね? しかも、生え方がおかしいというか……数カ所に分かれて少しの範囲内だけで生えてますし」

 「昨日、あの辺りに何かしたか?」

 「そうですねー……あっ、多分ですけど蒼い炎を使った箇所かも」

 「なに? そういや、あの辺に放った記憶があるな。すると、なんだ……俺が使った炎が、草木を生やしたってことか?」

 「うーん、わかりませんけど。ただ、それくらいしかわからないですね」

 「確かに熱くもなくて燃えなかったが……ん?」

 何かが、こちらに向かってる……それは昨日出会った風狐だった。
 しかも、口に何かを咥えていた。

 「あれは、ホーンラビットですねー。弱いですけど、警戒心が強いので捕まえるのが難しい魔獣です」

 「コンッ」

 すると、俺の目の前にそれを置く。
 どうやら、俺にくれるということらしい。

 「どうしてだ? これは君が狩った獲物だろう?」

 「コンッ!」

 「多分、昨日のお礼なんじゃ? 生まれた頃から自立を求められ、孤高の存在と言われる風狐ですから」

 「なるほど……借りは返さないと気がすまないってことか。よし、気に入った。それじゃあ、ありがたく頂戴しよう」

 「アオーン!」

 すると、嬉しそうに尻尾を振って雄叫びをあげる。
 どうやら、正解だったらしい。

 「さすがは風狐といったところか。しかし、その傷では……」

 「傷口が化膿してますね……このままだと危ないです」

 「ふむ……君、俺の魔法を受けてみるかい?」

 「クゥン?」

 俺は試しに蒼い炎を出して、風狐に見せてみる。
 すると、鼻をすんすんとさせて慎重に確認をしてくる。

 「どうするん……あっ、まさかそういうことです?」

 「いや、わからない。ただ、害はないはずだから試しにやってもいいかと。どちらにしろ、このままだと危ない」

 「スンスン……コンッ!」

 「おっ、どうやら試して良いみたいだ。それじゃあ……いくぞ」

 怖がらせないように、慎重に傷口に蒼い炎を持っていくと……ぽわっと傷口に燃え移る。
 しかし、痛がってる様子もなく……次第に傷口が癒えていく。
 すると、風狐が元気よく走り出す。

 「コンッ!」

 「わぁ……! すごいですね!」

 「あ、ああ……予想はしていたが」

 「コーン!」

 「てっ、おい!? やめろって!」

 俺に飛びかかり、顔をペロペロと舐めてくる。
 昨日までの警戒心が嘘のように。

 「ふふ、完全に懐かれましたね? 賢いので、命を救ってもらったのがわかってるんですかね」

 「コンッ!」

 「それはわかったから! ったく、孤高の存在はどうした」

 「クゥン?」

 「まだ子供だから、そこまでのことはわかっていないかも。というか……改めて凄いです。つまり、蒼い炎は癒しの力なんですねー」

 「そうみたいだな。しかし、どうしたもんか」

 なんで、今更こんな力が目覚めたんだ?
 聖女しか使えないと言われている癒しの力を俺が。
 何か意味があるのか? まだ、俺に何か役目があるのか?

 「大丈夫です?」

 「……ああ、大丈夫だ。そうだな、気にしても仕方ない。どちらにしろ、俺はもう国から追い出されたんだし」

 「普通に有効活用したら良いんじゃないですか? これがあれば、色々と役に立ちますよ。 何より、これで役立たずは返上できますし!」

 「役立たず言うなし!」
 
 しかし、その軽い物言いが俺の心を軽くする。

 そうだ、考えても仕方がない。

 俺は予定通りに、スローライフを目指すとしよう。