……酷いな。

 馬に乗って先程から荒野を移動しているが、本当に何もない。

 道の整備もされてないし、草木も少ない。

 「本当に見捨てられた土地みたいですねー」

 「確か気候の変動があったとか。あとは、瘴気が多くて魔物の数が増えたことも原因だな」

 ここら辺は気温が一気に下がる。
 イメージとしては王都が関東だとしたら、ここは東北といった感じだ。
 自然が減ったのもあって、この数十年でその状態になったとか。
 結果として、これ以上被害を広げないために辺境は封鎖した。
 ついでに流刑地としたが、無論希望者は全員王都側に移動した後だ。

 「邪神を倒したら、瘴気も消えるかと思ったんですけどねー」

 「うーん、そうなんだよなぁ。俺も、その辺りのことはわからないし。ただし、減ってるという報告はあったみたいだ」

 「なるほどー、残滓が残ってるって感じですかね?」

 「そうかもしれない。まあ、後は地道に潰していくしかないだろ」

 「そうですねー」

 邪神が生み出したとされる魔物は、突然出現する瘴気から現れる。
 そして、無差別に生き物に襲いかかる。
 倒すと霧のように消えるので、正確には生き物ではないとか。

 「とりあえず難しい話や、それらは弟に任せるとして……」

 「ご主人様、止まってください。何か、こちらに向かってきますね」

 「……ほんとだな。ひとまず、馬から降りておこう」

 砂煙をあげながら、こちらに何かが向かってきていた。
 そして、徐々に見えてきた……この世界に住んでる生き物、魔獣であるブルファンだ。
 イノシシに似た姿だが、体長は一メートル以上あり、鋭い牙と突進で人くらいは簡単に潰せる。
 しかも何でも食べる大食漢で、見つけた場合はいち早く倒す義務がある。

 「ユキノ、すまんが任せる」

 「えー? ご主人様が戦えばいいじゃないですか?」

 「俺にはあの頃の力はないんだよ。闇魔法と同時に、ボスとしての役目も終わったしな。この先は怪我したら普通に死んじゃうと思うし。何より、まだ自分の状態を確認してないし」

 「あぁー、そういえばそんな話を聞いたような……ププッ、役立たずのご主人様」

 「おい? 聞こえてるからな? 言っておくが、まだ剣の腕は鈍ってない。俺は無駄に戦うのが嫌なだけだ」

 「はいはい、仕方がないですねー」

 クリアするまでの俺は、主人公である弟に倒されるまで強制的に生き残る設定だった。
 何度か死にかけたこともあったが、その傷は闇の力が治すし。
 多分、物語の強制力だと俺は思っている。
 しかし、それも無くなった今……それを試す気にはなれない。
 あの程度に苦戦はしないが、俺は出来るだけ楽がしたいのである(キリッ)

 「ブルルッー!」

 「きたぞっ!」

 「はーい——よっと」

 「ブルァ!?」

 突進してきたブルファンの首を、横に避けつつもすれ違い様に鉤爪が切り裂いた。
 ユキノの武器は収納が自在可能な特殊な鉤爪で、腕の甲に装着されている。
 そして倒れてビクビクした後……動かなくなる。

 「これで良しっと」

 「相変わらず見事な腕だな」

 「いえいえー、これくらいは簡単ですよ……とりあえず、ご飯にしません? 私、お腹が空きました!」

 「それもそうだな。おそらく、この感じだとたどり着くのも大変だし食料も貴重だろう」

 「ですです! それじゃ、準備しちゃいまーす!」

 テンションが上がったユキノがテキパキと準備を進めていく。
 冒険者でもある彼女は慣れた手つきで、木の棒や葉っぱなどを集めている。
 俺は馬を見つつも、自分の仕事をすることにした。
 積んであった道具を使って、簡易的なテントを設置する。

 「ありがとうございます。あとは、火もお願いしますねー」

 「ああ、わかった。さて、火を出すか……果たしてどうなるか」

 俺は闇属性と炎属性の使い手で、闇の炎を得意技としていた。
 ……中二病とかいうな! わかってるし!

 「とにかく闇が抜けた今、炎が出せるかどうか……うおっ!?」

 手に炎をイメージすると、蒼い炎が出てきた。
 それは、俺が転生してから見たことないものだった。

 「あれれー!? それってなんです!?」

 「わからん! いつも通りに火を出そうとしたら出てきた!」

 「うわぁ……綺麗ですねー」

 「お、おい? あんまり近づく熱いぞ?」

 「あっ、そうで……あれ? これって全然熱くないですよ?」

 「なに? 自分の魔法だから俺は熱くはないが……ユキノともなると変だな」

 そもそも、この蒼い炎はなんだ?
 いわゆる、赤色から高温になった炎とは違う気がする。

 「とりあえず、私が用意した木や草に投げてみません?」

 「……それもそうだな」

 ゆっくりとボールサイズの火の玉を投げてみるが……火がつくことはなかった。
 何回か試してみるが、うんともすんとも言わない。

 「威力は充分なはずだが……なぜ、燃えない?」

 「不思議ですねー? 全然熱くもないですし。いよいよ、本当に役立たずですかね?」

 「ほっとけ! ぐぬぬっ……こうなったら赤い炎を出せば良いんだろ! いでよ炎ォォォ!」

 「きゃっ!?」

 「うおっ!?」

 すると、掌から炎が出て空に舞い上がる!
 その高さは十メートルを超えていた。
 明らかに込めた魔力の量が少ないのにもかかわらず。

 「だ、出し過ぎですって! あっ、今の少しエッチですね?」

 「んなこと言ってる場合か! ……ふぅ、収まったか」

 「でも、ちゃんと出ましたね? 今度はきちんと熱かったですよ?」

 「そうなると、あの蒼い炎はなんだったんだ?」

 「そんなのは後にしましょー。寒いし、お腹が空きました」

 「……そうだな、日が暮れる前にやるとするか」

 腹は減ってはなんとやらだし。

 俺はひとまず疑問を置いて、食事の支度をするのだった。