結果からいうと、勝負は俺たちの勝ちだった。

俺たちの方が先に帰っていて、獲物に逃げられた二人が戻ってきた。

「もう! アイザックさんがガサツだからですよ!」

「姉御! すまねぇ!兄貴の愛人に迷惑をかけちまった……こいつは腹を切って詫びるしか」

「腹を切るんじゃない」

「切らないでください」

この二人も一緒にいることは少ないから、今回は良い機会だったかもな。
戦闘面でも領地の幹部として、これから長い付き合いになるわけだし。

「ニール、アルスとはどうでしたの? 何か無茶なことを言われたり……」

「おい、俺をなんだと思っている?」

「貴方は、時折変なことをしますわ」

「そうか? ニール、俺たちは相性が良くて上手く狩りができたよな?」

「ひゃい!? わ、わたしは、その……」

何故か、ニールの顔が赤くなっていく。
俺は何か、変なことを言っただろうか?

「アルス! ニールに何をしたんですの!?」

「むむむっ、ご主人様! これは何やら嫌な予感がします!」

「お、俺は何もしてない!」

「では、何故ニールの顔が赤いのですか! 貴方のことです、また無自覚に何かしたのではありませんの?」

「そうですよー、ご主人様に無自覚に女性を口説きますから」

「そんなことしとらん!」

ニールを見るが、オロオロして使い物にならない。
あの勇敢な狩人はどこに行った?
あの狩りで仲が深まったのではないのか?

「まあ、兄貴は無自覚に男も口説きますし」

「ふむ、それはわかる。我々も主人に口説かれたようなものだ」

「まあ! 男の人まで!」

「ご主人様ったら!」

「ええい! ややこしくするな!」

結局、ニールが何も言わないので俺は酷い目にあった。

……あれ? 俺って勝者なのでは? どうして、こんな目に遭っている?

……アイザックと組んだ方が良かったのかもしれん。





アイザックが料理を作っている間に、みんなで手分けして残りの魔石を発掘する。

流石に前回では一気に持って帰ることはできなかった。

「あれですよね。運搬についても考えないと」

「その辺りもドワーフ頼りになるか。荒地でも走れる荷馬車を作って、森の中を整備すればいけると思うが」

「あとは、本当に森周辺に村でも作っちゃうかですね」

「多分、両方ってことになるとは思う。幸い、ここまでの街道整備はできてきた。あとは建物を建てるなり、人を集めていけば良いだろう」

「各方面にある関所はどうするんですか? 西には祖国アスカロン、南にはわたしの祖国もある亜人国家エデン、東には教会がありますし」

そう、これからはそこも含めて考えなければいけない。
流刑の地とはいえ、当然各国から監視はある。
今は良いとはいえ、いずれ何かしらの接触は測ってるかもしれない。

「そうだな……いずれは、耳に入るだろう。その時の対策は立てるべきか。俺としては、平和に行きたいが」

「えへへー、そんなこと言わずに……征服しちゃいます?」

「しねえよ! 物騒なこと言うなって!」

「えぇ〜? でもでも、攻めてきたらどうします?」

「攻めてくる……のか?」

俺が大地を、魔の瘴気から癒しているとはいえ……この広い大陸全部ってなると、数年どころじゃ効かない。
ここが豊かになるのは、数十年先の未来の話だ。
そもそも、俺が生きているうちにやれるとかどうか。

「だって街道が出来て、町や村が出来て、産業とかもあったら……気にはなりますよね。瘴気があるから、教会はエデンとかアスカロンに攻め込まないわけですし」

「……それはあるな。しかし、今更蒼炎を止めることはできん。そうなると、教会とエデンには注意を払っておくか」

「アスカロンは良いんです?」

「流石に弟が王位を継いでるうちは馬鹿な真似はしまい。そんなことになったら……俺が何
のために必死になったのかわからない」

記憶を思い出してから数年、俺が生き残りつつ国を滅ぼさないように徹してきた。
もし、アスカロンが俺を倒そうと動くなら……その時は。

「ご主人様……大丈夫です! 私達がいますから!」

「おいおい、不安にさせたのはお前だろうに……だが、備えあれば憂いなしか。その辺りの対策も練るとしよう」

「ですね! そのためにはダンジョンを見つけないと!」

「そうだな。ダンジョンがあれば、色々なことが早く進むことになる」

そして、丁度作業を終える頃……アイザックの方も準備ができたようだ。
なぜなら、鼻腔をくすぐるいい香りがしてくるからだ。
案の定、戻ると……夕食の準備が整っていた。

「兄貴っ! お疲れ様です!」

「アイザックもな。おっ、今日は鹿焼きか」

「へい! 元々脂が少ないんで、油をひいて焼きすぎないように気をつけましたぜ」

「うんうん、色もいいし美味そうだ。アイザックは、相変わらず料理が上手いな」

「へへっ、あざっす! ですが、これも物の状態が良かったからですぜ。兄貴とニールのおかげってことです」

その切り口はほんのり赤く、まるでローストされたような感じだ。
鹿肉は脂肪分が少なく、淡白で癖がないのが特徴だと聞いたことがある。
焼きすぎると肉本来の脂が出てしまい、硬くなってしまうとか。
ある意味で、料理人の腕が試される食材だという。

「ほら、イチャイチャしてますよ」

「まあ、男同士ですわ……」

「そういう世界もあるんですね」

「聞こえてるからな? そんな世界線はねえよ」

前の世界でも、友達と仲良くしてたら女子がキャーキャー言ってたのを思い出した。
どこの世界でも、変わらないものはあるってことか。
その後、見張りも呼んでみんなで食事を囲む。

「それでは、ひとまず無事に拠点までつけた。明日以降、ダンジョンを探すための英気を養うとしよう。それでは……いただきます」

「「「いただきます!」」」

「兄貴、まずはそのままで召し上がってくだせい」

「ふむ、それでは……ほう」

思わず、口から息が溢れた。
しっとりとして柔らかい鹿肉、それでいて野性味を感じる味わい。
まさしく匠の技でないと、この味は出ない。
焼きすぎても硬くなるし、生過ぎてもいけない……絶妙な塩梅だ。
何より、ニールに従って良い仕留め方をしたからだろう。

「ど、どうすっか? こっちに来てからは、より研鑽を積んできたんですが……」

「美味い——語彙力がなくてすまないが、とにかく美味い。戦闘面でなく、こっち専門にしてもいいくらいだ」

「うしっ! その言葉さえあれば良いっす! へへ、戦いもしっかりやりますぜ」

「ああ、そうしてくれると嬉しい助かる。全く、探索には欠かせないな」

「では、あとはお好みで醤油か味噌をつけて召し上がってくだせい」

「ああ、そうしよう」

次に醤油をつけて食べてみる。
すると、噛むほどに口の中で脂が醤油と共に溶けていく。
次に味噌をつけて食べてみると、こちらは米が欲しくなるような味がする。

「ほら、どうした? フーコも食え」

「……コーン……」

尻尾が垂れ下がり、落ち込んでいる。
どうやら、洞窟についてすぐに寝てしまったことを反省してるらしい。
狩りにも出てないし、食べて良いのか迷ってるかもしれない。

「食べて良いんだよ、ここまで頑張ってついてきたんだ。次は、もう少し楽にこれるだろう」

「……はぐはぐ……コンッ!」

「おっ、美味いか。よしよし、沢山食べて明日頑張るといいさ」

ふと女性陣を見ると、物凄い勢いで食べていた。


「ん〜!! 私は味噌ですかね!」

「私は醤油ですわ。さっぱりとして、とても上品な味わいがしますの」

「どっちも美味しいですぅー!」

「まだまだあるんで、どんどん食べて良いっすから!」

女性達は作り気もなく、アイザックに肉を焼かせている。
別に女性だから料理しろなんて、時代錯誤なことをいうつもりはないが……これはちょっとなぁ。
そんな女性陣達の姿を見て、俺は思わずアイザックの方を掴む。

「あ、兄貴?」

「お前を仲間にしてよかった……よくぞ、俺についてきてくれた」

「も、勿体ないお言葉ですぜ! これからもついていきやす!」

「ああ、お前だけが頼りだ」

「あれれー? おかしいですねー?」

「なんですの? ……私も料理を覚えたほうがいいかしら?」

「はわわっ……熱い友情ですぅ」

何やら三人が言っているが気にしてはいけない。

それほど、飯というのはスローライフにおいて大事な要素なのだ。