……お兄ちゃんは強い人。

 独りぼっちだったわたしを救ってくれた人。

 それにあのままだったら、わたしは死んでいた。

 一度は死んだなら、掟とか決まりとか守らなくていいよね?

 だって、温もりを知ってしまったから……もう戻れない。

 ならせめて、あの日救ってくれたお兄ちゃんの役に立ちたい!




 ◇


 わたしは生まれてすぐに一人ぼっちになった。

 お母さんがいうには、それが銀狐族の使命なんだって。

 一人で強く生きて行く……寂しかったけど、お母さんはどっかに行ってしまったから仕方がない。

 あとは一人で生きて、強い雄を見つけなさいって言ってた。

 だから、頑張って生きてきたんだけど……。

「コーン……(失敗しちゃった)」

 数日振りの狩りに成功して、やってきたゴブリンの群れを倒したまでは良かった。
 でも、その後にやってきたオークに痛手を食らってしまった。

「コン……(お腹すいたし寒い)」

 わたしはこのまま、死んじゃうのかな?
 結局、同族には誰とも会わないし。
 すると、何やらいい匂いがしていた。

「コン?(なんだろ?)」

 意識が朦朧としていたわたしは、警戒も忘れ匂いの元に歩いて行く。
 すると、ニンゲンが魔獣を焼いていた。

「っ……! (ニンゲン!)」

 それは別れ際にお母さんに言われたこと。
 ニンゲンは危険な生き物で、わたし達の毛皮を剥いでお金?ってやつにするんだって。
 だから、近づいちゃだめって言ってた。

「……(でも、お腹すいたよぉ)」

 気がつくと、わたしはニンゲンの側まで来ていた。
 すると、そのニンゲンが肉を投げてきた。

「っ!(お肉!)」

 それを口に咥え、その場を離れる。
 そして、無我夢中で食べる。
 その美味しさは、初めてお母さんに獲ってもらったご飯の次に美味しかった。

「コーン(貰っちゃった)」

 ひとまず傷は痛いけど、お腹はいっぱいになった。
 ただ、お母さんは言ってた。
 銀狐族は誇り高い生き物だって……貰ってばかりじゃいけない気がする。
 そう思ったわたしは、どうにかウサギを仕留めることに成功した。
 そして、それをニンゲンにあげに行く。
 そこから、わたしの生活は一変した。

 ◇

 ……まさか、傷を治した上に連れてってくれるなんて。

 暖かい寝床に、美味しいご飯、優しい人たちとお兄ちゃん。

 すでに誇りを失った一族かもしれないけど、少しくらいは役に立たないと!

「コンッ!(いくよ!)」

「ああ、来るがいい。俺はこの場から動かん」

 まずはスピードで撹乱!
 お兄ちゃんの周りを縦横無尽に駆け回る!

「ほう? 視線で追いきれない早さか……流石は神速の魔獣か」

「コンッ!(お兄ちゃんの視線が外れた——今だっ!)」

「甘い」

「キャン!?」

 お兄ちゃんは、こっちも見ずにわたしの攻撃を受け流した!
 わたしの攻撃は外れ、勢い余って壁にぶつかる。

「速さはいいが、コントロールが甘いな。それに動きが単純すぎる。目で動きが追えなくても、音と気配で向かってくる方向はわかる。もっと静かに、そして気配を断て」

「コーン……(もっと静かに、気配を断て……)」

「お前は風の申し子なのだろう? ならば、それを使わずにどうする?」

「コン……(どうやるんだろう)」

 風の申し子……確かにお母さんが狩りをするときは、音もしなかったし獲物にも気づかれなかった。
 わたしが狩りをするときは、速さに任せて強引にやってたけど。
 あのとき、お母さんは何をしてたのかな?

「仕方ない、少し厳しく行くか……必死に避けろよ、出ないと食らうぞ?」

「ッ!? (来る!?)」

 次の瞬間、お兄ちゃんのてから火の玉が放たれる!
 わたしは咄嗟に横に躱して難を逃れる。

「悪くない動きだ。さあ、次々行くぞ?」

「コンッ!?(わわっ!?)」

 お兄ちゃんの火の玉を何とか避けて行く!
 でも、これだと避けるだけで精一杯になってしまう!
 それを打破するには……。

「コン(どうしたらいいんだろう)」

「余所見をしてる場合か? はっ!」

 その時、避けきれない速さで火の玉が迫る。
 危ない!と思った時——いつの間か、わたしはお兄ちゃんが撃った《《反対側に回っていた》》。
 あれ? どうやって移動したの?

「なに? あの距離を一瞬で移動した?」

「コーン……(今、何かをまとったような気がした……そうか)」

「ふむ……まぐれかどうか見せてもらおう」

 さっきと同じ速さの火の玉が来る。
 わたしは《《風を足に纏って、それを簡単に躱す》》。
 そして、そのままお兄ちゃんの胸に飛び込む!

「コンッ!(お兄ちゃん!)」

「おっと……おいおい、俺に一撃を入れろって言ったろ? 何を頭をグリグリしてる?」

「コン(嫌だもん)」

 お兄ちゃんに一撃なんていれたくない。
 だったら、こうして抱っこしてもらう。

「やれやれ、甘やかしすぎたか。これが孤高の存在である銀狐だっていうんだから」

「コン?(だめ?)」

「明らかにだめっていう顔だな。まあ……別にいいか。それと試験は合格だ。あの動きがあれば、そうそう捕まることはないだろう」

「コーン!(ヤッタァ!)」

「だァァァ! ぺろぺろすんな!」

 わたしはお兄ちゃんが嫌がるのも気にせず、顔を舐め回す。

 だってそうすると……なんだか、幸せな気分になるから。