……ん? 何やら良い香りがする?
ふと目を開けると、目鼻立ちがはっきりした美女がいた。
「おっ……! って、エミリアか」
「すぅ、すぅ……」
「というか、何で俺にくっついて寝てんだ? あぁ、寒かったのか。ったく、お陰で心臓が飛び跳ねたぞ」
どうやら、寝てしまっていたらしい。
そして、多分釣られてエミリアも。
さらに隣を見れば、ユキノもいてまだ眠っていた。
「ところで、さっきのいい匂いは……」
「兄貴、起きやしたか。そろそろ、飯ができますぜ」
「アイザック、すまんな。こっちは、この通りのんびりしてたっていうのに」
「へへっ、体力にだけは自信あるから平気っす。それに魔法使うっていうのは精神力を使うって聞きましたし」
確かに魔法は少し特殊だ。
使うと体力ではなく、魔力という人が本来持っているモノを使う。
それを使いすぎると命の危険に繋がることから、生命力を使っていると言われている。
故に回復させるには、寝るのが一番だとも。
◇
その後、カリオンやニールにもお礼を言って二人を起こす。
「ふぁ〜よく寝ましたね」
「は、恥ずかしいですわ……! 殿方に寝顔を見られるなんて……」
「別に良くないですかー? いずれ、ご主人様には違うところも見せるわけですし。まあ、私が先かもしれないですけど」
「何を言ってますの……っ!? ふぇ!? 破廉恥ですわ!」
「えー? そうですかねー?」
「ア、アルスに聞かれてしまいますの……!」
俺はそれを聞こえないふりして、鍋を見つめる。
それはコトコトと音を立て、味噌の香りがして鼻腔をくすぐる。
「アイザック、美味そうだな」
「兄貴、あの二人……」
「アイザック、美味そうだな。これは熊鍋か?」
「へ、へいっ! 少し臭みがあったんで、香草と一緒に焼いてから煮込みやした。そこに山菜や野菜をぶっ込んで味噌で仕上げましたぜ」
「ふむふむ、実に美味そうだ。そうだ、まずは飯にしよう」
「へいっ! すぐによそいます!」
俺は今、恋愛事に構ってる場合ではないのだ。
まずはスローライフの生計を立てなくてはいけない。
……決して逃げているわけではない。
「ほら、カリオン達もこっちにきてくれ」
「主人よ、そうすると見張りが……何より、我々も一緒によろしいのですか?」
「今更何を言ってる、もうお前達は仲間だろうに。それに、これがあるから平気だ、炎よ我の身を守りたまえ——ファイアーサークル」
「おおっ! 我々を囲うように仄かに火が……」
「この範囲なら燃え移らないし、敵が来たら反応できるだろ。さあ、一緒にゆっくり食べてくれ」
「はっ! 皆の者! 主人のご厚意に感謝を!」
その後、他の獣人達も囲んで鍋パーティーを始める。
全員に行き届いたところで、アイザックに挨拶を求められた。
どうやらしないと食えなさそうなので、仕方がないのでやることに。
「えー、みんなお疲れ様。とりあえず、誰もかけることなく探索1日目を終えられそうで一安心だ。今日は暖かい飯を食って、明日の探索に備えよう。無理だと思ったらすぐに帰還する……ではいただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
「ハフ、アツっ……うまっ」
器から湯気の出た熊肉を口に含むと、肉が口の中でとろけていく。
熊の甘みと味噌の旨味が合わさって、相乗効果を生み出している。
そういや、熊鍋といえば味噌とは聞いたことあったな。
「あーんむ……あつつ……んー! トロトロで美味しいです!」
「フーフー……あ、熱いですけど、これは美味しいですの!」
「熱いですよぉ〜! でも美味しいから止まりません〜!」
女性陣にも好評のようだ。
確か美肌効果とかもあったし、栄養面でも豊富だったはず。
鉄も手に入るし、これは良い魔獣を見つけたかもしれん。
……ただし、倒せる者が限られるか。
「かぁー! 我ながらうめぇ! 酒が欲しくなるぜ!」
「かかっ! それには同意ですな!」
「二人共、好きに飲んでいいぞ。俺の蒼炎は二日酔いにも効くはずだ」
「なんと!? じゃあ、持ってきたから開けちまうか!」
「おおっ、良いですな!」
こっちの男連中も、上手くやってるな。
これもアイザックの人柄のなせる業だろう。
曲者揃いのスラム街の住民を纏めていただけはある。
そこでふと、同年代の男友達がいないことに気づく。
「まあ、傲慢だったから仕方がないか」
記憶を取り戻す前の俺は、それはもう悪役に相応しいダメっぷりだった。
実の母を早くに亡くし、父に相手にされないことも理由だが、可愛がられる弟のことを疎ましく思っていた。
使用人には当たり散らすし、いわゆる構ってちゃんだった。
それを拗らせ、邪神に取り憑かれる羽目になったわけだ。
「友達がいっぱい居る弟を妬んでもいたっけ」
だが結果的には良かったのかもしれない。
友達などいたら、巻き込んでしまっていた。
すると、アイザックとカリオンが隣に来る。
「兄貴っ! なにをしょんぼりしてんすか!」
「そうですぞ! 我々と一緒に飲みましょう!」
「おいおい……まあ、いいか」
俺は貰った酒を温め、熱燗のようにする。
それをぐいっと飲み干す。
すると、喉がカーッと熱くなってきた。
「……っ、身体がポカポカしてきたな」
「あっ、ずるいっす!」
「その、主人よ……」
「わかってるさ、ほら……これでいいか?」
二人のコップにも熱を灯してやる。
「あざます! ……くぅー! 熱燗うめぇ!」
「冷えた身体が温まりますな!」
「ちょっと〜! 男子ばかりでずるいですよ〜!」
「その、私もお酒を飲んでみたいですの!」
「わたしですぅ!」
「はいはい、わかったよ」
その後、全員分の熱燗を作って乾杯をする。
友達はいないが……こうして仲間がいるならいいか。
綺麗な星空を見上げながら、そんなことを思うのだった。
ふと目を開けると、目鼻立ちがはっきりした美女がいた。
「おっ……! って、エミリアか」
「すぅ、すぅ……」
「というか、何で俺にくっついて寝てんだ? あぁ、寒かったのか。ったく、お陰で心臓が飛び跳ねたぞ」
どうやら、寝てしまっていたらしい。
そして、多分釣られてエミリアも。
さらに隣を見れば、ユキノもいてまだ眠っていた。
「ところで、さっきのいい匂いは……」
「兄貴、起きやしたか。そろそろ、飯ができますぜ」
「アイザック、すまんな。こっちは、この通りのんびりしてたっていうのに」
「へへっ、体力にだけは自信あるから平気っす。それに魔法使うっていうのは精神力を使うって聞きましたし」
確かに魔法は少し特殊だ。
使うと体力ではなく、魔力という人が本来持っているモノを使う。
それを使いすぎると命の危険に繋がることから、生命力を使っていると言われている。
故に回復させるには、寝るのが一番だとも。
◇
その後、カリオンやニールにもお礼を言って二人を起こす。
「ふぁ〜よく寝ましたね」
「は、恥ずかしいですわ……! 殿方に寝顔を見られるなんて……」
「別に良くないですかー? いずれ、ご主人様には違うところも見せるわけですし。まあ、私が先かもしれないですけど」
「何を言ってますの……っ!? ふぇ!? 破廉恥ですわ!」
「えー? そうですかねー?」
「ア、アルスに聞かれてしまいますの……!」
俺はそれを聞こえないふりして、鍋を見つめる。
それはコトコトと音を立て、味噌の香りがして鼻腔をくすぐる。
「アイザック、美味そうだな」
「兄貴、あの二人……」
「アイザック、美味そうだな。これは熊鍋か?」
「へ、へいっ! 少し臭みがあったんで、香草と一緒に焼いてから煮込みやした。そこに山菜や野菜をぶっ込んで味噌で仕上げましたぜ」
「ふむふむ、実に美味そうだ。そうだ、まずは飯にしよう」
「へいっ! すぐによそいます!」
俺は今、恋愛事に構ってる場合ではないのだ。
まずはスローライフの生計を立てなくてはいけない。
……決して逃げているわけではない。
「ほら、カリオン達もこっちにきてくれ」
「主人よ、そうすると見張りが……何より、我々も一緒によろしいのですか?」
「今更何を言ってる、もうお前達は仲間だろうに。それに、これがあるから平気だ、炎よ我の身を守りたまえ——ファイアーサークル」
「おおっ! 我々を囲うように仄かに火が……」
「この範囲なら燃え移らないし、敵が来たら反応できるだろ。さあ、一緒にゆっくり食べてくれ」
「はっ! 皆の者! 主人のご厚意に感謝を!」
その後、他の獣人達も囲んで鍋パーティーを始める。
全員に行き届いたところで、アイザックに挨拶を求められた。
どうやらしないと食えなさそうなので、仕方がないのでやることに。
「えー、みんなお疲れ様。とりあえず、誰もかけることなく探索1日目を終えられそうで一安心だ。今日は暖かい飯を食って、明日の探索に備えよう。無理だと思ったらすぐに帰還する……ではいただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
「ハフ、アツっ……うまっ」
器から湯気の出た熊肉を口に含むと、肉が口の中でとろけていく。
熊の甘みと味噌の旨味が合わさって、相乗効果を生み出している。
そういや、熊鍋といえば味噌とは聞いたことあったな。
「あーんむ……あつつ……んー! トロトロで美味しいです!」
「フーフー……あ、熱いですけど、これは美味しいですの!」
「熱いですよぉ〜! でも美味しいから止まりません〜!」
女性陣にも好評のようだ。
確か美肌効果とかもあったし、栄養面でも豊富だったはず。
鉄も手に入るし、これは良い魔獣を見つけたかもしれん。
……ただし、倒せる者が限られるか。
「かぁー! 我ながらうめぇ! 酒が欲しくなるぜ!」
「かかっ! それには同意ですな!」
「二人共、好きに飲んでいいぞ。俺の蒼炎は二日酔いにも効くはずだ」
「なんと!? じゃあ、持ってきたから開けちまうか!」
「おおっ、良いですな!」
こっちの男連中も、上手くやってるな。
これもアイザックの人柄のなせる業だろう。
曲者揃いのスラム街の住民を纏めていただけはある。
そこでふと、同年代の男友達がいないことに気づく。
「まあ、傲慢だったから仕方がないか」
記憶を取り戻す前の俺は、それはもう悪役に相応しいダメっぷりだった。
実の母を早くに亡くし、父に相手にされないことも理由だが、可愛がられる弟のことを疎ましく思っていた。
使用人には当たり散らすし、いわゆる構ってちゃんだった。
それを拗らせ、邪神に取り憑かれる羽目になったわけだ。
「友達がいっぱい居る弟を妬んでもいたっけ」
だが結果的には良かったのかもしれない。
友達などいたら、巻き込んでしまっていた。
すると、アイザックとカリオンが隣に来る。
「兄貴っ! なにをしょんぼりしてんすか!」
「そうですぞ! 我々と一緒に飲みましょう!」
「おいおい……まあ、いいか」
俺は貰った酒を温め、熱燗のようにする。
それをぐいっと飲み干す。
すると、喉がカーッと熱くなってきた。
「……っ、身体がポカポカしてきたな」
「あっ、ずるいっす!」
「その、主人よ……」
「わかってるさ、ほら……これでいいか?」
二人のコップにも熱を灯してやる。
「あざます! ……くぅー! 熱燗うめぇ!」
「冷えた身体が温まりますな!」
「ちょっと〜! 男子ばかりでずるいですよ〜!」
「その、私もお酒を飲んでみたいですの!」
「わたしですぅ!」
「はいはい、わかったよ」
その後、全員分の熱燗を作って乾杯をする。
友達はいないが……こうして仲間がいるならいいか。
綺麗な星空を見上げながら、そんなことを思うのだった。