……お、おさまったか?
あれからどれくらいの魔物を斬ったかわからない。
ただ、最低でも五十体はいったはず。
ひとまず!辺りをよく警戒しながら静かに待つ。
「カリオン、どうだ? 近くで何か生き物の気配や音はするか?」
「……平気かと思われます」
「よし、わかった。一旦休憩を取る」
「ふぇーん! お家に帰りたいですぅ〜!」
「ニール、しっかりなさい。だいたい、貴女の家はここにはありません。王都にはしばらく帰れませんわ」
「いや、ツッコミがおかしいし。今のは、物の例えってやつだよ」
「そうですの? むぅ、難しいですわ。私も学んだ方がいいかしら?」
「いや、いらんし」
相変わらず、この天然娘は。
こんなんだから、たまに真面目に言っているのかボケてるのかわからなくなるんだよ。
「でも、即興にしては上手く連携取れましたよねー?」
「まあ、そうだな。アイザックが盾になり後ろから俺が斬り込む、ユキノが遊撃で後衛にエミリアとニール……うん、悪くない」
「あとは槍使いとか、魔法を使える人がいると楽ですかねー」
「うーん、あんまり人数が多すぎても連携が取れなかったから意味ないしな。ひとまずは、このメンバーでいこうと思う」
「了解でーす。まあ、まだまだお互いに本気を見せてないですし」
「そもそも、俺らだって一緒に戦うのは初めてだっての」
俺はゲームをしてたから能力値をある程度知ってるから平気だが。
他の連中は、文字通り敵同士だったわけだ。
少しずつ、慣れていくしかない。
休憩を終えたら、再び行動を開始する。
そして、ある程度歩いたところで……全員が気づく。
「……静かすぎるな」
「ご主人様、逆に怖いですねー」
「全然、怖がって見えないが?」
「えへへー、私こわいですぅ」
「やめろ、くっつくな」
戦闘状態で高ぶってるので非常にマズイ。
それを分かっているのか、腕を組んでグイグイと押し付けてくる。
「は、破廉恥ですわ!」
「お嬢様もやりましょ〜!」
「な、な、何を言ってますの!?」
「だって、そのために……もがが」
あっちはあっちで、何やら賑やかにやっている。
エミリアが一生懸命に、ニールの口を塞ごうとしているが……何をしてんだ?
「へへっ、兄貴は人気者っすね。まあ、俺の兄貴だから当然ですな」
「何をどこを見たらそうなる?」
「へっ? いや……うんうん、兄貴もまだまだ若いもんな」
「なぜ、急に暖かい目に——うおっ!?」
急にユキノに押し倒される!
次の瞬間、体の上を何かが通った音がする。
「なにすん……」
「みなさん! 伏せてください!」
普段呑気なユキノの真剣な声に、みんなが一斉に返事をして伏せる。
次の瞬間、ズガガガガ!っというガトリングガンのような音が響きわたる!
「きゃっ!? なんですの!?」
「くっ! なんなんだ!?」
「ふぇーん! こわいですぅ!」
ひとまず、三人は無事なようだ。
「カリオン! 無事か!? 状況はわかるか!?」
「はっ! 我々は少し離れていたので平気です! 何やら太い針のようなものが飛んできております! そして、私の目からは……それがユキノ殿の足に掠った気がしました!」
「……なに? おい、ユキノ?」
そういえば、なにも喋らない。
それに全体重が乗ってる気がする。
「………」
「ふざけてる場合か! 返事をしろ!」
「主人よ! 何やら当たった部分が腫れてきております!」
「もしや……麻痺毒か!」
そうなると出血よりもまずい。
早く処置しないと、死ななくても後遺症や切断をしなくてはいけなくなる。
しかし、その間にも音は鳴り止んでいない。
「この態勢だとどうにもならん……!」
「兄貴! 俺が隙を作りやす! その間に姉貴を——ウオォォォ!」
「待て! アイザック!」
「へへっ! そいつは聞けねえや! 俺が盾になってる間に!」
俺の制止も聞かずに、アイザックが横を通り過ぎる。
すると、一瞬だけ音が鳴り止む。
……アイザックの決死の覚悟を無駄にするわけにはいかない!
俺は素早く起き上がり、ユキノを押し退ける。
「ユキノ? 声は聞こえてるか?」
「……」
苦しんでいるが目の焦点は合うし、少しだけ頷いた。
足のふくらはぎを見ると、真っ赤に腫れ上がっている。
俺に覆い被さる時に食らったに違いない。
「くそっ! こんな攻撃、お前一人なら避けられたものを! ……落ち着け」
あとはどうやって治療を……いや待て!
毒は治したことはないが俺の蒼炎なら……。
「蒼炎よ! かの者の毒を除きたまえ!」
「うっ……!」
「すぐに助けてやるからな……!」
患部に蒼炎を当て続けると……すうっと腫れが引いていく。
ユキノの顔を見ると、表情が和らいでいた。
「……ご主人様?」
「この馬鹿たれが……お陰で命拾いしたよ、ありがとな」
「えへへ……ご主人様を守るのが、傍付きの役目ですから」
「俺はそんなことは求めていない……俺より先に死ぬことは許さん」
「無茶をいいますね……すぅ」
痛みが引いたからか、安らかな表情で寝息を立てる。
これなら、もう安心だろう。
そして、それを見届けた後……どす黒い感情が押し寄せる。
こんなことは、魔王と呼ばれていた頃以来だ。
俺は立ち上がり、斧を使って盾になっているアイザックの元に向かう。
「ククク、久々にこんなにイラついたな。我が配下を殺そうとするとは——万死に値する」
「兄貴!? ……昔の兄貴だっ!」
「アイザックよ、良くやってくれた。あとは俺に任せるがいい」
「へいっ! しかし、どうするんですかい!?」
「考えがある。俺が前に出たらお前もしゃがんで良い。どうやら、真っ直ぐにしか飛ばせないようだ」
まだ大分距離あるが、飛んでくる方向さえ分かれば問題ない。
何者か知らないが、俺達を狙ったことを後悔させてやろう。
「……へへっ、その顔久々に見るっすね。クソ貴族の館に乗り込んで以来ですな。穏やかな兄貴もいいっすけど、やっぱりこっちもいいっすね」
「ふんっ、俺は穏やかに過ごしたいのだがな……さて、用意はいいな?」
「へいっ! いつでも!」
「では——参る!」
アイザックがしゃがむと同時に、俺は全身に《《炎のまとう!》》。
自分が燃えないように魔力の幕を張ってから、その上から炎をかけた形だ。
その炎は俺に届く前に、針を溶かしていく。
そのまま木々を避けつつ、針が飛んでくる方向に向かう。
すると、ひらけた場所に出て……敵を発見する。
「さあ、俺の大事な部下に手を出した奴は……貴様か」
「ゴガァァァァ!!」
そこには、三メートルくらいのほぼ全身針まみれの熊がいた。
一見すると本人に突き刺さっているように見えるくらいだ。
おそらく、あそこから針を飛ばす仕組みなのだろう。
「ハリグマとでも名付けようか」
「ゴアッ!」
「俺には針は通用せんぞ?」
「ゴァ?」
至近距離から飛んできた針を溶かす。
「こっちからもいくぞ——フレイムガン」
「ゴァ!? ……ガ?」
俺の炎の弾は、相手の体に当たって弾けた。
針の一本なら溶かせるが、密集してると無理そうだ。
腹の部分には針がないが、そこは防御されてしまう。
「ちっ、装甲が厚いな。この程度では効かないか。かといって、大技を使ったら山火事になってしまう」
「ゴァァァァ……グルァ!」
「むっ!? ……こいつは避けないと危なかったか」
相手が身体を丸ませ、そのまま転がるように突っ込んできた。
その威力は凄まじく、大木をなぎ倒している。
「グルル……」
「攻防一体の技か。しかも固そうだし、針には毒があると……厄介な魔獣だ」
刀では弾かれる可能性もあるし、俺のまとう炎にも限界はある。
……何も難しく考えることはないか。
ならば、奴に隙を作らせればいいだけの話だ。
「さあ、こい……遊んでやる」
「ゴァァァァ!」
再びダンゴムシのように丸まって体当たりをしてくる。
俺は炎をカーテンのように展開させ、闘牛のように躱して木に当てさせる!
「ゴァ!?」
「どうした? 俺はこっちだぞ」
「ガァ!!!」
怒りに任せ、同じように突っ込んでくる。
それを躱し、また木に叩きつけるように誘導する。
「ほら! どうした!」
「ガ、ガァ!!」
そして繰り返していると……奴の様子が変わる。
目が血走ってきて、よだれを垂らしまくっている。
つまり、理性がなくなってきた証拠だ。
「まだやるか?」
「ガ、ガァァァァァァァ!」
相手が何も考えずに、覆い被さろうとしてくる。
俺はその時を待っていた。
さやに手を置き、抜刀の構えを示す。
「所詮獣か、未知のものに出会うと考えなしに突っ込んでくるとは」
「グルァァァ!」
「遅い——炎刃一閃」
「ゴァァァァァァァ!?」
鞘から抜く際に、擦らせるように刀を抜く。
その摩擦により身にまとっていた炎と合わさり……火炎居合切りとなる。
それは腹を裂き、内部から焼いていく。
「俺の大事な者に手を出し報いだ」
「ガ、ガ、ガァ……」
相手が煙を上げて倒れるのをみて、俺も鞘に刀を納めるのだった。
あれからどれくらいの魔物を斬ったかわからない。
ただ、最低でも五十体はいったはず。
ひとまず!辺りをよく警戒しながら静かに待つ。
「カリオン、どうだ? 近くで何か生き物の気配や音はするか?」
「……平気かと思われます」
「よし、わかった。一旦休憩を取る」
「ふぇーん! お家に帰りたいですぅ〜!」
「ニール、しっかりなさい。だいたい、貴女の家はここにはありません。王都にはしばらく帰れませんわ」
「いや、ツッコミがおかしいし。今のは、物の例えってやつだよ」
「そうですの? むぅ、難しいですわ。私も学んだ方がいいかしら?」
「いや、いらんし」
相変わらず、この天然娘は。
こんなんだから、たまに真面目に言っているのかボケてるのかわからなくなるんだよ。
「でも、即興にしては上手く連携取れましたよねー?」
「まあ、そうだな。アイザックが盾になり後ろから俺が斬り込む、ユキノが遊撃で後衛にエミリアとニール……うん、悪くない」
「あとは槍使いとか、魔法を使える人がいると楽ですかねー」
「うーん、あんまり人数が多すぎても連携が取れなかったから意味ないしな。ひとまずは、このメンバーでいこうと思う」
「了解でーす。まあ、まだまだお互いに本気を見せてないですし」
「そもそも、俺らだって一緒に戦うのは初めてだっての」
俺はゲームをしてたから能力値をある程度知ってるから平気だが。
他の連中は、文字通り敵同士だったわけだ。
少しずつ、慣れていくしかない。
休憩を終えたら、再び行動を開始する。
そして、ある程度歩いたところで……全員が気づく。
「……静かすぎるな」
「ご主人様、逆に怖いですねー」
「全然、怖がって見えないが?」
「えへへー、私こわいですぅ」
「やめろ、くっつくな」
戦闘状態で高ぶってるので非常にマズイ。
それを分かっているのか、腕を組んでグイグイと押し付けてくる。
「は、破廉恥ですわ!」
「お嬢様もやりましょ〜!」
「な、な、何を言ってますの!?」
「だって、そのために……もがが」
あっちはあっちで、何やら賑やかにやっている。
エミリアが一生懸命に、ニールの口を塞ごうとしているが……何をしてんだ?
「へへっ、兄貴は人気者っすね。まあ、俺の兄貴だから当然ですな」
「何をどこを見たらそうなる?」
「へっ? いや……うんうん、兄貴もまだまだ若いもんな」
「なぜ、急に暖かい目に——うおっ!?」
急にユキノに押し倒される!
次の瞬間、体の上を何かが通った音がする。
「なにすん……」
「みなさん! 伏せてください!」
普段呑気なユキノの真剣な声に、みんなが一斉に返事をして伏せる。
次の瞬間、ズガガガガ!っというガトリングガンのような音が響きわたる!
「きゃっ!? なんですの!?」
「くっ! なんなんだ!?」
「ふぇーん! こわいですぅ!」
ひとまず、三人は無事なようだ。
「カリオン! 無事か!? 状況はわかるか!?」
「はっ! 我々は少し離れていたので平気です! 何やら太い針のようなものが飛んできております! そして、私の目からは……それがユキノ殿の足に掠った気がしました!」
「……なに? おい、ユキノ?」
そういえば、なにも喋らない。
それに全体重が乗ってる気がする。
「………」
「ふざけてる場合か! 返事をしろ!」
「主人よ! 何やら当たった部分が腫れてきております!」
「もしや……麻痺毒か!」
そうなると出血よりもまずい。
早く処置しないと、死ななくても後遺症や切断をしなくてはいけなくなる。
しかし、その間にも音は鳴り止んでいない。
「この態勢だとどうにもならん……!」
「兄貴! 俺が隙を作りやす! その間に姉貴を——ウオォォォ!」
「待て! アイザック!」
「へへっ! そいつは聞けねえや! 俺が盾になってる間に!」
俺の制止も聞かずに、アイザックが横を通り過ぎる。
すると、一瞬だけ音が鳴り止む。
……アイザックの決死の覚悟を無駄にするわけにはいかない!
俺は素早く起き上がり、ユキノを押し退ける。
「ユキノ? 声は聞こえてるか?」
「……」
苦しんでいるが目の焦点は合うし、少しだけ頷いた。
足のふくらはぎを見ると、真っ赤に腫れ上がっている。
俺に覆い被さる時に食らったに違いない。
「くそっ! こんな攻撃、お前一人なら避けられたものを! ……落ち着け」
あとはどうやって治療を……いや待て!
毒は治したことはないが俺の蒼炎なら……。
「蒼炎よ! かの者の毒を除きたまえ!」
「うっ……!」
「すぐに助けてやるからな……!」
患部に蒼炎を当て続けると……すうっと腫れが引いていく。
ユキノの顔を見ると、表情が和らいでいた。
「……ご主人様?」
「この馬鹿たれが……お陰で命拾いしたよ、ありがとな」
「えへへ……ご主人様を守るのが、傍付きの役目ですから」
「俺はそんなことは求めていない……俺より先に死ぬことは許さん」
「無茶をいいますね……すぅ」
痛みが引いたからか、安らかな表情で寝息を立てる。
これなら、もう安心だろう。
そして、それを見届けた後……どす黒い感情が押し寄せる。
こんなことは、魔王と呼ばれていた頃以来だ。
俺は立ち上がり、斧を使って盾になっているアイザックの元に向かう。
「ククク、久々にこんなにイラついたな。我が配下を殺そうとするとは——万死に値する」
「兄貴!? ……昔の兄貴だっ!」
「アイザックよ、良くやってくれた。あとは俺に任せるがいい」
「へいっ! しかし、どうするんですかい!?」
「考えがある。俺が前に出たらお前もしゃがんで良い。どうやら、真っ直ぐにしか飛ばせないようだ」
まだ大分距離あるが、飛んでくる方向さえ分かれば問題ない。
何者か知らないが、俺達を狙ったことを後悔させてやろう。
「……へへっ、その顔久々に見るっすね。クソ貴族の館に乗り込んで以来ですな。穏やかな兄貴もいいっすけど、やっぱりこっちもいいっすね」
「ふんっ、俺は穏やかに過ごしたいのだがな……さて、用意はいいな?」
「へいっ! いつでも!」
「では——参る!」
アイザックがしゃがむと同時に、俺は全身に《《炎のまとう!》》。
自分が燃えないように魔力の幕を張ってから、その上から炎をかけた形だ。
その炎は俺に届く前に、針を溶かしていく。
そのまま木々を避けつつ、針が飛んでくる方向に向かう。
すると、ひらけた場所に出て……敵を発見する。
「さあ、俺の大事な部下に手を出した奴は……貴様か」
「ゴガァァァァ!!」
そこには、三メートルくらいのほぼ全身針まみれの熊がいた。
一見すると本人に突き刺さっているように見えるくらいだ。
おそらく、あそこから針を飛ばす仕組みなのだろう。
「ハリグマとでも名付けようか」
「ゴアッ!」
「俺には針は通用せんぞ?」
「ゴァ?」
至近距離から飛んできた針を溶かす。
「こっちからもいくぞ——フレイムガン」
「ゴァ!? ……ガ?」
俺の炎の弾は、相手の体に当たって弾けた。
針の一本なら溶かせるが、密集してると無理そうだ。
腹の部分には針がないが、そこは防御されてしまう。
「ちっ、装甲が厚いな。この程度では効かないか。かといって、大技を使ったら山火事になってしまう」
「ゴァァァァ……グルァ!」
「むっ!? ……こいつは避けないと危なかったか」
相手が身体を丸ませ、そのまま転がるように突っ込んできた。
その威力は凄まじく、大木をなぎ倒している。
「グルル……」
「攻防一体の技か。しかも固そうだし、針には毒があると……厄介な魔獣だ」
刀では弾かれる可能性もあるし、俺のまとう炎にも限界はある。
……何も難しく考えることはないか。
ならば、奴に隙を作らせればいいだけの話だ。
「さあ、こい……遊んでやる」
「ゴァァァァ!」
再びダンゴムシのように丸まって体当たりをしてくる。
俺は炎をカーテンのように展開させ、闘牛のように躱して木に当てさせる!
「ゴァ!?」
「どうした? 俺はこっちだぞ」
「ガァ!!!」
怒りに任せ、同じように突っ込んでくる。
それを躱し、また木に叩きつけるように誘導する。
「ほら! どうした!」
「ガ、ガァ!!」
そして繰り返していると……奴の様子が変わる。
目が血走ってきて、よだれを垂らしまくっている。
つまり、理性がなくなってきた証拠だ。
「まだやるか?」
「ガ、ガァァァァァァァ!」
相手が何も考えずに、覆い被さろうとしてくる。
俺はその時を待っていた。
さやに手を置き、抜刀の構えを示す。
「所詮獣か、未知のものに出会うと考えなしに突っ込んでくるとは」
「グルァァァ!」
「遅い——炎刃一閃」
「ゴァァァァァァァ!?」
鞘から抜く際に、擦らせるように刀を抜く。
その摩擦により身にまとっていた炎と合わさり……火炎居合切りとなる。
それは腹を裂き、内部から焼いていく。
「俺の大事な者に手を出し報いだ」
「ガ、ガ、ガァ……」
相手が煙を上げて倒れるのをみて、俺も鞘に刀を納めるのだった。