……私に黙って出て行くなんて!

 待ってってと申しましたのに!

 でも、私自身も本当に出ていけるか……いいえ、ここは意地を見せる時ですわ。

 「お父様! 私も辺境に参りますわ!」

 「だからダメだと言っておる! あそこは流刑地とも言われているのだぞ!? なぜ、英雄の一人であるお主が行かねばなるまい!」

 「ですが、アルスが……私は、彼を一度裏切りましたわ。その彼を止めることもできずに、敵に回ってしまいましたの」

 「いや……それはアルス殿下が邪神に乗っ取られたから仕方のないことだ。どんな理由があるにせよ、それだけは事実なのだ」

 「ですが……アルスは私に言いました。私に迷惑をかけてごめんって。多分、こうなることがわかっていたんだと思いますわ」

 そうじゃなきゃ、あんな台詞は出てきません。
 それに、元々おかしいとは思っていました。
 乗っ取られたにしては、何やら行動が変でしたから。
 私にとどめを刺せる機会もあったのに、それをしなかったり。
 ……もしや、私に対する恋心でそうなったのかしら? それが残ってたとか?

 「なに? それはどういう意味だ?」

 「はぅ」

 「おい、娘よ。なぜ、そのタイミングでくねくねするのだ?」

 「し、してませんの! えっと……とにかく、アルスはわざと悪役を演じてた可能性がありますわ」

 「ふむ……確かに、おかしな点は多い。犠牲者が無駄に出ていなかったり、統治のために邪魔になる腐れ貴族達が減ったことなど」

 「ええ、そうですわ。きっと、アルスは悪役に徹することで不穏分子を集めたのです。そして、それらを清算するために……自ら犠牲になったのかと」

 すると、後ろの扉が開く音がする。
 振り返ると……そこにはジーク様がいた。

 「やあ、面白い話をしているね」

 「これは国王陛下!?」

 「い、いつからいらしたのですか!?」

 「今さっきだよ。ごめんね、盗み聞きをするような真似して。ただ、最後の台詞は気になるかな。エミリアさん、兄さんがわざと悪役を演じてたってこと?」

 「……真実はわかりませんわ。ただ、私個人はそう思いましたの」

 もしかしたら、これは不敬罪に当たるかもしれません。
 いくら私が公爵令嬢とはいえ、国王陛下の行いを否定したのですから。
 ですが、私はもう後悔したくありません。

 「なるほど、僕より付き合いの長いエミリアさんがいうならそうなのかも。いや、実は気になることがあってきたんだ」

 「へっ? えっと……どういうことですの?」

 「エミリア、相手は国王陛下だ、言葉遣いに気をつけなさい」

 「いやいや、今はただの弟分のジークだから気にしないで。とりあえず、二人共話を聞いてくれるかい?」

 私とお父様は頷き、ジーク様をソファーに座らせた後、その対面に座る。
 そして、ジーク様が紙をテーブルの上に置く。

 「国王陛下、一体これは何でしょうか?」

 「まあ、とりあえず見てみてよ。もちろん、エミリアさんも見ていいから」

 「では、失礼しますわ……へっ? こんなにお金が?」

 そこには不正貴族から押収した金額が書いてありました。
 それは、国が五年くらいは安定して暮らせるほどの金額です。
 むしろ、これだけ溜め込んでいたことに驚きですけど。

 「うん、ほとんどは兄さんの味方をした家からだ。つまり、兄さんはほとんど手をつけてない。それに、国の混乱を抑えてくれたスラム街の方々に挨拶に行ったんだ。そしたら、彼らは兄さんに頼まれたからだって。スラム街にお金を落としていき、自分達を救ってくれたと」

 「それでは……アルス殿下はスラム街を救うために不正貴族達を抱き込んだのですか?」

 「僕はそう見てる。結果的には不正貴族はいなくなり、荒れていたスラム街がある男によって統治されていた。その者は、兄さんに恩があるから手助けしたと。もちろん、兄さんには口止めをされてたみたいだけどね」

 「そして、その全ての罪を被ってアルス殿下は……お陰で国がまとまり、民を飢えさせることもなくなったと。ということは、やはりわざと? 邪神に支配されていなかった?」

 「それはわからない。僕が兄さんを好意的な目で見たいだけかもしれないし。ただ、少し気になるのは確かだ」

 ……やっぱり、そうだったんだ。
 アルスは変わってなかった……昔の不器用で優しいままだったんだ。
 その時、私は改めて決意した。

 「お父様、私は行きますわ。もう、決めましたの。向こうに行き、アルスの意思を確かめます」

 「いや、しかし……」

 「アルスを見張るためと、何をしているのかを確かめる必要があると思いますの」

 「うん、それには賛成だね。僕も、兄さんの真意が知りたい。罪は消えないけど、そこを確かめてもらいたい。エミリアさん……いえ、エミリア。国王として命ずる、アレスを追って詳細を報告せよ」

 「はっ、国王陛下」

 「……はぁ、仕方ありませんな。では、その前提で話を進めますか」

 その後、私達は秘密裏に話を進める。

 これはまだ確定事項じゃないし、そもそも大っぴらにはできない。

 でも、それでも……私は真実が知りたい。

 アルス……あの時の説明をきちんとしてもらいますからね!