外れスキルで異世界版リハビリの先生としてスローライフをしたいが、異世界も激務のようです〜チーム医療で様々な問題を解決します〜

 俺達はギルドマスターに対して自己紹介を一人ずつした。カタリーナは俺が話した時にはニコニコとしてずっと見ていた。

「君達を呼んだのはこの首輪についてじゃ!」

 カタリーナはマリリンから渡された手紙と首輪を取り出した。

「なんだその首輪は?」

 リモンは首輪の存在を知らなかった。しかし、今回関わったメンバーとして呼ばれていたのだ。

「この首輪は"強制進化の首輪"というものだが……リモン以外は知っているようじゃな」

 俺達の反応を見てある程度は把握したのだろう。一緒に住んでいた三人はバイオレンスベアーの時にマリリンから聞いているからな。

「そして君達が王都に来るときにエリートゴブリンが着けていたものがこっちだな。これはさっき見せたやつの下位版となっている」

「そんなもんが世の中にあるんだな。それでなんで俺達をここへ呼んだんだ?」

「口止めするためじゃ」

 俺達を呼んだのは箝口令を敷くためだった。確かなマリリンもあまり知られていない話だと言っていた。

「そもそもマルクス達は知っていると思うが、この首輪は王都の城に管理しているものだ」

「それがなんで俺達を呼ぶ理由になるんだ?」

「それが今手元にあるってことはどういうことかわからないほど頭の中は筋肉でできているのか?」

 リモンは気づいていなかった。城で管理されているものが世に出ていると厄介な理由が……。

 カタリーナは全員の顔を見たあとに俺の方を見た。
 
「王都の城に何かしらの侵入者が入った、もしくは内通者が城の中にいるってことですよね?」

 仕方なく答えるとカタリーナは頷いていた。他の三人は首を傾げているのだ。

「よくわかってるな。ケントの言う通りじゃ。この首輪は城でいくつか管理しているが、下位版が出てるということは作製できるやつがいるってことじゃ」

 下位版でも普通のゴブリンがエリートゴブリンに進化するぐらいだ。それをつけた大群が王都や周辺の街を襲撃すればすぐに国が滅びるだろう。

「だから四人には王都ギルドマスターとして命令する。この首輪を他の者へ話てはならぬ」

「はい」

 カタリーナからの圧はすぐに返事をしなければいけないほどの雰囲気だった。

「でも僕達が話さなくても解決しませんよね?」

「ああ、その通りだ。だからこの話は直接王に話を通すことにする。それと第三王子を助けたお礼に城へ行くことが決まった」

「へぇ?」

 話を聞いた瞬間に時が止まったように感じた。まさかこんなにテンプレ展開があるとは思いもしなかった。

 ただ普通に活動している冒険者が王へ謁見することはそもそもまずないことだ。

「準備は城から用意された物を送り届けるそうだ。私も何度か王に合ってるがそんなに気にするでない」

 ラルフは城から用意された物って言われると体が震えていた。

「俺も行きたくねーが王に呼ばれたら行かないといけないからな。大丈夫だ!」

 以前に気づいたマルクスがラルフの肩を掴んだ。そのおかげか少しずつ震えるは治っていた。

「それでいつに決まったんですか?」

「詳しい日はまだ決まってないからまた決まり次第連絡する」

 そこまで謁見するのに時間はかからないらしい。

「じゃあ、話は以上だがケントはそのまま話があるから残ってもらってもいいか?」

「えっ?」

 急に呼び止められて俺は驚いていた。何も悪いことしていないはずだ。

「ケントまたなんかしたんか?」

「いや、またって……マルクスさんじゃないんですから」

「うっ……」

 俺は地味に昨晩のことを根に持っているからな。寝不足で今もふらふらしているぐらいだ。

「じゃあ、俺達は下で待ってるからな!」

「わかりました」

 他の三人は俺を置いて部屋を出て行った。

「それで話はなんですか?」

「コロポックル連れてるのはなぜなのかな?」

 急にカタリーナから発せられた言葉に俺は戸惑ってしまった。

 今までコロポの存在を気づかれることはなかったのだ。

「その反応は正解のようじゃな!」

「相変わらず大精霊様はすごいのじゃ!」

 カタリーナの声に反応したのかコロポはポケットから姿を現した。

「カタリーナ様お久しぶりじゃ!」

「おお、お前はエッセン町近くにいたやつかのー?」

「そうじゃ!」

 コロポとカタリーナは話している感じでは元々知り合いなのかお互いの存在を知っていた。

「それでお主がケントと一緒にいるのはなぜだ? そもそも妖精は人間に近づかないはずじゃ」

「それには色々あるんじゃ」

 コロポは俺が森で倒れているところから話を説明し、意図的に使役されてからずっと共にしていることを話した。

「やっぱあの時は意図的だったんじゃないですか!」

「なぁ!?」

 コロポは俺を騙すように名前をつけさせたことを忘れていた。

「今は良いですけどちゃんと言ってくださいよ」

「はは、すまないんじゃ」

「人間と妖精が良い関係なのは良いことなのじゃ。まぁ、それが分かれば特にケントに話はないんだがこいつをよろしくなのじゃ」

「いえいえ、僕も助かってますから」

「そうじゃ、ケントはわしがいないと……いや、わしがケントの虜になってるんじゃがな」

 コロポもマッサージの虜になっている一人だ。

「ははは! いい関係で何よりじゃ!」

「じゃあ、また後日来ます」
 
 俺は部屋から出て二人が待っているところへ向かった。

「妖精と人間が共存できる時代も遠くないか……」

 カタリーナの呟きは静かな部屋の中で響いていた。
 次の日に王城から執事が訪ねて来て、簡単な謁見の仕方や既製品の正装を置いて行った。

 謁見するのはそれから二日後と決まり、思ったよりも謁見が早く驚いた。

「ケント殿こちらを読んでください」

 ついでに執事は手紙を渡された。

「ケントなんだそれは?」

「なんか第三王子からの手紙らしいです」

「第三王子ってこの前助けた人だよね?」

「でもなんでケントだけに手紙なんだろうな?」

「俺にもわからないよ」

 特に第三王子から手紙が届く理由もわからず思い当たる節もなかった。

「ちょっと開けてみるね」

 手紙の封を切るとそこには一枚の紙に文字が書かれていた。

――――――――――――――――――――

ケント殿

 先日は我々を助けていただき感謝しています。今回父に謁見するということを聞き、手紙を書きました。

 私はケント殿が騎士達を治したにも関わらず、助からない命を必死に助けようとしている姿に目を奪われました。

 私と年も変わらず、立派な姿にこの国の王族として誇りに思います。

 そんなケント殿と少しお話がしたいと思い手紙を書きました。

 謁見の前に時間を取ってもらってもよいでしょうか?

 よければ準備していますので当日お待ちしております。

第三王子 ガレインより

――――――――――――――――――――

「これは惚れられたな」

「そうだね」

 手紙を見て、マルクスとラルフは何かを感じ取っていた。

「はぁん? 第三王子は男だぞ?」

「だってマリリンも男だぞ?」

「あっ……」

 トライン街に前例となる人が居たのを忘れていた。その瞬間どこか背中がゾクゾクとした。

 俺の異世界スローライフはまた遠のいて行くのだろうか……。

「ケント頑張れよ」

 二人に励まされたが特に頑張るつもりもない。できればボスみたいなもふもふに囲まれたスローライフを送りたいものだ。





――二日後


 俺達は正装に身を包んで王城から来た馬車に乗っている。この国の正装はスーツと軍服に似たような服装になっていた。

 しばらく王都の中を眺めながら馬車に乗っていると王城の門が見えてきた。王都周りにも石壁があったが王城の周りにもあり、大きな門が建っていた。

 一度門前に止まると執事から声がかけられた。

「本日は早めに来て頂きありがとうございます」

「いえいえ、一時間ぐらい早いだけなので大丈夫ですよ」

 口では大丈夫と言っているがこの間のマルクス達の話を聞き少しビクついていた。ちゃんと断らないと……。

 王族の告白を断るなんて最悪殺される可能性もあるからな。

「すみませんが身分を証明して頂いてもよろしいでしょうか?」

 王城に入る前にも門番が立っており、そこでもステータスを開示させ身分を証明する必要があった。

 どこかその姿を見ているとロニー達に会いたくなってきた。

「広いですね……」

「ここが貴族街になります。基本は貴族しか通れない仕組みになっています。招待された方はこのように何か家紋が入った物を身につけないと通れないんです」

 今乗っている場所には王族の家紋が入っている。

 平民は貴族街に入れるように出世するのが、王都でも一般的な夢なぐらい貴族街は入れない。

 そんな所を俺達は王都に来て三日目で入ることになった。

 うん、正直告白を断ることを考えると胃が痛くなってきた。

「そろそろ着きますので準備をお願いします」

 声をかけられるとすぐに馬車が止まった。馬車を降りると目の前には冒険者ギルドよりも大きな城が建っていた。

 あまりの大きさに俺達は開いた口が塞がらなかった。

「こちらへどうぞ」

 執事に案内されるまま城の中へ入っていくとそこにはたくさんの人が忙しなく歩いていた。

 どこか東京で働くサラリーマンに見えた。

「思ったよりたくさん人がいるんですね」

「貴族は領地の経営以外はここで働いています。他にも騎士団や魔法師団も拠点は王城になります」

 あまりの人の多さに首輪を盗取できる人が多く犯人がみつからないのではないかと感じた。

 もっと城に入れる人は限られているのだと思っていたのだ。

「ではこちらにマルクス殿とラルフ殿はお待ちください」

 執事は扉を開けるとそこには大きなソファーやテーブルなどが用意された待合室だった。

 そこにマルクスとラルフは待機し、やはり俺だけは第三王子が待っているという部屋に案内された。

――トントン!

「冒険者ケント殿をお連れしました」

「ああ、通してくれ」

 執事が扉を開けると俺に中へ入るように勧めてきた。

 いよいよ、覚悟を決める時だ。

「ケント殿このたび――」

「ごめんなさい! ガレイン様のお気持ちにはお答えできません」

 俺は華麗に飛び上がると手足をコンパクトに折りたたんだ。

 事前に昨日からベットの上で何度も練習したジャンピング土下座だ。

 チラッとガレインの顔を見るとなぜか彼は固まっていた。
 私は今の状況に困惑している。彼と少し時間が欲しいと思ったら会った瞬間に顔を地面に擦り付けているのだ。

 何かの挨拶方法なんだろうか。

「ごめんなさい! ガレイン様のお気持ちにはお答えできません」

 とりあえずそういう挨拶が彼らの中で一般的なら私も彼と同じ挨拶をしないといけない。

 とりあえず膝を地面につけて頭を地面に擦り付けた。うん、なぜか王族の私がやるべきではない気がしてきた。

「顔を上げてください」

 彼と同じ挨拶をしたはずが彼は焦っていた。

「あのー、どういうことですか?」

 私は彼に話を聞くとどうやら勘違いをしていた。ええ、私も変な風に勘違いしていたが彼はそれを超えていた。

「いや、俺……僕には男性を好む趣味はありません」

「……」

「えっ? 違うんですか?」

「ちちち、違いますよ!」

 しっかり説明をすることで彼は納得していた。彼の故郷に謝る時は彼のように高く飛んでから土下座というものをするらしい。

 私も王族として博学だと思っていたが変わった謝罪の方法があるのは勉強になった。

「あー、ただ話をしたいだけなんですね」

「手紙にも書きましたよ?」

 私は彼らに合わせて誤解の無いようにわかりやすく書く必要があると再認識した。

 あれでもわかりやすいと思ったが気をつけないといけないな。

 彼をソファーまで案内すると彼は立ち止まったままだった。

「どうされました?」

「この国にもあるのか……」

 どうやらテーブルに置いてあるクッキーやスコーンのことを言っているのだろう。

 最近貴族の間で砂糖で作る菓子が流行っているが彼も貴族だと私としては困る。

「お口に合わないものでしたか?」

「いえ、懐かしいもので……」

 私は彼の言葉が引っかかった。懐かしいってことは今は食べられる環境ではないってことだ。

「たくさん食べてくださいね」

「ありがとうございます」

 どこか彼は複雑な顔をしていた。

「ケント殿はいつから冒険者をやってるんですか?」

「あー、ケントって呼んでいいですよ。あと敬語もいらないです」

「なら私もガレインと呼んで……くれ」

「ガレインだな! 俺はちょうど半年前ぐらいの十一歳の時に冒険者になったんだ」

「十一!? 私と同い年だ」

 体は小さいがまさか同い年だとは思わなかった。あの時の顔は私と同年代がするような顔ではないのだ。

「そっかー。まぁ、同い年ってことでよろしくね」

「こちらこそよろしく頼む」

 突然目の前に出された手を私は握った。

 王族という理由で私に近寄って来るものは多い。ただ、それは私を利用しようとするものばかりだ。

 彼からは他の貴族とは同じ雰囲気は感じなかった。貴族でも冒険者だから王族に興味がないのだろうか。

「言いたくなければいいんだがケントはあんなすごい魔法が使えるってことはスキルは【賢者】とかか?」

 スキル【賢者】は、火・水・風・土の適性を持つ【魔法使い】や【魔術師】と聖の適性を持つ【神官】や【聖職者】の上位版のスキルにあたる。

「いや、俺は外れスキルってやつだぞ?」

「はぁん? 嘘はだめだぞ?」

 私は彼が嘘をつく人に見えなかったが、やはり彼も他の貴族と同じなのか。

 私も外れスキルと言われている。だからこそ俺に近づいてくる人達は同じ外れスキルだからと嘘をつく人ばかりだった。

「嘘じゃないぞ。スキル【理学療法】って知ってるか?」

「いや、初めて聞いた」

「ただ俺はこのスキルが何のタイプかわかっていたから外れスキルにはならなかっただけだな」

 私でも聞いたことないスキルを彼は持っていた。しかもその使い方まで知っていたらしい。

 あれだけ調べてもわからなかった私のスキルもひょっとしたら彼は知っているのかもしれない。

「実は私も外れスキルなんだ」

 彼は私の言葉を聞いて驚いていた。王族に外れスキルっていてはいけない存在だからな。

「でもスキルって一般的に遺伝するんじゃないのか?」

 貴族は基本的に外れスキルがいないと言われている。彼はそれを知っているのだろう。

「私は母親が平民なんだ」

 私の母親は平民から側室になったため、スキルは平民向けのスキルになる可能性があった。

 貴族の子が貴族になれるのはスキルが関係する。逆に平民は平民に適したスキルのため、どれだけ頑張っても成果を残しても男爵程度にしかなれない。

 そんな中私は外れスキルで親も平民のため城の中での扱いはあまり良くない。

「それで結局ガレインのスキルってなんだ?」

「私のスキルは【医師】ってやつなんだ。王城のスキル図鑑にも載ってないような外れスキル――」

 私の言葉を聞いても彼は態度を変えなかった。それは彼も私の外れスキルを知らないということを示唆していた。

「ガレインはステータスボードを横にずらすことはできるか?」

 彼は何を言っているのだろうか。私は言われた通りにやったが何も変わらないいつものステータスボードだった。

「だから私は外にも勝手に出ることもできないし城でもいらない扱いだ」

「いや、ガレインのスキルは結構強力だと思うぞ?」

「えっ!?」

「その前にラルフを呼んできてもいいか?」

「ラルフって?」

「ああ、一緒に住んでるやつなんだけど、あいつも外れスキルなんだ」

「それでラルフがいればどうにかなるんか?」

「ああ、多分大丈夫だと思う」

「わかった! すぐに呼んできてもらおう」

 私は急いでラルフというものを呼ぶように執事に頼んだ。まさか少し話すだけだったがこんなことになるとは思いもしなかった。
 しばらくするとラルフが執事に案内されてやってきた。

「おー、ラルフちょっといいか?」

 俺はラルフに軽く手を振ると心配そうな顔をしていた。俺は親指を立ててグッジョブとすると理解したのだろう。

 ジャンピング土下座に付き合ってくれたのはラルフだからな。
 
 すぐにラルフはガレインの存在に気付き挨拶をした。

「この度はお誘い頂き感謝申し上げます」

「君がラルフだね?」

「はい」

「私には気軽に話してくれればいい。そこに座ってくれ」

 ラルフは俺の隣に座るように言われソファーに腰を下ろした。

「まずは自己紹介だね」

 ガレインは軽く自己紹介をした。同じようにあまり気にせず接するように伝えるとラルフの肩から力が抜けた。

「それでオラはなんで呼ばれたんだ?」

「ちょっとラルフのスキルが必要だと思ってな」

 俺はガレインのステータスをラルフに開示するように伝えた。

 そこには本当にスキル【医師】と書かれていた。外れスキルと聞いていたから医師でも石ってパターンも考えられたからな。

 ちなみに職業は王族と書いてあった。王族は職業らしい。

「本当に医師なんだな……」

「私にとっては外れスキルだけどね」

 その会話でラルフは自身の過去を思い出しているようだ。その後俺の顔を見ると笑っていた。

「ラルフのスキルって説明を受けると詳細が分かるよね?」

「ある程度の情報が必要だけどな」

「なら今から俺がいくつか単語を言うから、それでガレインのスキルの詳細が見えるか確認してくれ」

 ラルフも医師については何も知らないはずだ。だからこそ何かが当たればスキルの詳細が見える可能性があった。

「じゃあ、始めるよ」

 ラルフの目の色が黄色に変わりスキルボードを見ていた。

 単語は、内科医や外科医、手術、診察、公衆衛生など医師に関わる単語を並べたが特に変化はない。

「ケント変わらないぞ?」

「そうか……。あとは医療従事者に指示を出すとか?」

「おおお!」

 俺の一言でラルフが見ているスキルボードは変わったらしい。

「ラルフどうだ?」

「見えた! 紙を借りられるか?」

 ガレインはラルフに紙とペンを渡すとそれを紙に書き写していた。文字をそのまま書いているが、文字を書けないラルフの字は汚かった。

――――――――――――――――――――

《スキル》
固有スキル【医師】
医療ポイント:0
Lv.1 医療の王
Lv.2 ????
Lv.3 ????
Lv.4 ????
Lv.5 ????

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

スキルツリー『Lv.1 医療の王』
 医療系スキル医師の特有の心得。医療に携わる者に指示を出すことで、能力および効率を上げる。

Lv.1 医療の王→?

――――――――――――――――――――

「それで私のスキルはどうなんだ?」

 俺は見慣れているがガレインは渡された紙を見ても理解できないだろう。

「どういうことだ?」

「あっ、そうだ! ラルフ少し後ろを向いてくれ」

 ラルフに向きを変えてもらい肩に手を置いた。

「医療の王……確かにリハビリも医師の指示がないと出来ないから間違いではないよな。ガレイン俺に命令してもらってもいいか?」

「どうやって?」

「簡単でいいよ。最大限治療し疲れを癒せとかでいいんじゃない?」

「わかった」

 俺に言われたように発言すると俺の手から放たれていた光はさらに強くなった。

「ぬおおお、いつもより気持ちいいぞ」

 ラルフの耳は垂れ下がり力が抜け落ちていた。ソファーにそのまま丸くなって寝そうになるぐらいだ。

「そういうことか」

「え? 私には全くわからないんだが……」

 今起きたことを整理しながらガレインに説明した。

 ガレインは医療に携わるスキルを持っているケントに指示をすることで、能力および効率を上げ徒手マッサージの効果が高まっていた。

 要はガレインのスキルは医療スキル持ち限定にバフが発動されていた。

「じゃあ今度はラルフにスキルを使ってもらってもいいか?」

 今度はラルフにガレインのスキルを発動させた。

「うぉー! 見やすくなった」

「それだけ……?」

「でもめちゃくちゃくっきりしているぞ」

 ラルフが言うには今までモヤがかかっていたようなものも無くなり、体が立体的に見えるようになったらしい。

「それでステータスボードは変化あったか?」

「全然変わらないよ?」

 ガレインはステータスボードを見るが何も変わっていないらしい。

「なんかもっと見えるようになってるぞ?」

 ラルフはさらに紙に追加で書くとそれは俺がよく見慣れたスキルツリーだった。

――――――――――――――――――――

スキルツリー『Lv.1 医療の王』
 医療系スキル医師の特有の心得。医療に携わる者に指示を出すことで、能力および効率を上げる。
Lv.1 医療の王→外科の王

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

スキルツリー『Lv.1 外科の王』

 医療系スキル医師の外科の心得。刃物を使う行為に対して治療効果が付与される。また、魔力をコントロールすることで能力が反転される。

※医療ポイントを取得すると自動解放される。
Lv.1 医療の王→外科の王

――――――――――――――――――――

 スキルを使うことでいつのまにか医療ポイントを取得し外科の王が解放された。それはラルフの時と同じだった。

「これで私も治療することができるってことか?」

「刃物を使わないといけないことが何かありそうだけどね」

 外科医の認識であればガレインは手術をしないと治療効果が付与されない可能性がある。

 だが手術ってそんなに簡単にできることでもないし、むしろこの世界ではできないと思う。

 しかしスキルが使えて喜んでいるガレインを見ると言うことはできなかった。


――トントン!


「失礼します。そろそろ王の謁見の時間になります」

 いつのまにか時間が経ち王の謁見の時間になった。

「私も一緒にその場に行くことになっているから先に向かうよ」

 ガレインは先に部屋から出て行くと俺達はもマルクスがいる部屋に戻った。
 俺達はマルクスの元へ戻ると既にリモンとカタリーナも着いていた。今回は話を聞くためにギルドマスターであるカタリーナも同席することになっている。

「ケントどうだった?」

「マルクスさんのせいで変な勘違いしてたじゃないですか!」

 マルクスのせいで俺はガレインにジャンピング土下座をする羽目になっていた。

「ほんとに信じたんか?」

「えっ?」

「あんなの嘘に決まってるだろ。まぁ、マリリンは本当だと思うがな……」

 マリリンのこともあり、異世界の常識がわからない俺はマルクスに騙されていた。

 それにしてもマリリンについてはなんとも言えない。

「皆さん今から王への謁見に向かいます。事前に伝えた挨拶をお忘れなく」

 執事に案内されるまま向かうとそこには一際目立つ大きな扉があった。扉の前には騎士が二人立っている。

「皆さんお願いします」

 執事はその場を去ると騎士の二人が扉を開けると剣を抜き天上に刃先を向けて構えた。

 中に歩いて行くとカタリーナは先頭を歩いていたカタリーナは立ち止まった。

「カタリーナ久しぶりだな」

「陛下お久しぶりでございます」

「おいおいよせよ! お前もそんなこと言うのかよ」

「ははは、建前は必要って言うじゃろ?」

「そうだが昔のパーティーメンバーに対してはちょっと冷たくないか?」

「そんな昔のことを言われてもね?」

 俺は急な展開に驚いている。周りを見ると俺以外も驚いているようだ。挨拶するように準備をしたのにまだ驚いたまま立ち尽くしているのだ。

 話の内容からしてカタリーナと昔パーティーを組んでいたようだ。Sランク冒険者と同じパーティーということは目の前にいる王様自体が強いのだろう。

 カタリーナと久しぶりに会ったからなのか、二人は軽く談笑すると本題を話し始めた。

「それはそうとまさかあの時の首輪が出てくるとはな……。他の者にも迷惑をかけてすまなかった」

 王が簡単に頭を下げたことに俺は驚いた。

「父上頭をお上げください」

「ははは、ガレインよ。ちゃんと謝らないといけない時には謝らないといかんぞ? そこに王族とかは関係ないからな」

「はい、わかりました」

「それでなんでまたあの首輪が出てきたのじゃ? あれはここで厳重に管理してあったんじゃないのか?」

「ああ、そうだ。そもそもそこら辺のスキルじゃ持ち出さないようになってるんだがな……」

 強制進化の首輪は外部に持ち出されないように厳重に魔法式で鍵を掛けていた。

 それが今回は持ち出されたため魔法式が解除できる者の犯行らしい。

「それで何個無くなっていたんだ?」

「ここで管理していた首輪の三つ全て無くなっていた。しかも巧妙な手口で偽物に差し替えられていたわ」

 そこで取り出したのが強制進化の首輪の劣化版だった。

「こっちはガレインがエリートゴブリンに襲われていた時に着けていたやつだ。それでこっちが保管庫に入っていた物だ」

 遠くから見ると特に違いがわからない。

「保管庫にあるやつも劣化版ってことか」

「ああ、そういうことだ。この首輪の存在を知ってるやつはあまりいない。それがここまでそっくりに作られてるいたとなれば、何度も侵入し魔法式を解いたことになる」

「そうか……。保管庫はどうしておるのじゃ?」

「前より魔法式を倍にさせて何人かで魔法式を分割にした」

 一人で魔法式を組み立てるのではなく、数人で分けることでさらに複雑にし、誰が関与してるのか王にしかわからないようにしたらしい。

「それが突破出来たらとんでもないやつじゃな……」

「とりあえずは魔物が出てきたら冒険者達にも迷惑をかけるかも知れないが犯人はこちらで探るよ」

「そうじゃな! はやく犯人を捕まえて欲しいのじゃ」

 強制進化の首輪がついた魔物が出た時はすぐに貴族街まで報告をするようにし、魔物を討伐した際には国から報奨金が追加されることが決定した。

 サイレントベアーで一つ回収したため残りはあと二つだった。

「それで君達はガレインを助けてくれたお礼にこれを受け取ってくれ」

 王は近くのものに指示すると袋を三個運んできた。

 大きめのものはパーティーであるマルクスとリモンへ。残りの一つは俺の目の前に置かれた。

「そういえばケントとラルフと言ったか?」

「はい!」

 突然王様に名前を呼ばれてさらに俺は固まった。

 王様に名前を呼ばれる経験って生きている中でないに等しいからな。

「そんな驚かなくてもいいぞ。ただ、ガレインのことをよろしく頼むな」

 どこか王様の顔は子を思う優しい父の顔だった。

「ガレインは貴族社会ではちょっと生きにくくてな。訳あって外にも出せないのだ」

 さっきガレインも言っていたがスキルのことを言っているのだろう。

 ガレインの顔を見ると申し訳なさそうな顔をしていた。

 きっと王様もまだガレインがスキルを発動できないと思っているはず。

「僕達友達なんで特に頼まれることでも……」

「うん」

「そうか……これからもよろしく頼む」

 その後も少し談笑し王のフランクな謁見は終わった。
 あれから時折は俺とガレインは王城へ呼ばれるようになった。

 ガレインが貴族街から出ることができないため貴族街へ入る許可を王様から与えられた。

 そんな俺達は今王城の図書館に居る。意外に図書館の出入りはバタバタとしており、特に話していても文句を言われることはなかった。

「ガレインはもう王様にスキルのことを伝えたのか?」

「まだなんだ……」

「でもなんで伝えないんだ?」

「今伝えると多分私の派閥が出来るから、それもめんどくさいのもあるかな」

 ガレインは王の三番目の子供であり、王位継承権はそのままの順番であれば三番目だ。

 兄二人とも親が異なっているのも、才能というスキルを広げるのが目的だ。スキルで人生が決まる異世界らしい常識なんだろう。

 現在の王のスキルは【剣聖】。その力は強力で一人で魔物Aランクの災害級を討伐できるほどらしい。

 その結果自身の世継ぎに受け継がせたいと婚約を申し出る貴族が多く、自身の国だけではなくと近隣他国からも来るほどだった。

 そして優しさと性欲の強さが災いを呼び妻を三人に娶ってしまった。

 冒険者ということは王様もどこか脳筋なんだろうか。

 国を他国に奪われないように正室を自身の国の公爵家、側室を友好国であるベズギット魔法国から妻にしている。

 ガレインの母は元々一緒にパーティーを組んでいた平民らしい。

 派閥は二つに分かれており、正室に付く貴族は自身の身分を上げるもしくは発展させようとする者が第一王子のマルヴェインを支持している。

 また、他国との絆を深め魔法を発展させながら身分を上げたい貴族は第二王子セヴィオンの派閥だ。

「派閥が出来ると何か問題でもあるの?」

「んー、特に私達兄弟の仲は良いから問題はないんだが、それに巻き込まれることになると仲も悪くなるだろう」

「そうなんだね」

「派閥が出来るほどお兄さん達のスキルはすごいのか?」

 ラルフがガレインに聞くと彼の目は輝いていた。

「二人とも凄いんですよ! ヴェン兄は指揮する才能に開花してセヴィ兄は剣と魔法が凄いんだ」

 マルヴェインはスキル【奇才軍師】、セヴィオンはスキル【魔法剣士】だ。

 そもそもこの国クレイウェン王国は剣のスキルで栄えている国のためスキルは剣や騎士関係のものが多いらしい。

 公爵家との子であるマルヴェインは剣と指揮に特化し、ベズギット魔法国との子であるセヴィオンは剣と魔法に特化していた。

 それよりもこの国にも名前があることに驚いている。ケトはあまり裕福な家ではなかったから知識すらないのだ。

「名前から凄そうなスキルだね……」

「それに比べて私は――」

「いやいや、医師も凄いからね!」

 異世界に医師という職業も言葉もないため、何が凄いのかを伝えようにも伝えられなかった。

「あれからスキルは使ってみたの?」

「まだ使ってないんだ。外科の王も治療しようと思って発動しなかったら怖いし、そもそも真剣を使うこともないからね」

 ガレインのスキルを使うためには刃物が必要だった。そのためガレインは真剣でスキルが発動するか確認しようとしていたが、恐怖感があり試せなかったのだ。

「何か手軽に確認出来たらいいんだけどね」

「ん? 別に真剣じゃなくても良いんじゃないの?」

「ん? どういうこと?」

 二人は俺の言っていることが理解できなかったようだ。

「だって外科医って手術でメスを使うから普通に刃物ならナイフでいいんじゃないの?」

「カトラリーでナイフを使うならお肉を食べる時にでもこっそり使ってみればいいんじゃないのかな?」

「そういうことか」

 ガレインは俺の"ナイフ"という言葉に何か気づいたのだろう。

 この世界で刃物と言われたら一般的には真剣なのだ。

 話していると執事が紙に何かを書いてガレインの目の前に差し出した。

「今日は何を用意したんだ?」

「お客様がいらっしゃると聞いたので簡易的に食べれるサンドイッチとシチューを用意しました」

「わかった。もちろん二人も食べて行くよね?」

「ご馳走になります」

 もちろん王城に来る理由の一つは美味しいものが食べれるからだ。

「それではテラスでご用意しています」

 執事は挨拶すると仕事に戻って行った。

「今回はカトラリー無さそうだね」

「そうだね」

「ねぇ! ご飯行こうよ!」

 そんな中ラルフは一人尻尾を大きく振っていた。

「獣人って他の人もこんな感じなのかな?」

「いや、俺もラルフが初めて見た獣人だけど、ラルフってどこかボスと似てるからやっぱり獣人って動物に似てるんじゃないのか?」

「あー、ボスってケントが言ってる狼のことだよね?」

「そうそう」

 ガレインには一度連れてきてと言われているが、流石に狼を城には連れて来れないかった。


――グゥー!


 どこからか大きなお腹の音が聞こえてきた。ラルフに目を向けると涎が垂れそうになっている。

「ご飯! ご飯!」

「くくく、はやく行こうか」

「おん!」

 ラルフの声は図書館にあまりに大きく響き周りの注目を集めていた。俺達は本を片付けテラスに向かった。
 昼食を取るためにテラスに向かった。この時間になると休憩している人やお茶会をしている人もチラホラおり、ガレインが入ると同時に静かになった。

「ガレインお腹減ったー」

 ラルフがガレインに話しかけるとあたりからはコソコソと話す声が聞こえた。
 
「ラルフどうした?」

「ん? 何もない。ガレインも大変だな」

 聴覚が人よりも優れているからこそ人の会話が聞こえるのだろう。

「何かあったの?」

「ちょっと俺にスキルをかけてくれる?」

 ラルフはガレインに医療の王を発動させた。

 お茶会をしている横を通りテーブルまで向かうとラルフは何か呟いていた。

「誰が42歳よ。私は30代だわ」

「私そんなに体重ないわよ」

「あんた私の夫と浮気してるのね!」

 お茶会の席はいつのまにか言い合いをしていた。

「おいなんかおかしくないか?」

「何があったんだ?」

「くくく。早くご飯食べようぜー」

 そんな中ラルフだけは笑っていた。明らかにラルフが何かをしたのは間違いなかった。

 席に着くとガレインはラルフに笑っていた理由を尋ねた。

「だってあいつらずっとガレインの悪口言ってたぞ?」

「私は言われ慣れている――」

「そんなのは慣れたらダメだろ?」

「そうだよ? だから仕返ししたのに!」

 獣人のラルフには小さな声で話していても内容は聞こえていた。

 ラルフは友達が陰口を言われているのが嫌だったようだ。

「それでラルフは何をやったんだ?」

「ガレインに強化してもらうと人の顔を見るとステータスが覗けるんだ。しかも体格も含めてね」

 ラルフのスキルはステータスに追加して、身長・体重が見えるようになっていた。

 ラルフはさっき見たある人物のステータスをそのまま紙に書いた。

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《ステータス》
[名前] マリー・ロドリゲス
[種族] 人間/女
[固有スキル] 令嬢
[職業] ロドリゲス侯爵家の婦人(ハマナス侯爵と浮気中)
[個体値] 身長:155cm 体重:50kg 年齢:42歳

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「そのまま数値の内容を読んだらあんな状態になっててさ」

「あんまり危ないことしないほうがいいよ? 貴族だから権力でねじ伏せてくるかも知れない」

 単純なラルフだが一番危ないのは彼なのかも知れない。

「わかった……」

 ラルフは尻尾と耳が垂れ下がり反省していた。むしろ反省してるのが見て分かりやすいほどだった。

「でも私のためにやってくれたんだよね? ありがとう」

 ガレインがお礼を伝えるとすぐに元気になっていた。

 本人も過去の経験で貴族に嫌な目にあったと言っていたが、友達を助けたいという気持ちが強い故の行動だったのだろう。

 少し待っていると食事が運ばれてきた。

「うわー、美味しそうだな」

「俺もこんなにオシャレに出来たら良いけどね」

 王族が食べるものだからか、サンドウィッチとシチューでも色とりどりの野菜を使って見栄えが綺麗だ。

「ケントは料理できるの?」

「トライン街に居る時は俺が料理当番だったからね」

 俺のはどちらかというと男飯で見た目はあまり良くないが冒険者や男性には好評だ。

「じゃあ、今度食べさせてもらおうかな?」

「機会があったらね」

「ねぇー、早く食べようよ」

「あっ、ごめんごめん」

 俺達が話していたためラルフは先に食べずに待っていた。お預けを食らって涎が垂れそうになるのを必死に堪えている。
 食べ終わってもラルフはまだお腹が空いているのか物足りなさそうな顔をしていた。

「ラルフ足りなかった?」

「うん……あっ、でもご馳走にしてもらってるのに」

「ちょっと待ってね」

 ガレインは近くにいる給仕に声をかけるとパンとバターを持ってきた。

 貴族街で食べられている物だからか平民達が食べているパンより白くできている。

「はい、どうぞ。ただのパンでごめんね」

 前世の高級食パンが丸ごと一本出てきた感じに近い。

 ラルフはパンを受け取ると美味しそうに食べていた。正直お腹いっぱいの俺でも食べたいほどだ。

 いつも食べている黒パンは硬いため事前に切っていないと食べれない。

「ラルフ一口ちょうだい!」

「これオラの――」

 丸ごと齧っていたラルフのパンを俺は横から齧った。

 思っていた通りバターがたくさん使われている王室限定のパンなんだろう。

 ラルフは俺に取られたのが嫌だったのかパンを抱きしめてどこかへ行ってしまった。

「そんなに欲しいならお土産に――」

「いやいや、それは大丈夫だよ。こうやってみんなで食べれるからいいってことだよ」

「ケント……」

 正直このパン一本にいくらお金が掛かっているのか考えるだけで恐ろしい。

 ふとテーブルに目を向けるそこにはパンに塗るためのバターとバターナイフが置いてあった。

「やっぱりケントと友――」

「ちょっといいか?」

「……」

 ガレインに声をかけるとなぜか真顔でこっちを見ていた。

 何かあったのだろうか。ただ俺は気になることをそのまま話し続けた。

「バターナイフって言うぐらいだから刃物にならないか?」

 バターナイフと言っても刃はなく、切るというよりも削るように出来た物だ。

 ガレインも言われるままバターナイフをナフキンで拭き触って確かめていた。

「それでどうすればいいの?」

 咄嗟に聞かれても俺にはスキルの使い方は分からない。

 俺達のスキルは比較的何をするかわかりやすいスキルだが、医師は範囲が広いためイメージしづらいのだ。

「とりあえず治したいと意識してみるのはどうかな?」

 やはり言われた通りイメージするがスキルは反応しなかった。

「まぁ刃物じゃないんだろうね?」

「そうだよね」

 ガレインは期待していたのか何も発動しないことに落ち込んでいた。

「そういえばガレインは謁見の時になんで俺達を呼んだんだ?」

 パンを食べ終わったラルフは戻ってきた。ナイスタイミングだ。

 確かにパーティーであればマルクスとリモンだけで問題ないのだ。

「単純に仲良くなりたかったんだ。やっぱ貴族の中では私のことは知られているけど、冒険者なら友達になれるかと思ってね」

 親が冒険者だったからなのか、特に平民関係なく、身分を気にしない子供と接してみたかったのだろう。

 その後も特に身分を気にせず、外れスキル同士だったからこそここまで仲良くなれた。

「あの時のケントの姿を見たら私も人を助けれるようになりたい。そう思った時にはケントが気になってたんだ」

「ガレイン! 手元見て見て!」

 そんな話をしているとバターナイフを持った手はわずかに光り、バターナイフに伝わっていた。

「えっ……」

 それを見たラルフは何を思ったのか自身の犬歯で指先を噛み切った。

「おい、ラルフ!?」

 突然の行動に驚いたが、当の本人はあっけらかんとしていた。

「どうしたの?」

「どうしたも何も急に噛んで血が出てるではないか?」

 ガレインはそんなラルフを見てあたふたしている。

 俺がスキルを発動させようとしたらラルフは止めた。

「だってガレインが治してくれるでしょ?」

 ラルフはガレインが治してくれることを当たり前に思っていた。全くガレインを疑うこともなく……。

 そんなラルフの行動にガレインは嬉しく思ったのか少し笑っていた。

「でも……やっぱ痛いよ」

 そんなラルフだがやはり痛みには弱かった。

「ははは、さすがラルフだね。ガレインそのまま傷口に押し当ててみたら?」

「じゃあ、ラルフいくよ」

 ガレインはラルフの指にバターナイフを押し当てたると少しずつ光りが強くなった。
 光ったバターナイフを傷口押し当て、そこからバターを塗るようにバターナイフを滑らせた。

「おー! おっ?」

 傷口の血が広がっていくためパッと見では治ったのかどうかまではわからない。

「ちょっと待って」

 俺は水治療法を小さめに発動させラルフの指を洗った。

「おー、治ってるね!」

 ラルフの指からは血が止まり、綺麗に傷口が消えている。

 俺のスキルではかさぶたができるのに対し、ガレインは皮膚が元に戻っていた。

「やっぱすごいよ!」

「オラの指も元通りだ」
 
 改めてガレインのスキルの凄さを実感した。同じ医療職でも医師には勝てないからな。

「私が治したのか……」

「ほら!」

 ラルフはガレインにしっかりと指を見せると、実感が湧いたのか体を震わせていた。

 今まで発動出来なかった外れスキルがちゃんと目で確認できるとやはり違うのだろう。

「本当に……私がやったのか?」

「そうだよ! これがガレインのスキル【医師】の力だよ」

 ガレインの目から溜まっていた涙が流れ落ちた。

「私はこの世界の中で無意味な人じゃなかった」

 きっと今まで散々な扱いを周りから受けても必死に耐えてきたのだろう。

 そんなガレインを見て俺達はそっと肩に腕を回した。

 王族って生きるだけでも大変なんだな……。





――数分後


 ガレインは落ち着いたのかもう一度スキルを発動させようとイメージしていた。

 しかし、先程と違いバターナイフには光りが集まらなかった。

 体調の変化は特に見られず発動する雰囲気もなかった。

「えっ……また元に戻――」

 また過去に戻ったのかと不安に襲われていた。

「多分魔力が足りないんだろうね。強力なスキルならなおさら魔力消費も多そうだし」

 以前コロポに言われたことを思い出した。魔力は体外の魔素を吸収し、魔力の器に集まることで体に馴染み魔力が上がっていく。

 今まで貴族街から出ることが少なかったためか魔素が多いところに行く機会が少ないのだろう。

「そんなことあるのか?」

「あれ? そうやって言われてるんじゃないの?」

 この世界の知識はほぼコロポから森で一年間教えてもらったこととケトが生きていた頃の記憶しかない。

「あまり聞いたことないです。王族なので勉強する機会は多いですけど、魔法って才能に左右されるって聞きますよ?」

「えっ……」 

 コロポの知識は人間には知られていない知識だったのかもしれない。

 俺自身が一年間魔素の濃い森で生活していたが、魔力の容量は他の人よりもかなり多くなっているはずだ。

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《ステータス》
[名前] ケント
[種族] 人間/男
[能力値] 力E/C 防御E/C 魔力B/A 速度E/C
[固有スキル] 理学療法
[職業]Eランク冒険者

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 現に俺の魔力の最大容量はAと表記してある。


「ラルフのスキルで見えたら少しはわかるかもしれないね」

「今度やってみようか?」

 きっと協力してくれそうなのは破滅のトラッセンのリチアだろう。

 彼女ならラルフと同じで美味しい食事で釣ることができそうだ。

 しっかり透視するにはガレインのスキルも必要だろう。

「じゃあまずは貴族街に出る目的を作らないといけないね」

 ガレインを貴族街から出るには公務があるときだけだ。

 公務って言っても王族が村に行って祝辞を述べる程度のこと。この間襲われたのもその帰り道だった。

 だがその公務もよっぽどのことがない限り兄の二人が行くことになっている。

「何か理由があれば……」

「殿下こういうのはどうでしょう」

 いつのまにか後ろでガレインの専属執事が話を聞いていた。

 彼の提案は今後の公務に生かすために市民の生活を見て回るというものだった。

 この先どちらかの兄の下で働くことになる時に王都の現状も知らないような人では王族として恥になる。

 王都から出るわけでもないため、よっぽどのことがない限りは大丈夫だと執事も言っていた。

「やってみる価値はありそう?」
 
「んー、どうなんだろうか……」

「やってみる価値は有ると思いますよ。殿下はケント殿達とお友達になられてから明るくなりました。それがきっかけで公務にも興味を示したとなれば、少なからず陛下は考えてくださると思います」

 ガレインを間近で見ている執事だからこそ小さな変化にも気づいているのだろう。

「ひとまずそれでやってみる?」

「わかった。私のためにも頑張ってみる」

「ガレインならできるよ。オラも待ってるね」

「ああ。今日はここまでに次回作戦を練ることにしようか」

 俺達は荷物をまとめて帰ることにした。あまり長居をすると周りからの視線も痛かった。